【BARKS編集部レビュー】ゼンハイザーIE8、一流たるゆえんは謙虚すぎる設計思想にあり

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オーバーヘッドからカナルタイプまでいろんなヘッドホンを試しているうちに、スタッフが「これどうですか?」と持ってきたのが、ゼンハイザーのIE8だった。新製品でもなくいまさらかもしれないが、言わずと知れたロングセラーを誇る名器中の名器。…と噂で聞いているだけで、使ったことも試聴したこともない私は、本当のところ、何も分かってない。「おー、ゼンハイザーね。学生のときに音にうるさい友達がゼンハイザーのヘッドホン使ってていい音してたなー、カセットデッキはNakamichiでさ…」ととんちんかんな会話をして、IE8を受け取った。

◆ゼンハイザーIE8画像

先日試聴したSONY MDR-EX1000のパワフルなサウンドは、体脂肪を極限まで絞り込んだボクサーのようなサウンドとお伝えしたところだが、IE8には聴き込めば聴き込むほど、そのサウンドに陶酔してしまう深みがあった。申し分のないバランス、音楽を音楽として響かせる心地よい音場、そして何より生々しくも自然な響き。IE8の音を一言で言うならば「やさしい」に尽きる。ああ、やさしい。そしてこの暖かさは、家庭で食べるナベの様だ。この心地よさはお母さんの暖かさか?いや、お父さんの大きな背中か?

やさしさを感じさせるポイント、そのひとつには装着感がある。まず凄いと思うのは「こう付けなさい」という強要がないところだ。もちろんケーブルを耳に掛けて使用するためのイヤーフックまで付属しており、ループ掛けが基本なのかもしれないが、耳に引っ掛けず普通に耳穴に突っ込むだけでも全く違和感なくフィットしてしまうのである。もちろんこれは偶然のはずもなく高い設計思想の元に計算され尽くされたデザインであることは想像に難くない。耳に掛けるのは好きじゃないという人も多く、メガネと干渉してNGという声もよく聞く。ループ掛けが嫌いだからIE8は検討対象外というのであれば、それは心配御無用だ。

やさしさその2。軽く、柔らかなタッチがすごい。実際の重量も相当軽いが、装着感の軽さは羽根が生えているかのようだ。はまってしまえば耳への違和感は最小限で、時と共にその存在を忘れてしまうほど。しなやかなケーブルは風切り音もまったくせず、ケーブルがどれだけ服にこすれてもノイズを拾わない。本体の軽さや装着感とケーブルの柔らかさと細さをもって、この存在感の薄さが担保されていることに気付く。

これらの外観と素材感は高級機を感じさせないチープさすら漂わせてしまうもので、ブランドのフラッグシップモデルではあるものの、結果IE8からは大げさなオラオラ主張が一切感じられない。謙虚極まりないその設計とデザインに、懐のでかさと高い志、そこに向かう強い意志が見て取れるようで、ゼンハイザーの一流たるゆえんを付き付けられた思いだ。

ハイエンド・ヘッドホンの愛用者やこだわりユーザーのほとんどが男性であると相場は決まっているが、音楽や音そのものへのこだわりに男女の差はなく、いい音で楽しみたいと願っている潜在女性リスナーは、本来かなりの数に登っている。女性リスナーにこそ、この軽さと音の素直さを強くオススメしたいところだが、色気おしゃれオーラゼロのIE8に女性は触手を伸ばしてはくれないのだろうか。

IE8をまじまじと見ると、サプリメント・タブレットやキャンディのようでもあり、見方を変えればこの四角形もカワイイ。現状はマットなブラックのみのルックスで色バリエーションなど望むべくもないけれど、いっそ思い切ったカラーバリエーションを打ち出し、スワロパーツなんかもオプションで用意できたら、ものすごくキュートなヘッドホンに一変すると思うんだが、いかがだろうか。真っ赤やグリーンなどキッチュな色彩にスワロフスキーをがっつりあしらってくれたら、キュン死する女子も続出すると思うんだけどな。男から女子へのプレゼントにもばっちりだし。

IE8の素晴らしさや心地のよさは、すでに世界中のオーディエンスによって実証済みであり、日々の生活でIE8が奏でる音楽にご満悦のリスナーも多いことだろう。そんな素晴らしいアイテムだからこそ、マニアのためのアイテムではなく、老若男女全ての音楽リスナーへの最終到達サウンドのひとつとして、IE8の存在は広がって欲しいし、またそうであるべきだとも思う。

text by BARKS編集長 烏丸

◆Sennheiser IE8オフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル


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