「M-SPOT」Vol.013「アンダーグラウンドから生まれる新たなポップスの可能性、音楽は体験」

何の制約もないインディペンデント・アーティストだからこそ、その自由さは新たな音楽を生み出す源泉となっている。アングラとポップスが高次融合を果たした時、おおきなうねりを見せるのかもしれない。もちろんオーセンティックなバンド変遷で活動するピュアなバンドもたくさんいる。
前回に引き続き、TuneCore Japanの野邊拓実によるリコメンド・アーティストの作品には、未来への潮流の可能性が蠢いているかのようだ。
◆ ◆ ◆
──今週もぜひ紹介したいというおすすめのアーティストがいるとのことですが、どういうアーティストですか?
野邊拓実(TuneCore Japan):僕は、最近HUGEN(フゲン)というアーティストを推していまして、バンドがスタートした頃から知っていたんですけど、TPという人が中心になって活動している音楽プロジェクトです。バンドの形式をとっていますけど、バンドとは名乗らないで、TPさんのソロ・プロジェクトなんですね。
──ええ。
野邊拓実(TuneCore Japan):この形態って、最近良く見かけるスタイルだなと思うんです。単純にソロ・アーティストが増えたというか、「ソロで活動していて他のメンバーは全員サポートです」みたいな形ですね。なぜ増えてきているのかは良くわかってないですけど、ミュージシャンとして新しい活動形態を模索するというアプローチをとっている人が増えてきているなって感じてます。

HUGEN
──確かに。メンバー構成もいろいろですし、少人数のユニットやプロジェクトという形態のほうが、往年のバンド・スタイルよりも多いかもしれませんね。
野邊拓実(TuneCore Japan):このTPさんは職業的にも作曲家をやられている方で、HUGENも音楽的にすごく上質なんですが、メンバー編成がめっちゃ面白いんですよ。TPさんはトラックを作り歌を歌っているんですが、他のメンバーがパーカッション全般を担うお姉さんとベース、あとサックスという4人なんです。
──ドラムもギターもいなくて、でもサックスがいる。
野邊拓実(TuneCore Japan):「パン」というこの曲も、最後の方はサックスのソロがずっと鳴っているんですけど、おしゃれ感とナードな感じがものすごく中立をついていて、その響きが新しいと思うんです。以前Vol.006で「新しいものはアンダーグラウンドから生まれる」という話をしましたけど、アンダーグラウンドには何の制約もお作法にも縛られないからこそ新しいものが生まれやすい環境にありますよね。ただ、そこで生まれているものを咀嚼するには、造詣の深さというか一定のリテラシーみたいなものが必要だったりするので大衆的ではないわけです。でもそれをポップスに消化できる人たちが別にいて、そこから大衆に広がることによってスタンダードになっていく音楽の進化サイクルがあると思っているんです。で、このHUGENは、アングラで聴かれてたものをポップス化させることが絶妙に上手いアーティストで、「パン」の前に「MAYA」という曲をリリースしているんですが、それがちょっぴりバズって広がった曲で、かなり叩き上げな技術力が垣間見えるトラックの作り方をしているんですね。
──アングラ感と妙なポップス感のバランスが巧みですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):エイフェックス・ツインのようなエレクトロニカの影響をすごい感じますけど、一般の方でも聴けちゃうポップでキャッチーな形にはなっていて、そのバランスの取り方がめちゃめちゃ素晴らしいと思っています。
──ちょっと未来なポップスというか先取りな感じを受けたんですけど、その感覚ってTHE POLICEが出てきたときと同じ様な匂いを感じました。音楽性こそ違いますけど、もしHUGENが1970年代に活動していたらTHE POLICEになっていたんだろうな、みたいな。無駄な音は排除し淡々としたリズムながらも、自身のアングラ感やマニアック性を犠牲にしないようにポップスに仕立てあげる感性ですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):めっちゃわかります。僕はリアルタイムじゃないですけど、そのアプローチというかアティテュードが同じですね。新しさを感じさせるけどかなりポップに聴けるというところで、THE POLICEというのは的確ですね。
──ちょっと会話もアングラになってしまったので(笑)、このあたりでトラディショナルなスタイルのバンドをご紹介しましょう。ひとつはDolly Vardenの「Antares」という曲ですが、イントロの不安定さを意図して演出しているであろうところが、ちょっと注目かなと思いまして。
野邊拓実(TuneCore Japan):これは結構狙っているなと思いますね。その後の転調もそうですし、理論的なこともわかる人が作っている気がしますし、僕はめっちゃかっこいいと思いました。楽曲の構成もいいですよね。

Dolly Varden
──もうひとつ紹介したいバンドは、ダグアウトカヌーという3ピースのロックバンドで、「See you later」という曲があるんですが、これもいいんです。
野邊拓実(TuneCore Japan):いいですね。
──楽曲自体はオーソドックスなアプローチで、奇をてらったところもなければ狙った作りもないんですけど、このテンポとアレンジからは、たくさんの時間をかけて丁寧に作り込んでいった形跡が見える気がしたんです。バンドでいっぱいリハーサルをして、メンバー間で意見を出し合って、ここまで磨き込んだという姿勢を感じます。
野邊拓実(TuneCore Japan):僕はちょっと初期のBUMP OF CHICKENを感じました。サビは『orbital period』以降みたいな、藤原基央メロディー感のようなもの。コーラスの感じにしても、そのあたりの影響を受けているんじゃないかな、みたいな。僕もそのあたり好きなので(笑)。

ダグアウトカヌー
──そういったシンパシーを感じることが、音楽でつながる第一歩だったりしますからね。
野邊拓実(TuneCore Japan):「M-SPOT」というこの企画のように、作品をピックアップする立場でいえば、「自分たちしか持っていないものって、何なのか」というところを磨いていくと化ける気もしますよね。オリジナリティだったりとかセールスポイントという話ですよね。ライブを観に行ったら意味わからないぐらい上手いみたいなものが良さだったりすることもありますけどね。僕は、初めてRADWIMPSを観たときがそうだったんですよね。これはすげえって。
──確かに、ライブによって評価や価値観は大きく変わりますよね。立ち振舞やMCには人間性が表れますし、音楽に乗せたメッセージのパワーも人間力によるところなので。
野邊拓実(TuneCore Japan):ライブに限らず、音源そのものも、我々にとって「体験」ですからね。どういう体験をするかって話で、「曲がいいかどうか」とかじゃなくて「いい体験かどうか」っていうところがゴール地点だと思うんです。ライブMC自体の良し悪しもあるかもしれないですけど、そのMCの後にこの曲を演奏してくれたから体験としてめっちゃいいっていうのがありますよね。体験を作るという意味では、照明やPAも欠かせないし、そもそもどういう会場なのかということも、全部体験の設計ですから。
──会場のお客さんの盛り上がりにも左右されますしね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。体験っていう意味では、いい・悪いとか好き・嫌いみたいな音楽だけで判断するというのは、すごくもったいないことをしているのかもしれない。
──確かに。音楽に限らずアートとか趣味とかエンターテイメントは、感情を揺さぶる体験こそがすべてなのでしょう。
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.
HUGEN
◆HUGENページ(TuneCore Japan)
Dolly Varden
◆Dolly Vardenページ(TuneCore Japan)
ダグアウトカヌー
◆ダグアウトカヌーページ(TuneCore Japan)
◆「M-SPOT」~Music Spotlight with BARKS~
◆BARKS「M-SPOT」まとめページ
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