【BARKS編集部レビュー】ファイナルオーディオデザインPiano Forte IXは、妄想スタジオを作り出す魔法の勾玉
先に速報でお伝えしたとおり、ファイナルオーディオデザインから金属削り出しのダイナミック型イヤホンFI-DC1602シリーズが登場、4月下旬から市場に登場し始めた。…が、市場価格220,000円を誇るクロム銅のフラッグシップモデルは、はやくも市場で品切れを起こしているようだ。
◆Piano Forte IX画像
今回発売されたFI-DC1602は、前作FI-DC1601と同様「クロム銅/ステンレス/真鍮」という3種類の金属筐体でリリースされたが、今回からそれぞれ「Piano Forte X-CC/IX/VIII」というモデル名が付けられた。型番では味気なく分かりにくいのでありがたいところだが、これにより約3000円という同社エントリーモデルPiano Forte IIと巨大な価格幅で一線に並び、シリーズの充実をみせた。この「Piano Forte」は、ファイナルオーディオデザインの真骨頂であるダイナミック型に付けられたシリーズ名で、末尾のローマ数字でグレードを表すというシンプルなルールが敷かれている。
「Piano Forte X-CC/IX/VIII」の市場価格は、X-CCが22万円、IXが9万8,000円、VIIIが7万8,000円とべらぼうに高額だが、それに反するように使い勝手はあまりにイレギュラーだ。まず常識と思しきイヤーパッドすら存在しない。筐体と一体化した金属製の音の出口を耳穴に当てるだけだ。そのため遮音性も低く外耳道へのフィット感にも乏しい。まるで、イヤホンの形に整形した小型のスピーカーユニットを耳穴に引っ掛けている感覚だ。しかしそのスタイルこそがこのモデルの独創性で、ファイナルオーディオデザインの揺るがぬ信念とピュアオーディオの在り方に起因するものである。
ファイナルオーディオデザインの代表的な製品にスピーカーシステムOPUS204がある。「絶対的に美しい音」を追求するピュアオーディオ・ブランドとして譲れない構造がホーン型であり、彼らが追求するテーマのひとつとして振動板の動きを限りなく制御することがあるが、OPUS204に至っては、たった7gの振動板を固定するために用意されたのがなんと750kgのステンレス筐体というものだ。常識をはるかに逸脱したこだわりっぷりで、定価5,000万円というOPUS204がたたき出す音は、世界中のオーディオマニアから揺るぎなき賞賛を受けている。
そして、その設計思想と全く同じ発想でイヤホンを作ろうとした暴挙の結果が、Piano Forteの誕生なのである。「こういうブランドが世界にひとつくらいあったっていいでしょ?」と担当者は笑う。5,000万円のOPUS204を手にするオーディエンスからすれば、逆によくこの価格で収まったものだ、とその企業努力に感服するところかもしれない。
音楽は空気振動であるから、そのサウンドを追及するということは、空気振動をどうコントロールするかということと同義である。だからピュアオーディオの世界は、機材とともに、リスニングルームに目を向ける。機材と同様に、空気が充満した環境そのものも音楽再生の重要パーツとなるから、オーディオセットにあわせて部屋を改築、家を建築というのは正しい行為というわけだ。
その点に注目すると、イヤホンの場合、オーディオルームに当たる部分は人間の外耳道になる。そう、この1~2ccの空気容積に対して最適化したスピーカーシステムを、耳にかけられる形状で開発しようというのが、Piano Forte X-CC/IX/VIIIの基本コンセプトにあたる。もうスタートの時点で他ブランドと立ち居地が全く違うのだ。
Piano Forte IX(ステンレス)をかれこれ1ヵ月ほど使用しているが、未だ日々音は成長し続けており、その懐の深さの底が見えない。金属ゆえに付けたときはヒヤリと冷たいが、温まり温度が馴染んでくると、不思議なことに装着している感覚がなくなってくる。重量も重くフィット感も悪いはずなのに存在感がどんどん薄くなっていく感覚…、これはおそらく外耳道へ圧力をかけていない自然さと、パーツを密着させていない閉塞感のなさが最大のポイントだと思う。要は指輪やブレスレット、ネックレス、あるいは腕時計と同様、無理なく身体に付けているという状態が、実は画期的だったのだ。
Piano Forteは「部屋で音楽が鳴っているように音楽を鳴らす」そういう表現に尽きる。ライバルはヘッドホンではなく、オーディオセットだと思う。しかし、このPiano Forteは、持ち出せるオーディオセットだ。草原で寝転んで、春の陽気の縁側で、パラソルを広げたビーチで、静まりかえった深夜のベッドルームで…、Piano Forteの活躍の場は人それぞれに広がり、これまで手に入れることのできなかった極上音楽のリスニング環境を人々に提供する、魔法の勾玉だ。
ちなみに、現代のレコーディング環境はほとんどPC内で完結できる状況にあり、大きなスタジオを使用するケースも減ってきているが、昔はレコーディングといえばスタジオでアナログテープを回し、録音したサウンドを聴くコンソールルームには大小のモニタースピーカーが鎮座していた。メインスピーカーこそスタジオでまちまちだが、必ずといっていいほどセットされていたのがYAMAHA NS-10M(通称テンモニ)とオーラトーン5Cだった。
Piano Forte IXを聴いて思い出したのが、まさにこのオーラトーンのサウンドで、ふくよかな中域とキレのあるロー、柔らかくもスピード感のある高域…そのサウンドは、とても耳に付けているイヤホンとは思えぬ芳醇なものだ。音楽を聴くのが楽しくて仕方なくなる感覚と、スタジオのコンソールルームを思い起こすようなリアルな音像は、自分の知る限りPiano Forteだけが持つ特長だ。
なおPiano Forteは、ダイナミック型だけにエージング効果も大きいだろう。当初感じたミッドにピークを持つ特性は薄れ、すっきりと透明感が増してきており、まだまだ日々音が良くなってきている。私にとって「Piano Forteを耳にする」というのは、「音楽を楽しむ妄想スタジオに入りましょう」という感覚になってきた。なお、Piano Forte IXの持つ800Hzあたりの個性的な響きは素材特性に起因するものかもしれない。以前視聴したとき、このあたりのクセがPiano Forte X-CC(FI-DC1602SC-C)では見当たらず特性がフラットであった記憶がある。
高額モデルだけに、このモデルに何を求めるのかを心で整理してから手にしてほしいと感じ、本稿を執筆した。いろんな音楽の鳴らし方があるけれども、耳元でピュアオーディオを鳴らすことに興味があれば、Piano Forte X-CC/IX/VIIIは、必ずあなたに芳醇なひと時を提供してくれることだろう。そしてこの感覚は、ファイナルオーディオデザインのワンアンドオンリーの世界なのである。
ちなみにこの形状、きのこの山とたけのこの里が合体したみたいだなと思ったが、開発コードはなんとkinokoだったそうだ。値段とは裏腹にかわいい存在だったようで。
text by BARKS編集長 烏丸
Piano Forte X-CC(FI-DC1602SC-C):クロム銅(SC-C)市場想定売価 220,000円(税込)
Piano Forte IX(FI-DC1602SS):ステンレス(SS)市場想定売価 98,000円(税込)
Piano Forte VIII(FI-DC1602SB):真鍮(SB)市場想定売価 78,000円(税込)
感度 108dB(以下3 機種共通)
インピーダンス 16Ω
コード長 1.4m
重量 約38g
同梱品 キャリーケース、取扱説明書、保証書
1年間保証(断線に限り購入日より3年間保証)
2011年4月22日発売予定
◆ファイナルオーディオデザイン・オフィシャルサイト
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BARKS編集長 烏丸レビュー
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◆Westone4
◆ソニーMDR-EX1000
◆SHURE SE535
◆ゼンハイザーIE8
◆Etymotic Research ER-4S
◆KOTORI 101
◆ビクターHA-FXC51
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