【連載】いま、聴きたい演歌・歌謡曲 vol.8（本人歌唱指導付き）田中あいみ、二見颯一、純烈、長保有紀、西城なつ美

世代を超えて愛される「うた」がある。歌唱したい「うた」がある──。

◆本人による歌唱アドバイス 動画

演歌・歌謡曲シーンから注目の作品を毎月紹介する連載企画「いま、聴きたい演歌・歌謡曲（本人歌唱指導付き）」第8回目となる今回は、田中あいみ「TATSUYA」、二見颯一「泣けばいい／花唄」、純烈「夢みた果実」(Cタイプ・Dタイプ)、長保有紀「霧笛にぬれて／おっとり節」、西城なつ美「花筐／恋はDAN DAN」を紹介する。
（協力：日本クラウン）

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■田中あいみ「TATSUYA」

デビューイヤーに日本レコード大賞の最優秀新人賞を受賞した23歳。（ドクロジャージでゆるキャラ化進行中の）細川たかし門下生だ。もう少しでデビュー3年目に突入というタイミングだが、注目度や期待値はまだまだ衰えない。

5枚目となる本シングルは、裏町の若きシングルマザーの歌。ホーンをフィーチャーし、ビートを効かせた60年代スタイルのブルージーな歌謡曲で、デビュー曲「孤独の歌姫」の世界観にリンクする楽曲の雰囲気と、その後の人生を描いたようなショッキング歌詞という、なかなか攻めた1曲。歌詞は大御所吉田旺、作曲はヒットメーカーの杉本眞人。カップリングは青山ミチの68年の代表曲、「叱らないで」のカバー。実は歌の世界観が「TATSUYA」と表裏一体になっており、コンセプチュアルな仕上がりになっている。演歌のスタイルとは一線を画したソウルフルなコブシはこの人だけの個性で、本人もそれを自覚しているのか、歌い方がどんどんダイナミックになっている。大化けする日を待ちたい。

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■二見颯一「泣けばいい」

今年でデビュー5年目、民謡出身の“やまびこボイス”を武器にする25歳の、89枚目となるシングルがこちら。これまではトラディショナルな演歌や、昭和30年代の流行歌風の歌が多かったが、今回はマイナーの歌謡曲作品に初挑戦。

「泣けばいい」は堀内孝雄が作曲を担当。ドラマティックな展開と込み上げるメロディはまさに堀内節。それをあえて声の調子を少し抑えて艶で聴かせるという、民謡出身者ならではの技術が活きている。石原信一が紡いだ言葉も美しく、歌い込むほどに表現が深くなっていきそうだ。カップリングの「花唄」は、フォークスタイルの歌謡ポップス。これまた実に美しい歌で、エヴァーグリーンなスタンダード感があり、密かにカバーされることが増えるのではないかという気がする。A面曲にしても良かったのに、と思ってしまう仕上がりだ。

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■純烈「夢みた果実」(Cタイプ・Dタイプ)

前作「純烈魂」では、作曲がなんと原譲二（北島三郎の作詞・作曲時のペンネーム）ということで話題に。それに続く2024年の第3弾リリースは、4月に発売された「夢みた果実」のカップリング曲を変更したCタイプとDタイプの２種。

表題曲の「夢みた果実」は、70年代後半の山口百恵を思わせる王道の歌謡曲を再現したような、アレンジャー萩田光雄の職人魂を感じる1曲。今回注目のカップリング曲は、現在もコンサートでは人気が高いという、まだ6人組だった2011年にリリースした2ndシングルに収録されていた2曲をリメイクして収録。[Cタイプ]が「キサス・キサス東京」で、軽いラテンタッチのムード歌謡。[Dタイプ]には70年代の男性アイドル風の「ひとりじゃないから」を収録。アレンジが大きく変わったわけではないが、メジャー感というか、スケール感は確実に大きくなっている。まさに歌謡曲の王道。

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■長保有紀「霧笛にぬれて」

今年がクラウン移籍20周年、来年でデビュー40周年を迎えるベテラン。近年は年に1曲ペースでコンスタントに新曲を出し続けているが、毎度毎度曲の傾向が変わるという、全天候型で活動中だ。

今回の新曲は、テナーサックスが咽び泣く70年代風のブルージーなムード歌謡。作曲を担当したヒットメーカーの徳久広司もかなり振り切った曲作りをした印象だが、これができるのは音楽の語法と時代背景を間違いなく汲み取ってくれるベテラン歌手だからこそ。若手ではこうはいかない。どうせなら曲の世界観に合わせて、ジャケットももっとアンニュイな感じだったら良かったかもしれない。カップリングの「おっとり節」はタイトルからも伝わるようにちょっとコミカルな民謡調の舞踊曲となっている。

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■西城なつ美「花筐」

出身地である熊本県八代市（八代亜紀と同郷だ）に心を置きながら活動を続ける西城なつ美。演歌歌手というよりは、ポップス的な楽曲を中心に、幅広いレパートリーを歌いこなす実力派だ。

新曲のクレジットを見て驚いた。作詞の小野彩は藤あや子のペンネーム。作・編曲の島野聡はMISIAのデビュー曲「つつみ込むように」を書いた人で、あの筒美京平の門下生でもある。実は18年のデビュー30周年記念曲「優しい時間の中で」もこの2人のコンビによるものだった。「花筐」（はながたみ）は大らかで“つつみ込むよう”な包容力のあるバラード。亡くなった人への少しの未練と優しい想い出を歌っており、歌唱力に自信のある人なら情感たっぷりに歌いたくなるだろう。カップリング曲「恋はDANDAN」は、一転、適度に洗練されたR&B風のビートを持った、しかしメロディは切ない大人のポップス。こういったタイプの曲に演歌・歌謡曲の未来が見えるような気がする。

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文◎池上尚志