「M-SPOT」Vol.004「アーティスト名やプロフィールって…大事かもしれない」

2025年1月14日からウィークリー更新で始まった「M-SPOT」企画は、TuneCore Japanに投稿された楽曲の中から、キラリと光る作品を、ひとりでも多くの人に紹介しようという志でスタートさせた、TuneCore JapanとBARKSとのコラボレーション企画だ。
今回も、キュレーターとして堀巧馬(TuneCore Japan)、野邊拓実(TuneCore Japan)、DJ DRAGON(BARKS)、烏丸哲也(BARKS)が気になった作品を持ち寄り、その魅力を伝えるべくフリートークを繰り広げた。
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──前回はボーカロイドやAIボイスなど昨今の音楽事情とともに、特異な感性あふれる不思議な楽曲を紹介することとなったので、今回はわかりやすいところでシンガーソングライターに注目してみたのですが、ここでも個性が出ているんですよ。「Loneliness」を発表した裕菜さんは、自らをクラブ系Pops Singer-songwriterと名乗っていまして。
野邊拓実(TuneCore Japan):クラブ系ポップス・シンガーソングライター…だいぶ情報を詰め込みましたね(笑)。クラブ系ということは4つ打ちなのかな…みたいな。
DJ DRAGON(BARKS):プロフィールだけで音が想像できますね。
堀巧馬(TuneCore Japan):なるほど、トラップの要素があって、そこから4つ打ちになって。
野邊拓実(TuneCore Japan):僕らの周りのクラブ界隈では「ポストEDM」という呼び方をしてたんですけど、トラップのような複雑なハイハットや4つ打ちがありつつも、必ずみんながやる様式美として、サビでボーカルがメインじゃなくなって声ネタがメインになるというものがあります。例えばメジャー・レイザーの「リーン・オン」あたりが顕著な例ですね。普通、サビって音を広げて音を増やしますけど、それに対してこの手のものは音を減らすことで「お?」という引きを作る。
堀巧馬(TuneCore Japan):なるほどね。
野邊拓実(TuneCore Japan):しかも、そのメロディのまま、最後に音を追加してみたりするんです。この「Loneliness」もそういう様式ですね。
堀巧馬(TuneCore Japan):EDMも確かにそういう要素がありますね。なんかビルドアップ(Bメロ)が1番盛り上がっていて、意外とドロップ(サブ)でちょっと落ち着いた感じになったりってありますよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):クラブにいくと、サビなんだけど急に音数が少なくなったりすると「フゥー」ってなりますもんね(笑)。
DJ DRAGON(BARKS):リズムで持っていくみたいな、もう言葉はいらないんだよね。
堀巧馬(TuneCore Japan):そう考えると、この「Loneliness」は確かにクラブ系だね。
野邊拓実(TuneCore Japan):構成がクラブ系なんです。
堀巧馬(TuneCore Japan):メロディはやっぱりポップスで。
DJ DRAGON(BARKS):そうなると、確かにプロフィールが合ってますよ。まさにクラブ系Pops Singer-songwriterだ。しかもしっかり作ってる。

裕菜
──所感では「クラブ系ポップスシンガーソングライター」って何?と思いましたけど、音を聴くと「なるほど」ってなりますね。
DJ DRAGON(BARKS):こういうところが日本っぽいと思うのよ。日本人ってこういうのがうまいよね。海外のものを自分たちの解釈で作り出すことって昔から得意で、それが今逆転してシティ・ポップがウケていたりするんだけど、シティ・ポップなんてまさに海外のAORから生まれたものだからね。いやー面白いね。
──裕菜さんにはこのプロフィールで興味をそそられたんですが、名前そのものに惹かれて「ん?聞いてみよう」と思ったアーティストもいたんです。
堀巧馬(TuneCore Japan):ジャケ買いじゃなくて名前買い(笑)?
──そう、「せつめろ」さん。「切ないメロディ」を歌う人なのかなって。そしたら本名が「瀬津 芽呂」だったという。生まれながらに持っている人ですね(笑)。
DJ DRAGON(BARKS):Mega Shinnosuke的な感じ(笑)。
──そう。でもね、世に知ってもらうにはそういうネタもおいしいでしょ?バンド名や芸名を考えるときのヒントになるよなと思って。
堀巧馬(TuneCore Japan):で、音楽はどうでした?「セツメロ」…でした?
──聴いてください。
堀巧馬(TuneCore Japan):あ、セツメロな感じですね。懐メロな感じでもあるかな。なるほど。
野邊拓実(TuneCore Japan):名前って大事ですよね。どんどんストリーミングサービスに移行して、ジャケ買いみたいな文化がなくなってプレイリストで聴いていく時代ですから、それを考えると、名前で「お?」って思わせられるかどうかって意外と大事なのかもしれないですね。
DJ DRAGON(BARKS):「最近何聴いてる?」って話をする時、必ず名前が出るからね。
堀巧馬(TuneCore Japan):覚えやすさもありますよね。
DJ DRAGON(BARKS):あいみょんとか。
──ちゃんみなとか。もちろん、つかみのいい名前をつけたからOKってわけじゃないですけどね(笑)。
野邊拓実(TuneCore Japan):そりゃそうだ(笑)。
DJ DRAGON(BARKS):普通の名前だと、SEO的に引っかかんないとかもあるからなぁ。
堀巧馬(TuneCore Japan):あと、読みづらいというのもありますよね。「これ、どうやって読むんだろう」みたいな。個人的には別にいいとは思うんですけど、若干もったいないなと思うところはあります。誰かに教えたいのに、伝えられない。
DJ DRAGON(BARKS):数字とか記号とか入っちゃってるのとか、ありますよね。

セツメロ
──夢を追うミュージシャンを応援したいと思う一方で、音楽の楽しみ方に決まりはなくて、「音楽活動を楽しむそれ以上でも以下でもない」という人もたくさんいます。例えば、heart*oneというバンドは「50代同級生の終活」だと言っているんですね。音楽活動を行う意味にはいろんなものがあって、自分で楽しむためのバンド活動というスタンスもステキだなと思いました。
堀巧馬(TuneCore Japan):なるほど。いいですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):なんならこういう人たちがもっと活動しやすい世界になっていった方が、ここからも素晴らしい音楽が出てくる可能性があるわけですから、とっても素敵な話ですよね。
DJ DRAGON(BARKS):昔だったら、もしかしたら藤井風だって埋もれていたかもしれないわけだからね。そう考えると、今の時代だからこそそういう才能がいろんなところにいるかもしれないよね。
──聞いてみましょうか。

heart*one
堀巧馬(TuneCore Japan):なるほど、これは…もしかしたらわかんないですけど、ちょっとYOSHIKIっぽさも感じるなあ。
野邊拓実(TuneCore Japan):でもわかる。
──そこにちょっぴり森友嵐士(T-BOLAN)とかRYUICHI(LUNA SEA)の雰囲気も顔を見せますね(笑)。
DJ DRAGON(BARKS):1990年代のJ-POP/J-ROCKだよね。あの時代の音楽に打ちのめされたんだと思いますね。イントロのヒューマン・ボイス・シンセ…久々に聴いたな。
堀巧馬(TuneCore Japan):面白いのが、50代の同級生3人で結成したバンドなんですけど、そのメンバーの構成が、ボーカルふたりにギターがひとりという(笑)。今集まれる本当に仲のいい仲間で「どうやる?」みたいな。これはこれでいいですよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):メンバーが揃っていなくても、「なんかやれることやろうよ」みたいな、ね。で、今はLogic ProもStudio Oneもあって、足りない音はそこで足して…みたいなこともできるわけなんで、音楽を作る入り口の敷居の低さみたいなところもとても大事ですよね。
──いろんなレベルがありますが、どれも音楽。いろんな価値観があるんだと思います。次回では、どんな音源と出会えるか楽しみですね。ありがとうございました。
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.
裕菜
◆裕菜ページ(TuneCore Japan)
セツメロ
◆セツメロ・ページ(TuneCore Japan)
heart*one
◆heart*oneページ(TuneCore Japan)
◆「M-SPOT」~Music Spotlight with BARKS~
◆BARKS「M-SPOT」まとめページ
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