【BARKS編集部レビュー】SHURE SE215は、何故にこんなにスゴイのか?
「どうせならもうちょっといいイヤホンが欲しいなぁ…」と、付属のものからグレードアップを図るとき、対象はおおよそ3000円というのが一般的な予算感だとか。確かにその価格帯はバリエーションも豊富で選り取り見取り、標準付属のものとは雲泥の差で音もぐんと良くなり大きな満足感が得られる幸せの瞬間だ。
◆SHURE SE215画像
断線やトラブルにさえ見舞われなければ、多くの人は満足のままそれを愛用していくわけだが、中には「もっとお金を出せばもっといい音がするのか?」と、高級モデルへ興味を示す輩が現れる。実際その通りなので、手を出すと見事にはまり「これはすげえ、ならあれは?」と、更なる快楽を求めようとする。多分ここがひとつの分岐点で、3000円の壁を越えてしまうと、その後はヘッドホン地獄…もといヘッドホン・パラダイスが広がっている。「色んないい音」があることを知り、各ブランドのフラッグシップ(おおよそ3万円~6万円)を手にする頃には金銭感覚も崩壊し、「2万円なら安いよねー」などと寝ぼけたことを抜かすようになる。
そんなヘッドホンジャンキーにならずに済む特効薬が現れた。このSHURE SE215である。SHUREの中ではエントリーモデルに位置するSE215だが、これがあまりに素晴らしいので、3000円の壁を越えてしまいそうになったら、盲目的にSE215を手にしていただきたいのだ。
1万円でおつりが来る価格だが、王者SE535から譲り受けた直系の素性を誇るSE215は、使用感・サウンド・質感からメンテナンス性に至るまで、群を抜いた驚きの完成度を誇る。1万円以下とはとても思えない見事にバランスの取れた心地よい音世界を持ち、一聴しただけでその凄さが実感できるだろう。このゴキゲンなサウンドに不満を持つとも到底思えず、不満もなければ不安もないので、これ以上のものを求める心の隙間が生じない。そう、悪夢のヘッドホン・スパイラルから間一髪で救い上げてくれる救世主がこのSE215なのである。よかったよかった。
2011年4月下旬に発売されたばかりのSE215が、何故にそんなにすごいのか。
あくまで私の個人的見解だが、極論を言えばSE215は、SE535という最高峰モデルをアレンジしただけのものだからだ。つまり、エントリーモデルのくせに素性がトップグレードなのだ。
イヤホンの心臓部には大きくBA型とダイナミック型という2種類がある。テレビで言えば液晶かプラズマかのようなもので、それぞれに特徴があり優劣を語るものではないが、実は決定的な違いがひとつある。コストが全く違うのだ。実売平均価格45000円のSE535はコストを度外視しBA型で考えうる最高のサウンドを作り上げたフラッグシップモデルだが、その素性をなんら変えることなく心臓部だけをダイナミック型に差し替えたというのがSE215であると解釈できる。
そんな素性…生い立ちだから、設計思想には奇をてらうところもなく、ツカミを求めるような派手な演出・チューニングもしない。あくまでSHUREらしく質実剛健に、実直なまでの音作りに徹するというポリシーがフラッグシップと同レベルで貫かれている。開発に要する労力は、エントリーモデルとして適切なダイナミック型のドライバーを選定/設計し、そのチューニングに専念するだけで済むというわけだ。
筐体のサイズを最適化させ、SE215は脅威のサウンドを持って誕生してきた。モデル名を刻印ではなく印刷にし、付属チップを必要最小限に抑えパッケージも簡素にまとめることでコストを抑えるといった企業努力も見え隠れする。一方で、本体やサウンドに直結するところにはコスト削減の手を入れないのが、SHUREが一流たるゆえんであろうし、このサウンドを保つ秘訣にして基本ポイントであると思う。
フラッグシップSE535とエントリーSE215のサウンドは、BA型3ドライバーかダイナミック型かの差異だけと言ってしまいたい。前者ならば4~5万円強、後者ならば1万円弱ですよ、ということだ。
十分に響きながら過剰な演出を排除したローエンド、ミッドの抜けのよさも別格で、キレの良い高域も必要にして十分。一流ブランドSHUREの精神性が脚色なく注ぎ込まれたモデルが末っ子SE215である。他高級モデルを愛用しているヘッドホンジャンキーにも、SE215はお薦めしたい。エントリーモデルながら、SHUREというブランドの底力とぶれない美学が最も色濃く反映したモデルだからだ。
名機というものの誕生の瞬間に立ち会える機会などそうそうあるものではないが、SE215発売の2011年4月は、間違いなくひとつの歴史が刻まれた記念すべきポイントとなった。
text by BARKS編集長 烏丸
SHURE SE215
スピーカタイプ:ダイナミック型MicroDriver
感度(1kHz):107 dB SPL/mW
インピーダンス:20 Ω
再生周波数帯域:22Hz - 17.5kHz
コードの長さ:162cm
色:クリアー、トランスルーセントブラック
付属
・キャリングケース
・ソフト・フォーム・イヤパッド(S/ M/ L)
・ソフト・フレックス・イヤパッド(S/ M/ L)
◆SHURE SE215オフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル
BARKS編集長 烏丸レビュー
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事の関連情報
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話036「推し活してますか?」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話035「LuckyFes'25」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話034「動体聴力」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話033「ライブの真空パック」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話032「フェイクもファクトもありゃしない」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話031「音楽は、動植物のみならず微生物にも必要なのです」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話030「音楽リスニングに大事なのは、お作法だと思うのです」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話029「洋楽に邦題を付ける文化」
【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話028「AI YOSHIKIから見る、生成AIの今後」