【BARKS編集部レビュー】安くて音が良いという噂のTakstar、果たしてその実態は?
◆Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671画像
そもそもTakstarの人気を牽引したのは密閉型のPRO 80の存在だ。この3機種の中では最も高価なモデルで市場価格1万円強というそれなりの価格なのだが、実際のサウンドはその価格とはとても思えぬハイクオリティなものであり、多くのユーザーが称賛を持って受け入れたところから噂が拡散、Takstarの名が急激に広まっていくことになった。
PRO 80と同時に日本上陸を果たしたHI 2050とTS-671は、どちらも開放型のヘッドホンで、おおよそ各9000円と7000円という価格帯のモデルだが、実はこちらのモデルも侮れない。むしろコストパフォーマンスという意味では、PRO 80を脅かす魅力に溢れているのがこの2機種だ。
私が一番気に入ったのは3機種の中では最も安価なTS-671というモデルだ。サウンドは見事に美しいフラットで非常に素直なバランスを持っている。エージングが進むと中域のたぷたぷ感が消え、見事なバランスを保つ奇跡のモデルなのだ。え?と二度見するほどドでかいサイズだが、ふわふわのベロア素材のイヤーパッドが完全に耳を覆ってくれるため、文字通り開放的なサウンドと使用感を存分に堪能させてくれる。装着時は目を覆うほどカッコ悪く375gもの重量があるけれど、実際の付け心地は非常に軽く私は全くストレスを感じない。何時間でも付けたままでいられる数少ないヘッドホンのひとつだ。
手持ちの中で言えばオーディオテクニカのATH-AD500とキャラがかぶる。サイズは大きいものの付け心地軽く、サウンドは素直で癖がなく、何より安価でコストパフォーマンス抜群の開放型…という全ての特徴がそのままTS-671にも当てはまる。サウンドも両者は驚くほど似ていて、生き別れの兄弟か?というほどの好敵手。サウンドに大きく影響するイヤーパッドもクッタクタ状態で長年使い倒しているATH-AD500と、まだ使い込み途中である真新しいTS-671をそのまま比較してしまうのは意味のないことかもしれないが、大元のサウンドバランスや周波数特性などが、両者は酷似している。ATH-AD500が大好きな自分としては、TS-671が気に入るのも当然かもしれない。
いずれにしろ十分な解像度とアクのない心地よいバランスには、良質に音楽を耳に伝えてくれる安心感と信頼感がある。TS-671のほうが若干の低域の強さと音の明るさが秀でているかもしれない。いい意味で音に硬さもある。まずは素直なサウンドと非常に良い使い心地で高い評価を得ているATH-AD500にがっつり肉薄する事実から、TS-671の魅力と高い実力値を推し測っていただきたいところ。私の普段使いはもうこれに決定っ!
なお、舐めまわすようにTS-671を使用してふと気付いたのは、これだけカップ部分が大きいと耳に対してドライバーの位置に大きな遊びが生まれるようで、これが微妙にサウンドに影響を与えるということ。ヘッドバンドもゴム製で自由自在に伸び縮みするので、固定位置も自在なのだが、頭後ろ側にずらすと音場が広がるし、前目につけると音が近くなる。上目に付けるとハイが目立ち、下目につけると中域が濃くなる。これは耳とドライバーとの位置関係による影響であろうし、耳介にどのように音が当たるのか、その違いも作用しているかもしれない。耳介が小さければこの遊び幅はより大きくなるため、フィッティングによって感じるトーンには意外と大きな振れ幅があるような気がする。
そもそも個人差は計り知れぬものなので、誰もが前述のような感想を持つとも言えないけれど、遊び幅だけ音の変化は確実に生じることだろう。ジャストフラットと感じるか若干ドンシャリ気味と感じるか、あるいは音場をどう感じるかは、何気なく付けたその時の状況に依存することは大いにあり得る。ある人は高域がちょっと弱いと言い、ある人は高域の伸びが素晴らしいと言う…そんな個人間の評価の違いには、ちょっとした物理的要因も隠されていることをふと感じた次第だ。
さて一方のHI 2050だが、私の耳にはTS-671よりもHI 2050の方が低域が充実しているように聞こえる。ハイの出方はTS-671と同等か若干多いか。結果、若干TS-671よりも派手目なドンシャリ気味に聞こえる。いや、あえて比較すればの話で、単体で聞けば非常に癖のないフラットに良く伸びたサウンドに聴こえるはずだ。ドンシャリではなく、明るくノリが良いという表現の方が正しいかもしれない。
HI 2050も開放型ではあるものの、TS-671が何の障害物もないようにスコーンと音が抜ける点と比べると、半開放型っぽいキャラクターであろうか。その分低域が強く出ているのではないかと思われる。開放とはいえ明らかに外音はハイがカットされて耳に届くので、ハウジング自体が天然ローパスフィルターのような音響特性を持っているようだ。外音のハイにマスキングされないことが、若干の高域の派手さが目立つように聞こえる要因かもしれない。
基本のトーンはHI 2050もTS-671も共通したものなので、デザインの違い、付け心地の違い、価格の違い、そして微細なサウンドの違いを考慮して選んでいただきたいところ。なおHI 2050は、一番人気の密閉型PRO 80と全く同じサイズ/同デザインでできており、PRO 80をそのまま開放型にしたモデルと理解してよさそうだ。ヘッドバンドが短く「人によっては装着できないのでは」との口コミも流れていたが、頭のでかい私でも問題なく装着できる事実を考えると、大概の人はOKなのではないかと思える。もちろん目いっぱい伸ばした状態でぎりぎりジャストな状態ではあるのだけど…。
最後に一番人気のPRO 80だが、断言はできないものの、使用ドライバーはHI 2050と全く同じものではないかと思われる。ハウジングの形も全く同じで、カップ部分がオープンがクローズドかの違いだけに見える。そう考えると、市場価格13000円ほどのPRO 80はずいぶん割高に感じるが、これがまた不思議なもので、HI 2050のトーンと共通ながらサウンドクオリティーは確実に一枚上に仕上がっている。能率が高く同じセッティングだと音量が大きくなることもいい音に感じさせてしまう要因かもしれないが、クリアさが全く違い全帯域で歪み感が極端に少ない。このスピード感のあるキレのある明るいサウンドは、もう一段上位価格帯に肉薄する品質で、3機種の中では間違いなく高品質なのがPRO 80と断言できる。ドライバーがやっぱり違うのかな…。
PRO 80は、その位置付けをプロフェッショナル用オーディオモニター向けとしているが、全帯域に対し大きな癖もない点はモニターライクではあるものの、細かい音のディテールを拾うように聞くというよりも、音量を上げ目にテンション高くド派手に音楽を楽しむことが一番似合うサウンドだと思う。要は分析的に鳴らすのではなく、ビートを感じるように楽しませてくれるヘッドホンだ。実際SHURE SRH940とも比較してみたが、PRO 80のほうが立体的な音で、自然な音の広がりを感じさせてくれる。音楽を楽しむにはSRH940よりも優秀であり、モニタリングするには余計な要素となりSRH940には敵わないというのが冷静な評価だと思う。
3機種とも非常に優れたサウンドで、噂通りコストパフォーマンスは驚異的だ。初心者でもフラッグシップを複数所有しているジャンキーな兄やんにも是非試して欲しい魅力的なモデルである。ただ、ちょっと不思議な点もある。PRO 80とTS-671に起用されているカールコードは一体何なんだろう。PRO 80はレコーディング現場を想定しているということだろうか。それにしては半端に短いんだよな…自宅レコーディングを想定?やっぱりモバイルに最適ということか。TS-671に至っては、ジャックも6.3mm標準がデフォルトとなっており、DJモデルかスタジオモニタモデルかと言わんばかりの仕様となっている。開放型なんですけどね…。現状のままでも十分に満足だけど、リケーブル対応になったら殿堂入りの神ヘッドホンになっちまうのは間違いない。
text by BARKS編集長 烏丸
●Takstar PRO 80
プロフェッショナル用オーディオモニター向けに提供されている密閉タイプのダイナミック型ヘッドホン。音質向上を目的として高品質なPET樹脂ダイヤフラムを採用。Takstar社の有するノイズ低減技術の採用により、外来ノイズを効果的に抑制。ソフトレザーのイヤーパッドを採用。
・オープン価格(市場価格13,000円前後)
・型式:密閉ダイナミック型
・音圧周波数特性:15Hz-25kHz
・能率:101dB±3dB
・ドライバーユニット口径:Φ53mm
・定格入力:250mW
・最大入力:500mW
・インピーダンス:60Ω
・プラグ:Φ3.5mmステレオミニプラグ+Φ6.3mm 金メッキ標準プラグ
・付属ケーブル:Φ4mm×1.2m OFCカールコード(全長約4m)
・重さ:310g
・付属品:トランクケース
●Takstar HI 2050
家庭向け、シアター向けに提供されている解放タイプのダイナミック型ヘッドホン。ハウジングにはステンレスを使用し高い耐久性を実現、ソフトベロアタイプのイヤーパッドを採用し装着性を向上。
・オープン価格(市場価格9,000円前後)
・型式:解放ダイナミック型
・音圧周波数特性:15Hz-25kHz
・能率:92dB±3dB
・ドライバーユニット口径:Φ53mm
・定格入力:250mW
・最大入力:500mW
・インピーダンス:60Ω
・プラグ:Φ3.5mmステレオミニプラグ+Φ6.3mm金メッキ標準プラグ
・付属ケーブル:Φ4mm×2.2m OFCケーブル+1.8m延長ケーブル
・重さ:325g
●Takstar TS-671
音楽鑑賞、ゲーム用途に提供されている解放タイプのダイナミック型ヘッドホン。ハウジングは完全開放型の設計となっており円形に近い形状とすることで高い装着感を実現。
・オープン価格(市場価格7,000円前後)
・型式:解放ダイナミック型
・音圧周波数特性:12Hz-25kHz
・能率:105dB
・ドライバーユニット口径:Φ53mm
・最大入力:500mW
・インピーダンス:120Ω
・プラグ:Φ3.5mm ステレオミニプラグ+Φ6.3mmニッケルメッキ標準プラグ
・付属ケーブル:Φ4mm×2.2m OFCケーブル+1.8m延長ケーブル
・重さ:375g
◆Takstarオフィシャルサイト
BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)
◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)
◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)
◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)
◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)
◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)
■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事の関連情報
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話037「生成AIが生み出す音楽は、人間が作る音楽を超えるのか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話036「推し活してますか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話035「LuckyFes'25」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話034「動体聴力」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話033「ライブの真空パック」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話032「フェイクもファクトもありゃしない」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話031「音楽は、動植物のみならず微生物にも必要なのです」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話030「音楽リスニングに大事なのは、お作法だと思うのです」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話029「洋楽に邦題を付ける文化」