【BARKS編集部レビュー】Atomic FloydのSuperDarts+Remoteは、単にドンシャリにあらず

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2011年8月末、Atomic FloydのSuperDarts+Remote(以下SuperDarts)が市場に投下され、ちらりほらりと評価が聞こえてきている。音は「正/誤」でも「良し/悪し」でもなく、あくまで「好き/嫌い」で価値が問われるものなので、十人十色・千差万別の評価があるだろう。完全な独断だけれど、SuperDartsはついにここまで到達したかと率直に感動を呼び起こす逸品だと私は思う。まさに別次元、完全に「次世代に突入したサウンド」だというのが、存分に聴き込んだ結果の誇張なき素朴な感想だ。

◆SuperDarts+Remote画像

Atomic Floydはそもそも好きなブランドのひとつなので、ちょっと評価も盛り気味かもしれないが、全モデルに共通して確固たる理念が付き通されており、ポリシーと突き進むべき方向にもブレがないところにAtomic Floydの凄さがある。それはデザインにもサウンドにも表れ、どのモデルもキレがありヌケも抜群、エッジが立ち現代的で明るくクリアなサウンドを直球で出してくれる。そして、その方向性のまま過去に例を見ない爆裂サウンドに到達したのがSuperDartsだ。

以前(2011年5月26日)に当時のメイン4機種を徹底試聴した際にお伝えしたのは、Atomic Floydの持つ先進性と伸びしろの広さだった。「今後の新製品においても、漏れなくチェックすべき最重要ブランドの一端」と文を結んだが、まさにこの新製品SuperDartsこそ先進性あふれる注目の一品。ダイナミックのようなサウンドを出すBA型モデルのMiniDarts、そしてBA機のような表現をするダイナミック型のHiDefJax(HiDefDrum)…と、基本構造に振り回されず理想のサウンドへの道筋を独自ノウハウで切り開いている同社だが、満を持して登場したのは、両者を融合させたハイブリッド設計であった。

こいつの音を一言でドンシャリと言い放つのは簡単だが、それではあまりに無思慮な表現になってしまう。こいつの凄いところは、低域と高域が強いことではなく、周波数特性がべらぼうに広いところなのだ。低域から超低域にかけての空気を震わせるエネルギーと、高域から超高域にかけての量感が、これまでのカナル型ヘッドホンの常識レベルとは桁違いである。恐ろしいことに、この推しの強さに耳が慣れると、もはや他のカナル型ヘッドホンはことごとく使えなくなる。どれもがレンジの狭いかまぼこ(註:中域が強めのサウンド特性のこと。周波数特性グラフがかまぼこのような山なり形状になることから)に聴こえてしまい、満足できない耳になってしまう。あの名機もこの名機も、かのハイエンド・イヤホンがまさかの腑抜けなもっさりサウンドに聴こえてしまうからタチが悪い。こんな経験も初めてなのだが。

しかし、そこに見逃してはいけない事実がある。派手目なSuperDartsに馴らされた耳だが、スピーカー音やオーバーヘッドのヘッドホンの音に対しては何の変化も生じない。オーバーヘッド・ヘッドホンに持ち替えたときの音色とSuperDartsの音色の間にギャップがなく、むしろ、密閉型/解放型問わず違和感なく使い分けが可能となる。

ピュアオーディオとまでは言わなくとも素晴らしいオーディオ機器で音楽を聴くと、気後れするほど低域や高域がリッチに量感たっぷりに表現されることはご存じだろう。SuperDartsは、空気感を含めあの絶対的なエネルギー感が、量産型カナル型ヘッドホンで初めて表現できた記念すべきモデルだ。オーディオとして当たり前の周波数特性をカナル型でしっかりと再現すると、これほどまでに刺激的な広帯域に感じてしまうという新世界を、真正面から提示してみせたエポックなモデルなんだと思う。

多くの人が「カナル型ヘッドホンとオーバーヘッド・ヘッドホンは比べること自体が無粋である」とイヤホンを擁護していたと思うが、例えばSuperDartsからSHURE SRH940へ換えても、聴感上驚くほど違和感なく耳に馴染む。密閉型リファレンスモニターであるSRH940のサウンドに親しんでいる人であれば、イヤホンからSRH940に戻ると、その圧倒的な帯域の広さと情報量の濃さに感嘆すると同時に、イヤホンの帯域の狭さに嘆かざるを得ない状況だったと思うが、その決定的ギャップを見事に克服してみせたのがSuperDartsだ。

いや、「イヤホンにはそこまで求めない」という人もいるだろう。そういう人には無用の長物だし、評価するに至らないキワモノになるのかもしれないが、これまでイヤホンには超えられなかった一線を越えたSuperDartsには、愛しきドンシャリお化けとして世を席巻してほしい。そして、ただただ純粋に高品質なサウンドが欲しいと思う猛者にとっては、SuperDartsは通らなくてはいけないカナル型ヘッドホン道の「男道」のはずだ。てか、つべこべ言わずにゲットするじゃき。

もちろん、諸手を挙げてすべてを称賛するわけでもない。相変わらずケーブルのタッチノイズは多めだ。耳掛け(シュアー掛け)すれば99%排除できるのに、Y字分岐以降のケーブルの長さやコントローラーの存在から耳掛けは不自然さが否めず、なんとも残念。ま、気にせずわたしゃ耳に掛けていますが。また、ポータブルヘッドホンアンプやウォークマン、アンドロイド携帯などを愛用している人には無用の長物となってしまうapple対応マイク付き3ボタンリモコンの強制付属は、人によっては購入意欲を萎えさせる仕様でもあろう。

しかしそんな欠点も忘れさせてくれるのは、SuperDartsが楽しいカナル型ヘッドホンだということ。強烈な広帯域とごつい低高域の押し出しによって、キック/ベース/スネア/ハット/ライド/フロアタムのサウンドが、全く注力せずともしっかりとした量感で主張して来るので、おのずとビート感やノリの良さが肉感的に伝わり、自然とリズムに身体が揺れてくる。聴くジャンルや好みにもよるところだが、これぞ音楽を聴いて「楽しい」と思わせてくれる素晴らしい個性だ。

なお、今回はMiniDartsの筐体デザインである弾丸型が踏襲されたが、随分とサイズ自体は大きくなったので、MiniDartsのように全てが耳の中にすっぽりと収まってくれるようなフィット感は得られない。サウンド自体がMiniDartsの発展形ではなく、HiDefJax/HiDefDrum(HiDefJaxにリモコン機能が付いたモデル)の進化形であることも考え合わせれば、シンプルにHiDefJaxのようなどら焼き(UFO?)型筐体で遮音性追求モデルをリリースしてほしいとも思う。そうなると名前はSuperHiDef…なのかな。

その際には、新設計ネットワークもさらなるマルチ・ドライバー化も視野にあるだろう。ならば、現時点では低域と高域の表現はダイナミック型のほうが優れていると思えて仕方がないので、2つのダイナミックで低/高をそれぞれ担い、中域にこそ高品質のBAドライバーをヘッドルーム確保のためタンデムで搭載してほしい。その形こそ、カナル型ヘッドホンの理想的スペックのひとつに思えて仕方ないんだけどなぁ。そんなモデルでAtomic Floydトーンを叩き出してくれたら、ヘッドホンスパイラルからやっと卒業できる気がします。つか、卒業します。したい。させて。

なお、SuperDartsの登場で、逆にHiDefJax/HiDefDrum(HiDefJaxにリモコン機能が付いたモデル)のサウンドの極上さを改めて再確認できたのも、自分にとっては嬉しい出来事だった。音域特性の広さこそSuperDartsには敵わないけれど、基本のトーンはやはり同ブランド共通のもので、今更ながらHiDefJax/HiDefDrumって素晴らしい完成度をもったコストパフォーマンスに優れた名機だと実感した。冷静に聴き比べると、SuperDartsよりHiDefJax/HiDefDrumのほうが実はドンシャリ…だったりもしてね。

text by BARKS編集長 烏丸

●Atomic Floyd SuperDarts+Remote
・オープンプライス(フォーカルストア¥33,800税込)
・ドライバ:ハイブリッド式デュアルドライバ(低域:8mmネオジムドライバ/中高域:バランスドアーマチュア)
・最大入力:100mW
・感度:100db SPL/mW
・インピーダンス(1kHz):16Ω
・周波数特性:5Hz - 25,000Hz
・ケーブル:1.2m OFCケーブル(被覆ケブラー繊維)
・プラグ:3.5mmステレオミニプラグ
・リモコン:3ボタン搭載マイク付きリモコン
・付属品:SuperDarts + Remote本体、S/M/Lイヤーチップ、キャリングポーチ、フライトアダプタ、DJプラグ

◆Atomic Floyd SuperDarts+Remoteオフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー
◆Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
◆Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◆ORB JADE to go(2011-08-22)
◆YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
◆NW-STUDIO(2011-08-09)
◆NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
◆Westone ES5(2011-07-21)
◆SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
◆クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
◆GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◆SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
◆フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
◆ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
◆フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
◆アトミック フロイド(2011-05-26)
◆モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
◆SHURE SE215(2011-05-13)
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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