【BARKS編集部レビュー】フォステクスHP-P1は、ポータブルオーディオ界の激烈パラダイムシフト

ポスト

iPod/iPhoneのサウンドを劇的向上させる魔法の小箱(ホントはちょい中箱)が世に現れた。フォステクスのHP-P1というヤバイ奴だ。使い方は簡単。写真のように白い付属ケーブルでiPod/iPhoneとつなぐだけ。ヘッドホン/イヤホンは緑のインジケータ横のミニ・ジャックに挿す。これだけだ。

◆HP-P1画像

ヘッドホンから鳴り響いてきたサウンドは、「う…すげえ!」と一聴して驚愕のサウンド。は?どーゆーこと?何これ何これ!と、純朴な音楽リスナーは右往左往の騒乱状態ってなもんだ。

全ての楽器の音がひとつひとつ手に取るようにビビッドに響き、各サウンドがクリアに分離したまま立体的なアンサンブルとなって押し寄せてくる。遠くで鳴っている小さな音までもがきっちりと聞こえてくるので、アーティストが表現していたものの今まで埋もれて気付かなかった音のディテールが、キラキラと輝いている。それはまるで次々に見つかる宝探しのようで、聴き込んできたはずの音楽が新鮮な驚きに満ち溢れてしまう。絵画で言えば、今まで単色でべた塗りされていると思っていた部分が、微妙な複数の色彩で細かく描き分けられていたことに気付いたという感じか。これは、全ての音楽ラバーに味わって欲しい衝撃の音楽体験だ。

このHP-P1がもたらす驚くべきサウンド向上は、身近なところで例えれば、最新デジタルリマスター盤のそれに近い。2009年のザ・ビートルズ作品、マドンナ・オールタイムベスト、2011年のクイーン作品などは、初CD化された初年度盤とは雲泥の差があるのはご存知の通り。あのサウンド向上が手持ちの音楽全てに適応される感じだ。音の透明度、全帯域の推し出しの力強さ、サウンドの粒立ちとクリアさ…あらゆる点で、iPodの中の音楽が一斉に最新リマスターされて飛び出してくると想像してもらえばいい。ね?まさしく魔法でしょ。

飛び出すサウンドは魔法級だが、理屈は簡単だ。iPodは3つの仕事をしている。
(1)音楽の格納と整理
(2)格納された音楽をアナログ音声に変換
(3)アナログ音信号を増幅
再生ボタンを押すと、iPodは指定された音楽データを格納場所から取り出してくる=(1)。デジタルで保存されているので、それを元のアナログ信号…要するに音信号に変換するという仕事=(2)をこなし、出来上がった信号をヘッドホン(イヤホン)を鳴らすだけの大信号に増幅する=(3)。

この仕事のうち、(2)と(3)をHP-P1がこなすというだけのことである。その仕事っぷりが抜群に素晴らしいので、音がいいというわけだ。

HP-P1の音を一聴してビクンと全身に電流が流れ、そのままむさぼるようにサウンドを聞き込み、手持ちのヘッドホンを片っ端に試しながら、「今までの音はなんだったんだ…」と思うと同時に「ああ、もう昔には戻れない」と、私はHP-P1の奴隷となった。そして今、仕事柄音楽を聴く機会が多いだけに、私はHP-P1様のご機嫌を伺うようになっている。

「充電は満タンまで5時間ですね?わかりました」「連続再生7時間でバッテリー切れですか、了解しました」「あ、HP-P1先生、電源を落とすとipodも自動的にポーズしてくれるんですね、助かります。再び電源を入れると自動的に再生開始だなんて、親切すぎます」「充電時にはつなげているiPodにも充電供給してくれるなんて、心遣いがネ申っす」

これまでiPod/iPhoneの音を良くするには、グレードの高いヘッドホン/イヤホンを手にすることが最も気軽で確実な手段だったわけだが、HP-P1があれば、付属の白いイヤホンのままでも驚くほど高品位なサウンドが手に入る。もう、これまでのサウンド向上の定石もブッ潰れである。

さて、一方で、貴殿がポータブルヘッドホンアンプを複数台所有しちゃっているようなジャンキーなオトナなら、HP-P1は気になって仕方のないところであろう。まずは覚悟が必要。なぜなら音を追及する輩である以上、HP-P1、AlgoRhythm Soloのしでかす仕事は無視できるレベルではないからだ。

これは、ポータブル・オーディオ界のパンドラの箱である。アンプがどんなに頑張ってもいかんともしがたい、その上流の「ソース自体の高品位化」であって、音質云々を語るレイヤーが違うのだ。iQubeであろうとRx Mk2であろうとpicoであろうと、そしてそれをいかなる高品質DOCKケーブルでつなげようと、iPodからアナログ出力しているセットである以上、HP-P1一発には太刀打ちできない。ショッキングな結論だがそれが現実だ。

ちなみに、HP-P1に搭載されたアンプもすこぶる上質、手抜きはない。フォステクスHP-A3相当のスペックを有しており、非常にクリアで解像度が高い。低音をゴリゴリ押し出すようなアクの強さはないが、広い音場に音を整理整頓して綺麗に配置してくれるスマートなアンプである。そこにDAC機能が乗り込んで、低域がグワッと張り出して、上下左右に音場を劇的に拡大させる。HP-P1の場合、DACとアンプが筐体内部で結線されているのも大きなアドバンテージかもしれない。

HP-P1からラインを出し好みのアンプをもってして3段重ねにするユーザーも多数でてくるだろうが、使い勝手やサウンドの素晴らしさを思うと、試行錯誤でぐるっと1周し最後はHP-P1一発で落ち着いてしまう人も続出するヨカン。HP-P1のオン/オフで、iPodの再生・ストップが連動してくれるため、ケーブルをiPodに付属の長いものを使えば、iPodはかばんにしまいこみ、ポケットはHP-P1だけでOKという夢のようなポータビリティが実現するのだ。2段、3段、奇天烈な4段という使い方もできるが、まさかの1段という選択肢はAlgoRhythm Soloでは不可能な芸当だ。

最後に、大きな落とし穴を。残念なことに圧縮音源の音の悪さが完全に見逃せなくなった。私の場合、かなり昔に何も考えずに取り込んだファイルはAACの128kbpsがほとんど。このままでは聴くに耐えない。もう、せっせとリッピングし直しの毎日である。

そして残念なお話がもうひとつ。なけなしのお小遣いをかき集めやっと手に入れた弩高級DOCKケーブルの使いどころを失ってしまった。まさか、そんなことが起こるとは夢にも思わなかった。強いて言うならば、今後必要なのは、3段重ね用の高品位ミニ×ミニ・ケーブルくらいか。

地デジに慣れてしまいもはやアナログ放送には戻れないように、ブルーレイを楽しむとDVDの粗さが許せないように、ポータブルDACの登場は、ポータブルオーディオの世界にパラダイムシフトを起こし始めている。新時代の幕開け、その魁がHP-P1なのである。

text by BARKS編集長 烏丸

フォステクスHP-P1
ポータブル ヘッドホンアンプ+DAC
標準価格¥68,250(税込)

・iPod/iPhoneから直接デジタルオーディオデータを取り出し、高品質なDACとヘッドホンアンプを通す事によりiPod iPhoneの中にある音楽ソースをより良い音質で楽しめます。
・屋内での使用はもちろんの事、バッテリー駆動により屋外使用が可能。
・高音質パーツを採用(高性能ハイスルーレートOPアンプ、旭化成エレクトロニクス(AKM) 32bitDAC"AK4480")
・アルミ合金筐体
・ヘッドホンアウトのゲイン切替を3段階用意。高感度イヤホンから高インピーダンスヘッドホンまで、ヘッドホンを選ばずドライブ可能。
・アナログ入力を装備し純粋なポータブルヘッドホンアンプとして使用可能。
・デジタルアウト(S/PDIF)、ラインアウトを装備。
・DACのデジタルフィルター切り替え機能を装備。
・キャリングケース付属(ケースに入れたままで操作可能、フロントリヤのスイッチ操作やコネクタの抜き差しが可能。ベルト、カラビナなどが取り付け可能。)

●ヘッドフォン出力端子( ステレオミニジャック)
最大出力:80mW + 80mW (32 Ω負荷)
適合負荷インピーダンス:16 Ω以上
周波数特性:20Hz~20kHz ± 0.3dB(32 Ω負荷、80mW 出力時)
THD+N:0.01% 以下(1kHz、32 Ω負荷50mW 出力時)
●[LINE OUT] 出力端子( ステレオミニジャック)
最大出力レベル:2Vrms( 0DBFS )
周波数特性:20Hz~20kHz ± 0.3dB
THD+N:0.002% 以下( 0DBFS )
●アナログ入力端子 ( ステレオミニジャック)最大入力:約3Vrms
●[S/PDIF] 出力端子( オプティカル)S/PDIF フォーマット(IEC 60958-3, JEITA CPR-1205)
●Dock ケーブル用USB コネクタ(iPod/iPhone 接続用):USB A-Type
●[DC-IN] 端子:USB Mini B-Type
●[FILTER] 切替スイッチ:シャープロールオフ・フィルター/ミニマムディレイ・フィルター
●電源:内蔵リチウムイオン電池
●充電時間:約5時間(HP-P1電源OFF時)
●連続動作時間:約7時間(iPod装着、ヘッドフォンアウト32Ω 常温時)
●外形寸法:75( 幅) x 25( 高さ、足含まず)x 130( 奥行き、突起物を含む)mm
●重量:約260g
●付属品:DockコネクタUSBケーブル、充電用USBケーブル、キャリングケース、取扱説明書
■本製品とDockコネクタ-USBケーブルでデジタル接続可能なiPod/iPhone
・iPod touch(第2世代、第3世代、第4世代)
・iPod Classic
・iPod nano(第4世代、第5世代、第6世代)
・iPhone4
・iPhone3GS
・iPhone3
※編集部註:HP-P1の電源のオン/オフと、iPodの再生/ポーズの同期は、appleの仕様により、全ての機種で再現できるわけではありません。また、iPodへの充電に関しても、通常の電力供給よりも小出力のため、動作保証しているわけではありません。

◆フォステクスHP-P1オフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー
◆Klipsch Image X10/X5
◆ファイナルオーディオデザインheaven
◆Ultimate Ears TripleFi 10
◆Westone4
◆ソニーMDR-EX1000
◆SHURE SE535
◆ゼンハイザーIE8
◆Etymotic Research ER-4S
◆KOTORI 101
◆ビクターHA-FXC51
この記事をポスト

この記事の関連情報