【連載】いま、聴きたい演歌・歌謡曲 vol.9(本人歌唱指導付き)川野夏美、舞乃空、里野鈴妹、真木ことみ、塩乃華織

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世代を超えて愛される「うた」がある。歌唱したい「うた」がある──。

◆本人による歌唱アドバイス 動画

演歌・歌謡曲シーンから注目の作品を毎月紹介する連載企画「いま、聴きたい演歌・歌謡曲(本人歌唱指導付き)」第9回目は女性歌手にフィーチャー。川野夏美「北の恋情歌」、舞乃空「とまり木」、里野鈴妹「バカ酒場」、真木ことみ「終着の宿」、塩乃華織「雪挽歌」を紹介する。
(協力:日本クラウン)



■川野夏美「北の恋情歌」



演歌歌手というより女優っぽい雰囲気を持った(喋らせるとちょっと天然)中堅世代の川野夏美。オールマイティに歌えるが、語るように切々と歌う柔らかな歌い口に味が出るタイプだ。昨年、ちあきなおみ「円舞曲」の一節を援用した「渚のホテル」が一部で話題になった。

1年ぶりの新曲は、作詩にたきのえいじ、作曲に弦哲也という重鎮を配し、北の冬の港に残された女の淋しさを歌う作品。和太鼓を叩くかのような重厚なリズムと、汽笛が啼いて海猫が飛ぶ冬の港の風景は、まさに演歌の王道。対して、同じ作家陣によるカップリングの「海峡セレナーデ」は、リード曲とは真逆の柔らかなバラードだが、歌われる主人公は同じ人に思える。つまり、東京で別れて北の故郷に一人帰る風景を歌ったのが「海峡セレナーデ」で、帰ったもののどうしようもない寂しさに襲われているのが「北の恋情歌」、という感じか。編曲は猪股義周が担当。「海峡セレナーデ」の70年代ソウルのようなギターやオルガンのフレーズを入れるアイデアも面白い。



「北の恋情歌」発売情報

2024年8月28日リリース
CRCN-8682 定価:¥1,500(税抜価格 ¥1,364)

【収録曲】
1. 北の恋情歌
作詩:たきのえいじ / 作曲:弦哲也 / 編曲:猪股義周
2. 海峡セレナーデ
作詩:たきのえいじ / 作曲:弦哲也 / 編曲:猪股義周
3. 北の恋情歌 [オリジナル・カラオケ]
4. 海峡セレナーデ [オリジナル・カラオケ]
5. 北の恋情歌 [一般用カラオケ(半音下げ)]
6. 海峡セレナーデ [一般用カラオケ(半音下げ)]




■舞乃空「とまり木」



舞乃空と書いて「まのあ」と読む。18歳の誕生日を迎える直前の23年2月にデビュー。30代の若手作家が書いた、90年代型フォーク・スタイルのポップスを歌ったシングルをこれまでに2枚リリース。歌謡曲シーンの新しい方向性を感じる歌手だ。そういえば、田中あいみ、梅谷心愛と共にZ世代の3人でユニットを結成することになったというニュースがあったけど、名前は決まったのだろうか。

3枚目のシングル「とまり木」は、 「あ~よかった」や「さよなら大好きな人」のヒット曲で知られる花*花の2人による書き下ろし曲。あの時代を知っている人にはすっと肌になじむフォーキーなバラードだ。巣立っていく子供の後ろ姿を見ている親の気持ちを、巣立っていく世代の舞乃空が歌う。カップリングの「幸せになってください」は、結婚していく姉を見守る妹の気持ちを歌った歌。どちらもそういったシチュエーションを体験してきた親にとっては感慨深く、心に残る歌だろう。





「とまり木」発売情報

2024年9月11日 Release
CRCN-8691 定価:¥1,500(税抜価格 ¥1,364)

【収録曲】
1. とまり木
作詩:コジマイズミ / 作曲:オノマキコ / 編曲:SHIKI
2. 幸せになって下さい
作詩:コジマイズミ / 作曲:オノマキコ / 編曲:SHIKI
3. とまり木 [オリジナル・カラオケ]
4. 幸せになって下さい [オリジナル・カラオケ]




■里野鈴妹「バカ酒場」



2023年のクラウン新人オーディションで準グランプリを獲得した里野鈴妹(すずめ)のデビュー曲。兵庫県川西市出身で、水森かおりの大ファンという新人だ。

タイトルは「バカ酒場」。デビューのときにインパクトのあるタイトルを持ってくるのはよくあることだが、曲自体もギミックなしの王道の演歌。歌詞こそ《ばかな男の バカ酒場》と涙酒の様相だが、メジャーキーの明るく豪快な曲で、若さを活かして押しの一手の勢いで歌い切る。対してカップリングは、イントロのトランペットが壮大に北の世界を奏でる悲恋の歌。両曲の作曲を担当したのは、氷川きよしや山内惠介を育てた大御所、水森英夫。当然、レッスンも担当しているようで、細かな歌い回しには水森節というべき節回しが聴かれる。正直なところ、まだまだ固さがある印象だが、演歌は声が育って歌が育つものなので、歌い込んで1年後にどれだけ成長しているか期待したい。




「バカ酒場」発売情報

2024年9月4日リリース
CRCN-8690 定価:¥1,500(税抜価格 ¥1,364)

【収録曲】
1. バカ酒場
作詩:菅 麻貴子 / 作曲:水森英夫 / 編曲:伊戸のりお
2. 北吹雪
作詩:さくら ちさと / 作曲:水森英夫 / 編曲:伊戸のりお
3. バカ酒場 [オリジナル・カラオケ]
4. 北吹雪 [オリジナル・カラオケ]
5. バカ酒場 [一般用カラオケ(半音下げ)]
6. 北吹雪 [一般用カラオケ(半音下げ)]




■真木ことみ「終着の宿」



デビュー以来、30年以上途切れることなくコンスタントにリリースが続いている人気歌手、真木ことみ。アルトボイスの低音が魅力で、中低域の艶やかさと深み、借り物ではない節回しの調子はほかにはない個性だ。

1年ぶりとなる新曲は、ここ3作続いた弦哲也作品を離れ、夏川寿里亜が作曲を担当。王道の哀歌のメロディーを紡いでいる。そこに言葉を乗せたのは、なんと齢92歳現役の池田充男。無駄のない風情のある言葉選びはもはや伝統芸能の域。行間はあるが隙はないという完璧な“詩”だ。その言葉を噛み締めるように歌う真木の声の調子の微妙なコントロールも見事だ。カップリングの「愛の記憶」は、少しムード歌謡調の楽曲に編曲の南郷達也がアコーディオンやソナタのようなピアノのフレーズを入れ込み、洋風のムードを作り出している。両曲とも一見定番風に見えて、実に丁寧な作りであることがわかる。お見事。





「終着の宿」発売情報

2024年9月4日 Release
CRCN-8685 定価:¥1,500(税抜価格 ¥1,364)

【収録曲】
1. 終着の宿
作詩:池田充男 / 作曲:夏川寿里亜 / 編曲:南郷達也
2. 愛の記憶
作詩:厚田めろん / 作曲:ANTONIO / 編曲:南郷達也
3. 終着の宿 [オリジナル・カラオケ]
4. 愛の記憶 [オリジナル・カラオケ]
5. 終着の宿 [一般用カラオケ(半音下げ)]
6. 愛の記憶 [一般用カラオケ(半音下げ)]




■塩乃華織「雪挽歌」



今年でデビュー15年目の塩乃華織。ロングトーンを駆使しながら、近年は“ドラマティック演歌”を標榜して活動。一気に知名度を上げ、確固たるポジションを築き上げている。

約1年半ぶりとなる新曲「雪挽歌」は、冬の寒さと人の寒さを重ね合わせながら心を燃やしていく、まさに“ドラマティック演歌”の面目躍如といった楽曲。作曲は19年以来5曲連続、話題の楽曲を多く手がけている西つよし。これを書いている時点ではMVはまだ公開されていないようだが、サビのキャッチーな《降る 降る 雪 雪》のところはぜひ振り付けが欲しい。サラ・ブライトマンに和を加味したような荘厳なアレンジを施した矢田部正もお見事。こういう曲がアニソンになったら面白いと思う。この路線は一般に浸透するまで続けて欲しい。カップリングの「運命と踊りましょう」は、新基軸となるカクテル・ジャズ。ムーディだがいわゆるムード歌謡とは違った洗練があって、これも良い出来。塩乃華織、もっと来るんじゃないですか。期待。





「雪挽歌」発売情報

2024年9月4日 Release
CRCN-8688 定価:¥1,500(税抜価格 ¥1,364)

1. 雪挽歌
作詩:麻 こよみ / 作曲:西 つよし / 編曲:矢田部 正
2. 運命と踊りましょう
作詩:内藤綾子 / 作曲:西 つよし / 編曲:矢田部 正
3. 雪挽歌 [オリジナル・カラオケ]
4. 運命と踊りましょう [オリジナル・カラオケ]




文◎池上尚志



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