【BARKS編集部レビュー】初めてのカスタムIEMに最適、Heir Audio Heir 3.A

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ここのところ、世界中で新たに登場してきているカスタムIEMブランドは、どれも素晴らしい作りをみせており、選択肢が急激に増えてきた感がある。多くのブランドが日本未上陸の状態のため、そのほとんどが情報不足でなかなか手を出しにくいところではあるけれど、一時前に比べると選り取り見取りという好状況だ。

◆Heir Audio Heir 3.A画像

▲低域を担う大型レシーバーのknowles製CI22955。タイトながら重厚で沈み込むようなローもこなす低域番長。

▲こちらから見えるドライバーは、中~高域を担うデュアルドライバーのknowles製TWFK-30017。超高域までをカバーする優秀なバランスド・アーマチュア・レシーバーのひとつ。

▲シルバーに輝くクラウンロゴがシェル上部に入っている。

▲左がHeir 3.A、右がUltimate Ears TripleFi 10をカスタム化したROOTHのリモールド。どちらも3ドライバーモデル。

▲比較してみたモデル群。左からHeir 3.A、Westone3、SHURE SE535、オーディオテクニカATH-CK100PRO。

▲左がHeir 3.A、右がHeir 8.A。PCB(プリント基板)と天然木材のインレイのフェイスプレートだが、他にもシルバーに輝くカーボンファイバーなど他ブランドでは見たこともない美麗オプションが用意されている。

▲PCB(プリント基板)仕様のフェイスプレート。本物の基盤をそのまま使用しているため、模様にも個性が表れる。

▲しっかりとしたハードケースに、本体、ケーブル、クリーニングツール、オーナーカード、周波数特性グラフが付属。

好みや予算などいろんなファクターが絡むところではあるけれど、私が今最もお薦めしたいのはハイエンドブランドHeir Audio(エア・オーディオ)だ。今回は、中でも最安価のエントリーモデルHeir 3.Aをご紹介したい。$399のところ、現在プロモーション価格$350なので1ドル=78円とすると、なんと27,300円というビックリするほどの低価格となる。もちろんしっかりとしたケース、ケーブル、クリーニングツール、オーナーカードもついて、この価格だ。

私は、このHeir 3.Aこそ、初めてのカスタムIEMにぴったりだと思う。購入に当たっては誰だって失敗したくないし、コストパフォーマンスに優れていた方がいいに決まっている。Heir 3.Aは、この価格ながらも、シェルの素材やドライバーの選定、作りなどあらゆる点で高い品質レベルにある。そしてなにより搭載ドライバーが鉄板のゴールデンコンビなのだ。

素晴らしいサウンドを叩き出すフラッグシップ機Heir 8.Aが、大型ドライバーのknowles製CI22955を2発&デュアルドライバーTWFK-30017を3発搭載しているのに対し、このHeir 3.Aは、同CI22955とTWFK-30017を各1発ずつ搭載した3ウェイ3ドライバーとなっている。実はこのドライバーの組み合わせこそ、マルチドライバーの基本ド定番のひとつで、多くのブランドが起用している鉄板の構成なのだ。例を上げれば、Westone3、Westone UM3X、Westone ES3X、オーディオテクニカ ATH-CK100…もちろんカスタムの中にもRooth LS3、Stage 93 93-Trio、LiveWires Trips…など同構成のモデルは多数存在する。

しかしながら、定番と言われつつどれひとつとして同じ音を出すものがないというのがマルチ・ドライバーの面白いところ。ネットワーク設計や音導管の長さ/太さ、音響フィルターなど、様々な要因でトーンがガラッと豹変するのみならず、サウンドのクオリティーすら左右されるのが現実だ。

さて、肝心のHeir 3.Aだが、「カスタムって、ショップで一般販売されているものより音がいいんでしょ?」とめちゃぶりされても、期待を裏切らないクオリティで満足させてくれるはずだ。3ドライバーのカスタムIEMとして、定番名機と誉れ高きUltimate Ears TripleFi 10をカスタム化したROOTHリモールドと比較を試みてみたが、Heir 3.Aの方が明らかにバランスは良好だった。

もちろんROOTH TF10もかなりすっきりとして高域も美しく、低域もしっかりと出ており、素晴らしいサウンドを聞かせてくれる。愛用している限り不満も生まれないし欠点も特に見当たらない高い完成度だと思うのだけれど、ひとたびHeir 3.Aと比較してしまうと全体的に線が細く、中低域の弱さとともに痩せマッチョ的ドンシャリであることを再認識させられる。ROOTH TF10に対し、ミッドの充実を図りながら低域をもっと引き締めて量感を増し、高域の伸びをキープさせたのがHeir 3.Aという印象だ。

一方で、一般販売されているイヤホンの中で3ドライバーを搭載したモデルといえば、そのどれもが各ブランドのハイエンドモデルでありフラッグシップ機だったりもする。価格的にも競合となるところだけに、そのサウンド比較も気になるところで、今回手持ちの中から比較してみたのは、Westone3、SHURE SE535、オーディオテクニカATH-CK100PROの3機種だ。結論から言えば、最もバランスが似ているのは、大好きなWestone3だった。ドライバーが全く同じだけに共通点も多いのかもしれないが、配置の自由度が大きいだけに、音の分離やクリア感はHeir 3.Aのほうが一枚上手で、高域の伸びも低域の沈み込みも深い。Westone3からの順当な発展形という表現が、Heir 3.Aのサウンドを最も的確に言い表わしている気がする。

SHURE SE535の場合は、800Hz~1KHzあたりと思しき中域の張り出しが特徴的で、Heir 3.Aと比べると非常に優等生なサウンドに聴こえる。SE535愛用者からみると、Heir 3.Aの音は低域も高域もずいぶんはっちゃけた派手目なサウンドに聴こえ、単純比較をすればSE535よりもHeir 3.Aのほうがドンシャリだ。

オーディオテクニカATH-CK100PROは、非常に抜けが良くクリアでハイファイな高品質サウンドを誇り、すっきりとした体脂肪の少ないトーンが大きな魅力だが、Heir 3.Aは、もっと力強い熱と音の厚みを感じさせてくれるサウンドとなる。低域は明らかにHeir 3.Aの方が強く、キレもHeir 3.Aの方があり男性的な音に感じるが、中域の艶めかしさや女性ボーカルを綺麗に濁りなく鳴らす点はATH-CK100PROの方が上質。両者が向かうサウンドは明らかに方向性が違うものなので、ATH-CK100PROとHeir 3.Aは横並びの別キャラであり、競合にはならない。そういう意味では十分に使い分けできそうだし、ATH-CK100PROからの順当進化をカスタムに期待するのであれば、それはHeir 3.Aではなく間違いなくHeir 8.Aを選択するべきだ。

Heir 3.Aのサウンドを断片的に切りだすと、「かなりタイトで引き締まった低音」「ボーカルが奇麗でクリア」「歯擦音は全くなし」「音場は特に広くない」「中高域で完成されたバランスに、低域を追加したような安定感」「多少ドンシャリ目のフラット」といったところだろうか。

シェルの作りの丁寧さや、フェイスプレートの美しさは、先日ご紹介したHeir 8.Aと同様に素晴らしく完成度の高いものだ。オプション価格が別途必要になるが、天然木材やカラフルなカーボンプレートなど選択肢も豊富なので、是非とも自分だけの愛着あるモデルを作り上げていただきたいところ。きらきらラメを散りばめたグリッターや夜光までも用意されており、カナル部分を長めに指定することもできる。私のモデルはオプションで追加したPCB(プリント基板)仕様で、本物の基盤をそのままフェイスプレートとして埋め込んだもの。ありそうでなかった斬新なデザインや柔軟なアイディアも、Heir Audioという新興ブランドの大きな魅力の一端だと思う。

イヤホンやヘッドホンがハウジング素材で音が変わるように、フェイスプレートがアクリルではなく、ウッドやカーボン、基板などになるとサウンドはどう変化するのか、あるいはしないのか…そんな妄想を交錯させながら音を楽しむのも、カスタムIEMならではの一興だ。

text by BARKS編集長 烏丸

●Heir Audio Heir 3.A
・3 Precision Tuned Balanced Armature Drivers
・Three Way Passive Cross Over Design
・One Balanced Armature Driver for Low Frequency Production
・One Balanced Armature Driver for Medium Frequency Production
・One Balanced Armature Driver for High Frequency Production
・OxiCap Capacitor
・Vishay Resistor
・Hypoallergenic, Hard Acrylic Shells
・Noise Isolation: -26dB
・Impedance: 25
Included Accessories:
・Crush Proof Carrying Case
・Cleaning tool
Price: $399
Promotional Price: $350

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