【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話031「音楽は、動植物のみならず微生物にも必要なのです」
「いい音とは?」というコラムでは量子力学とか言い出しちゃったので「こいつヤベえやつ」と思われたかもしれない。以前は興味なく気にもしなかったことが続々と気になる。ヤバいかな。
科学は「なぜ?」「なに?」という疑問や不思議、好奇心からそれらを探求しようと研究がスタートするものだと思うのだけど、逆に言えば疑問に思わないどころか存在にも気付いていないモノは、そもそも研究の対象にならない。つまりは五感で認知できる範囲以外に関しては、研究が後手に回ったという歴史がある。
音楽もそうだ。人間の可聴域はせいぜい20~20,000Hzが限界なので、その音波を鼓膜でキャッチし聴覚で楽しんでいるものと思っていたけど、そもそもの音楽が必ずしも20~20,000Hzに収まっているわけでもなく、ことアコースティック楽器のアンサンブルなどには、20,000Hzを超え20~60,000Hzほどの広帯域なサウンドで構成されている音楽もある。バリのガムランなどはその典型例だけど、耳では聴こえないので超高域…20,000Hz~60,000Hzの存在には気付かなかったというわけだ。きっと犬とか猫とかコウモリとか虫には聴こえていたんだろうけれど。自然の環境音などは、例えばジャングルの中なんて200kHzを超えるような芳醇な広帯域で満たされているらしいし。
で、聴こえていない20kHz~60kHzといった高周波は、人間の脳のα波を誘発すると同時に、脳幹や視床の神経活動を活性化させ、結果的に報酬系と言われるドーパミン神経系を刺激する要素であることが、2000年に米国生理学会のジャーナル・オブ・ニューロフィジオロジーで明らかにされている。いわば、その高周波音域は音楽の旨味成分であることを示唆するものでもあった。
耳には聴こえないのにどうやって受容しているのかといえば、それは体表面…つまり皮膚であることも明らかとなっており、体表面から受容された高周波情報は直接脳幹への刺激として送られている。資生堂による研究では、傷ついたマウスの皮膚に高周波の音を当てると皮膚の防御機能が高まる(皮膚を守るための分泌物が促進される)ことが突き止められ、皮膚科専門の学術誌で報告されている。高周波が肌深層の毛細血管に働きかけるものと思われるが、高周波を含んだ音楽を身体中で浴びることが直接的に健康に関わるであろうことを暗示させる文献でもある。
そして近年、音は動植物のみならず、自然界に重要な役割を果たしている微生物にも影響を与えている事がわかってきた。微生物生態学者のジェイク・ロビンソン博士(フリンダース大学)らの研究によって、音響刺激が土壌微生物の成長を促進させる事実が明らかとなっている。
つまりは、適切な「音楽」が土壌改良を促進し植物をより健康的に育てるという、まるで子供だましのファンタジーSFのようなことが当たり前に起こりえることを示している。植物がすくすくと育つために大切な光・風・水・気温・土壌…さらにそこに音楽が加わっているなんで、こんな新事実、わくわくが止まらんわ。サボテンに話しかけると元気に育つというけれど、オカルトではなく科学的根拠が明らかになる未来も見えてきた。
「音楽には力がある」と、アーティストは口を揃えてそう主張する。そして我々オーディエンスもそれを知っている。そして今、それが少しずつ科学で証明されようとし始めている。まだ見ぬユートピアにとって音楽が重要な1ピースになることは疑う余地もない。耳では聴こえない高周波を含め「音楽は、微生物から虫、植物から大型動物まで、全ての生きとし生けるものに欠かせないもの」…これが真実なのだ。テンション上がるわ。
「そんなに高周波が大事なら、音声再生機器を改良すればいいじゃんね」と思うのだけど、そうもなかなかうまくもいかないようで、高周波を鳴らすには空気は粘度が大きすぎて、いわば水の中でうちわを仰ぐような挙動になるらしい。振動板がまともに動かないわけだ。また高周波は直進性が強いことも実用レベルのプロダクト設計の障壁になる。100kHzから200kHzという高周波をぎゃんぎゃん出している小動物や虫から「なんだ、そんな事もできねえのか」って言われそう。そういう意味では、人間様はまだまだ未熟なんですね。
文◎BARKS 烏丸哲也
◆【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話まとめ
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