【BARKS編集部レビュー】Fischer Audio FA-002Wは、Sっ気たっぷりの高域美人

ポスト

私のフェイバリット・ヘッドホンのひとつとして、ことあるごとにちらりほらりと口にしていたFischer AudioのFA-002Wをきちんとご紹介しておきたいと思う。第一印象は「うーん…ちょっとチャラ系?」と、その秘められた実力に気付けなかったのだけど、なんだかんだで愛用し続けてもう半年になる。最初の1ヵ月で愛してやまない「オマエじゃないと俺はダメなんだ」的な、ダメ男meetsいい女でゾッコン系のラブラブ状態に陥り、それ以降、その偏愛ぶりは全く治らず今に至る。「代わりがない」って、なんて罪深いことでしょう。

◆Fischer Audio FA-002W画像

▲Fischer AudioのFA-002W。ハウジングに天然木材が使用された、日本向けのリミテッドエディション。かなり大柄なヘッドホンだ。顔の小さい女の子がはめると、そのシルエットはまるでミッキーマウスのように。

▲イヤーパッドはフカフカで気持ち良い。デフォルトではレザー製が装填されているが、別途ベロア性のスペアが付属している。

▲ハウジングは十分な大きさがあり、耳そのものをすっぽりと覆うアラウンドイヤータイプなので、耳介を圧迫するような不快感や痛みは一切発生しない。

私のプロファイルを明かさないと意味がないわけだが、私はドンシャリ大好き&高解像度大好き&小さな音で極上の音を楽しむのも大好きという、ロック&ポップス系寄りのリスナーだ。これまでレビューしてきたイヤホン・ヘッドホンは、自分が好きなモデルと感銘を受けたアイテムを順不同に書き留めてきたものなので、大好き&リスペクト・モデルはその過去レビューで触れてきたものになる。

ただ私は、最も多感で肉体的潜在能力も高かった10代~20代の大事な十数年間をバンド生活に費やしてしまったため、耳に対しては一般オーディエンスとは桁違いの酷使を繰り返した事実がある。リハーサルでもステージ上でも壁側に機材を組んで音を背にしてアンサンブルを組み上げているわけだが、生活のほとんどをそんな環境に費やしたため、結果私は、空間表現の優れたヘッドホンでも、前方ではなく後方定位する感覚を養ってしまった。また、ドラムのシンバル音が直接耳に飛んでくる環境に長い間さらされてきたことで、高域~超高域への耐性はハンパなく鍛えられている。ちょっとやそっとの歯擦音なんかへでもないわけで、ま、簡単に言えば高域の聴覚が殺られちまっているワケだ。チーン…。とはいえ、それでも全帯域にわたって音楽を正しく受け止め判断できるように脳ミソが働いている(らしい)ので、全く気にしていない(ことにする)という鉄の心臓も持ち合わせている。ミュージシャンだってエンジニアだって、モスキート音が聞こえなくとも高域表現は捉えているのだ(と信じている)。

そんな自分ではあるけれど、高域耐性が強い私ですら「もうこれで必要にして十分、これがギリギリかも」と思わせてくれるほど、高域の再現性が突き抜けているのが、このフィッシャー・オーディオFA-002Wちゃんなのである。びしばしひっぱたくような歯切れの良さと随一のスピード感はもはや異次元で、振り切れるほどに硬い音を叩き出す。引き締まってスピード感があり、とにかくソリッド。サウンドはキレキレで日本刀かサーベルか、はたまたオリハルコンかエクスカリバーか、斬鉄剣もびっくりのシャープさだ。

この高域表現こそが他のどのヘッドホンでも手に入らない私の最もお気に入りのポイントだが、トップレベルの解像度と素晴らしい瞬発力は低域~中域でも同様で、音が鳴る前に耳に届いているんじゃないかくらいのスピード感がある。透明度の高いクリアさは、不純物を一切寄せ付けない純潔なトーンを生み出してくれるので、聴き疲れは激しいものの、これで聴く音楽の高揚感はGRADOのそれを凌ぐほどだ。

サウンドバランスは高域若干強めのフラット目と言ったところか。低域は決して多くない。しっかりとしたホールド感で耳を完全に覆い尽くす密閉型だが、意外にも空間表現は器用で、ダンゴになって耳にまとわりつくこともなく広がり過ぎの希薄さもなく、ボーカル表現も“距離感のある生々しさ”があり、このあたりの絶妙な心地よさが、私のツボにジャストミートする。音質はまるで違うが、耳に対する音楽の届け方そのもののテンションの高さは、GRADO PS1000のそれと似ているかもしれない。

マイフェイバリット最右翼のGRADO PS1000と並べるならば、私にとってのFA-002Wは、PS1000を若返らせてお姉さんにしたような音だ。PS1000が酸いも甘いも噛み分けた重鎮のおっさんだとしたらの話だけど。ちなみにFA-002W姉さんは、かなりのツンデレで基本的にSっ気の強い美人さんである。PS1000は心優しい木こりのような大男だ。どちらも常にちょっとばかり体温が高いようで、とにかく派手に楽しくアウトプットしてくれる。GRADOも最高に楽しい理想的なロックサウンドを叩き出す至宝のアイテムだが、FA-002Wはド派手な金物を好き放題鳴らすやんちゃなところがある。GRADOが非常に太いトルクを持って頑強な牽引力を持つというイメージに対し、FA002Wは無駄な贅肉が一切なく軽量ボディーでべらぼうな加速性能を持つイメージだ。

▲私のFA-002Wはインピーダンスが120Ωである。カタログスペックでは64Ωとのことだが、時期やロットによって仕様違いが存在しているかもしれない。私の場合、ソフトケースに、スペアのベロア製イヤーパッドが付属してきた。本体に装着しているのはレザー製である。このあたりの付属品の内容も変更されている可能性もある。購入時にご確認いただきたい。

▲左が図太くパワフルなサウンドを叩き出すGRADO PS1000、右がスピード感ある鋭く立ち上がるFischer Audio FA-002W。どちらもエネルギー感たっぷりでロックンロールだ。

▲左がFischer Audio FA-002W。右が理想的なリファレンスサウンドを叩き出すSHURE SRH1840。FA-002Wのまえでは、冷静なSRH1840もほんわか優しいサウンドに感じさせてくれる。

▲付属品は、ソフトケース、交換用ベロア・イヤーパッド、着脱式の3mケーブル。

気色悪く脱線してしまったので話を戻そう。解像度高くフラットで、几帳面に音楽を過不足なく描く能力が高いヘッドホンとして、私はSHURE SRH1840に絶大なる信頼を置いている。どんな音をぶち込んでも冷静さを失わないし、決して羽目を外さない堅実さとストイックさ、頑ななまでの理性的なサウンドはリファレンスにぴったりのサウンドだからだ。だが、そんなシャープで冷静なSRH1840ですら、FA-002Wの前ではほんのり温かくほんわか優しさを見せつけてしまう。SRH1840の持つ低音のジューシーさや、謙虚ゆえに見せてこなかったふくよかな温かさを丸裸にしてしまうところも、FA-002WのもつSっ気であろうか。

FA-002Wは、その正式名称をFischer Audio Wood Cup Japan Limited Edition FA-002Wと言い、文字通り日本限定モデルと位置付けられている。ハウジングは木製ですべて手作りによるもので、フィッシャー・オーディオのハイエンドとなるモデルだ。ウッドカップの材質は多種に及んでおり、その希少性や製作難易度によって価格に数万円の開きがある点も特徴だ。自分の「violet amaranth」以外のサウンドを聞き比べたことがないので、材質の違いによってどのようにサウンドが変わるのか、ちょっと追求したい欲求にも駆られる。自分のパープルハート(violet amaranth)以外ではバーチ、アイアンウッド、オーク、ブビンガといった材が存在するようだが、共通しているのはいずれも強烈に堅い材質ばかりということ。伝統的な家具やフローリングなどにも使われる素材だが、音響にも優れているために楽器にもよく使われる材質群で、バーチなどはドラムのシェルにも多用されるスタンダードな素材だ。アイアンウッドは希少だが、オークやブビンガなどは高級ベースのボディーやネック材に起用されることも多い。逆に多くのヘッドホンメーカーで使用されるマホガニーのようなスタンダードな材質を使わないのは、限定モデルならではのこだわりであろうか。一般的なマホガニーは軽く柔らかいイメージがあるが、芯材と辺材によって特性ががらりと変わるマホガニーだけに、巨大なホンジュラスマホガニーの心材で作られたカップであれば、極上の周波数特性を叩き出してくれそうなヨカン。ウッドカップを取り換えて音を楽しむのも、FA-002Wを愛でるマニアのあるべき姿と思うのだけれど、もう私、おかしいだろうか。

それなりの遮音性を誇るのでモバイル環境でも使用は可能だが、お茶碗を耳にかぶせているかのもっこりデザインは、門外不出とした方が吉。顔の小さい女の子がはめると、そのシルエットはまるでミッキーマウスのように、あるいはコアラのマーチのようになってしまうだろう。一般的なオーディオプレイヤーでも問題なく楽しめる駆動力はあるので、それだけで十分だれど、繊細な描画と突き抜けるようなビビッドさを存分に堪能するには、音源も再生機器もスペックは高いほどFA-002Wの凄さを実感させてくれることだろう。

さて、重要な使用感に関してだが、ウッドカップの材質に依存するところだけれど、私のパープルハート(violet amaranth)は本体だけで430gもの重さがある。3mに及ぶケーブルを加えると510gにもなり、なかなかの重量級だ。ただ、装着感は悪くない。側圧は若干強めだが、柔らかいパッドに深さがあるので、耳のまわりにもっちりぴったりと密着し、心地よい安定感を生み長時間の使用でもOK。私の場合は痛みやストレスはほとんど発生しない。

市場価格はおおよそ4万円から7万円と、気軽に買える金額ではないが、FA-002Wに代替え品は存在しない。まさしくワン・アンド・オンリーの美音を放つ秀作だ。ヘッドホンスパイラルに陥っている貴兄であれば、ここはひとつダイブしてみていただきたい。こいつが放つ音の刺客に襲われたら、一撃で昇天っすよ。

text by BARKS編集長 烏丸

●Fischer Audio Wood Cup Japan Limited Edition FA-002W(violet amaranth)
Design:closed
Frequency range:10-26500Hz
Sensitivity:105dB
Impedance:64Ω
Input power:120mW
Plug:3.5mm
Length of a cable:3m
Color:athracite/black
Box:soft case
Set:additional cushions, 6.3mm jack adapter

◆Fischer Audioオフィシャルサイト
◆Fischer Audioオフィシャルショップ

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事をポスト

この記事の関連情報