【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vol.144「MONOがスティーヴ・アルビニとタッグを組んだ最新作『OATH』を発売〜MONOを日本から追っかける!(16)」
このコラムには幾つかのサブタイトルがある。その中で最多登場しているのが今回の「MONOを日本から追っかける!」だ。テーマは読んで字の如く、活動域がほぼ海外であるインストゥルメンタル・ロック・バンドのMONOを日本から追いかけ彼らの活躍を伝えることで、2016年4月6日に公開された記事からスタートした。初回はどういう経緯でMONOと出逢い、2006年にロンドンで初めて観た彼らのライブにいかに衝撃を受けたかについて書き、2回目以降はMONOの活動をリアルタイムで追いながら、時にはメンバーのコメントや貴重な写真を提供してもらい、主観をねっとりと絡めて綴ってきた。だが、2020年にコロナ・パンデミックが地球を襲い、筆者も洩れなく害を被り生活が一変。特に仕事に変化が生じた。と言うよりも“変えざるを得なかった”がより的確な表現かも。これについてはここでは省くが、要するにこの4年はMONOを追い、綴り続けることができなかった。
コロナ禍で唯一できたことに、ベースのTamakiさんにご協力いただいた「世界の美景~TAMAKI's view(MONO)」と題したインタビュー・シリーズがある。それまでの20年でMONOが重ねてきたワールドツアーや世界のフェスなどでTamakiさんが撮りためてこられた写真を紹介するとともに、各国のライブ事情についてのあれこれを訊いてまとめたものだ。特殊な状況下だったからこそ思いついた企画だが、異文化カルチャーで活動する日本のバンドの中でもかなり特異な道を突き進み、切り拓いてきたバンドの歩みを本人の証言によって垣間見ることができたのは実に面白かった。国外へ出ることが叶わず閉塞感でいっぱいだったあの時期に、ワールドワイドに活動しているMONOのメンバーだからこそ見えている各国の事情も交えて届けられたことに意味があったと思っている。
ではこの難しかった期間にMONOは停滞していたかというと、そうではない。もちろん活動を続けていた。今回でそのすべてをキャッチアップしきれないけれど、コロナ・パンデミックが落ち着いてきてからは海外でのライブ情勢が回復し始めるのとほぼ同時にライブ活動を再開していたし、クリスマス盤EPシリーズ 『Heaven』といったユニークなリリース作品も生まれた。ほかにも2023年5月公開の映画『私のはなし 部落のはなし』の音楽を手掛け、Netflixドキュメンタリーシリーズ『Beckham』に「Ashes in the Snow」が起用されるなど、以前と変わらぬ姿勢を貫き、多岐にわたって活躍している。
そして結成25周年を迎えた今年4月、12thアルバム『OATH』のリリースを発表した。この発表の前日までラテンアメリカツアーを実施していたMONOは、その流れでアメリカへ渡りレコーディングをしていた。それからわずか数週間後、MONOのパートナーとして、直近のレコーディングを含め長年レコーディングに参加してきたスティーヴ・アルビニの訃報が届いた。5月7日夜に心臓発作で亡くなったという。61歳だった。
Pixies、The Breeders、ジョン・スペンサー、PJハーヴェイをはじめ、名だたるミュージシャンがスティーヴ・アルビニへの哀悼の意を表したが、それらの多くが通例とは少し違っていて、スティーヴ・アルビニの人柄を報せようと意図したものだった。それはスティーヴ・アルビニへのリスペクトからに他ならない。とりわけ印象的だったのはNirvanaだ。『In Utero』のレコーディング前にスティーヴ・アルビニがバンドへ送ったFAXの文面画像4ページ分に、“Steve Albini.“というテキストのみを添えてXに投稿していた。その文面にはスティーヴ・アルビニの仕事に対する意向と流儀、ポリシーが細かく丁寧に綴られており、彼の誠実な人格までもがありありと伝わってくる内容だった。彼と仕事がしたいと望み、慕ったミュージシャンが非常に多く存在し、名盤誕生の裏にあった絶対的な支えが何だったかという紛れもない証拠を突きつけられた感さえあって、音楽業界で働く者としては襟を正す機会にもなった。彼が“先生”と言われる所以はこういう場面でも浮き彫りになる。
MONOが突然失った盟友について声明を出したのは訃報から数日経った頃で、その沈黙が、悲しみの深さを表しているようだった。直後に迎えたニューアルバム『OATH』からの先行シングル「Run On」リリースの際、リーダーのTakaさんは次のコメントを寄せていた。
“人類の進化への欲求は、社会をより便利に、より豊かにすることを良しとしたとしても、決して止まることはありません。世の中がどんどん悪くなっているのは、商売や利権でどうしても儲けたい、優位に立ちたいという人間の上に成り立っているから。もっと人間的に、簡単に言えば、お互いを尊重し、助け合い、愛し合うことほど本当に大切なことはない。
他人と自分を比較するような競争社会に目を向けるのではなく、誰もが自分らしさを失わず、自分らしく生きていけばいいのだと思う。いつか魂が肉体を離れて天国に行くとき、私たちが持っていくものは、お金でも車でも家でも財産でもなく、人に与えることができたもの、そして自分の生き方に誇りを持つことなのだ。
つい先週、私たちは22年間一緒にアルバムを作ることができた大切な友人の一人、スティーヴ・アルビニを亡くした。私たちは明日のことさえ何も知らない。周囲に惑わされることなく、毎日自分たちなりに夢を追い続けることがいかに大切か、改めて実感した” – Takaakira ‘Taka’ Goto, MONO
ここで改めて伝えよう。MONOが12thアルバム『OATH』を6月14日に世界同時リリースした。闇と光の関係、災害に直面したときの希望、誕生と死の二重性といったテーマを25年にわたり探求してきたMONOが結成25周年を記念して制作したこのアルバムは、スティーヴ・アルビニがレコーディングとミックスを手掛けた最新作でもある。MONOはアルバム『OATH』において、人生を構成する時間と、その時間を最大限に活用する方法について熟考し、無数の方法で瞑想している。11のトラックが71分にパッケージされた新世界は、まるで日の出のようにゆっくりと昇るオーケストラとブラス・セクションで幕を開ける。
まずはこのアルバムからの1stシングル「Oath」のMVを見てほしい。EarthQuaker Devicesとのコラボレーション作品で、アルバムのレコーディング・セッション中に撮影され、4月23日に先行リリースされた。
続いて5月15日にリリースされたのが2ndシングルの「Run On」。中国・大連在住のアーティスト、Jiang Kunが手がけたMVでは、東洋の水墨画と西洋の油絵の技法を組み合わせて描いた36,000枚に及ぶ自作フレームを用いることで、MONOの音楽の精神を中国の伝統的な美術と現代の視覚言語と融合させ、斬新な芸術体験を作り出している。
今作のテーマは、人生と時間。Takaさんのコメントからも伝わるが、今回も人として生きる上で大切なものを深く考えさせられる作品となっている。
“私たちは子供の頃から変わらない誓いを胸に生きている。風の歌を聴け。私たちは宇宙の一部です。何をすべきか、人生で一番大切なことは何か、もうわかっている。” – Takaakira ‘Taka’ Goto, MONO
そして、2024年はこの新作リリースに加えて、待ちに待った日本でのライブ開催も発表された。<MONO 25th Anniversary “OATH” Japan Tour>は2024年11月20日(水)に東京・Spotify O-East、11月22日(金)に大阪・Yogibo Holy Mountainにて開催される。東京では、おーけすとら・ぴとれ座との共演によるスペシャルセット、大阪ではバンドセットが予定されている。また、7月3日・4日には東京と大阪で開催される<三国演義>にゲスト出演することも決定した。こちらはMONOに縁のある中国のWANG WEN(惘闻)、韓国のJAMBINAIとの対バンイベントとなる。
このほか海外では10月にヨーロッパツアーが発表されているが、今のところ日本でMONOを体感できるチャンスは上記の4回だ。特に、11月のアニバーサリーライブは5年ぶりの日本公演となるので、このまたとない機会を逃さないでほしい。
文◎早乙女‘dorami’ゆうこ
写真◎MONO, Steve Albini, Craig Murray(MONO artist photo), Ahmed Emad Eldin(MONO OATH Cover Art)
◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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