『ワールド・ニーズ・ア・ヒーロー』 Victor Entertainment VICP-61348 2,520(tax in) 2001年5月12日発売 1 Disconnect 2 The World Needs A Hero 3 Moto Psycho 4 1000 Times Goodbye 5 Burning Bridges 6 Promises 7 Recipe For Hate...Warhorse 8 Losing My Senses 9 Dread & The Fugitive Mind 10 Silent Scorn 11 Return To Hangar 12 When | | 成功は最悪だ。その場限りの恋人のごとく、成功は疾風のように現れて疾風のように去っていく。そして、犠牲者の心に戸惑いと裏切りの傷を残していくのだ。しかし中には、成功は何度でも繰り返すことのできるものだと考えている人達もいる。ひと夏のロマンスとは違うのだと。前作のスタジオアルバム『Risk』と、それに続くベストアルバム『Capitol Punishment』で、人気の凋落を味わったMegadethのDave Mustaineも、そのひとりだ。苦い思いを味わった彼らだが、今はニューアルバム『The World Needs A Hero』のプロモーションで、これまでにないほど忙しい日々を過ごしている。 アメリカのロック専門ラジオ局で、トップ5に入るヒットを4曲も生んだ前々作『Cryptic Writings』に比べ、前作の『Risk』はアメリカだけでも50万枚近く劣る30万枚しか売ることができなかった。しかし、Iron MaidenやRob Halford、Helloweenといったバンドを擁するSanctuary ManagementはMegadethの寿命はまだ尽きていないと判断し、アメリカにおける彼らのレコードレーベル、Metal-Isを通してMegadethと契約を結んだ。Mustaine自身も、自分達は「今も伝説的なバンドであり、新しいアルバムはそれを証明するものだ」と信じている。 ドライヴの効いた“The World Needs A Hero”“Disconnect”、それに“Moto Psycho”の3曲入りサンプルを聴けば、MegadethがDan Huffプロデュースによる前2作よりも、ハードで無駄なものを削ぎ落とした以前のアプローチへ戻ったことは明らかだ。Dan Huffが手がけた2枚のアルバムでは、より万人受けする音が求められた結果、優れた曲が収録されていたにも関わらず、昔からの熱心なファンの心を失ってしまった。新しい作品にも前2作のような要素は多少含まれている、とMustaineは指摘する。しかし今回は、自分達はファンとしての作品を創りたかったのだという。 「俺達は自分達、俺とAl(Pitrelli)、Dave(Ellefson)とJimmy(DeGrasso)が気に入るような作品を作りたかったんだよ。みんなこのバンドのファンなんだから」とMustaineは明かす。 「別に俺の体を斬りつけたら皮膚の下にメタルが見える、なんてことを言うつもりはないけど、俺はファンの人達が俺に向かって“よお、あんたは神様だよ”とか“俺のヒーローだよ”って言ってくれるのが好きなんだ。“『Rust In Peace』は素晴らしかったけど、あの後のアルバムはどれもこれも最低だな!”なんて言われるんじゃなくてね。こういうコメントはどうにもしようがない。まあ、そうしょっちゅうそういういことがあるわけじゃないけど、『Risk』は好きじゃないってファンは多いからね。新しいファンにはあのアルバムが好きだっていう人が多いから、バランスは取れてるけど」 バンド内におけるバランスも、ギタリストのAl Pitrelliの加入によって大きく変わった。Megadethで10年にわたってプレイしてきたMarty Friedmanが脱退を宣言した後、『Risk』の北米ツアーからバンドに参加したPitrelliは、このバンドが長年必要としていた音楽的な知識を吹き込んでくれたとMustaineは言う。もちろん、Friedmanとの仲も決して悪くはなかったが、PitrelliとMustaineは即座に刺激し合う仲となったのだ。 「今回のアルバムの制作過程で素晴らしかったのは、俺達がバンドの核をなす基礎へと戻ったこと。つまり、ギターリフさ」とMustaine。 「それにフックのあるメロディと繊細で皮肉な歌詞。Alはその音が適切かどうかを考える場面で、何度か俺を助けてくれた。それに、Marty Friedmanは自分が参加した最初のアルバムではリズムギターを全く弾かなかったけど、Alは今度のアルバムで1曲、リズムギターをプレイしているんだよ。しかも、MartyはMegadethに参加した初のアルバムでは全く曲作りにタッチしなかったけど、Alはすでにこのアルバムで曲作りもこなしている。 もちろん、Martyは(リフのハーモニーを重ねたりする時に)すごく手助けしてくれたし、俺が“この音は合ってるかな?”と尋ねれば、合ってるとか合ってないとか言ってはくれた。Alとはどうなるかなと思っていたけど、“この音は合ってるかな?”と尋ねると、Alは答えとともに、いくつか他の例も出してくれるんだ。俺は“Martyって誰だったっけ?”って気分になったよ。もちろん、Martyのことを尊敬してないわけじゃないんだ。彼は素晴らしいギタリストさ。俺達と一緒に過ごした10年の間に彼が作り上げたものや、彼のファンに対しては最大級の尊敬の念を抱いている。でもね、彼の新しいアルバム聴いたんだけど、Megadethのファンはきっとすごくがっかりすると思うんだ。テクノだからね」 '99年の終わり頃、Megadethの最新メンバーであり、20年来の友人でもあったドラマーのJimmy DeGrassoから“呼び出し”を受けたPitrelliは、よくあるメンバー脱退のピンチヒッターとしか思っていなかった。生意気でやる気充分のPitrelliは、2週間の仕事なんて楽なものだと思っていた。そして、ギタリストの座は空席のまま、Megadethがもう他のギタリストに触手を伸ばす必要がないように仕向けていったのだ。 雇われギタリストは、毎夜そのプレイで確実にバンドに感動を与えていった。「今でもそうしてるぜ!」とPitrelliは告白する。「Daveはたぶん、俺がこれまでに仕事をしてきた人の中で最もすごい仕事倫理の持ち主だね。俺もずいぶん大勢の人と一緒に仕事をしてきたけどさ。彼はすごく几帳面だし、完璧主義者だし、自分がやりたいことを追求することにかけては容赦のないところがある。フットボールの選手が毎回毎回ゲームの後に、そのゲームのビデオを見せられているような感じだよ。コンサートの後にツアーバスに乗ると、彼はその夜のコンサートのビデオをかけて、(何から何まで)批評するんだから」 Megadethに加入するまでPitrelliは、Alice CooperやSavatage、Trans-Siberian Orechestraといった人々との作品やツアーで、その腕を披露してきた。彼にとって最初の大規模なツアーは、'89年に行なわれたAlice Cooperのアルバム『Trash』に伴うツアーだった。大成功に終わったこのツアーに音楽監督として参加したPitrelliは、ロングアイランドの小さなクラブからWembleyのような大きなアリーナでプレイするギターヒーローへと大ジャンプを遂げたのだ。「俺の音楽的な才能はけっこう早く開花したんだ」とPitrelliは振り返る。「いい線いってるって自分では思っていたんだよ。このバンドに参加するまではね」 何年もこの業界で過ごしてきたにも関わらず、彼には未だ挑むものがあり、学ぶものがあるという。これまで自分は怠け者で、自分の才能だけを頼りにやってきたと彼は認める。「自分の本能に頼って、同じようなトリックを繰り返すだけだったんだ。もし、これがMegadethのカヴァーバンドだったら、それで済んでいただろうね。でも、こうしてMegadethに入って細かくチェックされて、しっかり基本に戻らなくちゃって感じになったんだ。そこがいいんだよ」 さまざまなロックスターの形がある中で、Pitrelliは自身を“よろず引き受けます”タイプと認めている。イメージの変化だけではない。彼はFriedmanが彼のために収録したビデオを見て、Friedmanのプレイしていたギターパートを覚えた。しかし、このレッスンの中には間違っている部分もいくつかあったので、PitrelliとMustaineはコード進行やメロディを確認するために、過去のアルバムを聴き返さなければならなかった。プロのギタリストとして20年プレイしてきたMustaineは言う。「俺のこれまでのキャリアの中で最も素晴らしかったことのひとつは、目を閉じてAlのプレイを聴いたことだよ。時にはMartyのようになり、時にはJeff(Young)のようになり、時にはChris(Poland)のようになるんだから」。Megadethの過去のすべてのギタリストのプレイを、Pitrelliはこなすことができるのだ。 「俺にとってこれは本当に素晴らしいことなんだ。何しろ俺はすっかり甘やかされたロックスターなのに、世界でも最高のギタリスト達とプレイしてきたんだから」とMustaineは笑う。 「ロックンロールの歴史の中で、最初のバンドを離れた後、2番目のバンドで前と同じくらい人気を得たのは俺以外にはひとりしかいない。Ozzy Osbourneだけだ。今の自分達の立場に目を向けると、まさに世界を征服しようと身構えているわけだよね。素晴らしいアルバムも出るし、俺が今まで見た中で最高に才能に恵まれていて、この上なく健康なドラマーもいる。彼はプレイするのが大好きなんだよ。最低の態度をとることもあるけど、性格は抜群だし、人間が素晴らしいから態度だっていつも前向きだ。すべてがうまく噛みあっているんだよ。Alと俺は今、ひとつのギターチームのようにプレイしている。Martyと俺が長い時間をかけて到達したものに、Alと俺はあっという間に手が届いてしまったんだ」 Pitrelliのデビューは、確かに試練と呼べるものだった。実際に考えていたよりも2日も早くステージに立つことになってしまったのだから。2000年の1月17日、バンドはコンサートを控えていた。しかし、開演の30分前になってもFriedmanは会場に現れない。「俺は楽屋をうろうろしていたんだよ。そしたらDaveが“そろそろ仕度をしたほうがいいぞ。今夜はお前が出るんだから”って言ったんだ」とPitrelliは振り返る。 急遽立てられた代役だったにも関わらず、この夜のショウは大成功だった。ファンの中にはメンバーが替わったことに気づかなかった人もいたくらいだ。「コンサートが終わった後、誰かがAlに向かって“Marty、これにサインしてもらえますか?”って言ってるんだ」とMustaineは驚いてみせる。さらにPitrelliはこう言い添えた。「俺にとってはなんだかすごくおかしな状況だったよ。こっちはMarty FriedmanのJacksonギターを手にMegadethと一緒にプレイしているのに、ステージの袖を見るとそこにMartyが座っているんだから。なんだかすごく変だって思ったね」 ステージ上での不思議な瞬間はさておき、新生Megadethは新しいアルバムやこれからのツアーに対して楽観的だ。10年間も契約を結んでいたにも関わらず、苦い結果に終わったCapitol Recordsとの関係が済んだ今、新たなレーベルやマネージメントに関して彼らは前以上に満足している。実は彼らの最新の“ベストアルバム”『Capitol Punishment』のタイトルは、どうやらレコード会社との間の問題を含んだ二重の意味を持つようだ(訳注:死刑という本来の意味とともに、Capitolの罰という意味にもとれる)。Mustaineは事務的に言う。「レコード会社にとっては面白くなかっただろうけど、彼らはありがたいことに俺達を解放してくれたんだ。自分達の限界を悟った彼らはすごく頭がいいと思うね」。確かに彼は、『Risk』に対するレコード会社の宣伝のやり方に不満を抱いていた。Capitol Recordsは現代のロックを扱うよりも、過去の作品のセールスで知られていると彼は指摘する。 「例えば、『Billboard』チャートの今のトップ10を見てみなよ。Capitolに所属するアーティストがひとりも入っていなくても俺は驚かないね。トップ20を見てみよう。ここにいなくてもまだ驚かない。トップ200の中にせいぜい2つか3つくらいしか入ってないんじゃないかな」。インタビューの間にMustaineが『Billboard』のトップ200を実際に調べて見たところ、Capitolのアーティストは4組しかチャートに入っておらず、唯一トップ20に入っていたのはBeatlesだった。 '99年の秋に『Risk』がリリースされた当時、Megadethはニューメタルという流行と闘っていた。そのうえアルバムからの2ndシングル“Insomnia”が、バンドの勢いを大きくそいだとMustaineは言う。ラジオ局に提供されたのは、この曲の最も軽めのリミックスだったのだ。Mustaineはこのリミックスを嫌っていた。しかし、当時のマネージャーとプロデューサーは、一般大衆向けのマーケットに受けると考えたのだ。Mustain自身は一般受けすることなどまるで興味がなかった。モダンロックラジオがヘヴィになりつつあった当時はなおさらだ。 「彼らはあのシングルをオルタナティヴ系ラジオ局だけでなく、ロック系ラジオ局にまで押しつけたんだよ」とMustaineは不満たらたらだ。「ロック系ラジオ局にMegadethのオルタナティヴミックスなんて普通送らないよな。ああいうラジオ局はもっとパワフルで骨まで響くような、血がぽたぽたと滴って歯がガチガチ音を立てるようなMegadethが欲しいんだから。今はロック系ラジオ局ともすごくいい関係を築いているから、彼らの機嫌を取る必要もないんだ」。結局、このリミックスヴァージョンは、彼らのシングルの連続トップ5入り記録を止めてしまった。 「俺がどんな気分になったか想像してみなよ」とMustaineは言う。「“Trust”だろ、“A Secret Place”だろ、“Use The Man”“Almost Honest”“Crush'Em”……シングルはすべてアメリカでトップ5に入っていたんだ。その記録を、俺の考えを聞くどころか、そのリミックスを使うと俺に言おうともしなかった、いい加減な連中のせいで台無しにされるなんてさ。俺はMarty Friedmanと一緒に、カンザスシティでラジオ局に出演していた。すべてうまくいっていて、俺達は笑ったり話したり音楽をかけたりして楽しくやっていたんだ。そしたら彼らが“Insomnia”をかけたんだよ。俺は“なんでアルバムのヴァージョンをかけないんだ?”と思ったね。天国の門が目の前で開かれていたのに、いきなり頭に雷の直撃を受けた、そんな感じだった。俺はだまされたのさ」 この時点で彼らは、Capitol Recordsとの関係が完璧に傷ついたと感じていた。そして、Pitrelliを迎えてニューアルバムを製作すると、契約から解放されたいこと、そして新しいアルバムの権利を戻してほしいことをレーベルに告知したのだった。当初はショックをうけたレーベルも、結局は同意した。しかし、そのためにはバンドがほとんど手を出すことのできない“ベストヒット”アルバムに、“Kill The King”と“Dread And Fugitive Mind”を提供することが条件だった。 “Dread And Fugitive Mind”を提供することや、きちんとしたライナーノーツをつけてレアなヴァージョンや未発表曲などを加えたあるべき姿の“ベストアルバム”を出せないことにためらいはあったものの、結局Mustaineはこの条件をのんだ。そのことによってバンドは解放されるのだから。「例の“ベストアルバム”を出したのに売れなかったことについて、辛い思いを抱いてるかって?」大げさに彼は問いかける。「まさか! 自由になれたんだぜ!」 その自由が彼らをルーツへと立ち戻らせた。マスコットのVic Rattleheadも『The World Needs A Hero』のアルバムカヴァーに復帰した。バンドとSanctuaryは今、DVDの制作を行なっている。25本にも及ぶMegadethのビデオクリップや、Dave Ellefson自身が案内するかつての縄張りだったハリウッド、そしてMustaineによるビデオクリップの説明などが含まれているDVDだ。さらに、VH1の『Behind The Music』では、彼らの特別番組が近々放映される。Megadethの現在のメンバーや過去のメンバー、そしてMegadeth以前にMustaineが在籍していたMetallicaのメンバーへのインタヴューをフィーチュアした豪華版である。 バンドの2人のDaveは、Capitolに対して確かに苦い思い出を持っている。しかし、いい思い出もあるのだとMustaineは強調する。アルバムの売り上げは『Youthnasia』から『Cryptic Writing』、そして『Risk』から“ないも同じな『Capitol Punishment』”へとどんどん下がっていったが、彼らはこの流れをここで逆転させたいと考えている。 何年もの間、外見だけを大事にするメタル・ミュージシャン達の中で、Megadethはいわゆるセックス、ドラッグ、ロックンロールという話題をわざと避け、さまざまな社会的なテーマを敢えて扱う姿勢において抜きん出たものがあった。しかし、今のMustaineは、居心地のいい環境で家庭を築き、年を重ねている。果たして彼は若い時の鋭さや怒りの炎を維持することができると感じているのだろうか? 「俺が未だに社会的に好ましくない人物で、100万ドルもする家に住みながら無政府主義について歌うことは可能かって?」彼は反撃してきた。「あったりまえだろ! 俺のライフスタイルが居心地のいいものになったからって、みんなを集めて“生まれ変われ!”と煽ったりできないって意味じゃないんだから」 彼はここで熱意に満ちた語り手モードに突入した。まるでメタル界のTony Robbinsのようだ。「自分の全体計画を変えたり、ほんの一握りの人しか共感できないようなことを話している場合は、人々が共感できるようなものを考える必要がある」。人々をまとめることができると彼が今考えている話題のひとつは、生活を取り巻くさまざまな状況だ。この話題は、予想がつくような質疑応答の流れに行き着くはずだと彼は言う。 「自分が考える自分の価値に相応しい収入を得ているか?」とMustaineは問いかける。「答えは“ノー”だ。“もっと金を稼ぎたいか?”という質問だったら答えは“イエス”。“今の生活環境は気に入っているか?”なら、答えはおそらく“ノー”だろう。“今よりよいライフスタイルを望んでいるのか?”なら、答えは多分“イエス”だな。“自分の未来を開く鍵が必要か?”なら、“もちろん”」 こういう話題をうまく扱うコツは、自分達が教えられているという思いを抱かせないことだとMustaineは考えている。「人は見下ろされるように話しかけられるのは嫌なんだよ。モラルのてっぺんに立った人間から、自分は誰よりもよくわかってる、誰よりも優れてる、なんて怒鳴られるのは嫌いなのさ。こういう話をうまく持っていく最善の方法は、そこに絆があると彼らに思わせることさ。誰かと一緒になれば素晴らしいことを成し遂げることができるじゃないか。それぞれの過去なんてどうでもいいんだ。共通項さえあれば、素晴らしいことが起きるのさ」 By Bryan Reesman/LAUNCH.com | |