【BARKS編集部レビュー】TripleFi 10をROOTHリモールド決行、片っぱしからリモールドの勧め

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AKGのK3003、Atomic FloydのSuperDarts、SONYの新バランスド・アーマチュア・モデル…と刺激的な新モデルも市場をにぎわし、ヘッドホン界は活気にあふれている。こと最近は1万円以上の高級イヤホンが人気だとか。実際、高級機の売り上げ比の伸びは目覚ましく、「どうせ聴くなら良い音がいいよね」というシンプルな欲求が中級~高級機の購入に結びついているようだ。音響も文化なり。日本のオーディエンスの成熟ぶりが数字となって表れているとメーカーも分析しており、開発競争にも拍車がかかる状況にある。

◆ROOTH TF10画像

現在の主流は圧倒的にカナル型ヘッドホンで、最も重要視される条件は「音の良さ」と「遮音性」、そして「装着感」も欠かせぬ要素だという。

とはいえ、この3要素すべてが高レベルにあるというのは意外と難しく、ヘッドホン選びの難しさや面白さもここにある。めちゃめちゃ音が良くても遮音性が良くなければ電車の中では使いにくいわけで、私にとってSONY MDR-EX1000などはこのグループに属してしまう。逆に、音の良さや遮音性に定評のあるエティモティック・リサーチのER-4Sも、外耳道にズボズボーと突き刺すというその装着に痛みを感じてしまう人もいる。

この3要素はそれぞれ独立した要素でありながら、実際は相互に関与しており、遮音しないからこその開放感あるサウンドもあれば、遮音優先でイヤーピースを選択するとサウンドに悪影響を与えることもある。そして、なによりコトをややこしくしている一番の問題は、良し悪しの判断が十人十色である現実だ。同じヘッドホンを耳にして「コモっていてイヤだ」という人もいれば「高域が耳に痛い」という人もいる。真逆の評価が乱立するのが、面白くも混乱する最大の要因なのだ。嗜好性の強いアイテムゆえ、好みの幅は意外に広く、この辺りは食の好みにも共通するもの。どのラーメン屋が一番か論争と似ていて、「塩ラーメンと味噌ラーメンはどちらが美味い?」と言われても、「人それぞれ、店それぞれ、食べたい時が美味い時」が真実だったりする。そもそも年中ラーメンを食べるわけにもいかず、日本料理だってイタリアンだっておいしいわけで、サウンドを追求するとテイストの違うヘッドホンをいくつも手にしてしまうのは、いわば当然の成り行きでもある。

そんな中でも「あそこは旨いよ」と多くの食通が認める鉄板メニューがあるように、食通ならぬ音通が認める高次元に完成度の高い「いいカナル型ヘッドホン」というのは確実に存在していて、それが各フラッグシップだったり、定番モデルだったりするわけだ。そして、その「いいカナル型ヘッドホン」を、ファイナルアンサー的究極モデルに仕立てあげてしまうのが、ROOTHが提供しているリモールドの世界だ。

リモールドとは、自分が持っているモデルの中身を取り出してそれでカスタムIEMを製作するサービスのこと。いわば材料持ち込みのため、かかるコストはシェルの製作費だけのため、なんと18,500円という低価格でカスタムIEMができてしまう。耳型を用意する必要こそあるが、自分の耳の形にぴったりと成形されたカスタムIEMの使用感は、まさに極上。3Dパズルのように耳にピタッとはまり、ずれることもなければ外れてしまうこともない。遮音性と装着感は完璧である。上記3要素の2つがあっという間にクリアされ、サウンドはお気に入りのモデルそのままが保証されるのだ。

いや、サウンドも向上すると言い切っていいかもしれない。完璧なフィットによって本来持っていたサウンドがあまねく鼓膜まで届くようになるため、これまで装着の不完全さやイヤーピースとのマッチングのまずさで、失っていた帯域を取り戻すことになる。耳元で角度を変えたり装着の深さを変えると音が変わることは誰もが経験済みだと思うが、カスタムIEMでは常に安定した100%のサウンドが提供される。

▲左がUltimate Ears TripleFi 10、右がリモールドされたROOTH TF10
▲中身を抜くために破壊されたTripleFi 10の筐体。これまで御苦労さまと労いたい。
▲ブタパナの相性は、ノズルの形状が豚の鼻に似ていることから。ROOTHのリモールドでもノズルは2穴。
今回、ROOTHにてUltimate Earsが誇る名機TripleFi 10をリモールドした。前回SHURE SE530のリモールドを行なっていたため、耳型(インプレッション)を用意する必要もなく、送ったのはTripleFi 10の本体のみ。待つこと1ヶ月半、TripleFi 10はすっかり姿を変えてROOTH TF10となって帰ってきた。

このリモールドで実感したのは、世にリリースされてきたそうそうたるブランドのフラッグシップ・モデルというのは、我々一般庶民が認識しているそれ以上の潜在能力を多分に有していたのではないかということだった。どんなモデルでも必ずイヤーピースの話題が上がり、遮音性とサウンドへの影響が語られるが、これによるサウンド劣化がこうも大きいものだったのかと愕然とする思いだ。出力ノズルから放たれるサウンドが漏れることなく耳に届くだけで、これだけサウンドが向上するとは、はるかに想像を超えるものだった。

もちろんケーブルの高品質化の影響も大きい。TripleFi 10に限って言えばケーブルが品質のボトルネックであると実しやかに語られていることもあり、ケーブルを高品質なものに交換(リケーブル)するマニアも多い。ROOTH指定の純正ケーブルがWestoneのカスタムIEM同様、高い品質を誇るため、この恩恵も大きいことは否めない。

ROOTH TF10のサウンドがあまりに良かったので、慌ててノーマルのTripleFi 10を聞き直してみた。聞き比べると確かに同じ音。でも、そのクオリティーの差は歴然。霞のかかったような見通しの悪さは全くなくなり、ハイのヌケも比べ物にならない。低域の締りも押しの強さも随分と違う。同じ音質なのだけど、耳にしたときのこの圧倒的な違いはどう説明すればよいだろうか。

カスタムは、音の鮮度が上がり全帯域が驚くほどクリアになる。曇りも消え、サウンドの見通しが俄然良くなるため、結果的に周波数帯域が広がったように聞こえる。スペックが変わるはずもないのでこれは錯聴かもしれないし、あるいはプラシーボなのかもしれない。が、ストックのTripleFi 10と聞き比べると、やはりそこには格段の違いがある。音場に関する評価は、使用者の経験値や感性に左右されるもののため、広い/狭いという一元的な評価はナンセンスだが、カスタムIEM化により音場変化を感じる人もいることだろう。

▲相変わらず透明度の高い非常にきれいなシェル。シェルもフェイスプレートもクリアにすると、TripleFi 10の基盤も丸見え。
▲ROOTH製のカスタムIEMに必ず付属して来る周波数特性のグラフ。非常に素直な曲線で、バランスのいい特性が見て取れる。
ROOTH TF10のクリアですっきりソリッドな音は、透明感と清潔感に溢れバランスもちょうどいい。低音過多でもないし高域出過ぎでもない。ボーカルもしっかりと滑らかで、私の耳には非常に使いやすいカナル型ヘッドホンとなってくれた。UE 18 Proはもっと濃厚で身体全体を包み込むような鳴りなので、UE 18 Proが濃厚牛乳、ROOTH TF10がキンキンに冷えたジンジャエールという感じか。ちなみに、Westone ES5はもっと低域は出ているが締りが良く、全体的にシャープだが中域の温かさが非常に音楽的に響く。挽きたての濃い焙煎豆で入れたアイスコーヒーだ。ついでながらFitEar MH334は、比較的ROOTH TF10に近いバランスだが、全帯域でもっとパワフルで、リスニング向けとして高域も派手に鳴りあちこちのサウンドがキラキラと耳を惹く。これはコーラね。

…脱線してしまったが、引退状態だったTripleFi 10が目を見張る華麗な再デビューを飾ることになった、このリモールド…その効能はあまりにでかい。ROOTHでリモールドを受け付けているモデルには指定があり、現時点で対応を公言しているのは下記一覧となるが、いっそ手持ちの対応モデルは全てリモールドすべきと、私の煩悩が大騒ぎをしている。妄想で大興奮するのはWestone3とSHURE SE535のリモールドだ。これ、絶対にものすごいカスタムIEMになるに決まっている。

下記対応モデルをお持ちの方であれば、なにはともあれリモールドをお勧めしたい。こんな安価にカスタムIEMが手に入り、しかも自分のお気に入りのサウンドを最大限引き出したものが保証されているんだもん、見逃すなんてあり得ないっす、マジで。

詳細は下記オフィシャルサイト、あるいはeイヤホンにてご確認、お問い合わせを。

text by BARKS編集長 烏丸

Rooth-Remold(ルースリモールドサービス)
定価 18,500円(税込)
対応モデル
・WESTONE UM2 / UM2RC
・WESTONE UM3X / UM3XRC
・WESTONE WESTONE2
・WESTONE WESTONE3
・ultimateears super.fi5pro
・ultimateears super.fi5EB
・ultimateears triple.fi10pro
・M-AUDIO IE-20XB
・M-AUDIO IE-30
・M-AUDIO IE-40
・SHURE SE530 / SE535 / E5c
・SENNHEISER IE8 他
※お持ちの、もしくは中古で購入したカスタムIEMやイヤホンをばらして自分の耳の型に合わせるカスタムIEM作製サービス。
※付属品はなし。以前まで使用していたケーブルは使えなくなるため、roothオリジナルケーブル(5500円)を別途購入する必要あり。JHオーディオ、UEカスタムのケーブル流用可。

◆ROOTH正規代理店オフィシャルサイト
◆eイヤホンROOTH(リモールド)
◆eイヤホンROOTH

◆BARKS ヘッドホンチャンネル
◆実はすぐそこまで来ていた、カスタムIEMの世界

BARKS編集長 烏丸レビュー
◆AKG K3003(2011-09-18)
◆Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
◆Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
◆Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◆ORB JADE to go(2011-08-22)
◆YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
◆NW-STUDIO(2011-08-09)
◆NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
◆Westone ES5(2011-07-21)
◆SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
◆クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
◆GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◆SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
◆フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
◆ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
◆フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
◆アトミック フロイド(2011-05-26)
◆モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
◆SHURE SE215(2011-05-13)
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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