【BARKS編集部レビュー】YAMAHA EPH-100、メイド・イン・ジャパンに夢を見る

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YAMAHAがEPH-100というカナル型イヤホンを発売した。日本国内では初となるYAMAHA製カナル型イヤホンの登場である。しかし販売がちょっぴり変わっていて、全てヤマハの直販サイト「Yダイレクト」からの通信販売のみ(税込14,800円)というもの。つまり大型ショップや専門店に行っても置いてもいなけりゃもちろん売ってもいないわけで、いわゆる試聴も実物確認もできないのだ。

◆EPH-100画像

品定めができないという困った状況なので、結局は口コミやブログ、メディア情報などを参照するしかない。しかも現時点においてはYAMAHAは宣伝するつもりもないという。玉石混淆な情報が溢れている時代だが、モノが良ければ口コミで商品の良さは広がるという摂理に則るのであれば、EPH-100は間違いなくヒットするだろう。

アルミ筐体は質感も高く、独特な形状はオリジナリティに溢れている。と同時に、装着の容易さと遮音性の確保を見事に両立させており、カナル型としての基本条件をさくっとクリアして、文句なくトップクラスの完成度。かなりエッジの立ったルックスをしているけれど、サウンドの第一印象は意外にバランスが取れた音という印象だ。

そしてちょっと聞き込むと分かるのが、重低音の再生能力の充実度とハイミッドの硬質さ。元気でエネルギッシュなところが好印象で、使うほどに魅力があふれてくる。とはいえ、よくできたバランスで極端な特性に偏るわけでもない。耳に刺さることもなければこもるようなこともない中庸なバランスながら、ちょっぴりやんちゃで、きっちりとハードエッジな質感をもち、控えめにカッコいい。なんちゅーか、例えがいまどきじゃないけれど「都会的」って言うんでしょうか。分かりやすいベタなキャッチコピーをつけるならば「遅れてやってきたブライテストホープ、衝撃の登場」という感じか。

しかしこの小ささでこの重低音とシャッキリ抜ける高域が両立するんだなー…としみじみ。たった6mm口径なのに、近年のダイナミック・ドライバーはつくづく凄い。やっぱりサイズのようなカタログスペックに気をとられるのはばかばかしいことのようだ。

さて、さらに細かくディテールを見てみると、管楽器のピストンを模したような形状内側には小さなポートと思しきスリットが見える。サウンド・デザインに大きく関与していると思われるところだが、確認する限りこれによる音漏れの心配はほとんどなさそうだ。なお、いわゆる2段きのこ形状のイヤピースは5種類付属しているので、ベストフィット・サイズが見つかることだろう。使用感は上々で素直に耳の穴に突っ込むだけでピタッとフィットし、がっつり遮音される。ただ、イヤピースの交換は固くてなかなか大変。何度も交換をしているとハウジングのエッジが指に痛い。ちなみに私の耳の穴は成人男性のごく標準的な大きさらしいが、デフォルトのMサイズよりも一段階小さいSサイズの方がフィット感がよく密閉度が増したように感じた。

ケーブルは柔らかめでしっかりしているが、モソモソとした低音のタッチノイズが乗る。耳掛け(シュアー掛け)することでタッチノイズは簡単に防ぐことができる。YAMAHAの音叉マークはひっくり返ってしまうが、耳掛け自体は何の問題もなく、むしろこの方がハウジングのコードの付け根が耳に干渉しないので好都合だった。多少クセが付くかもしれないが、取り回しはさほど悪くない。

EPH-100のサウンドの心地よさを伝えるには、他モデルと比較するのが一番分かりやすいかと思い、手元のものといろいろと比べてみたが、比較して実は一番面白かったのはモンスターのマイルス・デイビス・トリビュートだった。同じダイナミック型でもSONY MDR-EX1000とは全く違うサウンドだ。

低音の充実ぶりという点では、新製品のUltimate EarsのUE350もコストパフォーマンス抜群の低音キングだが、UE350のほうがEPH-100よりも低域の量が多い分中域が弱く感じる。ド派手なアンサンブルの迫力はUE350の真骨頂だが、ボーカルを表に推し出した一般J-POP/ROCKでは、EPH-100の方が素直なバランスだと思う。

またそうなると、比較したいのがSHURE SE215だが、低域の強さと分解能の高さはEPH-100のほうが一枚上手だ。「細かい分解能はSE535にお任せし、SE215は骨太にロックを鳴らせばいい」と私は思っているので、その中間のイメージに位置するEPH-100は、ちょうど良い美味しさと感じるか、中途半端な味付けと捉えるか、人によって評価が分かれるかもしれない。

EPH-100はゼンハイザーIE8などと比べても非常にクリーンだ。耳に付く付帯音がなく、不純物を感じないので非常にすっきりと透明度が高いのが最大の特徴だと思う。その美しさは中域の表現力に現れていて、ボーカルが妙に生太くなったりもしないし、倍音ばかりが目立つ不自然な押し出し感もない。EPH-100とマイルス・デイビス・トリビュートとの比較で一番面白かったのがここのポイントで、やはりマイルスは中域の表現力がバツグンで、なまめかしさや表現のエロさなどが格段に素晴らしいモデル。まさに中域の表現が両者で好対照なのだ。その上で、低域の量としまり具合や高域の伸びなどは、なかなかどうしてEPH-100はマイルスに肉薄する素性を持ち合わせている。

▲EPH-100の音を確かめるために引っ張り出してきた他社モデル。左上から、Westone4、Westone3.、SHURE SE535、SHURE SE215、マイルス・デイビス・トリビュート、YAMAHA EPH-100、Ultimate Ears UE350、SONY MDR-EX1000。
そして実は、何故かふと思い出したサウンドがWestone3だった。Westone3ほどの肉厚さは持ち合わせていないし、そこまでの分解能でもないし、熱血漢の塊のようなパッションあふれる感覚でもないけれど、EPH-100からにじみ出る「クールになりきれないどこか血のたぎるようなロックな要素」が、Westone3を思い起こしたのかもしれない。そこから私の空想は広がって、「今回のEPH-100が14500円なら、次はEPH-1000と品番を一桁上げて35000円で発売して欲しい」という妄想劇場に進展。きっとその音は「MDR-EX1000のような繊細さ」を持ち合わせた大暴れ野郎で、「マイルスのような体力」を持ちながらもデリケートな分解能を誇るという、待っていましたというポジションの予定。好敵手は上質フラットなWestone4でもなく濃密ソリッドなSHURE SE535でもなく、ずばり暴れん坊将軍Westone3。んー、めちゃめちゃワクワクする。妄想だけど。でも嬉しい気分にさせてくれるEPH-100の完成度と、この次の可能性をも期待させてくれる伸び代を感じさせるポテンシャルの高さは、EPH-100から受け取った嬉しいメッセージだ。

遡ること数十年…ヤマハの温かいサポートを受け、私はギターのエンドースをさせてもらったりエフェクターの新製品のデモ演奏で全国を行脚したりと、ライブからイベント、レコーディングに至るまで、ヤマハのサウンドを常に身近に置かせていただいた経験がある。常に一本筋の通った“YAMAHAの音”というものを長年にわたって体験させてもらったが、日本人気質を最大の武器に安全係数を一桁上げて作りこむ誰も追従できない孤高の設計思想が、カナル型ヘッドホンという商材にこれほどハマるとは、考えたこともなかった。

YAMAHAの新製品に夢を見る、まさかの2011年。メイド・イン・ジャパン、ばんざい。メイド・バイ・ヤマハ、ぐっじょぶ。日本はまだまだ頑張れる。ヘッドホン/イヤホン・マニアの殿方よ、日本復興の謳歌をEPH-100で鳴らそうじゃないか。

text by BARKS編集長 烏丸

注:文中に「メイド・イン・ジャパン」との記載がありますが、実際の製造工場は中国にあり、商品はすべてmade in Chinaとなります。ご了承ください。

●YAMAHA EPH-100
・型式:密閉ダイナミック型
・ドライバー口径:6mm
・インピーダンス:16Ω
・出力音圧レベル:104dB ±3dB
・再生周波数帯域:20Hz~20kHz
・プラグ:3.5mm L型ステレオミニ
・コード長:1.2m
・質量:15g
・付属品:変換プラグ(6.3mm)、延長ケーブル(2m)、イヤピース 5サイズ(SS、S、M、L、LL 各2個)、キャリングポーチ
◆EPH-100オフィシャルサイト
◆YダイレクトEPH-100販売サイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー
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