スカーレット・ヨハンソン、自由で創造的な初作品
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このアルバムは、既にいろいろなところで報道されているように、トム・ウェイツのカヴァー楽曲が10曲(日本盤にはボーナス・トラックとして、さらに1曲追加)、そして、プロデュースを担ったTV・オン・ザ・レディオのデヴィッド・シーテックと共作したオリジナル楽曲が1曲収録されており、デヴィッド・ボウイもゲスト・シンガーとして参加している。
そんなヨハンソンのデビュー作を祝い、2月18日、ロンドン某所でヨーロッパ中からの厳選されたジャーナリストたちを集めたアルバム試聴会&記者会見が行なわれた。その日の彼女はプラチナブロンドに染めた髪をストレートにたらし、ダークブルーのミニドレスの上にグレーのカーディガン、黒いロングブーツといった装いでプロデューサーのシーテックと登場し、終始、まったく臆することなく落ちつきはらった様子で会場のジャーナリストたちからの質問に答えていた。以下は、日本ではまだどこにも発表されていない本邦初公開となるインタヴューだ。
──このアルバムでは、あなたが歌詞を解釈してそれに従って演技をしているということなのでしょうか? 曲ごとに声が変わっていますが、どの声がスカーレットなのですか? どの声が自分自身の声なのでしょうか?
スカーレット・ヨハンソン:どれも私の声よ。どう言ったらいいのかしら。完璧に変に聞こえるかもしれないけれど、私の大好きなヴォーカリストの何人かも、自分の中で演技している人達はいると感じているの。
デヴィッド・シーテック:こんなこと言うと非難されるかもしれないけど、ミック・ジャガーがまったく満足感を得られないなんてことは(Mick Jagger can't find any satisfaction)、個人的には信じられないね。だから、ある程度、彼も演技しているわけだ。音楽というのは、様々なキャラクターを産み出すものなんだ。スカーレットにも、彼女がもう一つのキャリアで走っているのと同じ方向に向かって走っていってもらいたかった。俺が尊敬し称賛するシンガーのほとんども同じことをやっていると思う。スカーレットがトム・ウェイツの物まねをしていたら、それは問題だと思う。だから、このすべては技巧によって左右されていて、楽器のほとんども無意識の状態から操作され調律されているんだ。他にもコオロギの鳴き声を調律したり、水を入れた犬用の皿を揺らして音を出したりしていた。そういった意味では、そういう人工的なものすべてを完璧に結合させたようなものなんだよ。
スカーレット:どの曲もそれぞれかなり違うものだけれど、アプローチは同じだった。曲ごとに違った感情やパーソナリティーを必要としていて…。
デヴィッド:それと、トム・ウェイツの幅広いキャリアや人生経験もカヴァーしていて…。
スカーレット:彼の曲を聴いてみると、曲によって声が違う。何を歌っているのか分からない曲もある。曲によっては、希望に満ちた楽観的な声の時もある。
──一番気に入っているトム・ウェイツのアルバムはどれですか?
スカーレット:その時によるけれど、最近『ALICE』をよく聴いているわね。それと『BLACK RIDER』。
──デイヴ、あなたは?
デヴィッド:どんな状況にいるかによるけど、俺にはリモートコントロールをいじくるような集中力しかなくて、iPodが出現してからというもの、ずっとひとつのアルバムを聴いているなんてことが出来なくなってしまった。昔のアルバムの『BONE MACHINE』だな。というのも、当時車で旅行していて、金が底をついてしまって、このアルバムの歌詞にもっと共感するようになったんだ。他にも、ある時期、強烈に共感できると思った曲はあって、「Jackey Full Of Bourbon」なんかは、数分間実体験したこともある。けど、俺がいつもやっぱり一番だなと思うのは、『BONE MACHINE』だ。トム・ウェイツがキャスリーンと曲作りを始めて、彼の音楽が俺にとってまったく違った意味を持つようになった。彼のキャリアの中で彼女とのコラボレーションは、根本的に重要な関係となっていて、僕のリスナーとしてのキャリアにおいてもそうで、『BONE MACHINE』を聴いて本当にビックリしたんだ。俺にとっては、とんでもなく素晴らしいアルバムに思えたよ!
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スカーレット:私個人としては、そう。本当に素晴らしいバンドだった。彼らのクリエイティヴィティーや開放的な姿勢はさすがだと思ったし、それに、彼らは自分達のアイディアやその才能を提供してくれていた。スタジオには驚くべき人達がやって来てくれて、サウル・ウィリアムスさえも遊びに来てくれて、そのおかげで何晩かはインスピレーションを得ながら仕事が出来た。別に私は自分がショウのスターになりたいと思っていたわけではないのよ。
デヴィッド:そういった考えにはかなり抵抗があったんだ。音楽がすべて出来た段階でスカーレットがスタジオ入りしたら、おそらくそういう風になったと思うけど、このアルバムはむしろトム・ウェイツのソングブックといった感じで、曲自身が最も重要なパートとなっている。キャンプファイアーをやっている用なヴァイブで、俺達は一晩中起きていて、たき火をして、そこで歌詞のことやらどういったアプローチをとろうかとか、音楽とは関係ない面も含めていろいろと話し合った。これはスカーレットのアルバムではあっても、関わったみんなとの共同体的なヴァイブがあったんだ。
スカーレット:全員が一緒に住んでいたし、私はこのプロジェクトのことを“自分がスターの作品”とは考えていなかった。
──アンダーグラウンドなアルバムを作ることは、あなたにとって何の問題もなかったのですか?
スカーレット:私は、ポップの世界で起こっていることはまったく分かっていないの。Rhinoは私達が自由にやることを許してくれて、クリエイティヴなフリーダムを与えてくれた。プレッシャーを受けたこともなかった。自分が$15.99を支払っても聴きたいと思うようなアルバムを作りたかったし、映画の仕事でもそういったことを考えてやっているわ
──あなたは主に映画での仕事をやっています。映画では監督や脚本家に責任がありますが、今回は、デイヴがどんな貢献をしたかとかバンドが何をしたかに関わりなく、みんなの注目はあなたに集まり、あなたの責任と見なされる。そのことが不安ではありませんでしたか? そもそも、自分がアルバムを作れると、どうして思ったのでしょうか?
スカーレット:それは、昔から歌うのが大好きで、子供の時からそうだった。演技を始めたのもミュージカル劇に出演したかったからで、それで演技を始めた。子供の頃にヴォーカル・レッスンを受けて、その後思春期を迎えて、ステージに上がるのが照れくさくなった。歌うことは大好きだったけれど、ショーマン(芸人)にはなりたくなくなった。だから、歌えるという自信はあった。私のサウンドを好きな人もいれば、嫌いな人もいると思うけれど、今回収録した曲をうまく解釈できるという自信もあった。そういう訳で、初めから自分がアルバムを作れるなんていうクレイジーなことを考えていたわけなの。Rhinoも協力的だったのは、私が友人のためにレコーディングした曲を聴いてのことだと思うから、それで私も自信があったの。
みんなが私に注目して、私に責任があるということだけれども、私は誰に対しても何かを証明しなければならないとは感じていない。アルバムの出来やそれを作るまでに費やした努力を名誉に感じているし、感動していて、みんなとそれを分かち合いたいと思っているし、聴いてもらった人達は、全員が驚いている。私は責任を負うのが嫌い。責任を負うというのは、ネガティヴなニュアンスを感じる。このアルバムに対して唯一私が抱えている責任は、口コミで評判を広げるといったことくらいだわね。
──このアルバムは、ただシングルを集めたようなアルバムではなく、ちゃんとしたアルバムのサウンドにしたいと言っていました。その目的を達するためには、過去のどのアルバムを参考にしたのですか?
スカーレット:そうね、『RETURN TO COOKIE MOUNTAIN』なんかは映画的なクオリティがある。これは、私が最初から最後まで聴くアルバム。それとボウイのアルバム、ピンク・フロイドのアルバム、デペッシュ・モードのアルバム、こういったアルバムは、私の人生における様々な面における映画的なフィーリングを持っているの。
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──彼は、実際に、このアルバムのシーケンスをしていましたよね?
デヴィッド:さっきも言ったとおり、俺はクレイジーなことが好きなのさ! 参考にしたのは、俺が本当に恋してやまないあのこの世の物とは思えないレコーディングや昔のモータウンのアルバムの多くだな。そういった楽曲がどうして完璧にマッチしているのかを理解していると言ったら、それは嘘になる。まだよくは分かっていないんだ。
アイヴォからシーケンスを受け取った時のことを覚えているよ。彼は、ヴォーカルを引き立たせることやキックドラムに6つのハーモナイザーを使用することに関して言えば、俺が非常に影響を受けた人だ。彼のやることは、素晴らしいと思えることがたくさんある。シーケンスを彼から受け取った時・・・スカーレット・ヨハンソンのアルバムを彼に渡したら、彼は最初のインストルメンタルの曲を作ってくれたんだ。「この人は本当に天才だ」と思ったよ。俺が期待していたとおりにクレイジーだった。とにかく、俺はそういったアルバムや『DARK SIDE OF THE MOON』といった、聴いていてハイになれる、またはボーと出来て、スポーツ・チームから追放されることを考え始めるようなアルバムを参考にしていた。俺は聴いていて夢中になれるような世界を想像していて、長編映画と同じようなアプローチを取った。他に俺が聴いていたのは、映画『BLADE RUNNER』の付随音楽で、どのようにまとめられているのかとか、そこに存在するサウンドやノイズに注目して聴いていた。確か、1時間くらいあったと思う。かなりワイルドだよ!
──音楽に関する最初の思い出は何ですか?
スカーレット:たくさんあるけれど、家では両親がよく音楽を聴いていて、母はニューヨークのグリニッチビレッジで育っているから、音楽とは近い関係にあって、ジミー・ジェイムスやムーディー・ブルースといったアーティストを聴いていた。だから、私が子供の頃は、家でよく音楽を聴いていたわ。音楽に関する最初の思い出は、ピーター、ポール&メアリーといったもので、9歳の時に初めてのテープ、『ABBEY ROAD』をもらったのを覚えている。何度も繰り返し聴いて、聴きながら眠ってしまったり、それがかかっているところで目を覚ましたりしていた。このアルバムがきっかけで音楽に目覚めたと言ってもいいと思う。おそらく、その年齢の子にしては珍しいことよね。音楽好きな両親を持っていたのはラッキーだったわ。父はジョン・コルトレーンやマイルス・デイヴィスといった音楽を聴いていた。私の周りでは、常に音楽が流れていたの。
Mariko Shimbori, London
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