【BARKS編集部レビュー】まさに音の桃源郷、Astrotec Lyraの突き抜けた開放感
常日頃からイヤホンのレビューでも触れている通り、イヤホンは高い遮音性を持ってこそ、聴覚細胞に負担をかけない安全な状況で、音楽を楽しむための十分なダイナミックレンジを確保することができる。しっかりと遮音された状態を作り出し、静寂な世界の中で適性な音量で楽しむことがとても重要なポイントで、日頃から私がカスタムIEMを高く評価しているのも、その点にある。
◆Astrotec Lyra画像
とはいえ、それらは「音楽をしっかり楽しむモード」での話で、生活の中でBGMを流すように、高音質ながらもさり気なく自然に音楽と触れていたいという状況もままある。電話やメールのアラートを見逃したくないし、周りの生活音も聞き逃したくないという時には、外音を一切妨げない状態で心地よい音空間を作り出してくれる開放型インナーイヤー・タイプのイヤホンのお出ましとなる。自分を取り巻く生活空間を邪魔することなく、高品質な音楽で満たしてくれるその聴き心地こそ、インナーイヤーの面目躍如といったところだ。
▲Astrotec Lyra |
▲耳への収まりは不安定だが、ケーブルを耳に掛けるいわゆるSHURE掛けをすることでフィット感に安定さが加わる。 |
▲開放的なヌケの良さを生み出しているひとつに、マイクロ多孔質フィルターがある。このフィルターの設計はもともとAstrotecのオリジナルである。 |
▲金属製のハードケース、イヤーパッド、耳かけ時に使用できるイヤーフックが付属する。 |
ただし、全ては耳とのフィティングの状態で変わるので、誰もがこのサウンドを享受できるのかどうかは、正直分からない。耳へのはまり方によって高域も低域も聴こえ方が全く変わってしまうので、音色に関するレビューも半分は意味がないのではないかと思えてしまう。耳にかっちりとはまった時のサウンドバランスの完成度はピカイチなのだけど、私の場合、その状態をキープするのが非常に困難で、少しずつずりずりとずれてくる。さすがに耳からポロリすることはないのだけれど、耳穴への角度が変わり密着度が薄れてくると、驚くほど低域は抜け生々しさも薄れてしまい、遠く街の雑踏のようなショボイ音になる。自分の耳にとっては決してフィット感はいい方ではないので、大らかな気持ちで付き合う心のゆとりが大事だったりもする。
「これが自分の耳にフィットするイヤーモールドにセットされたらどれだけ心地良いんだろう」…と無い物ねだりの妄想を重ねてしまうほど、はまった時のサウンドは一級だ。耳穴に流れ込んでくるその音色は淀みなき心地よさに溢れており、トーンがどうの○Hzのピークがどうの…などという無粋な邪念は全て吹き飛び、とにかく音楽に浸りまくってただただ楽しむということを許してくれる。まさに音の桃源郷を生み出してくれる貴重なイヤホンで、その聞き心地はむしろヘッドホンのようでもあり、音楽に包まれる開放感はLyraならではのものだ。
なお、Lyraの最大の特徴のひとつに、その形状からケーブルを耳に掛けるいわゆるSHURE掛けも可能という点がある。普通にSHURE掛けをしようとするとハウジングのケーブル近くの角部分が耳介に当たり痛くてとても無理…と思ったが、その角が当たらないようにハウジングのセット角度を反対に変えてみたところ、強烈な中低音をともなったサウンドで安定することも発見できた。その分相対的に高域が落ちるものの、タッチノイズも限りなくゼロなので、かなり安定した高品質サウンドが楽しめる状態がキープできる。
もともとAstrotecは、多くのブランドのイヤホンのOEM製産を行っている会社であり、人気を牽引する他社某モデルを開発・製造しているという、高い技術力とノウハウを有しているブランドだ。開放感溢れる自然な音像を作り出すマイクロ多孔質フィルターもAstrotecが誇る自社開発技術のひとつだったりする。Astrotecとしての歴史は新しいが、既にハイブリッドカナル型のAX-35、AX-60といった人気ヒット作も打ち出しており、彼らの高い開発力とサウンドチューニングのセンスは、世のイヤホンの勢力図を変えてしまうポテンシャルに満ち満ちている。Lyraはもとより、Astrotecに対してはアンテナを張っていたほうがいい。
text by BARKS編集長 烏丸哲也
●Astrotec Lyra
¥16,450(税込 ※e☆イヤホン2014年9月現在)
・ドライバー:15.2mmダイナミックドライバー
・感度:108db/mW
・インピーダンス:32Ω
・再生周波数帯域:15~23,000Hz
・コード長:1.2m
・プラグ:ステレオミニプラグ(Ф3.5mm)
・付属品
付属品収納用ケース×1
イヤーパッド×2セット
イヤーフック×1セット
保証書1枚
※自社開発の15.2mmダイナミックドライバーが余裕のある音を提供。
※ドライバー後部の空間とその先にあるマイクロ多孔質フィルターを含めた三層のフィルターにより、スピーカーのような広がりのある音を実現。
※ハウジングにアルミを利用した高品質なボディ。
※ケーブルには、信号のロスが限りなく少ない高純度線芯を利用。フィルム部分は高温低温に非常に強いPU素材を利用。線芯部分には光ファイバ並みの弾力繊維を複合することにより、通常のケーブルより寿命が長く強度に優れている。
※カナルタイプと同様のケーブル配置により、インナーイヤータイプには珍しい耳かけタイプの装着が可能。
※2セットのイヤーパッドが付属。
◆【BARKS編集部レビュー】音楽リスニングの新お作法・開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル
◆【BARKS編集部レビュー】スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革、求められるのは開放型インナーイヤーイヤホン
◆Astrotec Lyraオフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル
BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■NOBLE FR(WIZARD)(2014-08-26)
■Fidue A83(2014-08-19)
◇Musician's Ear Plugs(2014-08-10)
◆Noble Audio 5C R Configuration(2014-07-27)
◆FitEar萌音-MONET(2014-07-21)
■SHURE SE112(2014-07-13)
■Blue Ever Blue 878(2014-07-01)
■茶楽音人Donguri-楽(RAKU)(2014-06-24)
■オーディオテクニカATH-CKR10(2014-06-14)
◇estron Music、BaX(2014-06-03)
●OSTRY KC06(2014-05-18)
◆VISION EARS VE6 Xcontrol(2014-05-25)
■Fidue A81(2014-05-17)
◆カナルワークスCW-L32(2014-05-04)
■アルティメットイヤーズUE900s(2014-04-26)
■Astrotec AX60&AX35(2014-04-20)
◆CUSTOM ART Pro 330v2(2014-04-13)
●MPC Headphones(2014-04-06)
●Klipsch STATUS(2014-03-30)
●SMS Audio STREET by 50 DJ Pro Performance Headphones(2014-03-23)
◆AK240×カスタムIEM(2014-03-16)
■RHA MA750(2014-03-09)
■Meze 11 Deco(2014-03-02)
◇Astell&Kern AK240(2014-02-22)
◆1964 EARS V6-Stage(2014-02-17)
◆カナルワークスCW-L32V(2014-02-09)
◇EarPeace HD(2014-02-02)
◆Noble Audio Kaiser 10(2014-01-19)
◆Clear Tune Monitors CT-300Pro(2014-01-04)
◇KLIPSCH KMC1(2014-01-01)
■DUNU DN-1000(2013-12-30)
◆Ultimate Ears Reference Monitors(2013-12-16)
◆Ultimate Ears 11 Pro(2013-12-08)
◆earmo Tune5(2013-12-03)
●オーディオテクニカATH-OX7AMP(2013-11-23)
■音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)(2013-11-17)
■オーディオテクニカ ATH-IM01~04(2013-10-27)
◇Astell&Kern AK10(2013-10-25)
●フィリップス Fidelio M1(2013-10-22)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)
◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)
■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)
■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)
◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)
◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)
●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)
◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)
◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)
◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)
◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)
◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)
●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)
●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)
■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)
◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)
◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)
◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)
◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)
◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)
■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事の関連情報
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話037「生成AIが生み出す音楽は、人間が作る音楽を超えるのか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話036「推し活してますか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話035「LuckyFes'25」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話034「動体聴力」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話033「ライブの真空パック」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話032「フェイクもファクトもありゃしない」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話031「音楽は、動植物のみならず微生物にも必要なのです」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話030「音楽リスニングに大事なのは、お作法だと思うのです」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話029「洋楽に邦題を付ける文化」