【BARKS編集部レビュー】HiFiMAN RE1000は、カスタムIEM界のオーラトーン

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「こりゃ、真の実力が伝わるのはなかなか難儀なモデルだな」というのが率直な感想だ。とにかく第一印象はローファイでややヌケの悪いトーンに聞こえてしまい、やっちまったか?と思ってしまった。緩い低域が迫り出しておりトーンのバランスも良くない。カスタムでの第一印象がこうなのだから、店頭やイベントでの試聴機による印象ではずいぶん損していそうだな…という気もする。

◆HiFiMAN RE1000画像

HiFiMAN RE1000を入手してからかれこれ250時間ほどは鳴らしていると思うが、まだまだ音のキレとヌケは向上しているようで、いまでは「やればできる子」から「なかなか凄いぞ、こいつは」という高評価に好転している。そのキャラクターは、不器用なほどに実直な音色を放つ好青年のようなイメージであろうか。こういう音を出してくれるカスタムIEMはなかなかないので、そういう意味では個性的と言えるのだけど、サウンドの本質は全うにスタンダードで、音楽を暖かく分厚く聴かせてくれる。誤解を恐れずに言うならば、スタジオのコンソールルームにセットされたオーラトーンのような、ほっこりとした存在感を放つカスタムIEMだ。



サウンドの質感としては、私の手持ちの中では意外にもNoble Audio prestige SAVANTを思わせるニュアンスがある。粘りとふくよかさ、厚みのニュアンスが良く出ているのは、おそらく純粋にダイナミックドライバーのみで構成された物理特性によるものなのだろう。逆に言えば、そういうニュアンスを生み出すカスタムのSAVANTの凄さを再確認するところでもあるけれど、いずれにしろこのような熱量のあるトーンを叩き出すカスタムIEMは、さほど多くない。もちろんその上でハットやライド、スネアの倍音など繊細な高域も良く出ている。

カスタムIEMも激化する音質競争にあり、焦点は当然のようにハイファイの追求に向け、いかに高解像度で分解能高くクリアでダイナミクス豊かなハイエンド・サウンドを叩き出すかを競っているように見える。…のだけど、カリカリに追求されたオーバープロデュースのハイファイ・サウンドは聴くものを疲れさせ「ん…これでいいんでしたっけ?」という違和感を生じる瞬間もある。まさしく「過ぎたるは及ばざるが如し」なのかもしれない。


過当競争が繰り広げられている昨今、「普遍性」よりも「キャラ立ち」のほうがバズも生まれやすく、市場での好評化を得られやすい傾向もあり、お祭りのような地に足つかないチューニングが施されたモデルも見かけたりする。キャラの立ったエッジーな特化モデルは、目的が合致すると孤高の相棒になってくれるが、その反面で普遍性を失い誰にでも薦められるものではなくなってくる。

そういう点でRE1000は、ダブルのダイナミックドライバーを搭載するというカスタムIEMでは異端な設計を持ちながら、かくも心地よい古き良き普遍的な佇まいを見せるという、これまでの方程式には当てはまらない一品だ。

音の角は丸く尖ってはいないので、さらっと聞いたところでは分解能がさほど高くないような印象を持つものの、ボリュームを上げていくと唸りを上げ出し、身体全体を揺さぶるようなエネルギー感に満ちてくる。まるで真空管アンプのボリュームを上げてパワー感がグイグイとドライブするような高揚感を感じさせてくれるわけだ。音の塊を真正面から受け止める感覚が何とも気持ちよく、痛さも不快さもない非常にナチュラルな音像が音楽への没入感を加速させる。ゆったりとしたリスニングの穏やかさで音楽の世界に没頭させてくれるので、「音が云々ではなく、音楽そのものにどれだけ没頭させてくれるか」を指針にすれば、RE1000は指折りのカスタムIEMであると言える。



▲音導管はひとつ。内部で2つのドライバーから合流し、一本の太い導管がカナルに突き通っている。


▲分かりにくいがダイナミックドライバーが2つ完全密閉されている。

なお、プレイヤーを替えるとサウンドの違いがそのまま表現される素直さも特筆すべきポイントで、ありのままに環境に追従する特性はリファレンスとしても頼りになる。手元にあるプレイヤーをAK JrからAK240、AK380、AK380+アンプ、ZX2、PLENUE 1、Calyx Mあたりを次々交換すると、面白いほどに各プレイヤーのサウンドの違いを暴きだしてくれる。そういう意味ではどんなプレイヤーで試聴するかで評価が変わる可能性も多分にはらんでいるだろう。

なおケーブルもオリジナルで、ピン形状はオーソドックスな2ピン仕様だが、ジャックからLR分岐までは布巻きのファブリック仕様となっている点も個性的だ。初めてのカスタムIEMに選ぶにはイレギュラーすぎるかもしれないが、既に複数台所有しているような猛者にとっては、RE1000は病み付きになる面白さを隠し持っていると思う。平均的な音ではないかも知れないが、使い込めば使い込むほどに深みと面白さが見えてくるカスタムIEMなので、聴くたびに面白さを発見したりする。さすがHiFiMAN、突いてくるツボがディープなのである。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

●HiFiMAN RE1000


本体価格90,800円+送料3000円
ドライバー:9mm+8.5mmダイナミックドライバー
周波数帯域:20Hz-20KHz
入力感度:105dB
インピーダンス:12 Ohms
コネクター:2Pin(埋め込み型)

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BARKS編集長 烏丸レビュー

■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他
◆Unique Melody MAVERICKカスタム(2015-09-26)
◇Astell&Kern AK380 アンプ(2015-09-19)

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◇AK Jr+Fidue A73+Westone UM56(2015-09-06)
■RHA T20(2015-08-24)
◇Westone UM56(2015-08-15)
◇Astell&Kern AK380(2015-08-10)

◆カナルワークスCW-L33BB(2015-08-07)
■Fidue A65(2015-07-29)
■DITA ANSWER(2015-07-18)
◆LEAR LCM-BD4.2(2015-06-21)
■DUNU DN-2000J(2015-06-14)

■2015年上半期 お薦めイヤホン(2015-06-06)
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◆カナルワークスCW-L15(2015-04-11)
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●v-moda Crossfade M-100(2015-03-01)
◆FitEar Aya~彩(2015-02-23)
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◇COWON PLENUE 1(2015-01-25)
■Unique Melody Maverick(2015-01-12)
◆rhines stage 5(2015-01-03)
◇Calyx M(2015-01-01)
■LIVEZONE R4 LZ 4ユニバーサル(2014-12-15)

■ROCK JAW KOMMAND(2014-12-14)
■Donguri-楽 濃茶&鐘(2014-12-08)
■DUNU ALPHA 1(2014-11-30)
■Fidue A71(2014-11-23)
◆AAW M20(2014-11-16)

◆Ultimate Ears UE 7 Pro(2014-11-3)
■絶対失敗しない攻めのサウンド、お薦めイヤホン6品(2014-10-21)
■NOBLE AUDIO Kaiser 10 universal(2014-10-18)
◆カナルワークスCW-L71PSTS(2014-10-12)
■UCOTECH IL300 affetto(2014-10-05)

◆rhines stage 4U(2014-09-28)
●ROCK JAW ACERO(2014-09-21)
◆Westone ES60(2014-09-14)
■Astrotec Lyra(2014-09-08)
■NOBLE FR(WIZARD)(2014-08-26)

■Fidue A83(2014-08-19)
◇Musician's Ear Plugs(2014-08-10)
◆Noble Audio 5C R Configuration(2014-07-27)
◆FitEar萌音-MONET(2014-07-21)
■SHURE SE112(2014-07-13)

■Blue Ever Blue 878(2014-07-01)
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■オーディオテクニカATH-CKR10(2014-06-14)
◇estron Music、BaX(2014-06-03)
■OSTRY KC06(2014-05-18)

◆VISION EARS VE6 Xcontrol(2014-05-25)
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◆カナルワークスCW-L32(2014-05-04)
■アルティメットイヤーズUE900s(2014-04-26)
■Astrotec AX60&AX35(2014-04-20)

◆CUSTOM ART Pro 330v2(2014-04-13)
●MPC Headphones(2014-04-06)
●Klipsch STATUS(2014-03-30)
●SMS Audio STREET by 50 DJ Pro Performance Headphones(2014-03-23)
◆AK240×カスタムIEM(2014-03-16)

■RHA MA750(2014-03-09)
■Meze 11 Deco(2014-03-02)
◇Astell&Kern AK240(2014-02-22)
◆1964 EARS V6-Stage(2014-02-17)
◆カナルワークスCW-L32V(2014-02-09)

◇EarPeace HD(2014-02-02)
◆Noble Audio Kaiser 10(2014-01-19)
◆Clear Tune Monitors CT-300Pro(2014-01-04)
◇KLIPSCH KMC1(2014-01-01)
■DUNU DN-1000(2013-12-30)

◆Ultimate Ears Reference Monitors(2013-12-16)
◆Ultimate Ears 11 Pro(2013-12-08)
◆earmo Tune5(2013-12-03)
●オーディオテクニカATH-OX7AMP(2013-11-23)
■音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)(2013-11-17)

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◇Astell&Kern AK10(2013-10-25)
●フィリップス Fidelio M1(2013-10-22)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)

◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)

■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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