【和楽器バンドインタビュー vol.6】神永大輔「こんなに面白いものはほかにない」

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2024年末をもって無期限活動休止する和楽器バンド。その活動休止前最後となる2作品、ベストアルバム『ALL TIME BEST ALBUM THANKS ~八奏ノ音~』と、映像作品『和楽器バンド 大新年会2024日本武道館 ~八重ノ翼~』が10月9日に発売された。

すでに話題となっているこの2作品だが、より楽しんでもらうためにも、ぜひBARKSが実施しているメンバーソロインタビューも読んでいただけると幸いだ。6回目となる今回は、従来の奏者とは一線を画す、自由奔放なパフォーマンスが魅力の尺八・神永大輔に話を聞いた。

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◼︎「やれることをやるしかないな」って思っていた10年間

──まずは活動休止についての、神永さんのお気持ちを聞かせてください。

神永大輔:このバンドって最初から「バンドやろうぜ!」って集まったのではなく、「動画作ろうぜ!」から始まっているので、そもそもの成り立ちが他のバンドと結構違うんですよね。そこから一気にデビューしてその先の展開へと進んでいったので、なんかそのままずっと大きな渦に巻き込まれてるというか、この先どうなってしまうんだろうみたいな感じが常にあって。8人のメンバーもお互いよく知っている人もいれば、このバンドで初めましての人もいたりで。 そういったスタートだったので、最初は正直「何年続くのかなこれ」って思ってたんですよね。

──最初はそんな意識があったんですね。

神永大輔:バンドって、いろんな要因で止まることとかなくなっちゃうことって容易にあるじゃないですか、まして 8人もメンバーがいると。「そうなったとしてもしょうがないし、そこも含めて果たして何年持つんだろう」って思っていたところはありますね。でも、バンドをやっていくと、なかなか奇跡的なバランスの8人なんだなっていうことが分かってきて。この8人だからこそ、ここまでずっと続けてこれたんですよね。今回活動休止という決断をしましたが、 8人がいい距離感、いいバランスでそれぞれのその能力や伸ばしたいところをのばすための充電の機会になるんだろうなっていう、肯定的な捉え方を僕はしています。



──先ほど「何年続くのかなこれ」という発言もありましたが、和楽器バンドとして最初に集まったとき、神永さんはどう感じました?

神永大輔:大学のサークルで尺八を始めた当初は、まさか将来ロックバンドのメンバーとして武道館に立つことがあるとは思っていなかったし、音楽番組とかテレビで見てた世界に演者として出ることになるとか想像もしていなかったんですけど、出会ったときからメンバーには「こういう人たちが売れたりテレビに出たりするよな」って感じてました。おかげさまで良い経験をさせてもらいましたが、やっぱりそれはこのメンバーだからだなっていう納得感はもとからあって。アーティストって尖っていたり偏っている部分があって、分裂したり解散したりってことも世間ではよくあることだと思うんですけれど、この8人のメンバーはそういうこともなく奇跡的にバランスが取れているなっていうのもすごく感じていました。

──すごく客観的ですけど(笑)、ご自身がその場にいるということに関しては?

神永大輔:そもそもバンドに笛のパートってあんまりいないじゃないですか。坊主のバンドマンもあんまりいないし(笑)。自分的には「そういう柄じゃないのかな」みたいな感じはなくはなかったですね。 ただ僕も、和楽器バンド以前から色々なバンドで尺八を吹くという経験を踏んでいたし、色々な国で活動することもできていたので、このバンドにとっての自分の役割とか自分が貢献できる部分があるなとは思っていました。自分の居場所があるなっていうか。だからここで「自分が貢献できること、やれることをやるしかないな」って思ってやっていた10年間でした。「みんなすげえな」って思いながら、メンバーのことを見てましたね。

──いやいや、外から見ると、こんな尺八奏者はそうそういなくて、それこそ「すごい」と思っていましたよ。私は和楽器バンドで初めて尺八の音をしっかり聴きましたし。

神永大輔:そういう意味では、こんな変な楽器と変な人間を、メンバーの一員として受け入れてくれるこのバンドメンバー、アーティストとして扱ってくれるプロジェクトの方々に感謝ですし、それをアリとして応援してくださったファンの方々にも本当に感謝しかありません。

──まさにその“感謝=THANKS”をこめたベストアルバムが発売されるわけですが、今回リレコーディングした曲の中で一番印象に残ってるのは、どの楽曲ですか?

神永大輔:「六兆年と一夜物語(Re-Recording)」です。レコーディングをしてラフミックスの状態で初めて聴いたときの新鮮味が一番あったのが「六兆年」でした。バンドとして最初の曲だし、当時一番みんなが必死に演奏した曲なんですけど、リレコーディングではその必死さがいい感じに取れて、みんな自然というか。 すごく気持ちいい音楽になっているなと思って。 和楽器バンドって最初はみんなが頑張って「すごいんだぞ!」という主張をぶつけ合ってる感じがあったと思うんです。けれど、ここに至るまでの流れで、みんないい感じに力が抜けていて。「六兆年」って僕たちにとってはオープニングの曲だったと思うんですけど、今回リレコーディングした「六兆年と一夜物語(Re-Recording)」は、和楽器バンドの第1部を締める、すごくいいエンディング曲になってるなって感じがして。大団円っていう雰囲気のある仕上がりになったなと思ってます。



──エンディングという発想はなかったです。確かに言われてみたら、そういう捉え方もできますね。

神永大輔:はい。すごく明るいエンディングというか。

──もともとのレコーディングのときは、神永さんも「尺八のパワー見せてやるぜ!」という意気込みでした?

神永大輔:うーん。「六兆年」は最初から尺八の限界に挑戦するような細かいフレーズだったので、一生懸命楽譜通りに演奏できるように、必死に吹いてた気はしますね。イントロとか特に。でもリレコーディングでは、当時より指も自然に回るようになってて成長してました。

──リレコーディング曲では、基本的なアレンジは変えず?

神永大輔:「六兆年と一夜物語(Re-Recording)」は一部変えてますね。「ここはこうした方が良かったんじゃないかな」っていうところは、町屋さんと話して変えたところもあります。「細雪(Re-Recording)」以外はほとんどの曲がそういう感じですね。基本は原曲をなぞらえつつ、ライブで何回もやってるうちにアレンジが変わっていったものもあるので、最近のライブでやってるものをそのままレコーディングに落とし込んでる感じはあります。

──必聴ポイントを教えてください。

神永大輔:「千本桜」の1番最後で、かすれたような尺八の音が残るんですけれど、当時、まさかエンジニアさんがここの音を残すと思ってなくて。実はあれは尺八吹きとしては恥ずかしい、失敗した音の消し方なんですよ。それをそのまま使われてて「うわー恥ずかしい。直してもらおうかな」と思いつつも、「まあいっか……」と思ってそのまま残してたものだったんです。今回再録するにあたっては、失敗したものの真似をすることになるので再現が難しくて(笑)。でもあの曲の終わり方は「千本桜」のイメージになっていると思うから、 なるべくそこに近づけつつ、今回自分なりの正解を出せたので、そこに注目して聴いてもらえると嬉しいですね。



──「細雪(Re-Recording)」はオーケストラがなくなったことで、尺八もより響くようになりましたね。

神永大輔:そうですね。遊ぶ余地がいっぱい生まれましたし、「細雪(Re-Recording)」はガラッとアレンジを変えようという前提があったので、オリジナルとは全然違うことをやろうと思ってレコーディングのその場の気持ちよさでそのまま音を入れていきました。

──ベストアルバムにはユニバーサルミュージック移籍後の曲も収録されています。この中でお気に入りの曲は?

神永大輔:「ブルーデイジー」です。尺八がどうこうっていうよりも、個人的にこういう系統の音楽が好きなので。

──情景が見える曲だから、尺八も似合いますよね。

神永大輔:そうですね。尺八がメロディーを取るのは後奏だけの予定だったんですけど、サウンドチェックのときに中間の間奏にあわせて適当に吹いてたら、町屋さんが「それいい感じだから、ここ尺八にしようか」って言ってくれて採用されたんですよね。

──制作中、結構そういうやり取りはあるんですか?

神永大輔:ありますね。「ここギター録るつもりだったけど尺八で」とか。だからレコーディングのその日まで、マイクの前に立つまで、「楽譜上空いてるけど、ここは誰のソロなんですか?」みたいな確認をいつもその場で割としてます。

──「ブルーデイジー」のような曲と、「日輪」のような曲って、尺八の使い方も違うのでしょうか。

神永大輔:「日輪」のようなテンポが早くて勢いや疾走感のある曲になると、尺八の役割ってもう多分1つしかなくて。音楽的に言うと、1度の音と5度の音をロングトーンで伸ばすことしかやることがないんですよ。それ以外は何やっても結局蛇足だなっていうのはいつも思っていて。今回の収録曲にはないですけど、例えば「戦-ikusa-」なんかはドとソとレとラしか吹いてないみたいな。だけど、その1音をムラ息(その息の音を多めに混ぜて伸ばして吹くこと)で、曲の疾走感に尺八がちゃんと寄与できるんですよね。ただ2音をまっすぐ吹いているだけだとさすがにつまんなすぎるので、ロングトーンで2つの音を伸ばしているとき、伸ばす最初と最後だけ細かく動くと、フレーズが動いてるように聴かせることができて。切り替えのところに細かいフレーズを入れて、動きのバリエーションを作ってますね。あと「Ignite」なんかでは(A)管という2尺3寸の長くて音が低い尺八を使っているので、そこで印象を変えています。

──なるほど。そういう工夫をしているんですね。アルバムと同時リリースとなる映像作品『和楽器バンド 大新年会2024 日本武道館 〜八重ノ翼〜』では、どの曲が一番好きですか?

神永大輔:「オキノタユウ」ですね。演奏していて楽しいです。再録したらそれぞれのフレーズも変わって面白そうなので、ベストアルバムにも入れたかったなあ。

──もうひとつの新曲「八奏絵巻」には、「オキノタユウ」も入っていましたね。この曲についても聞いていきたいと思います。

神永大輔:これはほんと、よく組み立てましたよね。 僕はサビでいかに尺八が印象的な裏メロとかフレーズを入れられるか、みたいなところをいつも意識していて「サビの尺八のフレーズでその曲を感じさせてみせるぞ」という気持ちで臨んでいるので、色々な曲のサビがてんこ盛りだったことが嬉しかったですね。



──確かに。見せ場たっぷりですね。

神永大輔:この曲は町屋さんの中で細かい設定があって、「歌っている歌はこれだけど、実はこの歌のフレーズの後半何小節かは、違う曲の要素も入ってる」みたいなのがあったりするんですよね。尺八も、共有された構成譜の中にカッコ書きで町屋さんが書いていた裏の曲のフレーズを入れ込んだりと、工夫してます。でも、町屋さんにはいつもミックスのときに「尺八がうるさいから今回もボリューム下げといたから」って言われるので、もしかしたらみなさんにはお届けできてない音があるかもしれないです(笑)。

──CD Only盤収録のインストゥルメンタルをじっくり聴いてみるのも楽しそうです。新曲「GIFT」についても神永さんの感想を聴かせてください。

神永大輔:すごくゆう子さんらしい曲だし、ファンクラブの歴代テーマ曲にも近いニュアンスがあって。尺八も曲のメッセージを重視した、ストリングスのような感じで入れています。歌詞に寄り添って、広げられるような存在であれたらいいなっていうイメージですね。リリースイベントで生演奏をしていく中で曲が出来上がっていくのも感じていて、とても良いです。



──いい曲ですね。

神永大輔:ただ、歌はすごくのびのびと歌っていると思うんですけど、楽器の方は結構細かく構築された食いリズムがかなり多いので、油断ならない曲です(笑)。リズムに合わせつつ、 でもストリングス的なフレーズ感は失わないようにしたいなと思いながらレコーディングをしま した。和楽器バンドの曲の中でこの曲珍しいなと思うのは、前奏、間奏、後奏のフレーズが全て違うんですよね。前奏では箏、間奏は尺八が同じフレーズをとってるんですけど、前奏では尺八が箏に被せるように違うフレーズを入れているのでパッと聴きはそっちが主メロに聴こえてしまうと思います。そして後奏には、その前奏・間奏で入れたフレーズは一切出てこないんですよ。それがこの曲にストーリーを感じさせる要因の1つかなと思っていて。歌は同じメロディに戻るんですけど、演奏は戻らないという、町屋さんらしいアレンジになっています。

──歌詞もまっすぐだし、伝えたいこともわかりやすいフラットな曲だと思っていましたが、そんなに細かい技が隠されていたとは。

神永大輔:裏で町屋さんが技巧的なことを組んでいるっていうところも、和楽器バンドらしさの集大成と言える1曲になるかもしれませんね。

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