【BARKS編集部レビュー】Fischer Audio Jubilateは、まさかの大化け大明神

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どうです、この中途半端な佇まい。カッコいいんだかダサいんだか分からない大判焼きのようなルックス、オーバーイヤーでもなくオンイヤーでもないとてつもなく中途半端なカップサイズ、密閉型なのに遮音性に乏しいという不思議設計、クソ重いわけでもないが決して軽くもないというどっちつかずの重量…。

◆Fischer Audio Jubilate画像

▲Fischer Audio(フィッシャー・オーディオ)のJubilate(ジュビレート)。ウッドハウジングのおしゃれさんで、木材は6種類のバリエーションがある。

▲ケーブルは着脱可能。片出しで使いやすい。

▲まさに大判焼きを彷彿とさせる風合い。ぐっと押すとあんこがブニッとはみ出そうな気配すら漂わせる。

▲装着感は悪くない。どこかに偏重した当たりがあるわけでもなく、痛みや重さは感じないヘッドバンドもきれいに頭にフィットし上々の使いやすさ。

▲ベロア素材のクッションも使用感は上々。アラウンドイヤーとオンイヤーの間の大きさなので、人によって装着感の違いがありそう。耳への角度や位置関係で微細なサウンドの変化が確認できるのも楽しいところ。

▲ハウジングには日本限定を示す「LIMITED EDITION JAPAN」の文字が刻まれている。下部にはブランド名と共に「HANDCRAFTED BY RUSSIA」という手作りを示す刻印が見える。

そんな微妙な佇まいゆえに、人気モデルの陰に隠れっぱなしで表舞台になかなか出てこない不遇なモデルが、Fischer Audio(フィッシャー・オーディオ)のJubilate(ジュビレート)である。

そんな調子なので、Fischer Audio大好きを自認する私でも、Jubilateに手を出すまでにはちょっとばかりの決断が必要だった。しかもショップやヘッドホン祭などで試聴した時点では、シャカシャカと非常に軽いサウンドで、それ以上の魅力が感じられなかったのだ。

だーが、しかし…私にとってFischer Audioは、第一印象はヘロヘロに始まり、そのうちにじわじわとその魅力が身体に染み入り、気付くとお前こそ我がラブリーヘッドホン❤とゾッコンラブ状態になるパターンが多い。試聴時に感じた感想とは全く印象が変わり、まさかの大化けをみせることも多く、DBA-02 MK II、FA-002W、FA-004などは時間とともに評価はうなぎのぼりで、結果的には代用のきかない欠かせぬ愛機になっていたりする。

ほとんどのヘッドホンは、いくら使い込んでもサウンドに対する評価は第一印象時から特に変わらないのだけれど、使っているうちにどんどんと印象と評価が変わってくるヘッドホンも稀にあるわけで、ことFischer Audioに関しては、最初の印象からは考えられないくらい大きく変貌を遂げることが多い。

他ブランドには見られないアグレッシブなサウンド探求の姿勢ととんでもない変化球を持ち合わせているFischer Audio製だけに「こいつには何か普通じゃない妙なオーラを感じるぞ…」と、Jubilateに密かなる期待を抱き、入手したのが2012年9月のことだった。

あれから約8ヵ月、熟成されるがごとくそのサウンドが私の耳と身体に馴染んだ今、Jubilateはいつでもパッと手の届くところに置かれ、最多稼働ヘッドホンの座に鎮座するという珍妙な結果となっている。やはりJubilateは凄いヤツだったのです。

他のヘッドホンには真似のできない個性と突き抜ける魅力、気付くと耳にしてしまっている病み付きになるサウンドを放つJubilateだが、こいつの魅力を一言で言い表すのはなかなか難しい。何はともあれ最初の音は硬質で薄っぺらい音で、低域のふくよかさや中域の滑らかさが全く出てこない代物だった。普通であれば「なんじゃこりゃ」とうなだれ「スッカスカやん!」と全力で突っ込んでおしまいだが、「こんなサウンドで発売してしまうほどFischer Audioもマヌケではない…これはJubilateの叩き出すサウンドをきちんと受け止められていない自分がマヌケなのだ」と私は妄信する。

我ながら香ばしい思考回路だとは思うけれど、これまで幾度となく、いつもの自分のままでは出会えないであろう刺激的で未曾有のサウンドを後出ししてくるFischer Audioに、「参りました」と感服してきた過去がある。評価の大変貌を経てやっと手に入るレア・サウンドだったりもするので、「固定観念、既成概念にとらわれるべきではないぞよ」…と律してくれるのがロシアの大明神Fischer Audio様なのだ。

当初のJubilateは、細めの低域にシャキシャキとした瑞々しい高域、キュッとしまった中域で、一聴してタイトだけどちょっと物足りなさを感じるトーンだ。しかしながら聴きこんでいくうちに各帯域に重量と熱さが生まれ、しっかりとした実体感が出てくるようになる。フォーク&ナイフで食べるような繊細な高級絶品料理を、美味しさを落とすことなくどんぶりメニューに仕立て上げたような、フランクさが加わるイメージだ。

分解能はそれなりにあるものの、立体的な表現ではない上に分離もさほど良いわけではないので、高解像度という印象は受けないかもしれない。だからこそ全帯域を取りこぼすことなく、すべからく耳に届けてくれる感覚があり、音楽表現は非常に器用だ。ハイも非常に抜けローもどっしり表現しミッドも滑らか艶やかに表現するその感触は、高級フラッグシップの良くできたサウンドバランスのまま、お気軽サイズにカジュアルにまとめてくれたような心地よさがある。全域がエネルギッシュで元気満杯、それでいてバランスは破綻せず、ロック・サウンドからオーケストレーションまで器用に描き出すこの感じには、比類するものがない。

そして特筆すべきは、硬質で頑丈なハウジングに起因していると思しき、徹底的に引き締められた瞬発力だ。とにかくタイトで音のキレが素晴らしいので、どんなに低域過多なバランスで聴いても脂っこくならない。スクリレックスやゼッドなどは迫力を失うことなくクセになるバランスで聴かせてくれる。何度もリピートしたくなるような、イクイップメントのサウンドを活き活きと生々しく響かせる才能がズバ抜けている。

最初の数ヵ月はフン詰まりのように低域が出てこなかったが、ひとたび鳴り出すとキレと引き際が鮮やかで、ビートの表現力が別世界となる。ここからがJubilateの真骨頂だ。非常にドライで粘性の低い乾いたサウンドなのに、温かみがあるというこの性質は、極めて希少だと思う。タイトで引き締まったサウンドには冷たくクールでクリーンなサウンドのものが多いだけに、Jubilateの描くサウンドは、絶滅危惧種に指定して欲しいワンアンドオンリーの輝きを放っている。

そしてうれしいのが、Jubilateが定価18800円と手に出しやすい価格である点だ。ハウジングにはtiama、Peruvian walnut、Padouk、khaya、jatobaという5種類の木材が存在するが、材の違いによるサウンドの違いまでは私もわからない。私のJubilateはjatobaという非常に硬質な木材が使用されているが、財布と心に余裕があれば、今度はtiamaあたりのサウンドを確かめてみたいところだ。

初めての一本には冒険すぎるかもしれないが、数多くのヘッドホンを所有している貴兄であればこそ、ちょっと注目してみてほしい。Fischer Audioの魅力が伝わればうれしいなぁ。

text by BARKS編集長 烏丸

Fischer Audio Jubilate
18,800円(税895円)
・材質:tiama、Peruvian walnut、Padouk、khaya、jatoba
・周波数特性:10-22000 Hz
・音圧レベル:103 dB
・インピーダンス:125±3% Ohm
・最大入力:300mW
・接続ケーブル:3.0 m
・ジャック:3.5mm
・保証:1年間

◆Fischer Audioオフィシャルサイト
◆Fischer Audioオフィシャルショッピングサイト

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