【BARKS編集部レビュー】オーディオテクニカ ATH-CK100PROで、次世代レベルにひとっ飛び
「こいつの頭、湧いてるな」…と思わないで欲しいのだけど、世の中いろんなイヤホンがあるわけで、私の頭の中ではそれぞれのキャラがなんとなく擬人化されクラスメイトに割り当てられている。そこには体育会系から帰宅部までいろんなタイプがいて、「全科目優秀でいいやつだけど目立たない班長のWestone4」や、「数学がめっちゃ出来るけど運動が苦手な小柄のER-4」、「バスケがプロ並みに上手く、成績も優秀で学校中で話題になっている最近転校してきたハーフのイケメンSOUL by Ludacris SL99」とか「理系は常にトップの学級委員長のSE535」とか、ま、そんな感じだ。
◆ATH-CK100PRO画像
で、オーディオテクニカの新製品ATH-CK100PROを聴き込んだ。がっつりたっぷり聴き込んで、感想がぶれなくなるまで使用を繰り返した結果、私の脳内学級に転校してきたATH-CK100PROは、スレンダーなめちゃめちゃ美人の女子として、教室の真ん中に着席した。
凛としているがスポーツもいけるタイプで気立て良くノリもいい…つまりはクラスのマドンナとして後光輝く眩しい存在なわけで、僕は今、この子に夢中なわけです。きっとクラスの男子の半分はこの娘にハマってる…。
ATH-CK100PROの放つサウンドは、明朗快活な美人だ。真正面からの直球ストライク王道サウンドで、周波数特性という意味ではフラットだと思うが、どの帯域もそれぞれ主張してくる明るさがあり、ドピーカンなトーンが鳴り響く。ド派手フラットとでも言うべき真夏のようなサウンドだ。この“陽”のサウンドキャラには、湿度の低いカラッと乾いた心地よさがある。
非常に見通しのいいサウンドで、抜けの良さは間違いなくトップクラス。料理でいえば灰汁をしっかりと取り除いた雑味感のないサウンドで、「どんな小さな雑味も見逃さないぞという鬼気迫るチューニングで、透き通るようなこのトーンにまで追い込んだ」という印象だ。
一聴して良い音だなぁと思わせてくれる分解能の高さと切れの良さは、SHURE SE535と同様の分かりやすい特長のひとつ。高級フラッグシップという意味でもSE535は好敵手だと思うが、ATH-CK100PROに馴らされた耳でSE535のサウンドを聴き比べると、SE530から脈々と受け継がれている中域の特徴的なふくよかさが、明らかに際立って聞こえる。これぞ安定感のあるサウンドバランスの肝だが、同時に暑苦しさの大元でもあり聞き疲れを起こす要素のひとつでもある。ほとんど付け入るすきのない高い完成度を誇るSE535へ、そんなダメ出しをさせてしまうATH-CK100PROのド派手フラットは、どぎまぎするほど魅力的だと思う。
サウンドバランスでいえば、同じく超絶フラットを誇るイヤホンにWestone4があるが、ものすごく音が良い割には、サウンドに主張が全くなく控えめで遠慮がちなトーンのため、性格的には対極にある存在となる。ATH-CK100PROはド派手だけに低域と高域の押し出しも強いので、一聴してドンシャリ成分が耳に届き、非常にメリハリ良く音楽を伝えてくれる。こと店頭での試聴においては、まともに装着できていなくても第一印象はすこぶる良いことだろう。ここが寡黙なWestone4とは真逆なところで、第一印象は「あまりに普通すぎて何がいいのか分からない」という不遇すぎるWestone4とは、良くも悪くも競合しない。Westone4愛用者にとってATH-CK100PROは、「相いれない」か「使い分けできる対極アイテム」のどちらかに振り分けられる気がする。
一方で、元気ハツラツフラットサウンドのWestone3はどうか。こちらはATH-CK100PROと比べるならば、アナログ機材のような朴訥としたサウンドに聴こえてしまい、多少かまぼこ(註:中域が強めのサウンド特性のこと。周波数特性グラフがかまぼこのような山なり形状になることから)に聴こえるほどだ。5分もすればパンチのある馴染みのサウンドに戻るのだが、トーンの差は歴然。いわばATH-CK100PROは平手打ちでバチンバチンひっぱたくような鋭さがあり、Westone3は渾身のグーパンチをねじ込むような重さがある。
▲聴き比べた脳内クラスメート達の一部。上左から主役のオーディオテクニカ ATH-CK100PRO、SHURE SE535(Special Edition)、Westone4R、Westone3、Ultimate Ears TripleFi 10、下左からオーディオテクニカ ATH-CK100、SOUL by Ludacris SL99、ファイナルオーディオデザインFI-BA-SS、Atomic Floyd SuperDarts+Remote、SONY MDR-EX1000。それぞれに個性あふれるサウンドを持ち、キャラかぶりは全くなし。 |
ちなみにATH-CK100とは使い分けは可能だ。CK100の落ち着いた響きや優しく繊細な鳴り方は、これでなければ味わえないワン・アンド・オンリーの魅力に溢れているからだ。そして、もうちょっとCK100にガッツを追加し、派手にロックも楽しませてくれるワイルドさがあればいいのにな…もちろん高域の美しさと繊細さはオーテクらしさの美点を携えたうえで…というリクエストにばっちり応えたのが、新作ATH-CK100PROなのではないかと思う。
繊細に大胆に、戦略的に確信的に音作りを行ない、一気に市販イヤホン市場のトップに君臨しようという熱きスピリットすら感じさせるATH-CK100PRO。「品質が高くて万人に薦められるモデルはありませんか?」と聞かれれば、「ATH-CK100PROがいいです。高価ですけど…」と答えたい。
ただし、装着には慣れが必要で、他のどのイヤホンとも装着感は似ていない。これまでになかった形(構造)のため戸惑うところがあるが、フィットすると無類の遮音性と最高のバランスのサウンドが確保できる。ケーブル出口が270度回転し耳介との干渉を避けることができるので、実はいろんな装着法が可能なのだけれど、最終的にはメーカー推奨の装着方法が最も高い遮音性と強固な安定性が得られることを確認した。もちろん個人差もあろうが、ER-4並みの遮音が得られないようであれば、それは理想的な装着ができていない状況に過ぎないと思う。
なお、余計なお世話かもしれないが、コンプライではなくシリコンイヤピースをお薦めしたい。上記のフィット感と澱みなきサウンドはシリコン前提の話だからだ。コンプライはその柔らかさゆえに、理想の装着状態ではなくとも、高い遮音性を作り出してしまい、同時に全ての帯域でサウンドをマイルドにしてしまう。悪いことではないが、ATH-CK100PROのサウンド特性を最大限に享受するのであれば、ここはシリコン一択だ。
最後に蛇足ながらケーブルのお話を。コネクタにMMCX方式を採用したケーブル着脱可能な仕様となったが、SHUREとは凸凹が逆のため流用不可であることはすでにご存じであろう。もし同仕様だったとしたら、そのままSHUREのケーブルを挿しても耳から噴水のようにケーブルが飛び出してしまい、使用に耐えない状態になる。しかも大きな負荷がコネクタ一点にかかり破損の可能性も否めない。凹凸が逆になっているのは、そんなトラブルを未然に防ぐ意味も込められているのではないだろうか。興味本位で壊してしまったなんて目も当てられないもの。
もちろん、手作りに燃えるリケーブル猛者も現れそうだが、コネクターがケーブルに対し直角にセットされ、耳へのフィットとケーブルのとりまわしに大きく影響するパーツとなっている点が鬼門。青と赤に配色されたLR表記もケーブル側にデザインされているので、ハンドメイドには高い制作スキルが求められそうだ。そもそも音を聞く限り、今のケーブルで非常に完成度の高いバランスが保たれているので、リケーブルで良いことが起こる気もしないのだけど。
イヤホンにとって2011年という年は、それまでの常識の壁を壊し乗り越えるエポックな製品の誕生ラッシュとなった。イヤホンのサウンドはさしずめこんなもん…という越えられぬ壁をあっさり飛び越えたAKG K3003の登場は非常に刺激的な出来事だったが、ATH-CK100PROもこれまでの量産型の市販イヤホン・ワールドからさりげなく飛び出した、次世代レベルに位置するモデルだ。もはやダイナミックとかバランスドアーマチュアだとか、そんな形式や構造は語るにナンセンスなサウンドですもん。
今回の試聴にはヘッドホンアンプとしてフォステクスHP-P1を用いているが、iPod(Classic)のみでの再生でも十分に素晴らしいサウンドだったことは確認済み。研ぎ澄まされた環境を用意してこそ本領を発揮するというピッキーな類ではなく、気軽なシチュエーションで存分に素晴らしい音環境を提供してくれる点も、なにより嬉しかった。
text by BARKS編集長 烏丸
オーディオテクニカ ATH-CK100PRO
¥63,000(税込)(市場実勢価格49,800円程度)
2011年11月18日発売
型式:バランスド・アーマチュア型
出力音圧レベル:109dB/mW
再生周波数帯域:20~18,000Hz
最大入力:3mW
インピーダンス:39Ω
質量:約9g(コード除く)
プラグ:φ3.5金メッキステレオミニ(L型)
コード:1.2m/Y型
付属品:ポーチ、収納ケース、シリコンイヤピース(S,M,L)、コンプライTMフォームイヤピース(Mサイズ)
別売:交換イヤピース:シリコンイヤピース ER-CKM55(S,M,L)、コンプライTMフォームイヤピース(Mサイズ)
交換コード:CK100PRO着脱コード
ボックスサイズ:H180×W140×D70mm
◆ATH-CK100PROオフィシャルサイト
BARKS編集長 烏丸レビュー
◆SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
◆Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
◆SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
◆JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
◆BauXar EarPhone M(2011-10-10)
◆SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
◆AKG K3003(2011-09-18)
◆Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
◆Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
◆Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◆ORB JADE to go(2011-08-22)
◆YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
◆NW-STUDIO(2011-08-09)
◆NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
◆Westone ES5(2011-07-21)
◆SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
◆クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
◆GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◆SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
◆フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
◆ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
◆フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
◆アトミック フロイド(2011-05-26)
◆モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
◆SHURE SE215(2011-05-13)
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事の関連情報
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話037「生成AIが生み出す音楽は、人間が作る音楽を超えるのか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話036「推し活してますか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話035「LuckyFes'25」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話034「動体聴力」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話033「ライブの真空パック」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話032「フェイクもファクトもありゃしない」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話031「音楽は、動植物のみならず微生物にも必要なのです」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話030「音楽リスニングに大事なのは、お作法だと思うのです」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話029「洋楽に邦題を付ける文化」