【BARKS編集部レビュー】不思議フェロモンが染み込んだ“濃厚フラット”サウンド、Meze Headphones
毎年春秋開催が恒例となっている<ヘッドホン祭>が、5月11日(土)に開催となる。このイベントの開催に合わせてイヤホンやヘッドホンの新製品発表も多く開催され、この日を境に世界中から怒涛の新製品ラッシュ猛攻撃がスタートする。話題沸騰間違いなしの新アイテム登場も数多く噂されており、イヤホン/ヘッドホン界隈がにぎやかになるのは間違いない。
◆Meze Headphones画像
Meze Headphonesは、インダストリアル・デザイナーのアントニオ・メイズ氏が2011年に立ち上げたロンドンのオーディオ・ブランドで、現時点でイヤホン/ヘッドホンが数種類ラインナップされている。分かりやすい特徴は、全ての製品にわたってハウジングに天然の黒壇が用いられている点だ。黒檀はいわゆるエボニーと呼ばれている木材で、その真っ黒な心材はピアノの黒鍵、ギターやバイオリンの指板/ペグ/ブリッジ、クラリネットやサックスのマウスピースなど、多くの楽器にも使用されている。非常に堅く音響特性に優れた材として知られ、楽器製作には欠かせない代表的な木材のひとつだが、Meze Headphonesではエボニー辺材に見られる美しい杢がひとつひとつに個性を与えている。
エボニー材の起用がどのような音響特性を生んでいるのかまでは正直よくわからないけれど、私がMeze Headphonesに感銘を受けたのはその美しいルックスではなく、純粋に素晴らしいそのサウンドだ。
全域がしっかりと制御された引き締まったタイトな音で、非常に軽快でスピード感がある。それでいて重厚さも持ち合わせた素晴らしいバランスを持っており、不平不満や妙な突っ込みを受けてしまいそうな隙がない。どのモデルも密閉型の設計ではあるが息苦しさや閉塞感もなく、中域から高域のヌケが自然で見通しもとても良い。もちろん必要にして十分な高解像度も持ち合わせている。
そのトーンはきっちりフラットだが、モニターヘッドホンのような生真面目な印象を持たないのは、キレの良い低域と歯切れ良くエッジの効いたスピード感のある高域を礎に、中域の粘るような押しの強さが耳元で音が渦巻くような楽しさを演出してくれるからだと思う。圧を感じさせる重低音の低域もしっかりと存在感があり、自然と身体を揺らしてくれるようなエネルギー感にあふれている。
こもった感じは皆無で、だからといって耳に痛い高域の強さがあるわけでもなく、非常に練り込まれたバランスを見せる。中域の表現力の高さは特筆すべきところだと思うが、ふくよかという表現は似合わない。むっちりとした厚み/粘っこさを持ち合わせているので“濃厚なフラット”とでも表現したくなるところだ。言って見ればSHURE SRH940に更なる重低音の再生能力を付加し、全体的に粘度を増したような感じであろうか。モニター系を思わせるあっさりさを消してもっと濃厚に前のめりに音楽をドライブさせるようなトルクフルなサウンドだ。
言葉だけを捉えるとゼンハイザーのモメンタムのようなサウンドを思い浮かべてしまいそうだけど、モメンタムがまったりと落ち着いたトーンであるのに対し、Meze Headphonesにはもっとスピーディーでフットワークの軽さがある。なめまわすような濃厚さを持ちながら抜群の瞬発力で軽快にノートを繰り出してくるようなイメージだ。
高解像度でフラットな特性なのでモニタリング用途にも十分に使えるが、冷徹さとは真逆のイケイケな鳴り方は、やはりあくまで音楽を楽しむために作られたと思わせるノリの良さを感じさせてくれる。冷静に聴こうにもウキウキになっちまうという不思議スイッチを持った、稀有なブランドとして要チェックなのだ。そして当たり前なのか凄いことなのかよくわからないが、Classics 88、Classics 73、Classics 66のトーン特性とそのサウンドキャラクターが、一貫して同系統で全モデルにブレなく貫かれている点が素晴らしい。予算や使用用途、装着感と使い心地に応じどのモデルを選んでも、間違いなくMeze Headphonesサウンドを存分に堪能することができる。
モデル名には単なる数字しか与えられていないけれど、作りを見るとそのコンセプトはそれぞれ明確で、ハイエンドに位置するClassics 88は、オーディテクニカのウィングサポートと同等のクッション付きサスペンションを有しており、明らかに本格的なリスニング機として位置付けられていることが分かる。じっくりと音楽を楽しむための室内用ハイエンド設計だ。
Classics 73になるとハウジングの大きさが一回り小さくなり、90度回転するスイーベル機能を有するようになる。ポータブルで使用されることを前提に可搬性が意識された設計だ。サウンドは88よりも濃厚さが薄まり、シャープでタイトさが増してくる。その分シンバルやスネアの倍音など高域の派手さが前面に出てくるので、サウンドは若々しい感じだ。Classics 88に対して特に劣るところがないので、両者のサウンドは好みで選んでいただければOKだろう。
もうひとつのClassics 66は、ハウジングはさらに小さくなりコンパクトに折りたためる構造をもって、完全にポータブル使用を最優先した設計となる。外で使うことを考えると外界ノイズにマスキングされやすい低域の張り出しは、むしろこれくらいは必要ということなのか、Classics 73よりもClassics 66のほうがどっしりと迫力のあるサウンドだったりもする。シビアに見れば、Classics 73の方がフラットで美しい特性を持ち、Classics 66の方がミッドが少しへこんだドンシャリ気味なので、その分派手なサウンドに聞こえたりもするけれど、解像度や音質の瑞々しさ、クリアさなどはClassics 73の方が明らかに一枚上手だ。単純に音質だけをみれば、Classics 73に軍配が上がるので、外でも部屋でもひとつのヘッドホンを使いまわしたいというのであれば、音質に妥協なきClassics 73を、ポータブル環境でしか使う予定がないのであれば、そのコンパクトさと外音ノイズの中での押しの強さという点で、Classics 66を選ぶと良さそうだ。
どのモデルもiPodなどポータブルプレイヤーでも十分に楽しめるインピーダンス&感度設計で、マニアックなハイスペック環境を要求しないあたりもうれしいところ。着脱可能なケーブルには絡みにくいTPE(熱可塑性エラストマー)素材が使用され、ジャック部分にもハウジングと同様のエボニーが使用されており、細かいこだわりと美意識が所有感を心地よくくすぐってくれる。なお、ハウジング上部には全モデルに共通して小さなポート穴が5つ空いている。大きな音を出すとここから音が漏れてくるので、密閉型と言えど音漏れの点ではちょっと注意が必要かもしれない。
また、各モデルともハウジングのフィニッシュには、艶のないサテン・フィニッシュとピカピカなグロス・フィニッシュがそれぞれ用意されている。一般的には塗装され艶のあるグロスの方が高級感のある見慣れたフィニッシュだと思うが、こと楽器の場合は、音響への影響が最優先され非常に薄い塗膜のサテンでフィニッシュとすることも多い。ヘッドホンの場合、ハウジング・トップのフィニッシュの違いがどれだけサウンドに影響を与えるかは不明だが、好みのフィニッシュが選択できるのは単純に嬉しいところ。天然木だけに、杢の出方は千差万別で、茶色とこげ茶とのコントラストは、ひとつひとつ表情が違うことになる。このあたりもMeze Headphonesならではのお楽しみポイントだ。
ヘッドホン・マニアの厳しい審美眼にも十分に耐えうるであろう質感と使用感、サウンド・クオリティを持って颯爽と登場したMeze Headphonesだが、ロゴにはギリシャ神話に登場する竪琴とともにコトドリがデザインされている。そこには、どんな音もそっくりに鳴くことができる鳥として知られるコトドリのように、昨今のトレンドに左右されることがなく音の本質を追究し続けていくという意思が込められているのだとか。
決して安くはないミドルクラスの価格なので、お気軽に購入するわけにはいかないけれど、はつらつと健康的で高品質なこのサウンドは、多くの人から大いなる歓迎を受けるものだと思う。このサウンドには、多くの人に満足と笑顔を与える不思議フェロモンがたっぷり含まれているからね。
text by BARKS編集長 烏丸
●Meze Classics 88 (Satin / Gloss)
29,800 円(税込)
・再生周波数帯域:12Hz - 30KHz
・感度:116+/-3dB at 1KHz,1mW.
・インピーダンス:36 Ohm
・バランス駆動:<3dB(50Hz-6KHz,1mW)
・Dedicated 50mm Neodymium drivers を採用
・ケーブル:着脱式
・重量:290g
・プラグの規格:3.5mm & 6.3mm gold-plated
●Meze Classics 73 (Satin / Gloss)
22,800 円(税込)
・再生周波数帯域:18Hz - 22KHz
・感度:107+/-3dB at 1KHz,1mW.
・インピーダンス:40 Ohm
・バランス駆動:<3dB(50Hz-6KHz,1mW)
・ケーブル:着脱式
・プラグの規格:3.5mm gold-plated
●Meze Classics 66 (Satin / Gloss)
19,800 円(税込)
・再生周波数帯域:16Hz - 24KHz
・感度:109+/-3dB at 1KHz,1mW.
・インピーダンス:30 Ohm
・バランス駆動:<3dB(50Hz-6KHz,1mW)
・ケーブル:着脱式
・プラグの規格:3.5mm gold-plated
◆試聴ショップ(DMR渋谷店)
◆Meze Headphones販売サイト
◆Meze Headphones メーカーサイト
BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
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◇ORB JADE casa(2013-04-21)
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◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
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◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
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■DUNU(2011-12-14)
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◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)
■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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