【ライブレポート】ジューダス・プリースト、研ぎ澄まされた無敵のライヴ・パフォーマンス

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12月5日、名古屋・愛知県芸術劇場大ホールにてジューダス・プリーストの<INVINCIBLE SHIELD TOUR JAPAN 2024>が開幕を迎えた。オーケストラやオペラなどの公演も行なわれる格式高さと近代的な機能性を兼ね備えたこの会場を埋め尽くしたオーディエンスは、半世紀を超える歴史を持つこのバンドならではの伝統美と多様性を併せ持ったヘヴィ・メタルを、100分間以上にわたり堪能することになった。



バンドは去る3月に19作目のオリジナル・アルバムにあたる『インヴィンシブル・シールド』を発表しており、その直後には英国のグラスゴーを皮切りにツアーを開始。以来、欧州各国や北米など、大型フェスへの出演を含む80本以上の公演を経てきた。そうした事実からも察することができるように、この最新アルバムを主題に掲げたツアーでのライヴ・パフォーマンスは充分すぎるほどに熟成され、なおかつ鋭く研ぎ澄まされた状態にある。この先、各地での公演が控えているだけに、この場ではセットリストを掲載せずにおくし、具体的な演奏曲目の記述も必要最小限に控えておくことにする。ただ、さまざまな時代の楽曲が次々と間断なく繰り出される怒濤のごとき展開は、まさに観る者に息をつかせる暇を与えず、圧巻としか言いようのないものだった。



開演前、ステージ上のドラムライザー周辺は大きな幕で覆い隠されているのだが、そこには『インヴィンシブル・シールド』のアートワーク内にも用いられていた詩篇のような文章が描かれている。ヘヴィ・メタル賛歌のようにもメタル・ゴッドからの御言葉のようにも感じられるその文章についてロブ・ハルフォード(Vo)は以前「ヘヴィ・メタルのステートメント(声明)を作りたかった」と説明していたが、このツアーのために用意された荘厳なオープニングSEが流れる中でそうした言葉と向き合っていると、筆者は背筋を正されるような想いがした。その直後に幕は振り落とされ、ステージ上に5人が姿を現すことになるのだが、その瞬間からアンコールに至るまで、張り詰められた空気が緩む場面は一瞬たりとも訪れなかった。



この夜、『インヴィンシブル・シールド』の中からは、タイトル・トラックの他、2023年のうちにこのアルバムから先行リリースされ、世の期待感を高めずにおかなかった「パニック・アタック」、第67回グラミー賞のベスト・メタル・パフォーマンス部門にノミネートされている「クラウン・オブ・ホーンズ」の3曲が披露されている。当然ながら、誰もが期待しているはずの1970年代、1980年代、1990年代の象徴的な楽曲も網羅されているが、そうした楽曲たちが惜しみなく連発されるばかりではなく、コアなファンをも唸らせるはずの楽曲がさりげなく挿入されてきたりもする。そうした演奏プログラム自体も見事だが、何度も衣装を変えながら登場するロブがオーディエンスに向けてときおり発する言葉の重みにも注目したい。決まり文句でもある「ジューダス・プリースト・スタイルのヘヴィ・メタルに向き合う準備はできているか?」といった言葉にも心を躍らされるが、「この国の皆さんとは50年間にわたりメタルの旅を共にしてきた。たくさんの思い出があるし、ここに戻って来られてとても嬉しい」といった発言には素直に感動せずにはいられない。最後の最後、彼が丁寧に深々とお辞儀をして去っていく姿も印象的だった。



そして当然ながら、その演奏ぶりはまさしく完全無欠。リッチー・フォークナー(G)はギター・ヒーローとしての輝きをさらに増しているし、アルバムのプロデューサーでもあるアンディ・スニープ(G)はサポート・メンバーという立場ではあるが、リッチーとの完璧なコンビネーションでバンド・サウンドを支えている。いぶし銀という言葉が他の誰よりも似つかわしいイアン・ヒル(B)の存在感、若い世代の超絶ドラマーたちに勝るとも劣らないスコット・トラヴィス(Dr)の強靭さについても忘れるわけにはいかない。そして今年の夏で73歳になっているメタル・ゴッド、ロブ・ハルフォードは今なお信じ難いハイトーンを駆使し、威厳と慈愛に満ちたたたずまいで圧倒する。


リッチー・フォークナー


アンディ・スニープ


イアン・ヒル


スコット・トラヴィス

ジューダス・プリーストは当然ながら2025年もツアーを継続していく予定で、現時点ですでに4月下旬からの中南米ツアー、6月中旬からの欧州ツアーなどの公演日程が公表されているが、今年の3月から続いてきた『インヴィンシブル・シールド』のリリースに呼応するツアーの流れは、今回のジャパン・ツアー終了をもってひとまず落着ということになる。そしてこの日本公演自体はこの先、兵庫、岡山、神奈川と続き、12月13日、東京・EXシアター六本木で最終局面を迎えることになる。もちろん彼らの旅は、デビュー50周年の節目を超えたこの先も続いていくわけだが、「今のジューダス・プリースト」と向き合うことができる機会は、今しかない。この機会を、絶対に逸して欲しくないところである。



文●増田勇一
撮影●Yusuke Takagi

◆ジューダス・プリースト 来日公演公式サイト
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