増田勇一の『フィンランド特集(1)』アリ・コイヴネン編part.1
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▲アリが手にしているのは、第2作『ビカミング』のアートワーク。このジャケット写真の表情に込められた思いについては、次回、彼自身の口から語ってもらう。 |
その公演翌日、筆者は都内3箇所を駆けまわり、全4組の出演者のうち、過去にも来日歴のあるネガティヴ以外の“初来日組”たちとのインタビューを行なった。つまりシュトゥルム・ウント・ドラング、ラヴX、アリ・コイヴネンの3組である。
まず今回は、そのなかからアリ・コイヴネンの肉声をお届けすることにしよう。デビュー作の『フューエル・フォー・ザ・ファイア』がフィンランドの国内チャートにおいて12週連続で首位を独走するという記録的大ヒットとなり、今や母国では彼の存在を知らない人など皆無と言ってもいいほど。6月25日には待望の第2作、『ビカミング』の発売も控えているが、肝心の同作に関する話の前に、part.1の今回は“これまで”について訊かせてもらうことにしよう。
── まずは昨夜のライヴ、お疲れさまでした。もしかして、まだ起きてからそんなに時間が経ってなかったりするんですか?(時刻は正午過ぎ)
アリ・コイヴネン:うん。ライヴの後でパーティーしちゃったからね(笑)。それも含めて、すごくグレイトな時間を過ごさせてもらったよ。ライヴについては、いくつかテクニカルな問題もあったし、すべてが思い通りというわけには行かなかったけど、間違いなく楽しかった! ただ、時差ボケは問題なかったんだけど、風邪をひいちゃっててね。体調があんまり良くないのは今日で4日目くらいかな(笑)。でも、みんなも楽しんでくれてたみたいだし、日本はすべてが予想してた以上に素晴らしい。メンバーたちも同じことを言うと思うけど、まさに僕ら全員が、一瞬にして日本に恋してしまったという感じさ(笑)。
── デビュー作での成功で、あなたはたくさんのものを手に入れたはずだと思うんですけど、逆に、失ってしまったものがあるとすれば何だと思います?
アリ:たとえば…プライヴァシーかな。今やフィンランドでは完全にそれを失った状態にあると思う。ひとりでのんびり過ごしたければ、家に閉じこもってるしかないんだ。そこが唯一のプライヴェート空間だからね。音楽をやる自由を得た代わりに、僕はそれを失ったんだと思う。何かを得たときって、かならずそういうことが起こるんじゃないのかな。でも、音楽をやれる環境を得られたことは、僕にとって、それ以上に重大なことだよ。いつだって僕は音楽をやりたかったし、メタルを歌うことを望んできた。ガキの頃からね。6歳の頃からメタリカやナパーム・デスを聴いてて、9歳になるとドラムを叩くようになってた。最初はとにかくスラッシュ・メタルやデス・メタルが大好きだった。そういう極端なところから僕の音楽遍歴は始まったんだ(笑)。今じゃ、エルヴィス・プレスリーからノルウェーのブラック・メタルまで聴くけど(笑)。もちろんディープ・パープルとかレインボーみたいなクラシック・ロックもね。
── 小さい頃、エクストリームな音楽に惹きつけられた理由って何なんでしょう? もしかして“怒りにあふれたコドモ”だったとか?
アリ:あははは! そんなことはないよ。でも、実はずっと自分の内側に怒りを溜め込んでたようなところはあったのかも。うちの両親は僕が3歳のときに離婚しててね。それで辛い目に遭わされたという感覚はべつにないけど…ま、いろいろあったわけ(笑)。フラストレーションは常に感じてたし、いつも何かをしたがってたし、僕にとってメタルはそういった感情を発散するための手段だった。メタルで自分の攻撃的な欲求を吐き出せてたから、ずっと僕の少年期は“平和”であれたのかもしれない(笑)。
── 少年期はお母さんと過ごしてきたんですか?
アリ:うん。12歳までは母と暮らしてた。で、父が再婚して首都のヘルシンキに住んでたもんだから、それから18歳までの間はそこに同居。でも18歳になった途端、追い出されたんだ。というか、きっと父も、そろそろ僕に一人暮らしをさせるべきだと考えたんだろうね。で、ヘルシンキ郊外の街に自分のアパートメントを借りて、1年間だけ学校にも通って。当時はプール・バーみたいなところで働いてた。で、のちにカラオケ・バーのDJ兼バーテンダーみたいなことをするようになったんだ。
── ちなみにご家族は、今の成功ぶりについては…?
アリ:両親とも、すごく喜んでくれてる。今や父とは一緒にゴルフをするような仲だし、母は毎日のように電話をくれる。そう、だからやっぱり成功したことでプライヴァシーが失われたとはいえ、僕は素晴らしいものを手に入れることができたって言えるんだと思う。
というわけで、今回はここまで。次回の更新分では当然ながら『ビカミング』にまつわる話をお届けする。お楽しみに!
増田勇一
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