人としてバンドとして新たな成長を遂げた4年間 非常に個人的な内容の詰まった情熱的なアルバム『Title Of Record』によって、Richard Patrick(元Nine Inch Nails)は、ようやく彼の師であるTrent Reznorの影を抜け出し、彼のバンドFilterが単なる自己満足のための実験バンドではないことを証明した。
Filterのデビューアルバム『Short Bus』からシングルカットされた“Hey Man, Nice Shot”がヒットした後、Richardとバンドのメンバーは4年という時間を経て、ようやくシーンに戻ってきた。だが、そこにオリジナルメンバーのBrian Liesegangの姿はない。新しいアルバムは、悩めるソングライターが名声や心痛と闘い、自らの姿をかえりみる姿を描いた年代記のようだ。 「人間というものは4年の間に随分成長するものさ」と、Richardは言う。『Short Bus』リリース後の歳月を、彼はほとんどスタジオの整備に費やしてきたのだ。 「この4年の間に俺はすっかり別人になった。だからこそ、みんなこのアルバムに夢中になっているのさ。かつてはNine Inch Nailsのサイドプロジェクトに過ぎなかったこのささやかなバンドが、アーティスティックでクリエイティヴな存在に変身したんだからね。それも俺が素晴らしい日々を送ってきたからだよ。経験という面から言えば、俺の人生は凄く経験豊かなものなんだから」
その豊かな経験の中には、痛みを伴うものもある(アルバムに収録されている“Miss Blue”をライヴで歌うことは絶対にないとRichardは言う。あまりにも辛いというのだ)。しかし、中には奇妙でおかしな経験もある。シングル“Take A Picture”は、Richardが飛行機の中でストリップをし、裸で機内を走り回ったという、とんでもない実話に基づいている。 「今の子供達は辛いことばかりで、彼らの人生は最低に思えるよね」。 Richardは、LAUNCHのエグゼクティヴエディターDave DiMartinoにこう語る。 「だけど、彼らが俺のアルバムを聴いて、人生はそんなに辛いもんじゃないってわかってくれたらいいな、と俺は思うんだ。物事そう悪いもんでもないってね。乗り越えることは出来るんだ。そういう風に俺も学んできたんだよ」
LAUNCH: 『Short Bus』と『Title Of Record』のリリースの間にこれだけ時間がかかったのはなぜですか?
RICHARD: 自分達のスタジオを作らなきゃならなかったからだよ。役所に電話をしてスタジオにガスを引いたりとか、そんなことに時間を取られてたんだ。俺はいわゆる一般消費者でも使いこなせる程度のテクノロジーってやつに囲まれて育った人間なんだけど、最初のアルバムは母親の家の地下室で8トラックのテープレコーダーを使って、自分自身で制作したんだ。そんないきさつもあって、『Short Bus』のレコーディングでは、レコード会社が俺自身にプロデュースさせてくれた。でも、次のアルバムではもっと音をいいものにしたい、という思いが残ってね。プロデュースをするためのスタジオが必要だと考えたのさ。もちろん、俺はFilterをきちんとしたバンドにしたいという気持ちはあったんだ。最初のアルバムは1人で作ったようなものだったけどね。で、ようやくそのスタジオも完成し、1年半前からアルバムの制作に入ったのさ。今のラインナップは完璧だと思うし、今回のアルバムは音の面でも前作よりもずっといいものになっている。こうして自分のスタジオも出来たから、これからはずっとそこで作業をすることになるよ。ツアーが終わったらそのままレコーディングに入れるんだから。今回のアルバムでもそうしたかったんだけど、その時はまだスタジオがなかったのさ。
LAUNCH: 1stアルバムと新しいアルバムの最も大きな違いは何ですか? 一番進歩したところはどこでしょう?
RICHARD: ものすごく誇りに思っているのはヴォーカルなんだよね。最初のアルバムの時は、俺自身、とってもびびってたんだ。母親の家の地下室でさ、自分が歌えるなんて思ってもいなかったし、自分のヴォーカルに関しちゃ、全然自信がもてなかった。でも、その後、『Short Bus』のリリースに伴って278回もコンサートをやることになって、練習すれば人ってうまくなるものでね。歌い込むことで、ヴォーカリストとしての限界がだんだん消えていくようになったんだよ。俺はこのアルバムを、とてもエモーショナルなものにしたかったんだ。起伏の激しい作品にしたかったし、聴き手を感情の旅に連れ出すような作品にしたかった。叫ぶのも好きだけど、非常に優しげな、親密な雰囲気のある世界へ聞き手を誘うようなこともしたかったんだ。そのために、前よりももっとソフトに、ほとんど聖歌隊の少年みたいな歌い方もしたよ。もう1つ進歩したのは、バンド全体がアルバム作りに参加したことだね。Genoが参加することでギターアルバムという側面が出てきたし、ドラムやベースの部分でもそれは同じさ。
LAUNCH: もともと、FilterというのはあなたとBrian Liesegangの2人でしたよね。私はそう受け取っていたのですが。2人が別々の道を進むことになったのはなぜですか? 一緒に作業をするのは大変だったのですか?
RICHARD: そうなんだ。俺はTrent Reznorにはなりたくなかったし、Bruce & The E Street Bandにもなりたくなかった。俺は“バンド”にしたかったんだよ。だけど、Brianはテレビにばっかり出たがったんだ。そこで意見が分かれたんだよ。彼が気にかけていたのは、自分がちゃんと長い間ビデオに映っているかってことだったんだからね。俺はそういうのは興味ないんだ。俺だってしぶしぶフロントマンを引き受けていたんだから。もちろん、インタヴューなどで俺達がチームだ、という印象を与える方が楽だったよ。俺はうまくやりたいって思ってたんだから。2人で一緒に曲を書きたいって、俺は切実に望んでいた。だけど、彼には俺が2人でどうしたいと思っているのか理解出来なかったのさ。全くうまくいかなかったんだ。
LAUNCH: CDに“プログラミング”というクレジットがありましたが、プログラマーは正確にはどういうことをやっているのですか?
RICHARD: 最初のアルバムの時は、「おい、ドラマーがいないぜ。どうする? ドラムマシンがあるからこれを使うか」って感じだったんだ。音作りの面から言うと、あれはなかなか面白かったんだよ。うまく聞き手をごまかすって感じでね。でも、今回のアルバムのレコーディングでは、ドラマーのSteveがスタジオの中で一生懸命ライヴの感覚を出そうとがんばったんだ。ただ、それとは関係なく、俺自身が機械に夢中になる時期というのがあってね。コンピュータの端末の前に座り込んで、音を挿入したり、ループを加えたり、という作業をするんだよ。これが結構大変な作業なんだ。思うに、Filterって台所のシンクみたいなバンドなんだ。曲の持つ感情を引き出すためなら、ありとあらゆるものを利用する。“Best Things In Life”は、凄くエレクトロニックな感覚を出したかった。でも、“Take A Picture”には全く機械は使ってない。結局、曲次第なんだよ。大地の香りのするような、ドリーミーな曲の時は、機械は使いたくない。
LAUNCH: 『Title Of Record』の歌詞は前作に増して深みのある、心情あふれるものですね。曲の面でも大きく進歩したと思いますが、今回はどういうところから歌詞を思いついたのか教えて下さい。
RICHARD: 最初のアルバムの時は、いやいやフロントマンをやっていたようなところがあったから、自分の感じているところをどう歌詞にしたらいいかもわからず、その歌詞をどう曲に乗せたらいいのかもわからなかったんだ。曲自体がとてもハードで荒っぽかったしね。自分の思考も、今よりずっと政治的で、サブカルチャーやLSDやHunter S. Thompsonのドラッグカルチャーなどに集中していたし。今回のアルバムでは、人生における最高のものはただでは手に入らない、ということについて書いているんだ。そりゃ、100万枚売れれば金だって手に入るだろうけど、そうなっても、自分がこうだろうなと思っていたとおりの状況になるわけじゃないんだよ。よくある話だけどね。俺は母親と話していて、そのことに気がついたんだ。これは自分の望んでいたことじゃないって。そうしたら母親が言ったんだ。「それについての曲を書きなさいよ」って。人の心に触れる曲を書くためには、自分にとって感情的に弱い部分、自分が怖いと感じている部分から曲を書かなくちゃならないってことはわかっていたんだ。 実際、自分の人生にも大きな出来事があった。音楽の世界で成功を収めた後、俺はとある女性と恋に落ちたんだけど、この恋愛がまるでジェットコースターに乗ってるみたいでね。しかも、あれだけ深く人を愛したことは初めてだった。俺の好きな作家もそういう状況についてよく書いているんだ。自分が彼らと肩を並べるとは思ってないけどさ。例えば、Charles BukowskiとかHunter S. ThompsonとかHemingwayとか。彼らは大変な人生を生き抜き、それを小説にしたんだ。このアルバムの曲はどれもみな、俺の心の奥底から出てきたものでね。中に1曲、曲だけ出来て歌詞がない曲があった。本当に素晴らしい曲だったんだけど。その時、ちょうど俺はスタジオのコントロールルームにいた。そこへ、これまでの人生で最悪のニュースがもたらされたんだ。彼女には俺以外にも男がいるって。俺は素手でガラスを殴りつけて、手を縫うはめになったけど、病院に行く前にその時の気持ちを歌にしたんだ。それが“I'm Not The Only One”さ。本当に感情に満ちた歌詞になってね。プロデューサーの中には、この曲のヴォーカルをやり直そうと言った人もいたけど、俺は「そんなことをしたらこの曲の持つ感情が台無しになる」といって断ったよ。それだけの価値のある曲になっているといいんだけどね。俺にとっては価値のある曲になったから。俺の人生はそれまでどおり流れていき、この曲は人生のエピソードになったけど、この曲は俺が自分自身のために作り上げている人生から生まれてきたものなんだから。歌詞の面ではこれが大きなきっかけとなったな。自分の感じたままに書いたんだから。最初のアルバムはまだ子供だったよ。4年というのは長い時間だよね。4年の間に人は随分成長するものなんだ。その間に俺は前とは全く違う人間になった。だからこそ、人はこのアルバムに夢中になるのさ。かつてはNine Inch Nailsのサイドプロジェクトに過ぎなかったこのささやかなバンドが、今ではアーティスティックでクリエイティヴな存在になった。それも、俺が凄い人生を生きているからなのさ。
LAUNCH: このアルバムの中で、自分にとって抜きんでた存在となっているのはどの曲ですか?
RICHARD: “Miss Blue”は、一番歌うのが辛い曲だよ。まるで感情のジェットコースターみたいで。この曲の終わりの部分では、目がうるうるしてきて恥ずかしかったんだ。バンドのメンバーは、だからこそ素晴らしい曲になったんだって言ってくれたけど。この曲は絶対にライヴではやらないつもりなんだ。うまく伝わらないと思うし。アルバムでもうまく伝わっているとは思わない。もっといいものに出来たはずなんだよ。
LAUNCH: 最近はサウンドトラックの仕事も手がけているようですが、映画に提供する曲と、自分のバンドのためにとっておく曲は、どのようにして区別しているのですか?
RICHARD: サウンドトラックっていうのは結構簡単なんだよ。「ここにCrystal Methodの曲があるから、やってみて」って感じなんだから。そうやって向こうからテープが送られて、俺はそこにヴォーカルを重ねる程度だからね。午後だけで終わった仕事もあったよ。『Matrix』の時は、「今すぐ1曲提供して」って調子だったけど。でも、あの時はサントラのリリースと、『Title Of Record』のリリースが凄く近くて、自分にとって特別な曲は自分のアルバムのために残しておく必要があったんだ。サントラってのは確かに、“This Note's For You”みたいな大ヒットが生まれることもあるけど、音楽が他の形で貢献出来るならそれだけで充分だよ。マルチメディアなわけだからね。ビデオっていうのも、音楽とは別の形で創造性を発揮する方法だし。自分のビデオには随分関わっているんだ。サントラっていうのも、方法の1つさ。それに、Foo FightersやMarilyn Mansonと同じアルバムに入るってのも楽しいしね。サントラに参加するいい理由になるだろ。そこでみんなを驚かせることが出来たら最高だよ。金のためにサントラにつまらない曲を提供する人も多いけど、俺達はアルバムの中で最高の曲を提供するバンドになりたいんだ。
LAUNCH: あなた達のコンサートで怪我をした、という女性から最近訴えられましたが、その件について教えてもらえますか? どんな状況だったのですか?
RICHARD: もう終わったことさ。ある程度金を儲けているとこうなるんだ。コンサートをやると、人は取れるだけのものを取ろうと考えるんだよ。その女の子はコンサートで怪我をして、何億という保証を要求して俺を訴えたのさ。全く腹の立つ話だ。そのために1時間も留置場につながれる羽目になったし、釈放されるのも大変だったんだ。しかも、検事はなんとか裁判にしようとしてるしさ。俺はいいカモだったんだよ。この件では結局その女の子にある程度の金を払ったんだぜ。金は全部保険でまかなったけどね。コンバットブーツを履いてモッシュピットで暴れてる欲の深い連中は、みんなこう言ってるんだ。「バンドを訴えてやろうぜ。バンドのせいだ。ハイスクールで銃をぶっ放してやろう。それもバンドのせいだ」ってね。他の人が罪を背負わないせいで、アーティストがいつも責められるんだ。怪我したくなかったんなら、最初から彼女はコンサートのモッシュピットに加わるべきじゃなかったのにさ。自分からモッシュピットに入っていったんだよ。そこで怪我をした彼女は、3つも病院に行ってMRI検査を受けて骨折していないかチェックしたんだ。そこで、左の眼窩に顕微鏡でようやくわかる程度の骨折を見つけて、そのせいで俺は傷害罪で逮捕されることになったんだぜ。しかも、俺の全財産を求めて俺を訴えたんだ。裁判官にはわかってたみたいだけどね。俺は結局、司法取引をして、より小さな罪を有罪と認めることで釈放されたんだ。「あなたは保護観察処分になりました。シカゴに戻っていいアルバムを作って下さい。私の子供はあなたの大ファンなんですよ」。裁判官はそう言って閉廷の合図をした。「全く、なんて世の中だ」って思ったけど、みんなは「Richard、これもこの仕事をしている代償だよ」って言ってた。今度は、コンサートの度にチラシを配るつもりさ。「モッシュするなら、自分の身は自分で守れ」って書いて。
LAUNCH: Geno Lenardoとの共作がBrianとの共作よりうまくいっているのは、なぜだと思いますか?
RICHARD: Genoはこういうタイプの男なんだ。「よお、Richard。仕事をしに来たぜ。聴かせたい曲があるんだけど」「ほんとに? じゃあ、ちょっと聴かせてくれよ。いい曲じゃないか。この曲に合わせて歌ってみてもいい?」「そう言ってほしいと思って聴かせたんだ」…それが、Genoの曲作りの感覚なんだよ。うぬぼれてやってるんじゃないんだ。Brianには自分の曲がFilterの音楽には合わないってことがわからなかった。俺が期待していたほどよくなかったんだ。自分が“ボス”になるのは嫌だけど、実際俺がボスだし、これは俺のバンドなんだから、決断を下すのも俺だよね。誰かが決めなくちゃならないんだし。GenoはFilterの曲になるように、自分の曲に手を入れていくんだ。彼の曲はどれも、凄くよく書けていて、しっかり作られた曲だから、俺としても作業がしやすいし。これこそまさに俺が欲しかった曲なんだよ。Frank(ベースプレイヤー)は俺に、彼の書いたベースのフレーズを聴かせるのを怖がるんだけど、その気持ちも俺にはよくわかる。以前、Nine Inch Nailsにいた時には、Trentに曲を聴かせて「どう思う?」って訊くのが凄く怖かったもの。あのバンドはまさに彼のバンドだったし、バンドに対して完璧主義者としての目を光らせていたから。それはそれでいいんだ。俺はバンドを辞めて、契約を見つけて、自分自身の音楽をやることにした。そうやって、俺はその問題を解決したんだ。もし、Genoの持ってきた曲を俺が気に入らないようなことがあれば、彼もこのバンドを辞めて、自分のために曲を書き、自分で契約を見つけてやっていくかもしれない。だけど、俺がいい曲を突き返すなんてことはないからね。今回のアルバムで俺は素晴らしい曲を8曲書いてはいるけれど、自分がこのバンドの唯一のソングライターだなんて保証してもらうつもりもないしね。俺にとっては、本当に楽なんだよ。例えば、“Skinny”なんて、少しだけ自分の声に合うようにアレンジをし直しただけなんだ。そのことが、俺には嬉しいんだよ。最初のアルバムの時、Genoはただの雇われギタリストに過ぎなかったし、俺も「俺の代わりに俺のパートを弾いているというだけの理由で、自分が尊敬もしていないギタリストと一緒に仕事が出来るわけない」と思っていたんだ。でも、彼も随分腕を上げたし、今ではこの先、彼と一緒にバンドをやっていくのが楽しみなんだ。
LAUNCH: “Take A Picture”という曲は何についての曲なのですか?
RICHARD: あれは、真面目な話じゃないんだ。いわゆるロックンロール的ライフスタイルではよくある類のこと、ロックスターの悪ふざけってやつさ。あの時俺は、単純に飛行機の中で服を脱ぐ時だ、と思ったんだよ。しばらくそうやって裸のまま飛行機の中を走り回ってさ。みんな大爆笑していたよ。バンドのメンバーじゃない人は、笑わなかったけど。俺は財布に手を伸ばして、飛行機のクルーに有り金全部、押しつけたりもした。ちょうど今ビデオを制作しているんだけど、この話を伝えるために飛行機の中で撮影した場面も使うつもりなんだ。このことはどうしても曲にしておかなきゃと思った。みんな頭が固いし、世の中をまじに考えすぎなんだよ。俺は誰も傷つけちゃいないんだぜ。単に飛行機の中を裸で走り回っただけのことなんだから。たまには肩の力を抜いた方がいいんだよ。
LAUNCH: あなたが作ろうとしている音楽はどういう感じの音楽なのですか?
RICHARD: 俺達がやろうとしているのはFilterミュージックさ。他の曲よりエレクトロニック色が強い曲があったとしても、それは偶然の産物に過ぎないんだ。俺達の音楽は生きているんだから。ソングライターというものは、色々な楽器を使うべきだと思うね。俺達はチェロやヴァイオリン、コンピュータ、ワールドビートにハーモニカまで使いこなす。それだけの才能に恵まれているし、何でもやれるんだよ。Crystal Methodにはエレクトロニックミュージックしかやれないから、その限界が彼らにとっては障害と成りうる。それに、Limp Bizkitに聴き手を違う世界へ連れていくような美しい曲が作れるかい? 俺はどうかと思うけどね。ヘヴィなサウンドを取り入れたヒップホップ調の音楽というのは、それはそれでいいけど、俺は色々なタイプの音楽をやりたいんだ。ジャンルの壁を越えることを俺は恐れはしないし、色々なサウンドの入り交じった存在になることを恐れてもいない。Led Zeppelinだってそうだったんだから。ジャズだろうがブルーズだろうがロックだろうが、彼らは気にしていなかったし、その結果非常にオリジナルなバンドになったんだ。U2を見てごらんよ。最初はただのオリジナルなバンドだったのに、ある時から突然、ジャンルの枠を軽々と飛び越えて、まるで下着のように頻繁に自分達の音楽スタイルを変えだした。人はNeil Youngではなく、U2の路線で行くものなんだ。自分達が得意なスタイルに戻って、自分に限界を下すことなくやるべきなのさ。
LAUNCH: Filterの典型的なファンとはどのような感じですか?
RICHARD: たいがいは若い男性。中には女性もいる。これじゃあ、随分曖昧な答えだね。俺としては彼らが単なる音楽ファンで、音楽が好きだからバンドに夢中になってくれてるならいいな、と思ってるよ。「わぁ、今日は彼レザーのパンツをはいてるわよ」なんて人達じゃなくてね。俺が彼らの心に触れることが出来るからファンになったというならいいんだけどね。俺が音楽をやっている唯一の理由は、ファンから手紙を貰って、俺達の音楽が彼らを動かしたと言ってもらえる瞬間が大好きだからなんだ。俺は人の心に触れたいんだよ。ロックスターなんて俺にはちっとも魅力的に思えない。Trentなんて一緒に歩いていても、とても道を歩けない状態だからね。少なくとも俺にはまだ少しは無名の部分があるから。俺はただ音楽をプレイしたいだけだし、シンガーでありたいだけなんだ。俺のファンは、出来れば、俺と同じようなことをやってきた人達がだったらいい。つまり、地下室にこもってレコードを聴くことでティーンエイジャーの時期を過ごしてきたようなね。
LAUNCH: あなたの好きなバンドについて、いくつか聞かせて下さい。
RICHARD: 気に入っているバンドはSimon Saysだな。Chevelleも好きだし。そういえば、昨夜素晴らしい曲を聴いたんだ。誰なのか調べてるんだけどね。ものすごくヘヴィな曲でさあ。複数のギターと、スピードメタル風のサウンドと、ドラムンベースを組み合わせて使っていて、それに乗せて男の人が歌っているんだ。あれは本当にかっこよかった。それはともかく、俺はありとあらゆる音楽を聴くんだ。Led Zeppelinや初期のU2、Stone Temple Pilots、Weezer。音楽そのものが大好きなんだよ。俺が25歳の頃はNirvanaが大人気で、俺は聴いてなかったんだけど、後からちゃんとチェックはした。大体、MTVに出たり成功を収めたりするバンドには、成功するだけの理由があると思ってたからね。それで彼らの作品も買った。とにかく俺は出来る限り色々なものを買うようにしているんだ。Deftonesも聴くし、Chris Isaakも聴くし、Patsy ClineもThe Beatlesも聴く。Beatlesの良さを発見したのはここ数年なんだ。俺の家族は変わっててね。Patrick家の人間のやることには決まりがあるんだ。例えば、ペプシは飲まないけどコカコーラは飲むとか、インスタントを使わないで本物のマヨネーズを使うとか。Beatlesは聴かないけどThe Rolling StonesやThe Whoは聴く、Sex Pistolsは聴かないがThe Clashは聴く、という具合にね。だから、俺はこれまでずっと「Beatlesはちゃんと聴いたことがないんだ。John Lennonって誰? Paul McCartneyって何者?」って調子で来たんだよ。そこで、ある日BeatlesのCDを全部買ってきたのさ。D'arcy(元Smashing Pumpkins)は俺の友達なんだけど、彼女が俺のCDコレクションを見て、「Beatlesはどこなの? Beatlesがないじゃないの。あのね、あなたソングライターなんでしょ。それならわかってるでしょうけど、神様Beatlesをばかにしちゃだめよ」と言ったんだよ。で、彼女は俺を連れだしてBeatlesの作品を全部買わせたってわけ。『White Album』も聴いたけど、あれは曲作りの上で本当に助けになった。彼らは驚異的だよ。
LAUNCH: 今回のアルバムの中で、あなたが一番誇りに思っている曲はどれですか?
RICHARD: “Take A Picture”なんかそうだね。今回のアルバムに関しては本当に一生懸命働いたし、このアルバムにはこういうものが入っていなければ、と思うものは何でも入れるようにした。だから、アルバム全体を誇りに思っているんだ。最初の曲から最後の曲まで、このアルバムは聴き手を違う世界へ連れて行ってくれると思う。あと面白いのは、作者への言葉だね。これは実はシークレットトラックでね。13分間沈黙が続いた後、奇妙な叫び声というかわめき声の言葉が入っているんだよ。Rob Zombieに向けて叫んだのも入ってる。いつもクールでいてくれてありがとう、Rob。
LAUNCH: 自分のバンドを表現する文章の中で、自分でも納得したものはこれまでありましたか?
RICHARD: 『New York Times』に載っていた俺達のコンサートのレヴューだな。Filterはグランジでもなければインダストリアルでもないし、メタルでもなければロックでもオルタナティヴでもないんだ。Filterは1つのジャンルに限定されないんだよ。すべてをひっくるめたものがFilterだし、俺がやろうとしているのはまさにそういうものなんだ。みんなは「君たちはインダストリアルバンドだ」っていうけど、俺はそう言われるの大嫌いなんだよね。もし俺達がインダストリアルバンドだとしても、くたびれたジャンルに新しいものを持ち込んだのはよかった、というべきだし。インダストリアルっていうのはね、ドラムマシンとシンセサイザーに合わせて誰かが叫んでいるだけの音楽じゃないんだよ。インダストリアルはSkinny PuppyやNitzer Ebbといったバンドが、素晴らしい形で完成させているんだから。俺の音楽はロックでありオルタナティヴだからね。オルタナティヴロックだな。ギターも入っているし。Backstreet Boysみたいな、みんなにばかみたいに大人気の、型にはまった存在に比べたら革新的だしね。ああいうのは本当に安全で型にはまっていて綺麗だよね。ゲー! 俺は危険が欲しいんだよ。恐ろしくて、親が怒るような音楽が欲しいんだ。
LAUNCH: Britney SpearsやBackstreet Boysのような音楽をどう思いますか?
RICHARD: Britney Spearsは別にどうでもいいけど、彼女の音楽はサイテーだね。
LAUNCH: Filterの音楽でどのようなメッセージをファンに伝えたいと思いますか?
RICHARD: 世の中そんなに悪いもんでもない、ってことかな。みんな本当にくだらないことに惑わされて落ち込んでるよね。『Family Value』ツアーでは、どういうことをするつもりか、とよくみんなに訊かれたんだけど、俺はとにかくアンプのヴォリュームをめいっぱい上げて大騒ぎをするだけさ。楽しむつもりだよ。観客にももちろん楽しんで欲しいしね。もちろん、俺は音楽を真剣に考えているけれど、とにかく素晴らしい時間を持ちたいんだ、ってことをみんなにもわかって貰いたい。コンサートから帰る途中で、こう言って欲しいんだよ。「日常生活から連れ出して、素晴らしいパーティに連れていってくれた」って。子供達の毎日は本当にひどいものだし、彼らには辛いことがたくさんある。だけど、そうである必要はないんだよね。こんなに悲しいものである必要はないんだ。だからね、リラックスして、ビールでも飲もうよ。祝うんだ。目的などなしに祝うんだよ。誰が気にするっていうんだい? カウチに座り込んで、気楽にやればいいのさ。そこまで悪いものなんて何もないんだよ。人生はそんなに辛いものじゃない。乗り越えられるさ。俺がやりたいのはそれだけ。ハッピーでいること。楽しむこと。わかり切ってることであれこれ悩まないことさ。
by Dave Dimartino
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