【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.68 「グラミー、アデルの受賞スピーチに見る母としての逞しさ」
毎年注目となるグラミー。今年は、イギリスの生んだ鬼才・デヴィッド・ボウイと同じくイギリスが生んだ歌姫・アデルが制しました。恒例となっている受賞部門数の数で競う報道は、音楽ギョーカイ、ショービズ界を盛り上げるためにも致し方ないことですが、そうした報道の力はゴシップ的な見解だけではなく、アデルとビヨンセの二人が素晴らしい作品を生んだという事実とその作品にも人々の目を向けさせることに一役も二役も買っていることでしょう。
さて、今回のグラミーでのアデルのスピーチについて、後半のビヨンセへの賞賛メッセージばかりが取り上げられていますが、私の泣き所は少し違っていて、その前半の、母としてのアデルの実像を現した前半内容に心動かされました。
前回の受賞によって自分が強くなれたこと、そして強くなれたことを喜ばしく思っていて、すべてに感謝しているという言葉から始まった彼女のスピーチ。5年前の受賞時を振り返り、当時は妊娠していたことに気づいておらず、受賞後すぐに妊娠が判明したことが彼女の人生最大の出来事であり、妊娠期間を経て母となったことで自我が大きく減ったこと、葛藤した過去や今も母として奮闘していることを赤裸々に明かした上で「今夜はそんな自分が少しだけ自分自身に戻れる」と胸の内を語り、その後は多く報道されている通り、ビヨンセへの賛辞を強く、感情を露わにして締めくくりました。
自分自身に戻れる場所が世界屈指の華やかな場であるのは、彼女の才能と努力によるもの。しかし、非凡のアーティストであっても、自分と変わらない、人間で、女性で、母親で、自分や家族のために葛藤している。こうした事実を示してくれることが、私を含め多くの人々の心を救ったり、何かを気づかせてくれるのだと思います。
音楽的才能だけではない、こうしたアデルの率直さから生まれる求心力が人気者である理由なのでしょう。デビューから変わらない彼女の明け透けな物言いは見聞きしていて気分がいいですし、私の知るイギリス女性は強く主張できる人が多く、大変好感を持っていますが、人によっては’強すぎる’と受け止められるのかもしれません。
アデルに限らず、ビヨンセもワーキングマザー。自分もワーキングマザーとして、自分らしく輝けるように頑張ろうと思わせてもらえた今年のグラミー。私は私の、あなたはあなたのやり方で、今日も音楽を傍に、楽しく奮闘していきましょう。
【第59回グラミー賞授賞式でのアデル・スピーチより】
As you can see it took an army to make me strong and willing to do it, and I thank you all from the bottom of my heart. Five years ago, when I was last here, I also was pregnant, and I didn't know. I was awarded that shortly after I found out, which was the biggest blessing of my life. And in my pregnancy, and through becoming a mother, I lost a lot myself. I struggled, and I still do struggle being a mum - it's really hard. Tonight, winning this kind of feels full circle and like a bit of me has come back to myself. But I can't possibly accept this award. And I'm very humbled and grateful and gracious but the artist of my life is Beyonce. And this album for me, the Lemonade album, was so monumental and so well thought out and so beautiful and soul bearing. We all got to see another side to you that you don't always let us see, and we appreciate that. All us artists here appreciate you. You are our light. The way you make my friends feel and the way you make my black friends feel is empowering and you make them stand up for themselves. I love you. I always have, and I always will. Grammys, I appreciate it. The Academy, I love you. My manager, my husband and my son, you're the only reason I do it. Thank you so much. Thank you very much, to everybody.
◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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