【インタビュー】由薫、海外クリエーターとの共同制作が呼び覚ました本能と原点「心が喜ぶことを大事に」

由薫が3月12日、EP『Wild Nights』をリリースした。同EPには2023年7月、単身スウェーデンに乗り込んで現地アーティストとコライトした楽曲5曲が収録されている。Netflix独占配信アニメ『BEASTARS FINAL SEASON』Part1のエンディング主題歌「Feel Like This」をはじめとする楽曲は、洋楽テイスト香るサウンドが新しく、前EP『Sunshade』との対比が独創的な仕上がりだ。
◆由薫 画像 / 動画
「Feel Like This」「1-2-3」をコライトしたデヴィッド・フレンバーグ(David Fremberg)は嵐やNISSY、NCT Dreamなどの楽曲制作で知られるほか、「Dive Alive」をコライトしたルーカス・ハルグレン(Lukas Hallgren)はMISAMOやDa-iCEなどの楽曲を手掛け、エリック・リボム(Erik Lidbom)、マグナス・フュニミール(Magnus Funemyr)、グスタフ・マレド(Gustav Mared)といった面々もJ-POPやK-POPなどアジアマーケットで辣腕を振るう著名クリエイターだ。
海外クリエイターとの現地共同作業は由薫のアーティストとしての本能を解き放ち、英語もふんだんな作詞は巧妙な遊び心が秀逸な仕上がりをみせた。アーティストを志すきっかけにも触れられた1万字のロングインタビューをお届けしたい。
◆ ◆ ◆
■スウェーデンの楽曲制作って数学的
■音を組み立てていく感じなんです
──EP『Wild Nights』は収録全曲が海外アーティストやプロデューサーとのコライト作品となりましたが、どういった経緯で制作されたものですか?
由薫:収録曲のデモを作ったのが一昨年夏ことで。
──スウェーデンへ単独渡航して現地アーティストと楽曲制作したときですね。配信シングル「Crystals」リリース時(2023年)のBARKSインタビューで、「スウェーデンで制作した楽曲をいつか1枚にまとめたい」と言っていましたが、それが満を持してEPとしてリリースされるという。
由薫:スウェーデンでたくさん曲ができてしまって、当時は逆に、“これをどんなふうに発表したらいいんだろう”という課題があったんです(笑)。その時点では曲はできたものの、まだどんな歌詞を書くかも見えてなかったですし、できた曲が海外サウンド色の強いものだったので。だから、まずは“これが由薫というものの結晶”というような作品を作ってから、その対比として『Wild Nights』を発表したいと考えていたんです。
──前EP『Sunshade』が由薫さんの結晶のような作品であり、その対比が新たなEP『Wild Nights』であると。
由薫:J-POPの優れたところに注目して、それを意識して書いていたものが『Sunshade』。『Wild Nights』は全英語詞の曲があったり、サウンドが洋楽的だったり。この二作でコントラストを出すというコンセプトで、実は対になっているんです。


──そういうことだったんですね。収録曲について聞いていきたいのですが、1曲目の「Feel Like This」は、Netflxシリーズ『BEASTARS Final Season』Part1のエンディング主題歌に起用されましたが、制作はどのように?
由薫:全英語詞の曲なんですけど、それは『BEASTARS』制作サイドから「英語詞でお願いします」というお話をいただいたからで。『BEASTARS Final Season』は世界同時配信のNetflixシリーズだったので、英語詞が求められたんだと思うんです。ただ、日本で放送されるアニメ主題歌を英語詞にするって、結構すごい挑戦というか。英語で歌ってもいい時代になったことに、時代の移り変わりを感じましたし、それ自体カッコいいことだなと思いました。
──英語と日本語の両方で表現ができる由薫さんに白羽の矢が立ったということでしょうね。トラックは、スウェーデンで制作したものですか?
由薫:「Feel Like This」はスウェーデンで作った曲の中でも、自分にとって意義深い曲であり、ひとつの到達点になった曲でもあります。というのも、イメージを具現化することが一番上手くできたし、お気に入りの曲でした。タイアップに決まったのはたまたまだったんですけど、すごく嬉しかったです。
──コライトしたデヴィッド・フレンバーグ(David Fremberg)さんとの作業は、スウェーデンでどのように進行したんですか?
由薫:お互いのことを何も知らない“初めまして”の状況だったんですけど、デヴィッドさんのスタジオにお邪魔して曲を作ったんです。まず“どんな曲を作りたいのか”を話して、コードの探り合いをして、その後でメロディを組んでいくという感じでした。
──日本での制作との違いはあるものなんでしょうか?
由薫:スウェーデンの楽曲制作って、“メロディを組む”という言い方が正しいくらい数学的というか。音を組み立てていく感じなんですね。ほかの方々との制作はそうだったんです。ところがデヴィッドさんは結構ロックが好きな方で、ニュアンス重視というか。

──そのロック感はデヴィッドさんと作ったもう1曲の「1-2-3」に顕著です。
由薫:はい(笑)。「もう好きなようにやればいいじゃん」っていう感じだったので、私も好きなメロディを好きなように歌っていったんですけど、そのときに改めて音楽の楽しさを感じたというか。本能的に好きなように……もちろん考えることも大事なんです。だけど、考え過ぎるところから外れた瞬間に開放感があったり、音楽って楽しい!っていうピュアな気持ちが湧いてきたり。それをそのまま曲にしたら「Feel Like This」ができた。「Feel Like This」っていうタイトルは最初からあったもので、“こんなふうに感じる”っていう言葉は、音楽って楽しいっていうその気持ちから出てきたタイトルなんです。
──まずコード進行とメロディを作り上げてから、トラック部分を詰めていった感じですか?
由薫:そうですね。最初の3時間くらいでほとんど今の形になっていたので、残りはデヴィッドさんにお任せしたんですけど。とにかくデヴィッドさんのスピード感にはびっくりしましたね。
──いいセッションだったんでしょうね。
由薫:なんていうか、子どもたちが遊んでいるうちに仲よくなる感じに似ていて。音楽を頑張って作ろうとするなかで、お互いの好き嫌いが滲み出てきて、絆が生まれて、仲よくなるみたいな感覚でしたね。
──歌詞を書いていくにあたっては、『BEASTARS』というアニメ作品を意識しましたか?
由薫:曲の成り立ちや“こんなふうに感じていたい”っていうポイントはそのままに、歌詞の内容的にはアニメにも沿っているんですが、より遊び心を持って書けたと思います。英語詞だから伝わりづらい部分もあると思うんですけど、たとえば1番Aメロは、アニメの登場人物であるレゴシとハルを想像しながら、二人の関係性を表現したいと思って。狼のレゴシは獣としての本能があって、それをなかなか抑えられない場面もあるんです。
──なるほど。
由薫:『BEASTARS』の住民はみんな抱えているものがあって。肉食動物は理性で本能を抑えることを頑張っているし、草食動物は自分が弱い立場にある……平等なはずなのに言語化できない弱さを抱えている。そういう背景から、たとえば歌詞にある“My heartbeat goes on rising”は、胸が高鳴る感じと、野生的に心拍が上がる感じを想像させたり。普段は歌詞に使わない“die”…死という直接的な言葉も本能的な感じがするかなと思って、あえて使ったり。あとは1番Aメロに“But I really want you / I want you to see it the way I do”って歌詞があるんですけど。“want you”で区切ることで危うさを出すというか。“君が欲しい”と言ったのかと思ったら、“本当は君にこうして欲しい”の“欲しい”だったという。
──二重の意味を含んだ歌詞になっていると。
由薫:狼であるレゴシがうさぎであるハルを好きでいることの危うさ……好きという気持ちなのか食べたいという気持ちなのか、みたいな危うさは随所で感じてほしいと思ったんです。サビに“I keep walking on”という歌詞があるんですけど、その裏で歌詞にはしてないですが“Run Run Run”というコーラスが入っていて。“Run”には走るという意味もあれば、逃げろっていう意味もありますよね。英語という言語が織りなす表裏一体の感じや、捉え方によっては意味が真逆になっちゃう危うさを遊び心として入れているので、書いていて楽しかったです。
──そうした表裏一体の遊び心を散りばめたなか、テーマに置いたものや、由薫さん自身が軸にした思いはどういったことですか?
由薫:アニメと自分自身について考えたときに共通したものは、どう感じて生きていきたいのか、どんなことを大切にして生きていきたいのか、ということで。誰しも“これをやってると心底楽しい”っていうものがあると思うんです。私にとってそのアンサーは音楽だし、レゴシたちにとっては好きな相手だったり、自分の信念だったりするかもしれない。人それぞれだと思うんですけど、自分が心から嬉しさとか喜びを感じられる瞬間って、理性と本能でいえば本能にある気がして。

──一方で、本能だからこそ追求する上でいろいろなジレンマもありそうです。
由薫:“本当はこれをやりたいけど、現実的に考えてこっちを取ろう”という選択をみんながしていると思うんです。だからこそ世界がうまく回っているところもあるでしょうし。でも、現実的なことだけを大事にし過ぎて、それを理由に、自分が本当にやりたいことや好きなことを見失ってしまうことって、少なからずあると思っていて。例えば音楽をやっている私も、メジャーデビューして仕事にしたからには、“あれをやりたい/これをやりたい”という自分の欲求だけじゃなくて、いろんなことを考えながら曲を書いていたりする。その“いろんなことを考えながら”っていう部分が強くなりすぎちゃうと、楽しくなくなっちゃいますよね。だから今一度、本能だったり、心が喜ぶことを大事にしないといけないよねって意味で、“Feel Like This”という言葉が自分の中から出てきたということもあります。
──それは単身スウェーデンに渡って、音楽制作するなかで気付かされたことですか?
由薫:そうですね。スウェーデン滞在中、ほぼ毎日制作していて。毎日違う現地ミュージシャンの方に会って、1日1〜2曲書くという作業を繰り返しているうちに、“このメロディはさっき使っちゃったな”とか“このメロディはインパクトが弱いから使えないかな”とか、形式的なことを考えるようになっていって。それは大事なことだし、いい勉強だったんですけど、そういうことに疲れちゃって(笑)。考える脳みそがショートしていた最終日くらいのタイミングで、たまたまデヴィッドさんとの制作になったんです。デヴィッドさんがエレキギター持ちながら、「もう好きなようにやっちゃいなよ」って言ってくれて。「じゃあそうします」って作ったのが「Feel Like This」。
──グッドタイミングだったわけですね。
由薫:スウェーデンでいろいろな方々と曲を作って、それぞれにポリシーがあって、学ぶこともたくさんあったんです。すごく身になる経験でした。でもその最後に、難しいことは一旦置いておいて、好きなように曲を作るっていう。そういう一連の流れの果てにできた曲だったんですよね。だからお気に入りなのかもしれない。
──スウェーデンからのいい手土産になりましたね(笑)。
由薫:楽しかったですね(笑)。
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