【インタビュー】キズ・来夢、「自分は芸術をやりたい」

新年早々、1月6日に自己初となる日本武道館での<単独公演「焔」>を成功させたキズは、それから2ヵ月も経たないうちに、今度は日比谷野外大音楽堂で堂々たるライブパフォーマンスを披露してみせた。
いずれもこのバンドの現在の充実ぶりが伝わってくる素晴らしい内容だったが、そこでひときわまばゆい存在感を放っていたのが「 R/E/D/ 」と題された最新曲だった。今回は、このバンドの首謀者である来夢に、これら2本の象徴的な公演を経てきたからこその、今現在の心境を聞く。いきなり余談だが、どうやら彼は、この季節には花粉症に悩まされるのが常であるらしい。そしてこの日の会話も、そこからスタートすることになった。
◆ ◆ ◆
◾︎自分を全力で表現することで人を楽しませる
◾︎そういう芸術をやりたい
──本日のテーマは「ミュージシャンと花粉症について」です。もちろん冗談ですが。
来夢:あはは! このまえの野音も花粉、強かったですね。
──好天には恵まれたものの、逆に花粉はたっぷり飛び交っていましたよね。
来夢:キツかったですね。呼吸が辛いというのもあるし、僕の場合、野外で歌うのがちょっと苦手なのかもしれない。ホコリを吸い込みがちな傾向があるんです。人よりも大きな声を出してるわけで、そのために一回に吸い込む空気の量も多いんですよ。だから一発で喉が破裂しちゃうみたいなところがあって。
──しかも前日にも同じ野音で出し惜しみのないライブをやっていたわけですもんね、しかもDEZERTとの対バンで。
来夢:そうですね。やっぱ対バンとなると自分を抑えきれなくなるじゃないですか。ワンマンとはペース配分も違ってくる。というか、対バンの時はペース配分ができないんです、僕の場合。もちろんそういう癖を直さなきゃいけないという自覚もあるんですけど、コントロールできなくなって、やらかしちゃうんです(笑)。以前からそうなんですけど、僕、喉を壊すのってたいがい対バンをやった時なんですよね。「あそこで無茶しなければ、次のライブにも全然支障なかったはずなのに」みたいなことが過去にもありました。しかも以前は、その後で半日も寝れば完全に治ってたんですけど、今は2~3日かかったり、1週間ぐらい長引いたり……。
──年を取ってくると、二日酔いをそんな感じで引きずるようになりますよ(笑)。それはともかく、3月2日の野音でのライブの際は、喉の面では万全ではなかったわけなんですね? 観ていてそんなふうには全然感じませんでしたが。
来夢:だったら良かった(笑)。でも実際、まったく万全ではなかったんです。お恥ずかしい話ではありますけど。ただ、もちろん日頃トレーニングとかはしているので、自分の最低ラインが底上げされてたというのはあるのかもしれない。

──同時に、自分が気にしているほどみんなはそこを気にしていない、というのもあるはずです。
来夢:そうなんですよね。だから僕、ライブの自己評価というのをやめようかなと思っていて。自分が思ってることとみんなが思ってることが、まったく違うなと思わされることが最近よくあって。それこそ武道館もそうだったし、野音もそうだったし、「これは自分で評価するようなものでもないのかな?」と思うようになっちゃったんです。ただ当然、自分なりのベストコンディションで全力を発揮できるようであろうってことは意識してますけど。
──自己評価をやめようという考えに至ったのは、おそらく来夢さんが自分自身に対して厳しくなりがちなのを知っているからだと思うんですよ。甘やかすのではなく。
来夢:それはあると思います。でも、歌っていて「これは上手くいってないな、伝わってないな」と感じることも実際あるんです。ただ、ライブというのは自分が楽しむためのものじゃなく、みんなに楽しんでもらうためのものだから、自分は自分として最大限の力を出し尽くすことだけを考えればいいのかな、と思うようになってきて。だから余計なことは考えずにおこう、と。自己評価し始めると、やっぱりいろんなことが気になってきて、本質を忘れがちになるというか。
──何のためにやっているのか、わからなくなってきますよね。
来夢:そうなんですよ。しかも特に対バンの時は。

──野音の話に戻りますけど、<雨男>という公演タイトルとは裏腹に、まずまずの好天でした。当日の朝は、ホッとしたんじゃないですか?
来夢:ホントに安心感をおぼえましたね。起きた時点では曇ってましたけど、これなら大丈夫そうだな、と。
──当日、会場に集まった人たちの多くは天気のことも気にしてたはずですけど、それ以上に「武道館公演を経てきたキズがどんなものを見せてくれるのか?」と思っていたはずです。来夢さん自身は、どんなライブにしたいという意識で臨んでいたんでしょうか?
来夢:自分の中では当初、武道館の手応えというのが「そこそこできたんじゃないか?」という程度のものだったんですね。ところが周りからの反応がめちゃくちゃ良くて、「あれ? 自分が思ってる以上にヤバいライブしちゃったのかな?」という感覚もあったんです。それもあって、野音が近くなってきた頃に武道館での映像をパッと見てみたところ、自分でも「確かにちょっといいライブしてるかも」と思えて、次の瞬間、なんだかブルブル震えちゃって(笑)。というのも「これの次にできることって何かあるのかな?」というプレッシャーを感じたからなんです。なにしろあれ以降、何もリリースしてないですし。今は「 R/E/D/ 」という新曲を掲げて頑張ってる最中ではありますけど、「武道館の次の展開を見せる」という意味ではすごく難しいライブではありましたね。
──しかも実際問題、スケール感は武道館を遥かに下回ることになるし、野外会場だけに演出面でできることにも限りがある。ただ、結果的には映像や照明の使い方の大胆さも印象に残ったし「野外でここまでできるのか!」と思わされましたよ。
来夢:ああ、それは嬉しいです。ただ、僕自身は演出面についてはほとんど何も意識していなかったし「とにかく派手にやる」ということぐらいしか考えていなかったかもしれないですね。野外では特別なことなんか何もできないから、自分たちが全力で表現するしかないというか。そんな中で今回は生カメ(=即時対応の映像カメラ)を結構入れてもらって、自分たちの表情を見てもらう形にはなってたと思うんですけどね。実は僕、もうあんまり演出のことに口を出してないんですよ。そこはドラムのきょうのすけに全部任せていて。昔は全部、自分でやってたんです。公演前日に映像とか照明のシミュレーションをやったりもしていたし。ただ、そこまで自分でやっていると、さすがに集中力が続かなくなってきちゃうというか。しかも自分で演出を考えていると、過剰演出になりがちというか、演出自体が上手くいかなかった時、それが嘘になっちゃうようなところがある。そこに気付いた時に「自分で自分を演出するって、なんか嫌だな」と思ってしまった瞬間があって、「自分はこう見られたい」みたいな邪念をステージに持って行きたくないな、と考えるようになったんです。そこにピンスポが当たることがわかっていて、わざわざ自分からそれを浴びに行くって、なんか不自然じゃないですか。だったら、きょうのすけの判断で光を当ててくれたほうがいい。彼は常に僕を後ろから見てくれているわけだし。
──誰よりもステージ全体が見えているわけですよね。同時に、演者自身が舞台監督のようになってしまうと、少しでも予定通りにいかなかったりすると気になってしまうだろうし、イライラさせられることになるはずです。
来夢:ホントに昔はイライラしてばっか、キレてばっかでした。でも、結局それって、自分で抱えなくていいものを抱えすぎだったからなんですよね。自分なりの完璧さを求めるのはいいけど、その価値観を周りに押し付けてイラついたところで、それは自分のためにもならないなと気付かされて。結局、自分がやりたいのは音楽なんですよ。怒りたいわけでも演出をやりたいわけでもない。それを意識しながら、他の誰かに任せられることは任せて、今は結構バランス良くやれてるんじゃないかな、とは思うんです。その意味では、きょうのすけからすごく力を借りてるし、そのおかげで僕は曲により集中できるようになったし。「鬼」とか「 R/E/D/ 」が完成できたのも、それがあったからかもしれない。
──なるほど。今回の野音公演には、武道館を経てきたからこそのプレッシャーが伴っていたことについてもよくわかりました。
来夢:ライブが近付いてくるにしたがって、それが強くなってきましたね。それこそ武道館公演から丸2ヵ月も経ってなかったわけじゃないですか。実は僕、何故かその間に3ヵ月あると思い込んでたんですね(笑)。だから気持ちの準備も足りてなかった。ただ、そんな中ではあったけど、自分としてはよく表現できてたんじゃないかなと思います。
──武道館公演を終えた後、目指そうとしていたものと結果との間に、何か違いを感じていましたか?
来夢:いや、何かを目指そうとしてたというより、自分なりの違和感みたいなものがあったんですよ。公演当日の1週間前ぐらいまで、それが何に対する違和感なのか答えがわからないままでいて。結局、自分のバンド人生というのがある中で、自分が何をやってる人なのか、というところでの違和感だったんですよね。ステージに立ってエンターテインメントをやってる人なのか、歌ってる人なのか、芸術をやってる人なのか。いろいろあるじゃないですか、ステージに立つ意味というのが。それが自分の中で、少しごちゃっとしてた部分があって。で、最終的に気付いたのは、やっぱ自分がやりたいのはエンタメじゃなくて芸術だということだったんです。自分を全力で表現することで人を楽しませる、そういう芸術をやりたい。そこに気付ける前は、「武道館に、ライブをやらされちゃいけない」ってことばかり考えてたんです。

──武道館に、ライブをやらされる。どういう意味でしょう?
来夢:やっぱロックバンドにとって、武道館というのはすごい力のある場所なんですよ。武道館という言葉自体に力があって、ホワイトボードにその3文字が書かれただけでも、ちょっとウルっときちゃうぐらいのところがある(笑)。だから、それこそMCで「武道館!」と一回でも言っちゃうと、完全に武道館に飲まれちゃうなと思ったんです。
──あの日、一度も「武道館!」という煽り方をしなかった理由は、そこにあったんですね?
来夢:完全にそれが理由でした。それを言っちゃうと、自分もメンバーもお客さんも「ああ、武道館だな」という雰囲気になってしまうし、武道館公演をやりに来てるはずなのに、やらされてる感じになってしまう。エンタメだったら多分、それでいいんですよ。でも僕が武道館でやりたかったのは、それじゃなかったんですよね。もちろん武道館でやりたかったけど、武道館のためにライブをするわけじゃなかったから。
──武道館に思い入れがあるからこその複雑な気持ちがあったわけですね?
来夢:そうなんです。それこそ好きなアーティストの武道館の映像って、絶対見るじゃないですか。僕も実際、結構見てきたんですけど、「武道館にやらされてる」と感じさせられるケースが結構あったんですね。それはそれで全然いいんだけど、このままでは自分は武道館に負けるな、と思ったんです。いろんなバンドやアーティストが武道館を経験して、それを超えていったわけですけど、それを乗り越えられなかった人たちもたくさんいるじゃないですか。その差は何なんだろうと考えた時、それは「武道館にやらされてるかどうか」という違いなんじゃないかな、と思ってしまって。
──よく「服に着られている」みたいな言い方をすることがありますけど、それに似ているようにも思います。
来夢:そうですね。そこに気付いたのが本当に公演1週間前ぐらいのことだったんです。で、それまで抱えていたエンタメ的なアイディアとか、「こんなことをやって楽しませてやろう」みたいに考えていたことを、全部捨てました。そういうことじゃなく、あくまで自分の芸術をやろう、と。そう思えたこともプラスの方向に作用したのかもしれないですね。年末あたりは結構もやもやした気分が続いてたんですけど。実はそのちょっと前に食中毒になるというアクシデントもあって、「ああ、武道館もう駄目かも」って弱気になったりもしてたんですけど、結果的にはそれも完治して、全力でやることができて。あの当日の自分は、多分ベストコンディションにあったと思います。
──以前、野音での<そらのないひと>を控えていた時も、あの会場には思い入れがあるけれど極力それを言わないようにしている、と言っていましたよね。それを言ってしまうと観る側もそういうライブだと意識し過ぎてしまうから、と。当時その発言を聞いた時には「なんて天の邪鬼な人なんだろう」と思ったものですけど、今の発言を聞いてすごく納得できました。
来夢:結局、自分が抱えてきてた違和感の理由が全部そこにあったんですよ。対バンをやるにしても、やっぱ本気でエンタメに取り組んでるバンドたちの中に混ざると、ちょっと雰囲気に飲まれてエンタメをやりたくなっちゃうじゃないですか。そうなってしまうと、自分の味が出なくなってくるんです。対バンに合わせてしまって、自分のやることが変わってしまうんですよね。もちろん、エンタメが悪いっていうわけじゃない。ただ、僕がやりたいこと、僕が行きたい道はこれだなっていうのが、あの時期に改めてしっかりと確認できたんです。武道館直前ギリギリに、そこに気付けて良かったです。
──芸術とか自己表現というのは、一方通行で終わってしまうことを覚悟のうえで取り組むものでもありますよね。ただ、それが共鳴を集めると結果的にはエンターテインメントとしても成立する。あの日の全演奏を終えた時の皆さんがウルッときていたのは、それを実感できていたからだったんじゃないかと思うんです。
来夢:最後はかなりやられました。光がぐるっと回って会場内がパッと明るくなる演出があったじゃないですか。あの場面で「ああ、やっぱ武道館だ!」と感じちゃったんですよね。でもまあ、僕自身はわりと涙を堪えてた方じゃないかとは思うんですけど(笑)。
──実際、武道館という大きな空間の中で「お客さんにちゃんと届いている」という実感を味わうことはできていましたか?
来夢:他のメンバーたちがソロをやる時に、僕が一度ステージから引っ込むタイミングがあったじゃないですか。あの時まではその感覚をあまり掴めてなかったですね。多分、お客さんも緊張してたと思うんです。初めての場所でまったく新しいことをやるとなると、僕も緊張するし、みんなも緊張することになるわけで、ライブどころじゃなくなると思うんですよ。だから、できるだけお客さんも緊張せずに済むはずのセットリストを組んだつもりなんです。みんないつも聴き慣れてる「ストロベリー・ブルー」を1曲目に持ってきた理由もそこにあって、序盤のうちから緊張が解けるような展開を用意してたんです。ただ、それでもさすがに武道館なんで、緊張してる空気はあったし、届いてないなと感じる部分はあった。で、そのソロの場面で楽屋に一度戻ってきた時に自分をちょっと落ち着かせて「何が足りねえんだろうな?」と考えて……そこからより積極的にメッセージを届けることを意識し始めてからは、伝わってる実感を得られるようになってましたね。やっぱ、そこですごく煽ったりしても、ちゃんと届くまでに時間もかかるわけじゃないですか。大きな場所ならではの距離感がある。そのあたりは、武道館をやる前に代々木第二とかでやってきて、経験値を積んできたのも良かったなと思いましたね。NHKホールでやった時にも、大きなホールでの届きにくさみたいなものを感じてました。MCとかも、ゆっくり話さないと絶対に届かない。そういう意味では、ちゃんと段階を踏まえて武道館に行けたのは良かったかもしれない。
◆インタビュー(2)へ
この記事の関連情報
【対談インタビュー】薫(DIR EN GREY)× 来夢(キズ)、初対談で “バンド”を語る「今がベストなのが一番」
キズ、幕張でフリーライブ開催
<VOCAL SUMMIT 2025>開催決定、HAZUKI(lynch.)や苑(摩天楼オペラ)が初参戦「一番呼ばれたくないイベントでした」
キズ、日本武道館公演のDVD詳細解禁
【ライブレポート】キズ「俺は、お前らの最強であり続ける!」
【ライブレポート】キズ × DEZERT、己の信じる“VISUAL”を掲げて
【ライブレポート】誰かを救う、キズの言葉
キズ、日本武道館単独公演終了。日比谷野音2daysライブ開催&新曲リリース決定
キズ『一撃 お正月スペシャル−反撃−』にMUCC 逹瑯、ΛrlequiΩ 暁、Waive 田澤孝介