【BARKS編集部レビュー】Westone4、理想にして究極の「変哲のない素晴らしさ」

ポスト

かねてから発売の噂のあったWestone4が2011年3月上旬に遂に登場すると聞き、早速入手、試聴の機会を得た。3ウェイ4ドライバ搭載・実売想定価格4万9800円の、Westoneによるコンシューマ向けカナル型ヘッドホンのフラッグシップモデルだ。

さて、一聴しての第一インプレッションは…ふむ、普通にいいという感じだ。いや正確に言えば、最高にいいのだけれど、ハイがどうのとか、低域の押し出しがどうのとか、まず耳に飛び込んでくる強烈な主張がない。ある種拍子抜けのように、普通に凄くいいバランスが耳に飛び込んでくるのだ。

しかしながら私は、それから1週間ほど聞き込んで、その第一印象こそがどれほど凄いことだったのかを、じわじわと実感することになった。

ここ数ヶ月の間、様々なハイエンドヘッドホンを使わせてもらっている。ドカンと中低域をたたき出すSHURE SE530、オールラウンドにクリア&ダイナミックなSE535、Ultimate Ears Triple.fi 10はとにかくエネルギッシュだし、SONY MDR-EX1000はドハデに鳴りまくり、Etymotic Research ER-4Sは解像度と高域の抜けが異次元だ。それぞれに個性と特性があって、耳にはめるたびにおおっ!と興奮と敬意の念が沸き起こる。

なのだが、そんな刺激も5分も経てば平静に落ち着き、最初に感じた音の個性もいつの間にか均されて、どのイヤホンでも同じように快適なリスニングタイムを味わってしまえる自分がいる。順応性がいいのか、単に耳がポンコツなのか、各ヘッドホンの個性/個体差は自分の中で吸収され、満足すべき状態で音を楽しめるのだ。私はこれを脳内補正と呼んでいるが、脳内補正は出過ぎた特性をスルーして、バランスを適正に保つ作用を施してくれているらしい。

もちろんこれらは無意識のことだけど、音楽から離れたときに感じる若干の疲れと周りの音の聞こえ方の微細な違いから、脳内補正にも多少ながらも労力を注いでいた事実に気付かされる。

そんな中で、Westone4は何も足さなければ何も引かない。そう、脳内補正が0なのだ。各帯域はお互いを尊重しながら邪魔しないように謙虚に綺麗な音を出し、執拗な主張は全くしない。どれだけ音量を上げてもうるさくならず、音の隙間をすっきりと感じさせてくれる。どこも大盛りではなく、適切な量がきっちりと計算されているとみえる。ある意味、理想にして究極。それを無個性に感じ冒頭のように「普通にいいという感じ」と捉えるのは、あまりにWestone4に対し理解が足りていない稚拙な感想だった。

もちろん、いいことばかりではない。最初から素直にあるべき音を丁寧に繊細に再生してくれるので、ソースが悪いと実につらい。何でもいい感じに鳴らしてくれるわけではなく、音源の品質がそのまま耳に届いてしまうので、圧縮音源の音は遠慮なくその圧縮なりの音だ。え、こんなしょっぱかったけ…?と、シビアに突きつけられると、やっぱりちょっとへこむのである。

最後に思ったことをつらつらと…。Westone4に限った話ではないが、付属のイヤーチップの材質・フィット感でサウンドは驚くほど変化する。最も低域が出るのは低反発タイプだ。引き締まった抜群のバランスで全帯域が清潔感のある音像で鳴ってくれる。遮音性も高いが、それもサイズ選びと耳へのはまり方に大きく依存するのでご注意いただきたい。

ケーブルは文句なしに素晴らしい。編み編みの手触りも柔らかく絡むこともない。そして何よりタッチノイズがほとんど発生しない。服に触れようが風が吹こうが、全く問題なし。何気ないことだが高ポイントだ。なお、イヤホン本体からY字の分岐点までは意外と短い。無駄に長いより使いやすくていいが、マツコ・デラックスでは首を絞めると思う。

音楽は選ばないと思うが、金物がお祭りめいたラテン系、レディー・ガガのようなエレクトロ要素も兼ね備えたポップス、そして80年代も含む倍音たっぷりなHR/HMなどは、文句なしに楽しめる音源になるはずだ。

製品としての個性はぐっと押し殺し、あくまで主役は音楽そのもの。その音楽を持っているソースのままにきっちりとオーディエンスに届けることを最大の美学としたヘッドホン、それがWestone4ではないか。「とにかく音が良くて後悔しないインナーイヤー・ヘッドホンが欲しい」というのであれば、Westone4を手にしておけば間違いはない。

text by BARKS編集長 烏丸

◆Westone4オフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル
この記事をポスト

この記事の関連情報