【BARKS編集部レビュー】AKG K550はハイブリッドの記念すべき第一歩なのか?
澱みのないきれいなトーン。透き通った音の隙間。羽のように軽い和声。K3003といいこのK550といい、AKGはステキすぎる。オーストリアって空気がきれいなんだろうなぁ(妄想中)。ウイーン少年少女合唱団だもんなぁ(視点ズレ)。K550のサウンドは岩清水のせせらぎのように清らかで、フラッグシップ機Q701から脈々と受け継がれるAKGクオリティをしっかりと受け継いだサウンドでもある。これで音楽を聴いていると心の汚れも浄化されるかのようだ。
◆AKG K550画像
「これがAKGクオリティなのだ」と言えばそれで終了だし、「まるで開放型のようなサウンドの密閉型ヘッドホンです」が正解なのだけれど、単なる事実の再確認をしたところでもはや何の意味もなく、「それは凄いですね、変わってますね」と言うだけでは、伝えるべき中身が何もない。レビューって難しいなとつくづく思いながら、日々使い続けている中でやっとわかったのは、「やっぱりK550は“密閉型じゃない”んだな」ということだった。
密閉型という前提で捉えるから釈然としない思いが募るようで、このK550の立ち位置は“遮音性を追求した開放型ヘッドホン”なのだと捉えると全てが合点がいく。
もちろん開発コンセプトにそんなキーワードがあったわけでもないだろうが、やはりAKGの心地よい伸びと抜けの良いトーンは、ブランドの個性として脈々と息づいており、この音作りこそAKGのアイデンティティでもあろう。開放型らしいAKGサウンドはそのままに、音漏れを防ぎ遮音するには、どのように開いた穴を防ぎ、発生する閉塞感をどうすれば回避できるか、という開発経路を辿っているような気がする。
だからこそ、「ベンチレーション・システム」と名付けられた空気の流れを調整するポートを装備したり、バスレフの役割を持つバス・ポートを装備した内部ハウジングを別途用意したりして、遮蔽することで失われがちな空気の開放感を取り戻すような構造が組み込まれ、それが構造上の特徴となっているわけだ。この設計は「遮音できる開放型を作る」目的があるから誕生するわけで、「密閉型を作ろう」というベタなコンセプトであれば、この構造に辿りつく理由がない。
今時の表現でいうなれば「開放型と密閉型のハイブリッド」とでもいうところか。カナル型ヘッドホンの世界ではダイナミックとバランスドアーマチュアのドライバーを組み合わせることによる、更なる高品質なサウンドの追及が始まっているが、オーバーヘッド・ヘッドホンが乗り越えるべき課題のひとつには、「開放型の持つ素直で広がりのあるサウンドをそのままに、いかに遮音と音漏れ問題を解決するか」という二律背反の克服があるだろう。そういう意味では、K550は「開放型と密閉型のハイブリッド」コンセプトの記念すべき第一歩なのかもしれない。そう、K3003がカナル型ヘッドホンの新世界を切り開いたかのように。「開放型だから外音問題は仕方ない」なんて、これからは通用しない時代に突入するのだ。がっはっは。
これは、分離のいい倍音成分が低域の楽器の存在感を引きたててくれる感覚で、あわせて元来(楽器が放つ生音)の帯域バランスのまま耳に届いていることを実感させてくれる説得力がある。ハウジング外装に記された「Reference Headphones」の文字は、この性格を端的に言いあらわしたものだ。
側圧も緩くふわふわのパッドも心地よく、使い心地は上々。当然個人差もあるだろうけど、私の場合は頭頂部へのストレスも全くなく、長時間使用でもほとんど疲れを感じない。低域をドカンと出すDJ/クラブ系モデルや、SHUREやSONYなどのスタジオリファレンス系とも完全に使い分けのできるサウンドなので、是非機会あれば触れてみていただきたい。
そして何よりデザインがカッコいいし。で、やっぱりこんなクールな工業デザインのヘッドホンをする女の子がいたら萌えるなあ。
text by BARKS編集長 烏丸
●AKG K550
密閉型リファレンスクラスヘッドホン
2011年12月上旬発売
・価格:オープン(実勢売価 税込2万9000円前後)
・タイプ:密閉型
・カラー:ブラック
・周波数特性:12Hz~28kHz
・感度:94dB/mW
・インピーダンス:32Ω
・入力プラグ:φ3.5mm / φ6.3mm
・ケーブル長:3m
・重量:305g(ケーブル含まず)
◆AKGオフィシャルサイト
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