【BARKS編集部レビュー】SHURE SRH1840は、音楽再生機器の鑑

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ボーっと聞いていれば、広大な周波数帯域の上で各周波数の音が破綻なくきれいに並ぶ超絶フラットなんだけれど、意識を特定帯域に集中すると、いきなりその帯域にレンズを当てたかのように、その帯域のサウンドが細かなディテールとともに浮き出てくる。そんな、聞いている者の意識に寄り添うようにサウンドを追従させて来る、振り切れるほどに音が立つヤツ…それが私のSHURE SRH1840に対する最終評価だ。

◆SHURE SRH1840&SRH1440画像

▲SHURE SRH1840。現時点でのSHURE製ヘッドホンの最高位フラッグシップモデル。市場価格64,800円前後。

▲大きめのインピーダンスと能率の低さから、「iPodなどのデジタルオーディオプレイヤーでは音量が稼げずアンプ必須では?」と言われているが、実際は、実用に十分な音量はプレイヤー単体でも確保できる。

▲268gという軽量も魅力。装着感も申し分なく、側頭部も頭頂部も痛みやストレスは一切感じない心地よい使用感。

▲MMCXコネクタ端子を用いた両出しOFCケーブルで、予備のケーブルも付属する良心的なセットとなっている。「せっかくSE535を筆頭としたイヤホンと同じMMCX仕様なのだから、共有できるよう互換性を持ってほしかった」という意見も散見するが、形状記憶の針金をもってU字型にカーブさせるイヤホン用ケーブルと、ストレートに下げるヘッドホンでケーブルを共有するのは現実的ではない。冷静に考えれば明白だが、紋切型で流用できないとした設計は評価すべき点だ。ケーブルの予備まで同梱するのも、その思想の表れでありユーザーの思いを十分に汲んだ結果でもあると思う。

▲SHURE SRH1440。市場価格36,800円前後。

▲流線型の流れるようなデザインが美しい。重量は343gだが、フィット感はSRH1840と同様に良好。

▲SRH940では4つだった頭頂部のクッションがSRH1440では6つになっている。クッション自体は焼きたての鈴カステラのようにふわっふわで柔らかい。ちなみに、頭のでっかい私は、頭頂部の痛みはまったく生じない。

▲SRH1840、SRH1440どちらにも、大型のヘッドホンケースに収納されている。

JASMINEをきけば彼女の声が、ヴァン・ヘイレンを聞けばエディのギターが、キング・クリムゾン『レッド』を聞けばビル・ブラッフォードの音が、いつもの感覚よりもより身近に、よりリアルに、より生々しく届く。慣れ親しんできた音楽なのに、今までまったく気付けなかった新たな表情をチラ見させてくれるわけで、それがこの上ない興奮を呼び起こすのも音楽好きならわかっていただけるだろう。アーティストが作品に注いだごく小さなディテールも余すことなく拾い聞いて堪能したいと思うリスナーであれば、こんなにゴキゲンなヘッドホンはない。「音楽を聴く」という行為そのものを、さらに楽しくてしかたないものにしてくれるなんて、音楽再生機器の鑑でしょ。この音の良さこそひとつの理想形、ありがとうSRH1840!ってな気分で、高揚したテンションは一向に収まらない。

意識・無意識に関わらず、着目するその音をSRH1840がよりクリアに突出して聞かせてくれるのは、何故か。聞き込んでみて気付いたのは、クリアなサウンド…たとえば、ドナルド・フェイゲンやオーレ・ブールードのようなサウンドを聞けば、SRH1840は弩クリアで切れの良い、音と音の間に巨大な空間を感じさせてくれる端正なソリッド&クリア系ヘッドホンに変貌するし、ウィッシュボーン・アッシュを聞けば、丸く柔らかながら重みと粘りのある重厚系開放サウンドに聞こえる。そしてパンテラやメタリカを聞けば…そう、ご想像の通りSRH1840は見事なドンシャリ・ヘッドホンに変貌するのだ。

混じりっ気のない高品質なクリアさで超絶フラットをお膳立てすると、鳴らした音源の特徴そのものの特性がまるでヘッドホンに乗り移るようで、こんな感覚にとらわれたのはSHURE SRH1840が初めてのことだ。もしやこれぞ本当にフラットであるということなのではないか。

もうひとつ、またオツムの湧いた野郎が気色悪いことを言い出したと揶揄されるような話だが、私の感覚では音には色があって、いわゆる寒色系~暖色系の色が、タイトでシャープなトーンからふくよかでダイナミックなトーンにまで、一意に結びついているイメージがある。サウンドを視覚でとらえると、音空間の広さや形ではなくトーンそのものを視覚化できる(気がする)。視覚と聴覚でサウンドをとらえると、自分の指向性や好みの振れ幅がぶれることなく把握することもできる(と、勝手に感じている)。そんな私にとってこのSHUREのオープンバックは、今までに感じてきた各ヘッドホンの色彩のどれとも違う、DICカラーでいうならばCMYKで表現できないいわゆる特色の光沢を放っている。

SRH1840とSRH1440、この両者のトーンは共通していて基本的には同じ色彩だ。あまりピカピカと光りすぎることのない透明感を持つ輝くシルバーで、もっと細かく見つめれば、SRH1840はプラチナの輝き、SRH1440はホワイトゴールドっぽい輝きに聞こえる。ちなみに密閉型の最上位機種となるSRH940の色彩は、グレーを基調にしながら微細で細かい赤いスパークルがうっすら散りばめられたようなイメージで、中域~低域はうっすらブルーがかった薄いグレーという音色彩だった。

SRH1840とSRH1440とのサウンドは非常に似ている。環境によっては大した違いを感じない人もいるかもしれないし、購入に際してはむしろサウンドではなく重量や作り、デザイン、価格といった他の要素を重要視するのも悪くない。ただ、両者の決定的な違いは音の分離に尽きると思う。SRH1840の各音ひとつひとつの驚異的な分離の良さは、とてつもなくすごい。

一般的にレコーディングにおいて、録ったサウンドのひとつひとつを音作りする際は、当然のようにほかの音はすべてオフにし、その音だけを分離して再生・調整するシーンがある。現役の時はこの状態を「赤面ソロボタン」と呼んでいた。バンドアンサンブルからボタン1つでひとつの音だけが抜き出されるのは相当恥ずかしいもので、それが歌であれば、息遣いどころか服の擦れはもちろん、鼻息からちょっとした唇の動きまでもが手に取るように聞こえてしまう。“リアル”なんて言葉では生ぬるく、オンマイクで耳にへばりつくような生々しい肉声を大音量で再生されるのは、まるで辱めを受けているようなもの。ギターパートでもそれは同じで、ちょっとしたピッチのずれやタッチノイズ、ピッキングの粗まで丸裸にされる。弦がヒットした瞬間から本来の音程に安定するまでの数十ミリ秒というほんの一瞬のサウンドの乱れなども、「赤面ソロボタン」状態では丸わかりで、プレイヤーの力量が赤裸々になるいたたまれない状況なのだ。

そんなレコーディング時における「赤面ソロボタン」じゃないとわからないような、非常に細かいディテールや重箱の隅をつつくようなサウンドの息遣いが、恐ろしいほどに、いや面白いほどに拾い出してくれる桁違いの能力がSRH1840には備わっている。開放型ながら音楽制作のモニタリングに最適なのは、なるほどそういうことなのだ。

アーティストの息遣いをそのまま伝えるだけに、聞いているソースによってSRH1840への印象は大きく変わるだろう。できることならいろんなタイプの音源で試してみてほしい。どれもあっけないほど清く正しく再生してくれることが理解できれば、上質なソースを音量を上げて堪能してみていただきたい。ほら、その音はもう、目の前に広がるのはレコーディングのコンソールルームですから。

さて、話はSRH1840を中心に進めてしまったけれど、実は、SRH1840よりもSRH1440のほうが音が“熱い”。分離よりも一体感が心地よく、開放的ながらパンチもありキレ良くも濃厚な傾向にある。SRH1440のほうがどんぶり飯をかっ食らうような豪快なキャラが残っており、いわば1440は男性的、1840は女性的なイメージであろうか。

SRH1440を耳にすると、熱さとまとまりの良さを感じるが、それでいて上級なヌケけの良さとクリアさもしっかりと担保されており、実に絶妙なサウンド・デザインとなっている。この完成度に持ち込んだ技術力とセンスの高さは、SRH1840のプロダクトよりも上流に位置すると思う。さしずめSRH1840の開発の道のりはエベレストを登っていくようなストイックさであり、SRH1840の設計コンセプトは、富士山の頂上にテーマパークを設計するような道のりに思える。サウンドの傾向は似ているが、到達しようとする方向やコンセプトが大きく違うというわけで、SRH1440の完成度もまた、SRH1840には真似できないものだ。

最後になるが、一部にてSRH1440、SRH1840ともに低域が薄いという評価を耳にするが、それは全くの誤りだ。非常に図太く深く重い低音が出ており、それは特筆すべき質感でもあり心配は無用。ただし、非常にキレも良く超低音でも軽やかに跳ねるように飛び出し、広い空間に抜けていくので、ざわついた店頭試聴や低品質な音源では、その桁違いの低域品質は感じにくいかもしれない。

SRH1440の絶妙なバランスと、体脂肪の少ない一切のゆるみなきストイックなSRH1840、両者とも並みならぬ魅力にあふれている。どちらもスピード感のあるタイトなサウンドなのに、それでいて常に人肌の温度感を携えている。突き放すように高分解能なのにまったく冷徹じゃないから惚れてしまうわけだ。そもそもハウジングが持つであろう特定の共振係数のようなものを一切感じさせないので、まさに空気中にスピーカーが浮いているかの印象で、物理構造の癖がどこにも見えない。

箱から開けたばかりのときは、ソリッドさとスピード感、キレの良さが際立ち、ものすごく高品質だがクソ真面目なモニタリング・ヘッドホンと思えたが、50時間を過ぎたあたりから生々しさと肉感的な熱も帯びだし、表情に奥行きが加わった。もはや敵なし、まったく隙のないパーフェクトと呼ぶにふさわしいサウンドに仕上がっている。

SRH1840がここまでの音ならば、将来登場が期待されるSRH1940は、どんだけぶち抜けた音になるのだろう。もはや想像もつかないし、きっと、ひざまづくしかないのだろうな。SHUREってほんと凄いブランドだ。

text by BARKS編集長 烏丸

●SRH1840
オープン価格(市場価格64,800円前後)
・ダイナミック型 ネオジム磁石
・ドライバー口径:40 mm
・周波数帯域:10Hz~30,000Hz
・感度:96dB/mW(1kHz)
・インピーダンス:65Ω(1kHz)
・最大許容入力:1000 mW
・入力コネクター:3.5 mmステレオミニプラグ(金メッキ)※標準プラグアダプター付属
・ケーブルタイプ:両出し、着脱式ケーブル(OFC)、2.1m
・交換式イヤパッド:対応
・折りたたみ機構:非対応
・質量(ケーブルを除く):268g
・付属品:標準プラグアダプター、ジッパー式保管用ハードケース、両出し着脱式ケーブル2本、交換用ベロア素材イヤパッド(1組)

●SRH1440
オープン価格(市場価格36,800円前後)
・ダイナミック型 ネオジム磁石
・ドライバー口径:40 mm
・周波数帯域:15Hz~27,000Hz
・感度:101dB/mW(1kHz)
・インピーダンス:37Ω(1kHz)
・最大許容入力:1000 mW
・入力コネクター:3.5 mmステレオミニプラグ(金メッキ)※標準プラグアダプター付属
・ケーブルタイプ:両出し、着脱式ケーブル(OFC)、2.1m
・交換式イヤパッド:対応
・折りたたみ機構:非対応
・質量(ケーブルを除く):343g
・付属品:標準プラグアダプター、ジッパー式保管用ハードケース、両出し着脱式ケーブル2本、交換用ベロア素材イヤパッド(1組)

◆SRH1840オフィシャルサイト
◆SRH1440オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)
◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)
◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)
◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)
◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)
◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)
■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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