「M-SPOT」Vol.014「回り回る時代性と、突然現れる世界基準のぶっ飛んだ感性」

ボカロ文化が根付いてから十数年の年月が流れているが、影響を受けたアーティストが次代のアーティストの卵たちへ影響を与えていく。そんな輪廻のなかから、また新しい音楽が生まれていくのが音楽の潮流だ。
そしてそんな自由な感性は海を超え、世界の様々なところで意外な影響を与える事例を生み出したりもする。今回は、そんな面白いアーティストたちを紹介してみよう。リコメンドするのは、TuneCore Japanの堀巧馬と進行役の烏丸哲也(BARKS)である。
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──このM-SPOT企画に向けてたくさんの楽曲が送られて来ているわけですが、活動形態・音楽のジャンル・アティチュードやその思いも含め、まさしく多種多様な作品があります。例えばボカロひとつとっても作風やサウンドは様々ですよね。
堀巧馬(TuneCore Japan):そうですよね。ネット発の音楽と言っても、例えば、にほしかというアーティストに「レイトネス」という楽曲があるんですけど、これがまためっちゃいいんですよ。早口の超ボカロっぽい曲で、メロディーもころころと変化する。後ろのトラックなんか、れるりりの「脳漿炸裂ガール」からのインスパイアを感じるというか、大なり小なりインスピレーションを受けているんだろうな、みたいな雰囲気があります。

にほしか
──いいですねぇ。ボーカロイドの歴史も長くなりましたが、振り返ると時代性ってありますか?
堀巧馬(TuneCore Japan):サウンド的な時代性という意味では、今となってはボカロというジャンルっぽいくくりで語られますけど、音楽自体はロックだったりテクノだったりいろんな音楽性があるので、結果的には話題を牽引したボカロPの特色そのものがそれぞれの時代を代表しているのかな、と思います。この「レイトネス」のボーカロイドの調教自体はすごく現代風なんですけど、かつてのボカロっぽいビートをもって、ボーカロイドのキャラクターしか歌えないという構成を感じさせますよね。
──YOASOBIがかつてのボーカロイド楽曲の香りを放つように、2025年の最新ボカロ曲に触れた今の子どもたちが、10年後にどんな作品を作り出しどんな歌い手になるのか、それが楽しみになりました。
堀巧馬(TuneCore Japan):時代のトレンドってループするじゃないですか。そういうのをすごく感じます。先人のアーティストに憧れて、今こういう楽曲を作って、さらにそれに影響されながら、最先端の要素がそこにプラスオンされて時代が出来上がっていく、そんなことがイメージできますね。
──ボーカロイドという点では、ReNgAの「漕ぎびと」という曲がまた異端なんです。Synthesizer Vの花響琴を用いた楽曲なんですが、「世界中のさまざまな古典民族楽器の音色やリズムに、ボーカロイドが融合されると何かが生まれるに違いない」というテーマで音楽活動されている方なんですね。
堀巧馬(TuneCore Japan):なるほどなるほど、凄いな。これは歌謡ですかね、歌謡フォーク?
──レラ抜きっぽくて、どのあたりの民族音楽のニュアンスなのかは分からないんですけど、貼り付くようなゆらぎのないコーラスが歌声合成でしか得られないニュアンスで、そこが摩訶不思議なんですよね。
堀巧馬(TuneCore Japan):このビターッとレイヤーされた不思議さは、まさに機械でしかできない感じですね。面白いなあ。
──もともとは1960~1970年代ロックに傾倒していた方らしいんですよ。

ReNgA
堀巧馬(TuneCore Japan):エクスペリメンタル(実験的)ってことね。確固たるバックボーンがありながらいろんな可能性を探してこういう曲を作っているんですね。
──どこに漂流するかわからない旅に出ちゃった感じ?
堀巧馬(TuneCore Japan):だって、1960~1970年代ロックが大好きってことが、何も伝わってこないですもん(笑)。そうなの?ホント?みたいな。
──古き良き洋楽のロックとSynthesizer Vを高次融合させるというテーマですから、聴いたことのなかった面白い音楽の誕生を期待したいですね。
堀巧馬(TuneCore Japan):そうですよね。実際、こういうことをやっている時が1番楽しいんですよね。何が起こるかはわからない、これちょっといいかも…みたいな、結果以前に試行錯誤している状態がすごく楽しいという。
──ミュージシャンの原点ですね。そういう衝動が一番輝くものかもしれません。
堀巧馬(TuneCore Japan):いい活動状態だなって思います。メインストリームでもなんでもないところで、ものすごく楽しそうに活動していますね。
──「メインストリームじゃないのは本人たちもきっとわかってるけど、楽しそうに好きなことをやっている」というアーティスト、他にもいますよ。レ・ロマネスク。
堀巧馬(TuneCore Japan):あ、レ・ロマネスク、知ってます。
──そう、有名な彼らです。とんでもない新曲がありまして、その曲タイトルが「サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンティシリヨゴゴゴーッホの出会い」です。イカれているでしょ?
堀巧馬(TuneCore Japan):まじイカれてますね(笑)。
──息継ぎできないですよね(笑)。どういう変拍子なんでしょうか。
堀巧馬(TuneCore Japan):いや、もう、すごい。なんだろこれ。えと、調べると「サンヴァイルプゥスグゥインギスゴゲルアフゥイルンドロブゥスサンティシリヨゴゴゴーッホ」というのは、ウェールズのアングルシー島にある大きな村の名前だそうです。「~の出会い」というタイトルですから、そこでの出会いを歌った歌なんですね。尖ってますね(笑)。
──その村の名前をAメロからいきなり歌いだしているんですが、1ワードですから、8ビートの拍子も譜割りも全部無視して一気に歌い切っているというわけです。この感性がすごくて。
堀巧馬(TuneCore Japan):なんか呪文みたいな感じですね。
──こんなにイカれた日本人アーティストが、まだまだいるんです。最高でしょ。
堀巧馬(TuneCore Japan):いやもう本当に変態です。レ・ロマネスクってFUJI ROCKとかも出てましたよね。彼らって、2021年にリリースされた直近のアルバム『レ・ロマネスク結成20周年記念リサイタル (LIVE at 築地本願寺和田堀廟所, 東京, 2020)』が、トルコのiTunes Store J-Popトップアルバム・チャートで1位を獲得しているんですよ。
──すごい。トルコで1位になった日本人アーティスト、他にいます?ってことですよ。素晴らしい。フランスや台湾でもチャートインしていたみたいですし、まさに世界基準の感性ですね。
堀巧馬(TuneCore Japan):いやー、いいですね。とても面白いです。
──次回もまた、素晴らしいアーティスト/楽曲を発掘していきましょう。

レ・ロマネスク
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.
にほしか
◆にほしかページ(TuneCore Japan)
ReNgA
◆ReNgAページ(TuneCore Japan)
レ・ロマネスク
◆レ・ロマネスク・ページ(TuneCore Japan)
◆「M-SPOT」~Music Spotlight with BARKS~
◆BARKS「M-SPOT」まとめページ
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