【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話038「蛍の光」

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ダイソーの閉店音楽って知ってますか?「Good Day~閉店の音楽~」というオリジナル楽曲です。「ハッピープライスパラダイスー♪よいしょ」ってあれじゃないですよ。

もともとは閉店時間が近づくとお約束の「蛍の光」(「別れのワルツ」)を流していたのだけれど、閉店時間を知らせるにとどまらず、どうにも「そろそろ帰ってくださいね」という強制的な印象を感じるとの否定的な意見も寄せられていたんだとか。外人のお客さんも多いダイソーだけど、そもそも日本の文化圏で育っていないインバウンドの人達は「蛍の光」=閉店という認識もないため、まったく効果がないという残念な現実もあったらしい。

ということで、言語を超えてさり気なく閉店であることを促す楽曲を作りましょうということで、完成した楽曲が「Good Day~閉店の音楽~」。オーボエのメロディにハープのアルペジオ、ゆったりした曲調はリラックスしながらもどこかちょっぴり寂しげな郷愁を誘う感じのインストゥルメンタル楽曲だ。

「お店から出る時間ですよ」などという威圧的な印象は持たれず、気持ちよく帰ってもらう効果をもたせるためにはどんな楽曲を作ればいいのか、USENと早稲田大学マーケティング・コミュニケーション研究所と共同で入念な調査研究を行い、事前調査と分析とともに作られた科学的な楽曲だという。心理学領域から五感に訴えるセンサリー・マーケティング理論に基づく手法で、お客さんに意識させることなく行動を誘引する楽曲の完成というわけだ。

心理状況を学術的な見解をもって、リラックスとか、自然とか、郷愁とか、さみしさといった「帰るにふさわしい音楽」を目指したとのことで、それって音楽が人々に与える影響を真正面から示した例ですよね。人によって受け取る印象に多少の差はあれど、長調であれば明るく元気な印象を受けるし、短調であれば暗く寂しく悲しげなイメージになるというのは、おおかた共通している感覚なわけで、長調と短調が合わさったような4和音のメジャー・セブンスとかになると、明るさと暗さが共存してなんだかアンニュイな、時によって都会的でお洒落なエレガントさを感じたり、深みのある感情を感じたりもする。

実店舗による好感度調査の結果、「蛍の光」を流していたときよりも「Good Day~閉店の音楽~」のほうが概ね高評価で、「店舗の評価を高め、顧客満足度や再来店意向を高める可能性がある」というハッピーエンドだったとのこと。音楽って、やっぱりパワーありますね。



ちなみに蛇足ですが、私は学生の時、飲食店でバイトをしていたんだけど、「蛍の光」を流しても一向に帰らないお客さんは一定数いて、「蛍の光」を止めて無音にしても帰らない。でも必殺技を持っていました。店内の電気をどえらく明るくするだけ。「え?え?何?」って感じで、居心地悪く、すぐに席を立つ。閉店時間を10分過ぎたら、この伝家の宝刀を抜いていた。効果は絶大だった。ちなみに、電気を暗くするとしっぽりしちゃって、逆に帰らなくなります。

文◎BARKS 烏丸哲也

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