【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話037「生成AIが生み出す音楽は、人間が作る音楽を超えるのか?」
いまや、音楽もポチッとするだけで、良質な音楽が生成される。ジャンルとかムードとか歌詞といったキーワードを与えるだけで、それっぽい音楽…というか、びっくりするほど高品質な音楽がその場で手に入る。音楽においては暴れん坊AIのハルシネーションの発生自体が「まさかの意外性を生む」というプラスに作用するかもしれないと想像すると、もうお手上げかも、とすら思ってしまう。
生成AIが生み出す音楽は、人間が作る音楽を超えるのか? AIが作った音楽が大ヒットする未来があるのか? ミュージシャンという職業は朽ち果てるのか? どう思いますか?
私は、こう思っています。
「人間が作る音楽を超えるのか?」→YES
「AIが作った音楽が大ヒットする未来があるのか?」→YES
「ミュージシャンという職業は朽ち果てるのか?」→NO
クリエイターの仕事がAIにとって代わると懸念するのは早計だ。だってその音楽が発する人格を指定するのは人間側なんだから。だから正確に言えば「生成AIが作った」ではなく「生成AIに作らせた」が正しい表現だ。例えば「恋をする」…一言で言ってもそこには色んな思いが交差し、複雑な感情が時間とともに入り乱れるもの。十人十色の考え方がある。十人十色の感性がある。十人十色の感受性がある。だから十人十色の恋の歌があり、いろんな共感の思いが織り込まれる。それを設計するのがアーティストの才なんだもの。「どういう恋なんですか?」、それを「どういう音楽で表現しますか?」ということ。その音楽が生まれる背景に意味があり、ゼロイチを設計するのがミュージシャンの感性であり、1から100にするために活用するのが音楽制作ツールだ。
世の中に便利な「音楽制作ツール」というものがなかった時代は、「音楽を表現する道具」には「楽器」しかなかったから、ほとんどのミュージシャンはまず楽器を手にしてそこから音楽を生み出していた。そうして1970~1980年代、4トラックで録音できるカセットMTRが普及し、そこからデジタル化とともにDTM(デスクトップミュージック)機材が発展し、機材はDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)として急速な発展を遂げた。頭の中で鳴っている音楽を具現化・実体化させるためのツールの登場に、ミュージシャンは歓喜した。ドラムが叩けなくてもドラムを鳴らしベースが弾けなくてもベースを奏でることができ、思うがままに作品が作れる。楽器プレイヤーじゃなくたって音楽が表現できる。触ったことのない民族楽器のサウンドだって自由自在だ。究極を言えば、オーケストラの指揮者の立ち位置だ。
そしていま、音楽制作ツールは進化を続け、生成AIとなった。これはミュージシャンが手に入れた究極の作詞作曲ツールだ。アーティストの頭(心?)にほとばしるクリエイティビティを具現化させ、補完し、刺激するツールの誕生だ。めんどくさい過程をすっ飛ばして、限りなく最終形まで時短する。アーティストとAIとの共創/コライトは、より刺激的で創造性の高い作品が誕生するパワーに満ちているというわけだ。
ミュージシャンと言われる人たちが持っている天賦の才を、どういう作品にして輝かせるのか。現代のミュージシャン/バンドマンが持つべきスキルのひとつにSNS運用が欠かせなくなっているのと同様に、作曲家や音楽クリエイターに必要なスキルに、AI活用能力の高さが欠かせないのは、おそらく避けられないところだろう。
しつこいようだけど、音楽は「生成AIが作る」のではなく「人間が生成AIに作らせる」ものだ。だからそこには、これまでと何ら変わらない独自性が存在し、ストーリーがあり、人格が息づく。それがプロの仕事だ。もちろん凡人が生成AIで音楽作りを遊び、それがバズっちゃうというサプライズもあるだろうけど、ね。
文◎BARKS 烏丸哲也
◆【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話まとめ
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