【BARKS編集部レビュー】中国ヘッドホン・ブランド事情、DUNUの実力は?
経済大国・中国は、桁違いの保有労働力のみならず、その技術向上もめざましい。安い労働力は東南アジアへシフトしている傾向もあるが、世界中のヘッドホンは一部のフラッグシップを除き多くが中国で生産されている現状にある。生産ノウハウや優れた開発技術を保有する会社も多く、技術導入の加速も止まらない。中国企業によるSTAX買収も話題となったばかりだ。
◆DUNU画像
▲左からDN-11、DN-12、DN-13、DN-16。 |
そんな中、今回紹介したいのが広東省でイヤホンを開発・製造・販売しているDUNU(ドゥーヌー)というブランド。創業は1994年に遡るが、日本企業を含む世界中の著名なオーディオ製品をODM/OEM生産している会社で、2010年5月にはバランスドアーマチュアに関する特許を出願、2011年に入って新モデルとして4機種を発表、市場に投入してきた。それがここでご紹介するDN-11(Ares)、DN-12(Trident)、DN-13(Crius)、DN-16(Hephaes)である。
現在彼らが推し出すモデルはこの4モデルだが、新たなモデルの開発は盛んに行なわれており、随時その様子はブログでも公開されている。その活動はかなりアグレッシブで、構造やアイディアも多岐にわたり、2012年には4ドライバーの新製品を発表予定、カスタムIEM製作も視野に入っているようだ。そして何より彼らが声高に表明している開発姿勢が、直球で攻撃的なのだ。“SM3”というスローガンで、“S”ゼンハイザーの音を“M”モンスターのようなポピュラリティをもって“3”3分の1の価格で提供すると豪語する。んー、中国企業恐るべし。
▲バランスドアーマチュア・ドライバーのDN-11。 |
▲ダイナミックドライバーのDN-12。最安価ながらグッド・サウンド。 |
▲バランスドアーマチュア・ドライバーらしいサウンドのDN-13。 |
▲低音強めの高価格モデル、DN-16。 |
そして感服したのは、ダイナミック・ドライバーとバランスド・アーマチュアのサウンドに垣根が全くないところだった。音を聞いただけでは、もはや両者を聞きわけることは難しい。求めるサウンドの到達点が同じであれば、理想に近づくにつれ構造によるサウンド特性の違いは極小になるわけで、構造由来によるデメリットや弱点は、開発途中で多く克服済みである印象を受ける。老舗ならではの蓄積されたノウハウは保有していないだろうけど、技術とアイディアとバイタリティーで、最先端のイヤホン事情を牽引しているエネルギーを振りまいているのだ。
DN-11、12、13、16を並行して使用し始めたが、いずれも最初はそれぞれが個性的で癖があったものの、100時間程度の使用経過で癖が取れ始め、面白いように4機種のサウンドが近寄ってきた。もちろん4機種が同じ音なわけではないし、それぞれにはっきりした個性と方向性を持ってはいるものの、彼らが目指そうとしている確固たるサウンドの理想形にそれぞれが向かっているようで実に興味深かった。
DUNUの共通サウンドを簡単な言葉にすれば、「帯域が広いことを前提に、極端な演出は行なわず適切なバランスを丁寧に保っている」ような印象だ。各ドライバーの動作を完全に掌握しているかのチューニングぶりで、ダイナミックドライバーで細密な解像度を描くあたりはファイナルオーディオデザインのアダージョにも共通する匂いを感じるし、弾力のある低音をしなやかに鳴らす感じはまさにゼンハイザーIE8を彷彿とさせるものがある。
各モデルの特筆すべきポイントもざっとお伝えしておこう。DN-11はバランスドアーマチュアとのことだが、実際の音を聞くとバランスドアーマチュアとは思えない低域からの高域まで自然で伸びやかな音像をもっている。安価なバランスドアーマチュア・ドライバーの場合、中ヌケしてスネアの響きがスカスカなこともままあるが、DN-11はバランスドアーマチュアを思わせる歯切れの良さと、あわせてダイナミックっぽい元気さを内包しており、聴いていて楽しい。耳に刺激を与えるような極端な低域や高域の痛さなどもなく、綺麗にまとめた意欲作だと思う。レンジの広さや解像度は特筆するほど高くはないものの、3種類ものキャリングポーチが付属ししっかりとしたパッケージに入った完成度は、とても4000円換算の商品とは思えない充実度だ。
DN-12はダイナミックドライバーを搭載したモデルで、市場価格が最も安いにもかかわらず、非常によくまとまった自然なサウンドで、切れもあり弾けるような低音も心地よい。最初は寝ぼけたトーンだったものの、時間を追うごとに締りが出てきて、高い完成度を見せつけた。ebayでは執筆時時点で$39.69というから、これは驚異のコストパフォーマンス。手持ちのモデルではSHURE SE215のバランスとよく似ている。インピーダンスは16Ωと低めだが感度が低いため、4モデルの中では最も音量が取りにくいモデルだった。お買い得感はこのモデルが一番かもしれない。
一方DN-13は、ボディにチタンを用いた非常にハイファイな音で、バランスドアーマチュアらしさを素直に推し出したモデル。低域に野太さはないけれど、中域が張っていて高域もとてもきれいだ。スペックは不明だが典型的なシングルドライバーのサウンドバランスに聴こえる。ミッドが硬質で重厚感には欠けるものの、軽快で疾走感は1番だ。
そしてDN-16は、4機種の中でも最も高額なモデルで、チタンボディーにダイナミックドライバーが用いられている。パッケージから開けたばかりでは、全体に膜が張ったような抜けの悪さが付きまとっていたが、10時間程度で膜も取れ、どんどんのヌケが良くなっていった。既に100時間は優に超えているのだけど、まだまだサウンドは成長過程にあるようで、野太さとクリアさがさらに増しているようだ。彼らの掲げる“SM3”を実践しているモデルがまさにこのDN-16のようで、高域の解像度は決して高いわけではないが、低域のトーンが絶妙にいい。高域の量は適切だが、非常に高いところまで伸びていて、この辺りの質感はFADのアダージョを思わせるところ。特許申請中というイヤーフックが付属し、耳掛けが推奨されている。低域がドスバス出るイマドキなチューニングで、低音好きであればDN-16一択だ。
4モデルともケーブルは細めで、若干クセは付きやすい。ケーブルのタッチノイズもそれなりに目立つものの、いずれも耳掛けが可能で、装着感や遮音性、音漏れなどの基本性能は全く問題ないレベルだ。日本未上陸のため現時点では国内では販売されていないが、ebayなどから入手は可能。円高の恩恵を受け、存分に堪能いただければ幸いだ。
▲Y字ケーブルの分岐部も丁寧な作り。 |
▲ジャックはストレートでもL字でもなく、135度の角度が付いた斜めで、使い勝手は良い。全てのモデルにケーブル巻き取りバンドが付いており、絡み予防にとても有効。 |
●DN-11(Ares)
$49.95(執筆時ebay価格)
・形式:バランスアーマチュア型
・再生周波数帯域:10Hz~20KHz
・インピーダンス:26Ω
・音圧感度:105±2db
・遮音:26db
・重さ:25g
・プラグ:3.5mm金メッキステレオミニプラグ
・コード長:1.2m
・金属削り出しボディー
・ケーブル巻き取りバンド
・3種類の携帯ポーチ付属
・3種類のイヤーピース付属
●DN-12(Trident)
$39.69(執筆時ebay価格)
・形式:HQ6.8mmダイナミック型
・再生周波数帯域:10Hz~20KHz
・インピーダンス:16Ω
・音圧感度:100±2db
・遮音:26db
・重さ:25g
・プラグ:3.5mm金メッキステレオミニプラグ
・コード長:1.2m
・金属削り出しボディー
・ケーブル巻き取りバンド
・1種類の携帯ポーチ付属
・3種類のイヤーピース付属
●DN-13(Crius)
$59.50(執筆時ebay価格)
・形式:バランスアーマチュア型
・再生周波数帯域:10Hz~20KHz
・インピーダンス:26Ω
・音圧感度:105±2db
・遮音:26db
・重さ:20g
・プラグ:3.5mm金メッキステレオミニプラグ
・コード長:1.2m
・金属削り出しボディー
・ケーブル巻き取りバンド
・2種類の携帯ポーチ付属
・3種類のイヤーピース付属
●DN-16(Hephaes)
$97.00(執筆時ebay価格)
・形式:HQ9mmダイナミック型
・再生周波数帯域:10Hz~20KHz
・インピーダンス:26Ω
・音圧感度:105±2db
・遮音:26db
・重さ:25g
・プラグ:3.5mm金メッキステレオミニプラグ
・コード長:1.2m
・金属削り出しボディー
・ケーブル巻き取りバンド
・1種類の携帯ポーチ付属
・3種類のイヤーピース付属
◆DN-11オフィシャルブログ(日本語)
◆DN-12オフィシャルブログ(日本語)
◆DN-13オフィシャルブログ(日本語)
◆DN-16オフィシャルブログ(日本語)
◆DUNUオフィシャルサイト
◆DUNU日本語ブログ
◆ebay販売ページ
BARKS編集長 烏丸レビュー
◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
◆オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
◆REALM IEM856(2011-12-02)
◆ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)
◆Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
◆Reloop RHP-20(2011-11-22)
◆オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
◆SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
◆Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
◆SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
◆JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
◆BauXar EarPhone M(2011-10-10)
◆SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
◆AKG K3003(2011-09-18)
◆Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
◆Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
◆Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◆ORB JADE to go(2011-08-22)
◆YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
◆NW-STUDIO(2011-08-09)
◆NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
◆Westone ES5(2011-07-21)
◆SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
◆クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
◆GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◆SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
◆フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
◆ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
◆フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
◆アトミック フロイド(2011-05-26)
◆モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
◆SHURE SE215(2011-05-13)
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事の関連情報
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話037「生成AIが生み出す音楽は、人間が作る音楽を超えるのか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話036「推し活してますか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話035「LuckyFes'25」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話034「動体聴力」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話033「ライブの真空パック」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話032「フェイクもファクトもありゃしない」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話031「音楽は、動植物のみならず微生物にも必要なのです」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話030「音楽リスニングに大事なのは、お作法だと思うのです」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話029「洋楽に邦題を付ける文化」