世代を超えて愛される「うた」がある。歌唱したい「うた」がある──。

◆本人による歌唱アドバイス 動画

演歌・歌謡曲シーンから注目の作品を毎月紹介する連載企画「いま、聴きたい演歌・歌謡曲（本人歌唱指導付き）」の第15回目。

今回は男性歌手をフィーチャー。北川大介「北の街 函館」、一条貫太「凪か 嵐か」、まつざき幸介「砂時計」、戸子台ふみや「寒い国から来た手紙」を紹介する。
（協力：日本クラウン）

■北川大介「北の街 函館」

リーゼントがトレードマークの北川大介。キャリアは25年を超えて、もはやベテランの域に入ったが、近所の兄ちゃんのといった感じの親しみやすさは健在だ。

1年ぶりとなる新曲は、タイトル通りの函館を舞台にした追憶のムード歌謡。咽び泣く哀愁のブロウテナーは函館ならではのロマンを奏でているかのようだし、ふわりと浮き上がるようなアレンジは、飛行機で飛んでいく感覚をサウンドで表したものだろう。作り手のプライドが感じられる名人芸のような編曲だ。カップリングの「夢を背負って突っ走れ 」は、コンサートで盛り上がること必至のロックンロールな歌謡曲。「大ちゃん」と北川の名前が入れ込まれていることから、お客さんとみんなで歌うことを考えて作られたものだろう。これぞプロの仕事！って感じがする。

■一条貫太「凪か 嵐か」

北島三郎や鳥羽一郎を尊敬するという、デビュー8年目の歌手。革ジャンを着て男の演歌を歌い続けてきたが、28歳になって顔つきもだんだん厳つくなって、貫禄がでてきたか。

23年と24年は、「男の漁場」「大漁太鼓」と海の男を描いた歌を歌ってきたが、三部作ということなのだろう、今回の「凪か 嵐か」も荒海を乗り越えていく男の歌だ。ただし、これは人生の荒波を例えたものといった方がいいかもしれない。ロッキンなアレンジも力強い。カップリングの「貫太のどっこいソーラン」は民謡の「ソーラン節」をベースにしたオリジナル曲。伊藤多喜雄の「南中ソーラン」をさらにモダンでダンサブルにした感じなので、運動会などではソーラン節の踊りにヒップホップダンスなどを加えて踊ってみるのもはまりそうだ。両曲ともアレンジには遊び心があり、ダンサブルな4つ打ちのリズムから入るのが新しい。若い人にも親しみやすいだろう。こう言った音楽的な実験は大歓迎だ。

■まつざき幸介「砂時計」

シルキーでセクシーな唯一無二の歌声を持つまつざき幸介。実は現在60歳と声からは想像もつかない年齢で驚くが、還暦になっても声が荒れたり低くなったりしないのはそれだけで大きな強みだし、個性だ。

2008年のデビュー以降、シンガーソングライターの小田純平の曲をメインに歌ってきたが、今回は久々のカバー曲。「砂時計」は小田純平にも同名の曲があるがそれではなく、今は亡きジュンイチロー（浜 淳一郎）がオリジナル。千葉山貴公ほか、いろんな人に歌い継がれてきた名曲だ。カップリングは小野サトルの「NAGASAKI物語」。小野サトルはデビュー曲の「よこはまチャチャ」が有名だが、これは自分で曲を書くようになったシンガーソングライター時代の作品。両曲とも繊細でドラマティックなメロディを持った楽曲で、まつざきのために書かれたかのように見事な相性で、包み込むような情感たっぷりの歌唱を聴かせている。両曲とも若草恵による名人芸のようなアレンジも聴きどころ。これだけのものを聴かされると、オリジナルにこだわらずに、声の個性に合わせて選曲するソングスタイリスト的なスタンスの活動もアリかもしれないと思ってしまう。

■戸子台ふみや「寒い国から来た手紙」

札幌出身、デビュー5年目。ふくよかな体型とシュッとしたスーツ姿に黒のセルフレームの眼鏡という、あまり演歌歌手っぽくないギャップが妙にコミカルな25歳。着物、似合いそうなんだけどなぁ。

5枚目となるシングル。「寒い国から来た手紙」といえば、泉谷しげるの同名曲が有名だが、これはオリジナル曲。大瀧詠一「さらばシベリア鉄道」を演歌の感性で換骨奪胎したような楽曲で、大御所・岡千秋による曲も、円香乃の歌詞も、そしてアレンジまでもどこか大瀧に近い世界観を感じる作りになっている。実は昨年リリースされた1stアルバム『北の町から愛を込めての』中で同曲をカバーして少し話題になっていたので、その世界観のオリジナル曲をというコンセプトがあったのかもしれない。こうやってジャンルをはみ出していくのは実に面白い。カップリングの「春夏秋冬おかげさま節」は民謡調の明るい調子の曲。こういう曲を歌ったときにどこかコミカルに聴こえるのはこの人の個性なのかもしれない。

文◎池上尚志