これはUKロックの新旧交代劇なのか?

ポスト

これはUKロックの新旧交代劇なのか?

これまでにも、こんなライヴがあった。
The Whoの前座にThe Clashが登場した時、The Rolling Stonesの観客をGuns N' Rosesが沸かせた時がそうだった。

古い者と新しい者が出会う瞬間。

後者は、目新しいギターリフと尊大な自信で突風を起こして、前者を時代遅れに追い込もうとする。

この日、90年代ブリティッシュロックの貴族(Oasis)と、いままでアメリカ合衆国で約27人にしか知られていなかったスコットランドの無名バンド(Travis)の取り合わせは、そういうものだった。
たしかにそれは、たとえばMick JaggerとAxl Roseという有名人同士の死闘に匹敵するほどの英雄伝説ではないだろう。しかしそれは、浮沈を繰り返すロックンロールのバイタリティーが露呈した格好のドラマだったのである。


 この日Oasisが開始した北米ツアーは、本来ならば彼らの4thアルバム『Standing On The Shoulder Of Giants』を前面に押し出すものになるはずだった。しかし、ほんの1か月前にリリースされたそのアルバムは、すでにポップチャートの下位に転落していた。1stシングル「Go Let It Out」も似たような状況だ。彼らの演奏曲目は、そんな淋しい現状を認めているかのようだった。
『Standing』からはたった4曲。そのうち2曲は開始直後に演奏された。

Oasisは最近、Liam GallagherとNoel Gallagher、ドラマーのAndy Whiteに加えて、新メンバーにGem Archer(G)とAndy Bell(Bass)を迎えたばかりだが、彼ら(と、サポートのキーボード奏者1人)がこの日演奏した全15曲は、おもに新メンバー加入以前の曲だった。ヒット曲で辻褄を合わせようという算段だ。
たしかに「Wonderwall」や「Acquiesce」のような曲を聴くと、このバンドが純粋なポップスの力を発揮するツボを押さえていることが分かる。「Rock 'N' Roll Star」や「Roll With It」は、時機さえ適えば、彼らが猥雑でない力強い怒りを呼び起こせると再確認させた。
彼らはまた、墜ちた偶像Kurt Cobain(Nirvana)の死後6周年に捧げて、Neil Youngの「Hey Hey, My My (Into The Black)」を演奏した。それは、Oasisが実はJohnPaulGeorgeRingo以外にもいい曲は好きだと証明していて好感が持てたし、ロックスターのGallagher兄弟に秘めたハートがあるかもしれないと思わせた。

 しかし、そのよう観せ場以外では、多くの曲は、どれも同じく、まずまずの出来のミディアムテンポのサイケデリックポップという観が否めなかった。新メンバーを加えて演奏を一新するのかと期待を抱かせもしたが、なにも変わっていなかった。ステージでのパフォーマンスも、Liam Gallagherが傲慢野郎という役割を反復してばかりで、気が抜けていた。だれた時間帯にバンドを魅力的に見せるには、たいして役に立たなかったのである。

結局この日のライヴは、'90年代最高のブリティッシュロックのバンドが、いくつかの輝かしい瞬間をはさみながらも、こんなにも平凡になってしまうのかと思わせるものだった。


 気合いの入った演奏の後に登場したことすら、Oasisを奮い立たせはしなかった。Travisは、アメリカ合衆国以外ではすでにどこでもスターのようだ。イギリスで行われる今年のグラストンベリー音楽祭では、彼らはDavid BowieおよびThe Chemical Brothersと並んで主役を務めることになっている。
しかしアメリカではまだ宣伝文句と期待が流通しているだけの駆け出しの段階であり、彼らはそれに答えを出さねばならなかった。

グラスゴー出身のこの4人組が行った45分間の濃密な演奏は、ほぼ完璧だった。しなやかで強烈、攻撃的で高揚感がある彼らのギターロックは、爽快なポップスとも言えるし、鋭いオルタナティヴロックとも言えるものだった。憂鬱で失神しそうな「Why Does It Always Rain On Me?」は、すでに名曲の風格を帯びていた(そして、シアトルのたいていの夜の賛歌にぴったりだ)。
一方「Writing To Reach You」などの曲を聴くと、彼らの新しい2ndアルバム『The Man Who』で感じたより、いっそう超音速のスピード感があった。
さらに客席が沸いたのは、彼らがBritney Spearsの「Baby One More Time」をギター&ベースヴァージョンで演奏したときだった。使い捨てのポップスと思われている曲を彼らは回収して、感動的なオルタナティヴロックに仕立て直してみせたのだ。


 Travisは、これから世界の頂点を目指していくバンドのように眩しかった。実際、彼らが時々風通しのよいサウンドを拝借しているRadioheadがもしいなかったなら、Travisは現存するイギリスのバンドで最も注目されるべき存在だと言っていいだろう。

Oasisについては、The Clashの「London Calling」のこんな歌詞が時々思い浮かぶ。
“ニセモノのビートルマニアはもう死んだ”とJoe Strummerは歌っていた。

Neal Weiss

この記事をポスト

この記事の関連情報