『BEAT EM UP』 東芝EMI VJCP-68313 2001年06月27日発売 2,548 (tax in) 1 MASK 2 L.O.S.T 3 HOWL 4 FOOTBALL 5 SAVIOR 6 BEAT EM UP 7 TALKING SNAKE 8 THE JERK 9 DEATH IS CERTAIN 10 GO FOR THE THROAT 11 WEASELS 12 DRINK NEW BLOOD 13 IT'S ALL SHIT 14 UGLINESS 15 V.I.P. 16 COMMERCIAL LOVE | | Iggy Popの最新の啓示的ニュースを2つ紹介しよう。 ミュージシャンの友人から電話があった。ヨーロッパのフェスティバル出演から帰国したばかりの彼は、Iggyお馴染みの理解不能なパフォーマンスを見てきたという。「でもね……」と含み笑い。「翌日のステージでIggyは観客に、“Weezerが好きな人、どれくらいいる?”って聞いたらしい。観客は喜んで大歓声で応えたんだ。ま、当然だよね。ところがIggyときたら、ぷいとステージを降りてプレイしなかったんだ!」 その2日後、電子メールが海の向こうから送られてきた。Iggyがスコットランドのフェスティバル出演に突きつけた条件を伝えるロイターのニュース。いろいろ要求を挙げてあるが、中にはこんなものまで:7人の小人、タバコはアメリカン・スピリット、それにブロッコリ。 最後の2つはどう考えても解せない。だいたい、Iggyは何年も前に禁煙したはずだし、Iggyのブロッコリ嫌いは先代ブッシュ大統領と肩を並べるほど(訳注:同大統領のブロッコリ嫌いはつとに有名)なのだ(ロイターの記事によると、Iggyの大好物は「巨大なピザ」と「ジンジャービールか美味い赤ワイン」ということらしい)。どこかでDavid Lee Rothが山盛りのM&Mチョコのボウルをそばに置いて寝転がり、やっぱりなと笑っていることだろう。 さてその数週間前、マンハッタンにある所属レコードレーベル本社の会議室でのこと。記者連中のうるさい取材を終えてうんざりしたIggyは寝転がっていた。それでも茶目っ気たっぷりの反骨精神は健在だ。カメラマンの指示を真似てみせる。「そこに立て! いやこっちだ。これを着て! さあ笑って。いや、しかめっ面だ! な~んてね。やんなるぜ、まったく!」と笑う。 ふと真顔になってこう言いだした。「本当はこんなことなんかしなくても、質の良い音楽はたちまち大衆の心につながり、ミュージシャンの活動も願いもすべて受け入れられるというのが理想だ。インタビューもビデオも写真も何もやらなくっていい」 だが現実は理想の世界とはほど遠いことを彼は知っている。細身で日焼けした顔にあごひげを生やしたばかりのロック・レジェンドは、マイクロカセット・レコーダーを前に私と一緒に座っている。そう、ニューアルバム『Beat Em Up』は、リリースだけではプロモーションにならないのだ。よって、少々小突き回されても今だけの辛抱と堪えている。これでちょいとばかり棘のあるニューアルバムを大衆に知ってもらえるのなら、と。 では、いったいどんなニューアルバムなのか? 過激、である。それどころか、超過激! だが、'70年代初期の傑作『Raw Power』とは違った意味でだ。あれはIggyの当時のバンド・Stoogesによる最後のスタジオアルバムで、それ以降誕生したパンクバンドに大きなインスピレーションを与えた。地獄のRolling Stonesといえるほど凶暴なあのアルバムとは異なり、『Beat Em Up』はIggyのヘヴィメタルなのだ。“Iggyのヘヴィメタル・レコード”としては最後となった'88年の『Instinct』より、さらにメタリックな仕上がりとなっている。 Iggyもそう言う。「'70年代にインスパイアされた手作りのサウンドで、まあハードロックとプロト・メタルの間ってとこかな。プロト・メタルというのは後のメタルのことで、当時はそう言われていたんだ。でも、まったくのメタルじゃなく、俺が考えるヘヴィメタルよりもっと歌や構成を重視したものだ。今回はそのフォーマットに沿って、いろいろ試してみた。基本的にはサウス・セントラルのゲットーのベース・プレイヤー(元Body Countのベーシスト、Lloyd "Mooseman" Robertsのこと。残念ながらこの冬、走行中の車から射殺された)のアーバンなタッチと、俺のアカデミックな歌詞を組み合わせた作品さ」 そう、このミスター・アカデミアが言うように、歌詞こそ彼の得意とするところ。この我慢ならない世の中に対し、毒舌を吐き続ける。Iggy Popはこれまで決してカドが取れたりしなかったし、この期におよんで丸くなることも良しとしない。ニューメタルともいえるほど過激でアグリーなリフを弾くのは、長い付き合いのギタリスト、Whitey Kirst。 「11年もギンギンに弾いてくれてるんで、『Beat 'Em Up』では作曲もしてもらった」とIggy。“Mask”ではこのリフをバックにIggyが、「魂はどこへ行った? 愛はどこへ行っちまった?」とわめく。また“Weasels”では、「ロックンロールは下劣なイタチ野郎どもの手に落ちた!」と唸る。『Raw Power』以来、初のIggy Pop自身によるプロデュースとなった『Beat Em Up』は、やはり、荒削りで息遣いが聞こえるようなサウンド。「プロデューサーの勝利」と言いたくなる作品だ。だが、Iggy! この作品をレーベルに渡したとき、君は密かにほくそえんで「テメエら、こいつをしっかり売るんだぜ!」と毒づいていたはずだろ? 「後半の曲でね」と彼も認める。「音楽業界ってのはミュージシャンに金を与えて必要な場所へ行かせてやり、プロジェクトを軌道に乗せ、スタジオ費用を出してやるのが仕事なのさ。前もってどんな仕上がりになるのか根掘り葉掘り聞きたがる。だから俺は連中に前半の曲を聴かせてやったんだ。いわば表向きでミディアムテンポの曲を数曲ね。だが連中は“Mask”は聴いてない。聴いたのは2曲目から8曲目くらいで、それでゴーサインが出た。“Drink New Blood”や“V.I.P.”“Ugliness”なんかはその後でやったんで誰も聴いてないのさ。連中がチェックしたのは前半だけで、OK、完成させていいよって話になった」 Iggyはアルバムを完成させて渡したときのことを、笑いながらこう話してくれた。「俺は電話線を抜いてもう外国へ行くばかりだったから、連中が何を言っても知らん顔さ。レコードディレクターが胆の座ったやつでね、涼しい顔でこう言ったんだ。(その口ぶりを真似て)『こりゃまた暗い仕上がりになったもんだな。ま、それもクールじゃないか!』 それで通っちまった」 「レコード売上げというのはおかしなもんで、売れたほうがいいのか、売れないほうがいいのか、俺にもよく分からない。もちろん売れれば嬉しいが、売れなくっても構わない。だけど……」とIggyはにやりと笑う。憔悴気味の顔にあの“7人の小人が欲しいよ”と言わんばかりの茶目っ気たっぷりの笑いを浮かべ、「たくさん売れるにこしたことはないさ。1枚でも多く売れたほうがいいに決まってる!」 レコード1枚分でも助かるというほどIggyが金に困っているわけではない。 “Search And Destroy”や、特に“Lust For Life”など、Iggyの名曲はコマーシャルや映画のサウンドトラックに使われている。 「幸い、嫌な奴にはこのクソッたれと言えるだけの金はあるよ。でも仕事をしないですむほどじゃない。というのも、ご多聞に漏れず俺も離婚や以前のマネジャーといった金のかかる問題があるし、車のオイル交換もしなきゃならない」 コマーシャルについてはこう言う。「それにあの曲が聴けるのはコマーシャルだけなんだ。ラジオでは流れない。俺はそれで満足なんだよ。最高さ」。そうだろうとも。あの2年ほど前のナイキのコマーシャル曲は、他ならぬJames Williamsonが仕掛けたということも嬉しくてたまらないんだろう? それでも、そういう元マネジャーやら元ワイフへの支払いに加え、マイアミとメキシコにある家のローン、'68年型チェリーレッド・キャデラックのオイルとガソリン代のため、50歳を過ぎてなおスリムで健康なIggy Popは、これまで以上にアンチ・コマーシャルなレコードのプロモーションに忙しい。かつて彼は意図せずして、David BowieをはじめSex Pistolsまでさまざまなアーティストの元祖となった。ステージでは客席に身を投じ、ピーナツバターを塗りたくる。ありとあらゆるドラッグをやり、ありとあらゆる相手とセックス。素肌で割れたガラスの上に横たわる。すべて我々の欲望の具現であり身代わりだった。Stoogesの最初の2枚のレコードからして、デトロイトの暴動を扱い、米国社会の変動期に対する不満を叫んだものだった。となれば、今問うべきはただ1つ。やっとあの'69年と'70年の作品を引き継ぐ意志ができたのならば、2001年のIggy Popは果たしていったい何を歌うべきなのか? 「イーッヒッヒッヒ!」いかにも気に入ったというふうに高笑いする。「それって意見じゃなくて質問なんだね、一応。俺だったら、“お前、一体このざまはなんだ?”って聞くだろうがね。答えとしてはそうだな、ゲスト・ヴォーカリストでも呼ぶか。若いやつをね、それで間をつないでもらうさ」 例えば誰を? 「Sean LennonとかLil' Bow Wowとか、Hector Camacho Jr.でもいいか。そんなの誰だっていいんだ。若いのを入れることになるんだろうさ。とにかく俺の知ったことかよ」 いや、Iggyはちゃんと知っているに違いない。教えてやらない! ということなのだ。ただ残念なことに、ニューアルバムまでたいてい2年間は空ける人だから、次は“2003年”までおあずけだ。 By Tim Stegall/LAUNCH.com | |