【BARKS編集部レビュー】オンリーワンからナンバーワンへシフトした、渾身のファイナルオーディオデザイン heaven VIサウンド

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今を思えば、FI-BA-SS、heavenシリーズでバランスドアーマチュア・ドライバー(以下BAドライバー)をリリースするまでは、final audio design(ファイナルオーディオデザイン、以下FAD)はダイナミックドライバーにこだわるブランドだった。社内ではBAドライバーに対してネガティブな意見も散見され、ファイナルオーディオデザインが求める芳醇な音楽表現に、BAドライバーが出力するサウンドは不適合との判断だったと聞く。

◆ファイナルオーディオデザイン heaven VI画像

▲クロム銅の美しいピンクゴールドに身を包んだ最新モデルheaven VI。鏡面状に磨かれ非常に美しい。

▲カスタマイズされたオリジナルのバランスド・アーマチュアを一基搭載。ドライバー自体はheaven IVと同様というものの、細かいチューニングが施されており、サウンドは別物。

▲左がheaven VI、右がheaven IV。素材が違うのみならず、ハウジング内のBAM機構も異なっている。

▲左がheaven VI、右がSONY MDR-EX1000。質感は異なるが、どちらも気持ち良いフラットな特性。

▲左がheaven VI、右がGRADO GR10。シングルドライバーではトップクラスの高品質を誇るGR10に、聞き劣りしない素晴らしい完成度を誇る。

▲ファイナルオーディオデザインのBAドライバー軍団。左からheaven VI、heaven IV、heaven S、FI-BA-SS。右の2機種はオンリーワンの個性が武器であり、左の2機種は中庸な汎用性の魅力を携えている。

▲ケーブルはしっかりとしたフラットケーブル。非常に丈夫で断線の心配はほぼなさそうだ。

しかしながら世の中のトレンドは次第にBAドライバーへと移っていく。多くのヒット作が生まれ、市場はマルチBAドライバーが牽引する状況にも映る。多くのオーディエンスが、BAドライバーが放つサウンドに魅力を感じ始めていたのも事実だった。

そんな市場が彼らのクラフトマンシップに火をつけたのか、反骨精神とプライドを持ってダイナミック・ドライバーの開発に更なる情熱を注ぎながらも、FADはBAドライバーに真正面から対峙してみせた。「BAドライバーなんかオーディオの音じゃねえ」と吠えて終わるのではなく、「そのBAドライバーとやらをFADが手掛ければ、これほどまでに魅力的なオーディオサウンドに変貌するのだ。BAドライバーで至宝の音を!」と言わんばかりに、BAドライバーでまだ見ぬ新たなサウンドを求めて棘の道を歩み始めたのだ。誇り高き理念と確かな技術をもってそこから誕生したのが、FI-BA-SSという今もなお孤高のモデルと、大ヒット作のheaven Sとheaven Aであった。

空気の流れをコントロールすることで生み出された閉塞感のないそのサウンドは、高い解像度と広がりのある音場とともに、ダイナミックはおろかそれまでのBAでも出し得なかった、全く新しいサウンドとして大いなる歓迎を受けた。元来持っているBAの魅力を前面に押し出して、非常にきらびやかでシズル感たっぷりの清楚で清潔感溢れるHeavenサウンドは、多くの音楽ファンから絶大なる支持を獲得、当然のように大ヒットを記録した。多くの愛用者を生み出したのはご存知の通りだ。

そして2012年4月にはheaven IVが新登場した。それまでのheavenとは筐体も変わり新たなラインアップとして登場したが、重心をミッドに下げ、非常にバランスのとれた理知的なサウンドは、一般のリスナーからマニアにまで広くうなずかせるものとして受け入れられた。汎用性高く多くの人に喜ばれる反面、アクの強さは失なわれており、オンリーワンの魅力ではなく、総合力でのアドバンテージでその存在感を見せつけるようなモデルとなっていた。

ここに見て取れるのは、BAドライバーの強みと魅力を最大化させたheaven Sとheaven A、FI-BA-SSの方向性からがらりと向きを変え、「極めてナチュラルで芳醇なダイナミックなサウンド」へ舵を切ったと思えるコンセプトの変化だ。heaven IVが牽引し次のモデルへ渡すバトンの向かうべき方向は、音楽をそのままに当たり前に再生するピュアなオーディオ機器そのものにみえる。初期モデルが勝ち得た評価は、それぞれのモデルの「オンリーワン」だったが、heaven IVに続くheaven VIが背負った責務は「ナンバーワン」の称号だ。ドライバーの構造などもはや話題にするまでもなし、あくまで音楽を当たり前に鳴らし、そのサウンドを真正面から評価してもらうべく生み出されたのがheaven VIの存在だと思う。それがFADが全幅の信頼を置くクロム銅素材の起用であり、BAM機構の練り直しであり、45,000円という高額な市場想定価格に現れているものだ。

heaven VIのサウンドは、まごうことなきheaven IVからの正統進化の延長上にある。IVもすばらしい素養のイヤホンだが、VIとくらべると若干の曇りと共に瑞々しさの欠落を感じてしまう。IVからVIは、解像度、定位の良さ、付帯音のなさ、クリアさ全てにおいて、シンプルに確実に品質が2ランクアップしたという感覚だ。極端に低い音域でなければ、十分な低域の量感も確保されており、実にすばらしいバランスで音楽を楽しませてくれる。この歯切れの良さと瞬発力の良さこそクロム銅が引き出す美しき特性なのであろうか。

これだけバランスがいいと、思わず比べたくなるのはSONY MDR-EX1000だが、超低周波数に関してはMDR-EX1000の方がしっかり出ており上質だと言わざるを得ないものの、聴感上の低域の量感はほぼ同等である。おそらく分解能や解像度というツールとしての品質は拮抗する実力ではないだろうか。とはいえサウンドの質感はそれぞれに個性があり、MDR-EX1000は非常に上質で天然の温かさを持ち、VIのほうが人工的なクールさと機能性にあふれているイメージがある。

カナル型イヤホンのハイエンドと言えばSHURE SE535が筆頭に上がるが、heaven IVはSE535よりも中域から高域にかけてスッキリと見通しがいい。ボーカルの厚みは535に分があるが、はつらつとしたキレの良さがVIの魅力に映る。このあたりは比較することでシングルドライバーの特性に気付かされるところだ。

シングルドライバーとしての好敵手となるのはGRADO GR10だ。GR8からのアップグレードとして登場したGR10の位置付けは、HEAVEN IVからVIへ発展した流れともよく似ており、極上サウンドを放つ高い信頼性もそのクオリティの高さもよきライバルになりそうだ。

最後にいくつかの注意点を。タッチノイズはお世辞にも少ないとは言えない。ケーブルはheaven Sより柔らかくなったが、モゴモゴとケーブルから盛大にノイズが乗るので、スライダーで首元まで締め上げるか、クリップで固定するなどの工夫が必要だ。耳に掛けるいわゆるシュア掛けは困難と思った方がいいだろう。なおheaven VIはインピーダンスが小さく感度も高いので、音量は十二分にとれる。逆に小さな音量で楽しもうとしても機器によってはギャングエラー(ボリューム最少の位置で左右の音量バランスが崩れる現象)の心配があるだろう。また、heaven VIに限った話ではないのだけれど、大きめのイヤーチップで耳穴の手前で収まっている感じか、小さ目のチップに替えて奥までぶっすり突き刺す感じかで、遮音性や低域の量感、高域の質感が変化する。イヤーパッドも形状違いで6ピースのバリエーションが付属するので、好みのバランスと心地よい装着感を探るのも一興だ。

text by BARKS編集長 烏丸

●final audio design heaven VI(ヘブン・シックス)
オープンプライス(市場想定価格:45,000円前後)
・型番:FI-HE6BCC
・形式:バランスドアーマチュア型
・ドライバーユニット:オリジナルカスタムドライバー
・筺体素材:クロム銅削り出し(イオンプレーティング仕上)
・感度:112dB/W
・インピーダンス:16Ω
・コード長:1.2m
・重量:17g
・付属品:イヤーパッド2種類 S/M/L(遮音性の高いType A、共振音の少ないType B)、専用キャリーケース、保証書

◆heaven VIオフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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