【BARKS編集部レビュー】変態か?スタンダードか?魅惑のフィッシャー・オーディオ Jazz 977

ポスト

これだけヘッドホンやイヤホン界隈が活況だと、競争原理が激しく働き我々消費者にはありがたい限りだ。比較的安価でも素晴らしい品質を持っていたり、ワンアンドオンリーの個性っぷりを見せつける愛しき変態モデルもポチポチ現れたりして、なかなか刺激的な状況にある。

◆フィッシャー・オーディオ Jazz 977画像

▲ウッドハウジングを持ったJazz 977。日本上陸当初は6800円だったが、円高還元の影響か、現在は4800円という良心価格で販売されている。

▲ケーブルはハウジングとトーンを合わせたブラウンカラー。多少ゴムっぽい材質でからみやすいが、タッチノイズは標準的。ハウジング形状は多少大きめだが、タッチノイズを大幅に軽減させるケーブルを耳の後ろに回すSHURE掛けも問題なくできる。

▲天然木のハウジングに白い文字でFA-977と印字。ロシア製だけどこのセンスはアメリカンというか、テキサス系?

▲LR表記は、ゴールドのプレート部分に小さく印字されている。ハウジングのロゴが外側に見えるように耳にすればLRを間違わない。

▲イヤーチップはS、M、Lの三種類が付属。デフォルトは写真のMサイズが装着されている。

▲よーく見ると、FA-977の下に白い線で重ね書かれた飾りのような白線は「Jazz」の文字。

▲付属品は、3種類のイヤーピースとポーチ。

そんな中でもロシアからはるばる日本にやってくるFischer Audio(フィッシャー・オーディオ)も、私の好きなブランドのひとつ。だってうんざりするほど生真面目なものから、何なのこれ?という不思議ちゃんまで、同じブランドとは思えない振れ幅で様々なバリエーションを放出するブランドだから。日本に上陸しているモデルは、彼らの膨大なラインナップからのほんの一部に過ぎないが、そんな中でもストイックなまでに真面目で実直なデュアル・バランスド・アーマチュア搭載のDBA-02 Mk2から、形状が耳にフィットしなければ全く性能が発揮できないという変態Ceramiqueまで、そのバリエーションは驚くほど広い。

これはかなーり使用者を選ぶぞという、あまりにキャラが濃すぎるOldskool rpm 33 1/3 LEの愛しき佇まいもいずれご紹介したいところだし、私のフェイバリット・ヘッドホンのひとつでもあるFA-002Wが、実はシズル感たっぷりの美サウンドを誇る名器であることもお伝えしたいトピックスのひとつ。

そんな中、今回は手の出しやすい4800円という価格でリリースされているフィッシャー・オーディオ Jazz 977をご紹介したい。Premiumシリーズに位置するモデルだが、ご覧のとおりウッド(天然木)をハウジングに用いたカナル型イヤホンで、ダイナミックドライバーを搭載したシンプルな構造ながら、やはりその中身は、他のイヤホンでは代用がきかない魅惑の個性派なのだ。

正直なところ、その第一印象はずいぶん地味で、昨今の売れ筋のようなビビッドさを感じさせない。いわば、どうにもうだつの上がらないような音だったので、うーむ…という感想だ。だがしかーし、聴いているうちにどんどんサウンドはまとまり、当初のイメージとは大きく変化した。フィッシャー・オーディオってそういうモデルが多いんだけど、それは私の欲目なのか…? 既に100時間ほどは鳴らしている状態なのだけど、まだまだ音は成長しているように感じている。店頭での簡単な試聴だけで性急な判断を下すのは、非常にもったいない機種だ。

現時点で、このJazz 977の低域の質は非常に良い。低域が滑らかでふくよかで艶めかしい。この質感だったら、いくら量感が上がってもうるさくないし、他の帯域を邪魔することがない。ベースのサウンドで言えば、スペクターをラインで出すグリングリンした音とも違い、リッケンバッカーを歪ませた音も違う、スタンダードながらホッとする往年のトーンだ。典型的なプレベとアンペグのトーンとでも言うのか、ちょっとオールドウェイブながら黄金律を持った安定したトーンで、コード感をしっかりと下地に敷き詰めてくれるような安心感がある。

低域重視の低音ホンと揶揄されるギリギリ一歩手前でバランスをとっている量感で、十分な低域を持ちながらも、多くの人に受け売れてもらえる迫力感をもったイヤホンと評価されるのではないだろうか。

中域にはむせかえるような重みがある。一聴して「曇りがある」あるいは「こもっている」と感じる人もいそうだが、耳を澄ませば、これによってヌケが悪くなっていることは決してないことがお分かりのはずだ。マイケル・シェンカーのギターサウンドを世界一上手に鳴らすイヤホンと言えば、伝わるか(今どき伝わるはずがない)。意外とね、メタルコアとかにもいいのよ。スキンドレッドもカッコ良く鳴らすなぁ。

私がここで力説したいのは、今、このような肉感的な中低域をなまめかしく鳴らすイヤホンって、意外と珍しいということだ。これがウッドマテリアルの魅力なのか、ナゾの魅力を湛えるFischer Audioならではの不思議プロダクトなのかは分からない。ただ、ロサンゼルスのスコーンと抜ける青空のようなサウンドを叩き出す他社新製品が多い中で、この霧にむせるロンドンのような、重く垂れさがった雲にクリアな大気が広がるアイルランドのような、湿度を携えた趣あふれるとトーンが非常に個性的で、何より魅力的なのだ。…ロシア製だけど。

ジューシーさやクリアさには乏しいが、低域は太く重厚ながらもスピード感があり中域は肉厚、高域にいたっては血湧き肉踊るような粘りがある。例え普段から高級なハイファイモデルを使っていたとしても、時々手を伸ばしてこのJazz 977のサウンドを楽しんでしまう…そんな禁断の魅力を、ぜひ貴兄にも。

text by BARKS編集長 烏丸

●Fischer Audio Jazz 977
販売価格:4,800円
再生周波数:5-20000Hz
感度:106dB
インピーダンス:18Ohm
入力:65mW
ケーブル:1.25m
外箱:ギフトボックス
付属品:イヤティップ、ポーチ

◆Fischer Audio Jazz 977オフィシャルサイト
◆Fischer Audio Jazz 977オフィシャル販売サイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事をポスト

この記事の関連情報