●今回のアルバムは、すごくヘヴィーでいいですね。とくにヘヴィーなものにしようみたいな狙いは最初からあったんですか? 鮎川:いやいや、狙いはそんなになかった。とりあえず曲作ったんでパンッとやってたら、若いエンジニアの山田(幹朗)君にのせられたっちゅうのが初っぱなやったね。「あ、音いいですね」とか言うけん、どんどん「そうかーっ!」ちゅう感じになって(笑)。 この音は俺たちは20何年も当たり前って思うて来とるけど、そういやこういう音聴いたことないなって。他の、年寄りも、若いギターもいっぱいおるけども、俺のギターのこの音、アンプからドーンとくるこれはないかもしらんって思って。それからギターの音を録ることをすごい意識したんよ。 ●取り上げたカヴァー曲がルーツ的なものだから、“原点回帰”をずいぶん意識されたのかなって思ったんですが。 鮎川:いや、意外とそうでもないよね。バンドの今の音をすぐ録ろうみたいなのがスタートラインだった。今出してる音がいとおしくなったっちゅうか、自分たちが出してる音をそのまま録っていいんだ! みたいな。 シーナ:そうだね、それとまずギターだね。ギターがここまで来て、そのギターの音と、声。言ったの? 音が出なくなった話。 鮎川:いや、言うてない。 ●(笑)え? レコーディング中に? 鮎川:いや、その前。今回川嶋(一秀)君がカムバックしたきっかけって、一月に布谷文夫って人と札幌でセッションやることがあったの。で札幌のセッションはベースがルイズルイス加部! もう「わぁーっ、凄いやん」って。で、その時地元のロケッツ・ファンの人が川嶋を内緒で呼んだんよ。でもすぐに、ずっとやりよるメンバーみたいな感じで、もう何も決めんでやろうかな、みたいになったんよ。ちょっと欲が出て、ロケッツのいつものレパートリーをぶつけてみたりして。シーナも俺もおるし、川嶋もおるし。もうルイズルイス加部は音が出ればロックやから。 それで、いいワンナイト・スタンドが演れて、帰りにルイズルイス加部がベースをポーンち飛行機に乗せるんよ。「格好いいねー」って思って。俺いつもギター大事にしとるんやけど、ああいうのも格好いいなぁ思って、このギターをポーンて出したの。で、東京戻ってリハーサルやったら、後ろのマイクが音が出らんようになっとって。 あんなことするもんやなかったち後悔したし、それ以上に、この音はスペアがないち初めて気が付いたんよ。20年以上「レモンティー」弾いてきて、一回目のソロは前のピックアップでこうやって、後半のセカンド・ソロの時は後ろのリアって、考える前に自然に手がいってた、あの音がないと俺はもう弾けんゆうてね。ああ、自分はなんて愚かなんだ。なんちゅうものに囲まれてたのに、一番大事な、一個しかないずーっと一緒についてきたヤツを、ポコッと外してポンと入れたら音は出ろうけど、絶対俺は気に入らん。もう想像できるんよ。なんか違うと思うに決まっとるわ、って。もう悔やんで後悔して。 シーナ:ウチにも、同じタイプのがいっぱいあるのよね。6本ぐらいずらっと並んでるの。ゴキブリみたいだよね(笑)、真っ黒で。 鮎川:そう、何台もあるけそっちから取ればとか考えよった時に、楽器屋さんから「生きてましたよ」って電話があって。それで「弾ける時にいい音録っちゃおう」みたいな執着心が、もうすごくどん欲になって。 シーナ:でもあのギターってさ、その前からすごく生き物みたいなの。一度置いてったことがあるの。すごく過酷なツアーだったので可愛そうだっていうことで、こっちに置いたら、すっごいすねちゃって、なんか調子が悪くなっちゃったりして生き物みたいなんだよね。置いていったことをすごい後悔したのね、その時も。で、あたしの声も変わるのよ。 あたしはね、ギターは弾けないけど、ギターにはすごいうるさいのね。マニアだから、音には。やっぱりあのギターでないとそういうパワーっていうか、オーラみたいなのがこないというか、精神の世界みたいな感じ(笑)。そういうものがない音楽には入れないっていうか。で、すごい大事にしてる。 ●なるほどね、このアルバムはそういうギターのうねりみたいなのは凄くきますよね。 シーナ:だからインストが1曲入ってるけど、あの曲もやっぱりギターがね……。 ●「テル・ミー」の後のトラックですね。あそこの流れはすごくいいですよね。 鮎川:誰の音でもないよね? 俺ジミヘンみたいにあんなギター弾けんし、クリームみたいな音も好きやけど出せん。でもこの『ROCK THE ROCK』の音は本当に自分達だけにしか出せん音。それが作って嬉しかったし、誇りやし。 ほかのCDとかいっぱい聴くけど、ギターって今はただの部品ちゅうかただの道具に成り下がっとるちゅうか。今のミュージシャンはそれでよしとする風潮があるのかもしれんけど。でも全然鳴りよらんち俺は断言するね、今の経験のない人達が知識とマニュアルだけで音を録ったりしても「こんな音は出よらんぜ!」ってみんなにちょっと言うとこうと。「聴いてくれ!」お願いします(笑) ●やっぱりドラムスに川嶋さんが復帰したってことは大きかったですか? 鮎川:川嶋の復帰はもう僕達にとっては百人力やった。ちゅうのは、みんな素晴らしいドラマーとやってきたんよ。ジョニー吉永も、東川というパンク一辺倒のも、みんな素晴らしかったし、金崎(信敏)君は今回「ジャングル・オブ・ラブ」までは彼がドラム叩きよって、 彼もパワフルだから申し分ないんだけど、なんやろ? ボク等レパートリーをずっと大事にしすぎるちゅうか(笑)、もう全曲やらんと気が済まんのよ。『ピンナップ・ベイビー・ブルース』の「恋のダンス天国」とか言っても急に入った人にはわからんけど、僕らそれを求めたりする分、ドラマーってすごいプレッシャーやったと思う。 シーナ:ロケットのドラムはすごく難しいのよ。だって、ポップス、パンクそれからブルース。ローリング・ストーンズからラモーンズまで、身体にないとならないからね。知らないことはできないでしょう? ●阿久悠さん作詞の2曲「メイビー」と「天国はあるけれど天国には誰もいない」は、今回のために作られたものなんですか? 鮎川:いやいや『ROCK THE ROCK』作るからじゃなくて、阿久悠さんのものに『ロックオン・ベイビー』の後もう一回チャレンジしたくて。とりあえず阿久悠さんの詞のものの続きを作りたいちゅう願いがずっとあったんよ。それでもらってたんだけど、難かしゅうて曲ができんでね、ずーっと。俺、曲作るのすごい好きなんですよ。ちゅうか、曲なんてもうなんかあるわけよ、ルーレットみたいに。 シーナ:でもなかなかしないの。遊んでばっかりいて(笑) ●定着させちゃうのが嫌なんだ? 鮎川:フィックスさせるのが嫌なん。こうも歌える、ああも歌えるって。しかも阿久さんのは長いから、自分でも“これでいいのか、もっといい作り方せんといかんかな”とか思ってチャンスを狙ってたんやけど、それで川嶋と一緒にやってなんか気に入ったちうか。 ●『ROCK THE ROCK』っていうタイトルはいつ頃でてきたんですか? 鮎川:これは、ずっと昔にケーブルTVの出始めのころに、VJ頼まれて「こんばんは鮎川です。今夜のゲストはルースターズの大江君」なんて、似合わんことを半年ぐらいやったことがあって、その時にタイトルを『ROCK THE ROCK』って付けたんよ。 で、レコーディングしてた頃に一個のアイデアとしてあったけど、あまりにもロックっぽいタイトルで「またロックかいね、父ちゃん」みたいな(笑)、あるやろ? で、もうちょっと格好いいのもあるやもしれんて色々考えたけど、最終的にシーナのくじ引きで落ち着いた。アミダみたいにして引いて、四回続けて『ROCK THE ROCK』が引けて「これはもうロックの神様の思し召しや、もう迷わんめい」って。 ●僕が最初にシーナ&ロケッツを観たのは'78年のエルヴィス・コステロのライブで、そう考えるとすごい時間が経ったわけですけど、年齢との競争みたいのって考えます? 鮎川:あるねー。年齢ちゅうのはやっぱ、来るもんね。来るもんは来ると思うよ。ただ、俺はね、好きなものは何も変わってない、うんざりするぐらい変わってないのね。ストーンズの1stアルバム。結局あれが僕のいつもルーツやし、ビートルズがちょっと早かったけど『ミート・ザ・ビートルズ』よりもストーンズの方が百倍、俺には頭にも身体にもキたちゅうか。ああいう感じる人と出会いたいちゅうのが、ずっとロックの旅やね。みんながあんなおやじになるとヒップやろうね。 インタビュアー:大鷹俊一 撮影:梅川良満 |