「M-SPOT」Vol.002「AIか否か、それは気にするべきなのか?」

2025年1月からウィークリー更新でスタートとなった「M-SPOT」。新曲群は星の数ほど存在するので、アーティスト本人からのリコメンドをもとに素敵な音楽を発掘し、ひとりでも多くのみなさんへ届けたいと発足。バズる手前でステキな音楽作品をいち早く紹介しようとする新たな取り組みだ。キュレーターとして堀巧馬(TuneCore Japan)、DJ DRAGON(BARKS)、烏丸哲也(BARKS)がそれぞれ曲を聴き込んだ上で、心に響いた作品を紹介しながら率直な意見を交わしていこうというもの。
第一回目となった前回Vol.001では、じぐざぐづという福岡の4人組バンドがピックアップされたが、まだまだ他にも魅力溢れ紹介したいアーティスト/楽曲はたくさん存在する。アーティストの活動形態、制作スタイル、音楽のジャンルも雰囲気も実に様々だ。
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──前回は、じぐざぐづというアーティストの新曲「アロワナ」が全員一致でいいと思ったにも関わらず、聴く者によって魅力の捉え方が全く違ったことが顕になって面白かったです。そういう音楽がまだまだたくさんありそうですね。
堀巧馬(TuneCore Japan):着眼点がそれぞれ違っていて面白いですよね。
──例えば、すんたろす「かちゃくちゃねえ」はいかがですか? 津軽弁YouTuberなんですけど、津軽弁とラップの相性が抜群すぎるのみならず、制作スキルが凄いなと思いまして。
堀巧馬(TuneCore Japan):わかります。コンセプトもそうですけど、クオリティ・レベルが相当高いですよね。トラック自体普通にいいじゃないですか。なんかChaki Zuluさんが作ってそうなトラックで、歌もなんだか声の感じとかハスキーな感じがちょっとLANAっぽくていいなと思いました。
──めっちゃうまいですよね。

すんたろす
堀巧馬(TuneCore Japan):ラップもできるしメロもうまい。でね、これ明言されていないから…多分なんですけど…これはAIで作っているじゃないかと思います。「かちゃくちゃねえ」のハマり方がすごく気持ちいいんですけどね(笑)。
──なるほど、すんたろすさんは男性ですが、制作楽曲にはいろんな女性ボーカルがありますし、AIを活用している説はありえますね。
DJ DRAGON(BARKS):聴く限りだと、僕はほぼ間違いなくAIで作っていると思いますね。
──インディペンデントのアーティストも、すっかりAIを使いこなしているのか。
堀巧馬(TuneCore Japan):生成AIに関しては、権利問題やクリエイティビティなどセンシティブな要素もあるので、音楽業界として注視しているところだと思うんですけど、AIをどのように活用しているのかもポイントですよね。「ポチって、楽曲がどーんと出来上がる」なんてのは、もはやクリエイティブとして楽しいの?みたいなところですけど、「かちゃくちゃねえ」に関してはミックスもしっかりしていますから、Synthesizer Vとかもちゃんと使って、自分でしっかりプロデュースしてるんじゃないかなって感じます。
──AIはあくまで音楽制作ツールの一環だと捉えれば、今ではDAWの使いこなしが必須であるように、AIとコラボする感覚が大事かもしれませんね。
DJ DRAGON(BARKS):そういった意味で言うと、AIを用いた音楽制作には、絵を描く感じとも似たアートっぽさがありますよね。感覚的にはジャンルが違うというか、もちろん音楽なんだけど、現代美術のようにベーシックなアイディアがあってツールを使って表現していく。津軽弁でラップさせるというストーリーがきちんとあるところが、すんたろすさんの勝っている点だよね。そういうアプローチは今後もどんどん増えるでしょう。
堀巧馬(TuneCore Japan):そうだと思います。ひとつの成功例じゃないですか?僕も曲を作るんですけど、やっていて1番最初にぶつかるのってミックスと、あと、用語なんですよね。自分の頭の中には「こういう音色」っていうのがあるんですけど、それが何なのかがわからない。プラグインも無数にあるし、サンプリングでいい音を見つけるのも、何万行もあるexcelからデータを探すみたいで現実的じゃない。じゃあ自分の音が作れるかって言われたら、エフェクターのここをこうしたらこんな音になるみたいな世界も、もはやエンジニアの領域ですよね。どこをいじるとどうなるかさっぱりわからない。
DJ DRAGON(BARKS):レコーディングなんて、それの極みだからね。
堀巧馬(TuneCore Japan):ですよね。専門分野として分業化されていてミュージシャンにはさっぱりわからない。だからこそ「こういうイメージなんだけど」とAIに聞いて「そう、それそれ」と、求める音をアウトプットさせるような使い方はありだろうなって思ってます。
──それこそ、正しい使い方のひとつですね。「何が作られるのか」じゃなくて「何を作らせるか」ですから。主導権はあくまで人間側で。そういう意味では、Alisの「感謝の言葉」という楽曲は、歌詞は本人が書き作曲や歌は生成AIなんだそうです。
堀巧馬(TuneCore Japan):歌などは「薄くエフェクトを掛けたのかな」くらいの自然さですね。実はアー写もAIですかね?ヤバいな。そこまではもうわかんない(笑)。
──ただ少なくとも、楽器が弾けなくても歌が歌えなくても音楽制作は気軽にできることを示す好例ですよね。

Alis
堀巧馬(TuneCore Japan):だから面白いですね。実際はどのように作っているんだろうみたいなところが気になる。最終的に出てくる音楽は一緒でも、作り方やアプローチの仕方が全然違うかもしれない。頭の中で「どこから始めているんだろう」「スタート地点はどこ?」みたいな。とりあえずいい感じのフレーズを弾いてみて、そこから肉付けしていく…みたいなそういう作り方じゃないですよね。
DJ DRAGON(BARKS):そこは気になるね。よくある曲の作り方とか、そういうのじゃないね。
──Alisさんはもともと詞を書く方ですから、きっと詞先なんでしょう。そこからメロや歌をどう指示出ししてコントロールしているのかが気になる。アーティストとしてのアイデンティティが問われるところですから、そこがブラックボックスだと…なんかモヤモヤする(笑)。
堀巧馬(TuneCore Japan):そこ、すごい気になっちゃいますね。良くも悪くも余計な情報を知っちゃったが故に、めちゃくちゃ気になるっていう。
DJ DRAGON(BARKS):これはボカロ以降の新しいツールとして、こういう新しいジャンルだね。AIサウンズっていうか…これもカテゴライズなのかな。ボカロもそういうカテゴライズがあるじゃないですか。
堀巧馬(TuneCore Japan):もはや「ボカロ」というジャンルみたいになっていますから、これもジャンルとして捉える必要があるんでしょうか。
──teru「遠い星空の下」はいかがですか?
堀巧馬(TuneCore Japan):え?これもAIなんですか?
──いえ、teruさんは「会社員として働きつつ余暇に音楽を作っている」んだそうですが、最初聴いた時、歌声が男性か女性か分からなかったんです。そういうアーティストっていますよね。
堀巧馬(TuneCore Japan):確かに。僕もなんかyamaっぽいなと思いました。女性なのかハイトーンの男性なのかみたいな。

teru
──声自体、すごく魅力的なんですけど、会社に通いながらこんなクオリティの曲を作るなんて、もしかして…。
堀巧馬(TuneCore Japan):なんてところまで話が及んじゃいますね。サラリーマンで「余暇で音楽を作っています」とありますけど、「音楽をやってます」とか「歌っています」じゃなくて「作ってます」ってところが引っかかりますよね。こんなピアノの弾き語りっぽい楽曲であれば、普通「シンガーです」「シンガーソングライターです」って言うと思うんですけど。
──そういう深読みは業界人の悪い癖ですね(笑)。
堀巧馬(TuneCore Japan):あー業界人っぽいっすね。やだなー。ピュアな気持ちを忘れちゃったかな。やめましょう。
──(笑)ただ、いろんなツール・制作方法があっていろんな表現の仕方がある時代で、出来上がった楽曲を逆算して僕らが紐解こうとしても、紐解き切れないというか全くわからない。面白い時代になっていますね。
堀巧馬(TuneCore Japan):そうですね。上田桃夏「青のイヴ」のような曲もありますからね。なんか久々にこういうバラード系を聴いた気がします。テンポの遅い曲って、今風だとローファイとかR&Bになりがちですけど、中島美嘉感というか、この声めちゃくちゃいいですよね。今、二十歳のシンガーソングライターです。
──ピュアな声と透明感…惹かれますね。これからも期待ですね。

上田桃夏
堀巧馬(TuneCore Japan):あとね、僕は少年少女 & maeshima soshiの「babe (feat. \uK-B & MR)」も結構好き。個人的に女性ボーカルと男性ボーカルの掛け合い系にすごい弱いんですよ(笑)。で、この曲をでっかいスピーカーで聴くとすごい気持ちいいんです。このボーカルのレイヤーが最高で、しかもサビのメロもめっちゃ好きなんですよね。

少年少女
DJ DRAGON(BARKS):新しいツインボーカルの感じだね。いいですねえ。沖縄のアーティストで自分たちをR-POPユニットと呼んでいるんだけど、琉球ポップって言っているのは、すごく良いブランディングだよね。沖縄っていうのはブランドだからね。
──R-POPの「R」には、琉球、Relaxation、Relation、R&B、Rap、令和…といった意味があるんですって。ライブで聴いたら気持ちいいだろうなあ。身体が自然に揺れる。
堀巧馬(TuneCore Japan):そう、そういう意味では、音楽リスナーに1番言いたいことに「いい音で聴くべき」というのがあるんですよ。
──あ、それ超大事。
堀巧馬(TuneCore Japan):いい音で聴くかどうかで、音楽への印象って本当に違うんです。パソコンのスピーカーなんかで聴いても、良さが全く伝わらないんですよね。ちゃんとしたスピーカーに繋げるかヘッドホンで聴かないと、いい曲と出会えないから。
──「どんな音で聴こうと勝手だろ」と言われそうですが、ミュージシャンが才能と労力を注ぎこんだ音を、できるだけこぼれ落とさずに受け取ってほしいという意味ですよね。100詰め込まれているのに50しか受け取らなかったら、魅力も半減ですから。
堀巧馬(TuneCore Japan):それは本当に思います。特にイヤホンとかヘッドホンはいい音で聴いてほしいです。全然違うんです。
DJ DRAGON(BARKS):また、クラブで聴いたりすると、全然違うしね。
──ライブの魅力も、そういうところにありますし。
堀巧馬(TuneCore Japan):やっぱり音は浴びないといダメですよね(笑)。
DJ DRAGON(BARKS):それが結論かな(笑)。アーティストもいい環境で音を作ると違ってきますよね。ま、でも、今の子たちって結構耳がいいからね。とんでもねえやついるからなぁ。
──いろんな音楽の楽しみ方があって、色んな音楽が発信されている時代ですから、いい音楽をたくさん楽しんでいただきたいということですね。
DJ DRAGON(BARKS):ほんとそう。好き嫌いはありつつも、ジャンルみたいなものには振り回されないで、AIだろうとなんだろうといいものはいい。そこで何かを言い始めて論争みたいになってもつまんないんで、自分が良ければいいんじゃない?という方が楽しいよね。
堀巧馬(TuneCore Japan):ほんとそうですね。特にこの「M-SPOT」という企画は、理由がなんだろうとまず「いい」と思ったものをピックアップして、で、それがなんでいいと思ったのかを紐解いていくのが楽しいんですよね。
──業界関係者がやりがち(笑)。
DJ DRAGON(BARKS):AIのこともわかった上で、屈託なく「いい」ものをピックアップしてみる。それが面白いよね。2025年、なんかすごい時代に入ったね。いろんな表現も多岐にわたるから、人々を感動させて、誰かの心に刺さっている…それが正解ですから。
堀巧馬(TuneCore Japan):それですね。そういうことだと思います。
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.
すんたろす
Alis
ジャンル:JPOP活動エリア:関東
◆Alisページ(TuneCore Japan)
teru
上田桃夏
◆上田桃夏ページ(TuneCore Japan)
少年少女
ジャンル:J-pop,Hiphop,Rap,R&B,Soul,Chill活動エリア:沖縄
◆少年少女ページ(TuneCore Japan)
◆「M-SPOT」~Music Spotlight with BARKS~
◆BARKS「M-SPOT」まとめページ
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