| 史上最大のステージ・プロダクションと銘打った2001 Popodysseyツアー中の*N SYNC。宙吊りになって飛び回ったり、パイロから素早く身をかわしたり、かなりの動きを要求されるメンバーだが、彼らの契約書にはもしかして、プロモーターは控え室に清潔な下着を用意することという追加条項が入っているのかも? 「んなことないって」とLance Bass。
「オレたち全員、命知らずの危険大好き人間なのさ」
それを聞いてほっとする。なにしろBassたちは、想像を絶するほど危険かつ困難な任務に就いたばかりなのだ。それはキャーキャー騒がれるポップアイドルの地位と、マルチプラチナムの売上げをなんとしても維持すること。
'95年、フロリダ州オーランドで結成されて以来、この5人組はボーイバンドやティーンポップといわれるキラ星の中でも、一番のスターとして輝き続けている。アルバム3枚の売上げは2,500万枚を超え、TRL(訳注:MTVの番組『Total Request Live』)では「I Want U Back」や「God Must Have Spent A Little More Time On You」「Bye Bye Bye」「Tearin' Up My Heart」といったヒット曲がひっきりなしにリクエストされる。さらに'00年リリースのアルバム『No Strings Attached』は、発売1週目で売上240万枚という新記録を達成し、未だに破られていない。
とはいえ、ポップ・ミュージックとは極めて気まぐれ、熱しやすく冷めやすいもの。ポップ界のキングと称えられたBackstreet Boysでさえ、Entertainment Weekly誌の「落ちぶれたティーン・アイドル!」に載るのは時間の問題だった。ニューアルバム『Celebrity』をリリースした*N SYNCのメンバー、Bass、Justin Timberlake、Chris Kirkpatrick、Joey Fatone、J.C. Chasezも、そのことはよく分かっている。
「今後数年間は、ポップも今までみたいな調子にはいかないさ」と22歳のBassも認める。
「これまでが良すぎたんだ。だから今出てきている新人ポップ・アーティストは割を食ってかすんじまってる。そんな中で目立ってるオレたちはすごくラッキーだと思ってるよ。いつもやるべきことを見失わないようにしてるからね。さらに進歩するには何をすべきか常に考えている。他のグループなんかは、周りを見ては、あいつらがあんなことをやってるから、オレたちはこうしようぜ、って感じなんだ。で、それを実行に移すころにはもう古臭くなってる。こっちはその間に2歩も3歩も先んじてるってわけ」
『Celebrity』で*N SYNCは新たな方向性を切り拓いたとBassは言う。13曲入りのアルバムでは、メンバーが曲作りやプロデュースの面で以前にも増して大きく関わっている。1stシングル「Pop」の受けも上々。この曲こそ、*N SYNCが目指したアルバム全体の雰囲気を表しているとBassは語る。
「「Pop」は全然ラジオ向きじゃないんだ」。
これは曲作りもプロデュースもBassとTimberlake(噂に反して彼はちゃんと生きている)の共作。
「ラジオではこういう曲はまったくかからない。ヒット曲のフォーミュラじゃないからね。「Bye Bye Bye」や「God Must Have Spent」みたいなのばかりやるのは、もうたくさんだよ」
「本音をいうと、リリースするのは不安だった」と彼は続ける。
「でも、どうなるかやってみたかった。初めて聴く人はみんな、“へぇ、今までとは違うね”って言う。もう少し聴くと、“うん、結構クールじゃん”となって、ついにはじけたんだ」
『Celebrity』の他の曲は、これまでの*N SYNCのアルバムに入っていた受けのいいポップやR&Bから、さらにかけ離れた仕上がりになっている、とBassは言う。
「アルバムごとに新たな境地を見出す努力をしてるんだ。今回のアルバムはボクたちが生み出したベビーも同然で、曲の90%は自分たちで書いてるし、前よりぐっとエネルギッシュになってる。もっとダンス向きだしね。サウンド的にもエレクトロニカからヒップホップまで取り入れた。あらゆるジャンルが入ったアルバムなんだ。初めて聴くサウンドもいっぱい入ってるよ」
「でもやっぱり、いつものバラードも歌い上げてるし、映画のサウンドトラックやウェディング・ソングもちゃんと入ってる。だけどアルバムのほとんどの曲は、明るく楽しいダンス曲なんだ」
そのうち2曲はイギリスで流行っているツー・ステップ・スタイル。R&Bとテクノのブレンドだ。
「Craig Davidタイプのサウンドがアメリカにも入ってきてる」とBass。
「オレたちも大好きだからアメリカに紹介したいんだ。Craig Davidはお気に入りのアーティストで、絶対あのサウンドをこっちにも広めたいって思った。それでこのアルバムにもそういうのを3、4曲書いたんだ。1曲は「The Two Of Us」というツー・ステップで、ツアーでもファンの大好きな曲さ。みんな、スッゲェー!って言ってくれる」
『Celebrity』には様々なコラボレーションもフィーチャーされている。プロデューサーのRodney Jerkinsや*N SYNCの長年の友人Max MartinとKristian Lundenだけでなく、R&Bの第一人者Brian McKnightも1曲プロデュースで参加。それにStevie WonderもTimberlakeの曲でハーモニカを吹いている。
「あれはなんというか、今でも信じられないよ」と語るBassも、今年初めには(バンドメンバーのFatoneと共に)新作映画『On The Line』に参加し、共同プロデュースと演技を披露している。
「彼と一緒の部屋にいるだけでも光栄なのに、プロデュースできたんだからね。メイン・プロデューサーはJustinだったんだけど、卓のところに突っ立ってるだけで(Wonderに)何にも言えないんだ。何しろ相手はStevieなんだから。完璧だよ。1音フラットだったとかなんとか一言も言う必要がなかった。とにかく素晴らしい経験だったし、(Wonderも)すごくクールだった」
『Celebrity』は6月になるまで仕上がらなかったが、バンドはすでにコンサートで、このニューアルバムから8、9曲を取り上げて観客の反応を試している。
「イケてるよ。新曲になるとみんな静かにじっくり聴いてくれるんだ。みんな聴きたがってるし、気に入ってくれてる」とBass。
*N SYNCとしては、『Celebrity』が世界中でリリースされるときにも、同様の反応でありますようにと願うばかりだ。彼らは今年、スーパーボウルでのハーフタイム・ショウにAerosmithと出演し、Michael JacksonのRock And Roll Hall Of Fame入りの紹介役を務めた。そういう実績に加えてこれまでの成功もあり、今は「少し余裕ができた」とBassは話す。
「ずっと死にもの狂いでやってきて、やっと自分たちがやりたいことができて、しかもクリエイティブでいられるようになった。それに自分たちが実権を握ってるというのは嬉しいね。アルバムを買って、楽しんで聴いて、リスペクトしてくれるファン層もつかんだしね。もちろん、まだ先は長いけど、そこへ辿り着けるようできるだけのことをやってきたという自負が、オレたちにはあるんだ」 |
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