【BARKS編集部レビュー】Astell&Kern AK10、超コンパクトハイレゾDAC/AMPの実力は?
振り返ること1年前の2012年11月、ハイレゾ対応ハイエンドオーディオプレイヤーAstell&Kern AK100の登場は鮮烈だった。その後もアグレッシブなファームウエアのアップデートが積み重ねられ、使い勝手の向上のみならず、対応フォーマットの拡大からギャップレス再生対応、USB DAC機能の搭載まで、その完成度は日を追うごとに増すというエキサイティングな成長を遂げていった。
◆Astell&Kern AK10画像
そして驚愕のスタジオクオリティを実現した上位機種AK120の発表で、Astell&Kernはハイエンド・プレイヤーの市場を世界中でひっくり返すこととなる。同時にバリエーションモデルや周辺機器、ハイレゾ音源自体も多数創出し、安定した評価と信頼を獲得する1年となった。そんなAstell&Kernが今回突如発表したのがこのAK10である。コンパクトなのは名前だけではなく、実物のサイズもキュートでiPhoneの半分にも満たない。
PCにつなぐ場合は、同梱のUSBケーブルでPCにつなぎ、AK10の電源をONにする。PCでiTunesやfoobar2000、Windows Media Playerなど任意の音楽プレイヤーで再生すれば、PCのヘッドホンアウトとは次元の違う高品質サウンドがAK10から飛び出すことになる。いわゆるUSB DACという機能だ。理屈は簡単で、格納されている音楽デジタルデータをAK10が受け取り、AK10がアナログ変換&増幅という要の作業を担うというもの。PCが行うアナログ変換&増幅は残念ながら高品位ではないので、純粋にサウンドクオリティが大きく向上する。
もうひとつの使い方、スマホにつなげるというのがポイントで、今回発表されたAK10のすごいところは、第5世代iOSやAndroidデバイスにケーブル1本で簡単につなげられるところ。しかも異例のコンパクトさ。携帯性を損なわずにAstell&KernのHi-Fi音質が実現するという夢の様なアイテムなのである。ことiPhone5シリーズに関しては、Lightningコネクター直結で即DACとして稼働する機動性には何にも代えがたい魅力がある。私、iPodやiPhone4Sを使用する場合はフォステクスHP-P1をつなげて同様の音質向上を図っている…のだけど、このサイズの違いはなんなんでしょう。「技術革新ぱねぇ」、とでも言うべきか。
さて、実際にiPhone5につなげ、そのサウンドを聴き比べてみた。
iPhone5直のサウンドとAK10経由のサウンドはどちらもきれいなフラットで、トーンに大きな色付けなどは行なわれておらず、音色やトーンバランスという意味では劇的なサウンドの変化は表れない。…が、本質はそこではない。AK10から出力されるひとつひとつの音の分離が全くの別次元なのだ。
この辺りはドラムとベースにギター、そしてボーカルがいっぺんに乗るシンプルで分離の良いロック・アンサンブル…例えばグリーン・デイのようなサウンドを再生してみるとわかりやすい。もちろんiPhone直でも充分に優れた音質で、普通に聞く分には不満はないし問題を感じるようなこともないだろう。ただし、それをAK10経由で聴いてみると、ひとつひとつのサウンド構成要素の粒立ちが目に見えるように響いてくる。キックがどういう音質を持ってどのようなビートを刻み、ベースの帯域がキックに対してどれくらいの位置にいるのかが、まるで目に見えるように露わに際立ってくる。それが例え注意を払わなければ見逃しそうな小さな変化だとしても、音楽の構成図がサウンドとともにあぶり出されてくる様子は実に劇的な変様で、音楽の深遠さや表情の向こう側の匂いはその中に潜んでいたりする。感動や作品から感じる驚愕や畏怖の念も、そこから沸き立つものだったりする。
スネアにかけられたリバーブの細かいニュアンスが汲み取れるだけで、アンサンブルが繰り広げられる空気感そのものが伝わってくる。表現としてはチープだけど、まさにサウンドが立体的に3Dになったかのようで、それまでの平面的なサウンドに厚みや奥行きがぐんと出てくるのもAK10の高品位サウンドによる大きな効能だ。…というか、アンビエンスを含めそこにあった世界観はそもそもサウンド・ディテールに含まれていたものなのだけど、その微細なニュアンスまではiPhone単体では引き出されていなかった、ということでもある。
単にBGMとして身体の周りに音楽を漂わせるにはスマホ単体だけでも十分だけれど、音楽に対峙し楽しもうとアーティストの息遣いに耳を澄ませると、iPhoneのサウンドからは何の表情も汲み取ることが出来ない。この埋められない差を一発で解決するのがAK10の存在意義だ。
表現力という点においてこの差は歴然だが、遮音性の低い安価なイヤホンではボトルネックがイヤホンに移り、その差を汲み取ることもできなくなるだろう。当然、微細な違いもきっちり描き出すような品質の高いイヤホンが欲しくなるという副作用の発生にもご注意を。
リスニングにおける価値観をどこにどれだけ見出すかという問題だが、私がミュージシャンだとしたならば、自分の音楽は是非AK10のサウンドで聞いてほしいと強く願うことだろう。言われても気付かないような細かなニュアンスにこだわり微細な表現を積み重ねての音楽表現がそこにある以上、それらを汲み出して音としてアウトプットしてくれる機器はぜひ持っておいてもらいたいとも思う。
AK10は、スマホやiPhone5シリーズを一瞬にしてハイエンドプレイヤーAK100と同等のサウンドにグレードアップしてくれる。AK100にはメモリースロットの充実による音楽の持ち運びなどの優位性は残されているものの、最大のアドバンテージだった高品質サウンドがiPhoneにさくっと奪われたような感覚で、AK100ユーザーとしては、正直ちょっとばかりジェラな気分。しかも自宅ではUSBとつなげればPC内のサウンドも全て高品質に聞くことができてしまい、コンパクトなPCオーディオ環境までもが手に入る。
AK100の魅力の根幹をズボッと抜き出しiPhoneに合体させるなんて、AK100のユーザー心理からすると反則行為にも見えるけれど、iPhoneで音楽を聞いている人が、本当にいい音がほしいと思った時、AK10は最高にいい仕事をしてくれる事だろう。iPhone5とAK10との合体によって出来上がった連携プレイヤーに名前をつけるとすれば、Apple&Kern iP100って感じかな。AK10はiPhoneをスーパープレイヤーに大変身させてしまう、まさかのドーピングアイテムなのです。
text by BARKS編集長 烏丸哲也
●Astell&Kern AK10 ブラック
2013年11月8日(金)発売
直販価格:29,980円(税込)
・クイックスタートガイド、取扱説明書、製品保証書、AK10 USBケーブル、AK10 Lightningケーブル、AK10専用バンド付レザーケース付属
・携帯性を損なわない最小クラスの超コンパクトボディを実現:デジタルアウトが可能な機器と接続し、D/A変換を本体とは別で行い高音質化するDAC内蔵型ポータブルヘッドフォンアンプとしては、手の平に収まる最小クラスの超コンパクトボディを実現。スマートフォンと一緒に持ち運んでも小さく、軽く、スタイリッシュに使えます。
・高品位ハイエンドDAC「WM8740」を搭載:Astell&Kern AK100やAK120でも採用している高品位ハイエンドDAC、Wolfson社製「WM8740」を搭載。更にAK100やAK120で培ったアナログ回路技術やアンプ技術を惜しみなく注ぎ、WM8740の持つ深く豊かなサウンドをストレートに引き出し、10Hz~20kHz偏差±0.02dBの周波数特性、S/N比110dB、クロストーク106dB、THD+N 0.008%という極めて高いオーディオ特性を実現。非圧縮はもとよりMP3等の圧縮形式であっても音源の持つ豊かな情報量を最大限引出してありのままに再生する“Astell&Kern”のHi-Fiクオリティサウンドをスマートフォンでも手軽に楽しむことが可能。
・スマートフォンからのデジタル/ダイレクト接続に対応:第5世代iPhone/iPod TouchのLightningコネクターから付属ケーブル(MFI認証取得)で接続して再生するだけで、音楽データ(最大48kHz/24bit)をAK10にダイレクトにデジタルで入力、AK10の高品位なDAC/アンプを利用してAstell&Kernならではのハイクオリティなサウンドに変換。また、AndroidデバイスからmicroUSBで接続して楽しむことも可能。
※付属のLightningケーブルは、AK10専用。
※Androidデバイス用AK10専用microUSBケーブルは別売。
※本製品はiPhone/iPod Touch第5世代にプリインストールされている標準ミュージックアプリをベースに開発/チューニング。その他ミュージックプレーヤーアプリ使用の場合、全ての動作を保証するものではありません。
・最大96kHz/24bitのUSB-DAC機能:AK10と付属USBケーブルを使用してPCやMacと接続することにより、最大96kHz/24bitのハイレゾ音源に対応した手軽なUSB-DACとして使用可。CD音源を高解像度再生できるだけでなく、ハイレゾ音源もネイティブに楽しむことができる。
※付属のUSBケーブルは、AK10専用。
・アルミ大径ボリュームキーを採用:アナログライクな操作が可能なアルミ大径ボリュームキーを採用。ロックが可能なスライド式ボリュームロックキーも搭載。本体横に巻き戻し・再生/停止・早送りができるサイドコントロールキー搭載。
・約11時間の連続使用が可能(※iPod Touch第5世代接続時/M4Aスタンダード/44.1kHz/16bitの場合)。
◆Astell&Kern AK10オフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル
BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●フィリップス Fidelio M1(2013-10-22)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)
◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)
■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)
■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)
◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)
◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)
●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)
◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)
◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)
◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)
◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)
◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)
●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)
●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)
■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)
◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)
◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)
◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)
◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)
◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)
■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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