【連載】いま、聴きたい演歌・歌謡曲 vol.13（本人歌唱指導付き）純烈、羽山みずき、三山ひろし、田中あいみ、水前寺清子

世代を超えて愛される「うた」がある。歌唱したい「うた」がある──。

◆本人による歌唱アドバイス 動画

演歌・歌謡曲シーンから注目の作品を毎月紹介する連載企画「いま、聴きたい演歌・歌謡曲（本人歌唱指導付き）」第13回目。2024年末の『NHK紅白歌合戦』の余韻もまだ残る今回のコラムでは純烈「奇跡の恋の物語」、羽山みずき「みちのく純恋歌」、三山ひろし「恋…情念【感謝盤】」、田中あいみ「仁川エアポート with 所ジョージ」、水前寺清子「男のいのち」を紹介する。
（協力：日本クラウン）

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■純烈「奇跡の恋の物語」

7年連続の『NHK紅白歌合戦』への出場を果たした純烈。近年はスーパー銭湯のアイドルの枠を超え、演歌・歌謡界のトップランナーとして活躍を続けている。3月4日からは、純烈のメンバーが主演のドラマ『今夜は…純烈』がテレビ東京系列のドラマ枠・ドラマチューズ！で放送されることが決定した。

通算17枚目となるシングル「奇跡の恋の物語」は、なんと作詞に藤井フミヤ、作曲に藤井尚之という元チェッカーズの2人による書き下ろし。11月26日に先行配信が始まっていたが、CDもカップリングを変えた3タイプで発売される。楽曲は尚之の柔らかなポップセンスとフミヤの少しセンチメンタルでロマンティックな世界観が融合した、大人のアイドルな世界観。藤井兄弟はさすがコーラス楽曲の扱いには慣れたもので、主旋律とコーラスが絡み合う複雑かつポップなラインの作りは見事。カラオケ仲間で練習したらなかなか達成感があると思う。

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■羽山みずき「みちのく純恋歌」

出身地の山形県鶴岡市の出羽三山神社の巫女として勤めていたという異色の経歴を持つ歌手。柔らかく語りかけるような歌い方で非常に繊細な表現を得意とする、演歌歌手には珍しいタイプだ。

2024年2枚目となるシングル「みちのく純恋歌」は、久しぶりのご当地ソング。地元の山形を舞台にした待ち人の歌だ。庄内平野を見渡して、柔かく寂しさが降り積もるように羽山の歌が染み渡っていく。寂しい歌なのになぜか包み込まれるような優しさを感じるのが不思議だ。これは羽山の代表作の1つになるのではないか。カップリングの「千年かぐや姫」は、「竹取物語」の世界観を歌謡フォーク調の楽曲に乗せて歌ったもの。羽山が歌うと本の読み聞かせを聞いているように歌詞の物語がすっと入ってくる。歌い手の個性と楽曲がマッチすると素晴らしいものになるというお手本のような出来。

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■三山ひろし「恋…情念【感謝盤】」

三山ひろしといえば、まず思い浮かぶのが『紅白』で恒例となったけん玉ギネス記録。『紅白』には15年に初出場し、昨年で10年連続出場を果たしている。けん玉企画は17年にスタートし、20～22年まで3年連続で記録を更新していたが、残念ながら一昨年は失敗。2024年は待望の大成功となった。

そんな三山の今年の『紅白』歌唱曲が「恋…情念」だ。もともとは24年の1月にリリースされた曲だが、今回紹介するのは2024年8月にリリースされた、同曲の「ダイナミックVer」を収録した「感謝盤」。「恋…情念」は弦哲也の作曲による力強いメロディが印象的な楽曲だが、「ダイナミックVer」では、オリジナルバージョンよりもさらに壮大かつライブ感のあるアレンジで、なんと7分にも渡ってこれでもか！と情念の世界が繰り広げられる。『紅白』という特別な舞台の後に聴くなら、特別に気合の入ったこちらのバージョンをおすすめしたい。

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■田中あいみ「仁川エアポート with 所ジョージ」

11月に紹介した木梨憲武との「ドアを開けてみた」に続いて、所ジョージの作曲による配信先行楽曲から、今度は所さんをフィーチャーした楽曲。山本譲二と川中美幸のデュエット曲にも同タイトルのものがあるが、まったく別の曲です。2020年代風のダンサブルなシティポップ歌謡といった仕上がりで、打ち込み版のクレイジーケンバンドといった感じもあり。所さんの音楽はどこかおちゃらけた雰囲気のものが多い印象だが、この曲は田中の張りのある歌声とともに、実にカッコよく仕上がっている。所さん、すごい才能です。ただし、曲中で所さんがどこにいるのかまったくわかりません（笑）。もしかしたらギターを弾いているのが所さん？現在はCDも発売されており、「TATSUYA（スペシャル盤）」のカップリングに収録。

ちょっと難しいことを書いておくと。演歌はリズムのアクセントが頭拍にくる場合が多いが、近年のJ-POPは裏拍が中心で、この曲も裏。田中のボーカルはその裏のリズムに完璧に対応していて、通常の演歌歌手とはまったく違った素養を持った歌い手なんだということがわかる。今後もこの手の楽曲を歌うことを期待します。

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■水前寺清子「男のいのち」

チータ、デビュー60周年！　79歳にして未だ現役だ。64年デビューというから、都はるみと同期ということになる。女性でありながら浪曲のような見得の切り方や、力強くコブシを回しながら男の心意気を歌って、80年代頃までは演歌界の姉御的な立ち位置で活躍した。代表曲には《ボロは着てても心の錦 どんな花よりきれいだぜ》というフレーズで有名な「いっぽんどっこの唄」、そしてある意味で国民的な曲と言える「三百六十五歩のマーチ」など、聴く者の心を鼓舞する歌を力強く歌った。

この2枚組ベストは、クラウンの残されたオリジナル録音を使っての名曲集。タイトルが「演歌」でも「艶歌」でもなく「援歌」であるところにこの人の真髄がある。ディスク1は「演歌盤」、ディスク2は「歌謡曲盤」と傾向別に分けて、それぞれに新曲を1曲ずつ収録。ド演歌の「男のいのち」では、得意の歌で見得を切るような節回しが、ラテンタッチで小粋な「チータのcha cha cha」では、ノリの良い歌が聴かれる。ハスキーな声とハリのある歌はまだまだ健在。こんなカッコいい女性、なかなかいない。

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文◎池上尚志