【BARKS編集部レビュー】音楽リスニングの新お作法・開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル
先日、「インナーイヤーイヤホンのススメ」を提唱する記事を掲載した(下記リンク参照)。スマホの普及によって気軽に音楽を聴くシーンが増えた一方で、イヤホン/ヘッドホン使用による事故やトラブルが増えていることを受けての提言記事というものだった。
◆参照:【BARKS編集部レビュー】スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革、求められるのは開放型インナーイヤーイヤホン
そんな背景から先の記事掲載に至ったわけだが、そこで提言したのは「公共の場で音楽を楽しむのであればインナーイヤー型は持っておくべきである」というものだった。喫煙にもルールやマナーがあるように、音楽リスニングにもお作法は存在するのだから。
ということで、さっそくおススメのインナーイヤー型イヤホンをご紹介したい。今回紹介するのは下記の5モデルだ。
・MX 985(ゼンハイザー):オープンプライス(実売税込13,000円程度)
・UBQ-ES903(UBIQUO):オープンプライス(直販税込7,800円)
・SIE2 sport headphones(BOSE):税込12,600円
・NW-STUDIO PRO(ninewave):オープンプライス(直販税込12,800円)
・Aurvana Air(Aurvana):オープンプライス(直販税込5,980円)
ここに並べた5機種は、私個人の独断と偏見ながら自信を持って絞り込んだ薦められるモデルばかり。それなりの価格はするものの、いずれも非常に高品質でトップレベルのサウンドを確実に叩き出す良モデルなので、どれを選んでいただいてもOKだ。
いの一番にご紹介するのは、ゼンハイザー MX 985だ。2012年12月に発売となったばかりの新製品だが、ずっと品切れを起こしたまま市場で枯渇している状況で、現在入手は困難なのだけど、抜群に素晴らしい音を聞かせてくれるモデルである。歴史こそ浅いモデルだが間違いなく名機と呼ばれることになる機種のひとつだと思う。
一般的にインナーイヤー型イヤホンは遮音性は皆無だが、広がりのある自然なサウンドと無理のない広帯域が最大の魅力となる。そのためかハイエンドモデルはオーディオ機器として正攻法のサウンド作りに邁進することが多く、上品でハイファイな優等生サウンドにまとめられ、最終的にサウンドやキャラが似通ってくる傾向も見て取れる。皮膚から伝わってくるような濃密な迫力や脳を揺さぶるような強いアタックなどやんちゃ系は不得意なのだ。
そんな中でMX 985だけは目線が違い、美味しいところを突いてきた。十分にハイファイでありながら、無難にまとめることなく、締りの良い低域をぶっとくならし楽しく音楽を聞かせてくれる暴れん坊なキャラの濃さを携えている。低域の量は多いが邪魔にならず、面白さと個性が心地よいこの感じは、「ちげーよばか」と言われそうと思いつつも私にとってフェイバリット・ヘッドホンのひとつGRADO PS1000の放つ匂いと合致するんだよなぁ。このサウンドには重量級のハウジングが大きく影響しているようで、高解像度のまま貫録の重低音と非常に繊細ながら青天井に伸びていく高域の美しさの両立が見事に実現されている。実際、金属でできた本体はズシリと重い。とはいえ、独特の形状が耳から頬にかけてぴったりとフィットするので、耳穴とイヤホンとの位置関係がブレず安定したサウンドが手に入る。そこがまた素晴らしくいいのだ。人によるところだとは思うが、足の部分を真下に下ろすのではなく斜め前方に出すことで、絶妙なフィットが得られるようだ。ちょっと頭を動かすたびにイヤホンがずれて何度も耳いじるというイヤホンあるあるから完全に解放されて、もう満足度は120%。
一方で、UBIQUOのUBQ-ES903は、MX 985と比べるとスレンダーでスリムなサウンドが魅力だ。前作のヒットモデルUBQ-ES703からの正統進化モデルとして登場し、とにかく高密度で繊細、あくまで美しく綺麗なトーンを放つモデルとしてお勧めできる一品となっている。非常に艶やかさのあるサウンドで、高解像度であることから繊細さを前面に感じるが、他モデルと冷静に聞き比べてみると、意外に中域の強さに特徴があり、ワイルドな面も持ち合わしていることに気付く。ここが艶を感じさせるポイントでもあり、万能さを裏付ける絶妙な設計だとも思う。Aurvana Airと比べると、聴感上2Khzあたりに微細なピークを感じる。典型的な“良い音”なので、「なんだかよくわからないけどとにかくいいものを」と言うのであれば、UBQ-ES903で間違いない。
続くBOSE SIE2 sport headphonesは、その名のとおりスポーツ用に開発された個性派インナーイヤー型イヤホンだ。防汗/防水であると同時に、堅牢性やファッション性など、室内で音楽鑑賞用に使用される一般インナーイヤーとは設計コンセプトが違うので、サウンドに関してもそのまま比較すること自体ナンセンスなのだけど、さすがのBOSEでサウンドにも淀みなく魅力的だ。
付けていることを忘れてしまうほどの軽いフィット感と安定性、分かりやすい高域と低域のブースト感は、「お、良い音、イイね!」とテンションをクイッと上げてくれる即効性がある。まさにスポーツ用に使うのに打ってつけのチューニングと思しきもので、歩行ノイズや風切り音など、様々なノイズの中においても、ノリとビートとメロディが身体を包んでくれるチューニングがお見事だ。抵抗値が大きいのかと感度を抑えているのか、同じボリュームでも音は小さめのモデルだが、くいっと音量を上げればノリがよく意外にワイルドなサウンドが楽しめる。サウンドにあまり深みはないけれど、スポーツ時に味わえるサウンドとしては最高級の環境であることに間違いはない。夏場の汗なども考えると、年間を通しハードに使い倒せるのはこのBOSE SIE2一択だ。
一方ninewaveのNW-STUDIO PROは、発売されてから2年以上の年月をもって今もなお一定の熱い支持を集める、ハイエンドインナーイヤー型イヤホンの代表的モデルのひとつ。チューニングのセンスの良さが際立つモデルで、特定の周波数ピークや定在波など耳障りな成分がほとんどなく、心地よくまとまったサウンドを聞かせてくれる。
他モデルと直接比較すると高域の伸びには頭打ちがあり低域の存在感も特筆するほど芳醇なわけではなく、周波数特性も一般的だ。ただ、人の声を中心に音楽のコア部分が最も聞きやすようにチューニングされているようで、ハイファイであることやスペックが際立つことを求めるのではなく、“心地よい音”という目的だけを見つめ、ブレルことなく完成させたかの説得力がある。強いて言えばかまぼこっぽいトーンで、人によってはつまらないサウンドと映るだろうが、この心地よさに酔いしれると、他のモデルでは代用が利かないオンアンドオンリーの魅力を放つ逸品だ。その魅力は、後発の様々なモデルが登場する中でも、未だ色褪せないところである。
最後に紹介するAurvana Airは、2009年6月に発売となったモデルで、この中では一番の古株だが、跳ねるように軽快なサウンドで、非常にクリアながら十二分な低域も芳醇に鳴らす名機中の名機である。ニュートラルなサウンドで、事実上ハイエンド・インナーイヤー型イヤホンのひとつの基準を作った功労モデルといえるのではないだろうか。
イヤーフックの存在も大きな特徴のひとつだが、人によってはイヤーフックとの相性が悪く邪魔という意見も耳にする。私の場合は、通常通り耳に掛けたあと、ハウジング部分をフック側へ角度を絞るとコンチャ部分にがしっとはまり、高域から低域まで全帯域がダイナミックに響くスイートスポットが現れる。かなりしっかりとシビアに最適な位置にセットすることができるので、低域から高域まで理想的な響きの状態をしっかり維持できる。そのまま首を振ろうとジャンプしようとずれないので、使い勝手がとてもいい。もちろん耳への違和感や不快感、痛みなども皆無で、もうイヤーフック様には足を向けて眠れない。イヤーフックの使い心地に耐えられずペンチで無理やり外してしまう人もいると聞くが、私はむしろ、他のモデルにもこのイヤーフックを移植したいくらいだ。ただし一方で、耳から外したり付けたりするのがほんのちょっとだけ面倒。たいした手間ではないんだけどね。気軽に近所を出歩く場合は、Aurvana Airの利用頻度が一番多いかもしれない。
5モデルを思うままに紹介したものの、最も気を付けていただきたいのは、個人個人による耳へのフィット感の違いで、評価の逆転はいとも簡単に起こりうるということだ。それどころか、最適な装着状態が得られることで、それまでの評価とは一転して満足度No.1にいきなり躍り出ることだって決して珍しいことではない。イマイチだなぁと残念に思っていた所有モデルも、イヤーパッドを交換しただけで装着感もサウンドも激変したなんてのもよく聞く話。特に低域の伝わり方はフィットの様子で大きく変わるので、ご注意を。
今回の試聴では条件をそろえる意味も含め、一律イヤパッドを取り付けての評価とした。中にはイヤパットがない場合や、ドーナツ型の穴あきイヤーパッドの場合など、サウンドも使い心地(フィット感)なども大きく変わるので、その点にもご注意を。自分にとって最も相性のいい状態を探っていただけば、満足度もさらにアップするはずだ。
あ、最後になってしまったけれど、iPodやiPhoneに付属する白いイヤホン=Apple EarPods、あれもいいモデルです。
text by BARKS編集長 烏丸
・MX 985(ゼンハイザー):オープンプライス(実売税込13,000円程度)
・UBQ-ES903(UBIQUO):オープンプライス(直販税込7,800円)
・SIE2 sport headphones(BOSE):税込12,600円
・NW-STUDIO PRO(ninewave):オープンプライス(直販税込12,800円)
・Aurvana Air(Aurvana):オープンプライス(直販税込5,980円)
◆MX 985(ゼンハイザー)オフィシャルサイト
◆UBQ-ES903(UBIQUO)オフィシャルサイト
◆SIE2 sport headphones(BOSE)オフィシャルサイト
◆NW-STUDIO PRO(ninewave)オフィシャルサイト
◆Aurvana Air(Aurvana)オフィシャルサイト
BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)
●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)
◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)
◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)
◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)
◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)
◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)
●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)
●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)
■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)
◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)
◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)
◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)
◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)
◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)
■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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