【ライブレポート】和楽器バンド、未来へ──

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正直に言おう、私はまだ少し感傷的な気分だ。筆を取るのにも、いつもより時間がかかった。なぜならこのバンドには、私もおよそ10年にわたって取材し続けてきた思い入れがあるからだ。

◆ライブ写真

12月10日、和楽器バンドが活動休止前最後となるツアー<和楽器バンド Japan Tour 2024 THANKS 〜八奏ノ音〜>のファイナル公演を東京ガーデンシアターにて行った。

MCで鈴華ゆう子(Vo)は「曲とともにひとつひとつ風景がよみがえるようでした」と言った。その言葉通り、本公演の一曲一曲に「この曲がリリースされた当時の私は……」「初めてインタビューをしたのは……」「あのときのライブでのこの曲は……」と、絵巻のごとく思い出がよみがえってきた。それはどれも素敵な音楽に彩られた、大切な記憶だ。もちろん私だけではない。この会場にいる人、会場に来られなくとも和楽器バンドに想いを馳せる人、和楽器バンドに少しでも触れた人、みんながそうだったろう。

ただ、感傷的にはなっているが、悲しいだけではない。この日のライブが最高だったから、ここまで和楽器バンドの楽曲が紡いでくれた日々の記憶を大切に、また会える日を楽しみに待てる──素直にそう思うことができている。いわば、大切な思い出がまたひとつ増えたわけだ。そんな気持ちになれた和楽器バンド活動休止前最後のライブで感じたことを、次に再会するときまでの記録としてここに残そうと思う。

   ◆   ◆   ◆

会場に行くまでは複雑な気分だった。今日でしばらく彼らのライブを見ることはできなくなってしまう。そう思うと、会場に行くことも少し躊躇われるほどだった。だが、ライブが始まりオープニングで和ロックなSEとともにメンバーが登場した瞬間、今日この日のライブはただ悲しいだけのものじゃないと確信できた。ステージには黒流(和太鼓)、山葵(Dr)、亜沙(B)、蜷川べに(津軽三味線)、神永大輔(尺八)、いぶくろ聖志(箏)、町屋(G&Vo)、鈴華ゆう子(Vo)が順に登場。SEはそれぞれの登場の際にそれぞれの楽器のソロが流れるという構成。このメンバーの色を存分に味わわせてくれるSEでもう感動してしまう。鈴華はよくメンバーのことを「アベンジャーズのような」と例えるが、まさにそれぞれがヒーローのような登場シーンだった。

全員が揃ったところで流れ始めたのは、シネマティックな映像と映写機の音。そう、ライブの始まりは、この8人が初めて演奏した「六兆年と一夜物語 (Re-Recording)」だ。初っ端から泣かせにくる演出……と思いきや、フロント5人が一気に前に飛び出しての豪華サウンドに圧倒されてしまって泣いている暇などなかった。鈴華の「ファイナル東京! ひとつになって盛り上がっていくぞついて来い!」という力強い煽りから、続けて初期のロック曲「Valkyrie-戦乙女-」へ。そういえば鈴華の煽りも、いつの間にか随分とロックバンド然としたものだ。そのままの流れで「生命のアリア」。1番終わりのゆったりとした尺八からのギター、ドラムフィルからの疾走感はいつ聴いてもゾクっとする。この切なさと妖しさを孕んだ空気を一気に転換したのは箏のイントロ。「雨のち感情論 (Re-Recording)」だ。Aメロでは神永&べにが手拍子で会場を盛り上げるし、鈴華のウインクも飛び出す。この曲は個人的に一番思い入れがあるので聴けてよかったと自分自身の思い出にも浸りつつ、早くも“神セトリ”の予感を抱く。


「今日はみんなにとって特別な日。私たちにとっても特別な日。今日この日に立ち会ってくださって、本当にありがとう!」という鈴華の言葉から、「今日初めてきた人!」「頭が大さんみたいな坊主の人!」などと観客とのコミュニケーションをとるメンバーたち。いつものライブとなんら変わらない姿にほっこり。そんな温かな空気の中に「Starlight (I vs I ver.)」が投下される。和楽器を和楽器らしくなく使うという挑戦をしたこの曲では、いつも縦乗りのリズムやサウンドメイクに注目しがちだったのだが、今日この日はこの曲のメッセージが今の和楽器バンドメンバーとファンの気持ちにすごく寄り添ったものになっているということに気づいてしまって、今日最初の涙腺崩壊。「Starlight (I vs I ver.)」で泣いてしまうのは初めてのことだった。続けての「地球最後の告白を」もそれに拍車をかけてくる。いつどこでどんな気持ちで聴くかで表情が変わる、音楽ってなんて面白いんだろう。

ここで今日最初のMC。「10年で一番◯◯なこと」というテーマで、各メンバーが語っていく。神永は“一番嬉しかったこと”として「武道館公演で初めて尺八の先生を呼ぶことができたこと」を、べには“一番スリリングな体験”として「FCの企画でバンジージャンプを飛んだことで絶叫系がさらに好きになった」と語る。そして亜沙からは“10年で一番良かったライブ”は「今日ですね。10年で一番いいライブをします」と、なんとも嬉しい宣言が飛び出した。


それを証明するように、続いての「月下美人」では圧巻の光景が生まれた。月下美人という花と同じように、ファンがかざすスマホライトで会場全体が幻想的に照らされ、その中で情感たっぷりに低音を響かせる鈴華のボーカルに鳥肌が立つ。町屋のアコギも泣かせるメロディを奏でるし、ラスサビで黒流が打つ大太鼓には身が震えた。この“成熟した和楽器バンド”も実に良い。

暗転、突如スラップギターが空気を切り裂く。セッション曲「遠野物語」だ。町屋のギターソロだ。黒流も担ぎ太鼓でイン、2人の超絶技巧が繰り出される。狐面をつけた鈴華も加わり剣舞を披露する。さらにいぶくろが文化箏・白鷺でギターに妖艶な音色を足し、その中で鈴華は赤い扇子を持ち出し舞う。ラストは黒流の大太鼓。目にも耳にも鮮やかな一幕だった。そこへサイドチェインで歪ませたベーストラックが流れ、今度は能面をつけた町屋、亜沙、山葵が登場。洋楽器隊が鳴きのギターフレーズから、バンドセッション「知恵の果実」を繰り出す。一言で言う、めちゃくちゃかっこいい。


そして能面の町屋がいるということは、もちろん「焔」も。今日はメインフレーズに神永も参戦。ギターのピッキングハーモニクス部分を尺八が担うという、よくよく考えるとありえない、和楽器バンドだけのアレンジが楽しめる。間奏では亜沙の「吉原ラメント」を活かしたベースソロに、べにも加わって津軽三味線ソロ。山葵の掻き回しにあわせラスト全員がくるっと回ってキメるところなど最高に素敵だ。断言できる、こんなにかっこいい和楽器×洋楽器のセッションは他にない。


このロックに振り切った気分のまま、灼熱サウンドの「The Beast」に突入。会場からは拳が突き上がり、ステージでは亜沙が激しくヘドバンしている。歌詞の通り《灼熱の感情と情熱》が渦巻いていた。そしてここで再びMCへ。先ほどの続きで、「10年で一番◯◯なこと」を町屋から語る。町屋は“10年で最高だったアルバム”は『ALL TIME BEST ALBUM THANKS 〜八奏ノ音〜』であること、山葵は“一番印象に残ったライブ”が武道館だったこと、いぶくろは “変わったこと変わらないこと”として黒流が長年乗っていた車を変えたことを挙げ、10年間この仲間たちと会えたことに感謝を伝えた。最後の黒流は、ここで突然「52歳です! 3歳から太鼓を叩いているので芸歴49年です!」と年齢を公表、“このパワフルさでまさか!?”と、ファンからは悲鳴のような驚きの声が上がった。


今度は、これも和楽器バンドの魅力のひとつである鈴華&町屋のツインボーカル曲セクションが始まる。亜沙らしいグッドメロディーの爽快ロック「Perfect Blue」、2人のボーカルの特徴を詰め込んだ「シンクロニシティ」、どちらも楽しく気持ちを浮き立たせてくれる。ボカロ曲カバーから始まった和楽器バンドらしく「チルドレンレコード」も。本当に和楽器バンドには、いろいろな顔がある。このセクションを締めるのは、お待ちかねの「吉原ラメント」だ。和傘の中で鈴華&亜沙が背中合わせに歌うお馴染みのシーンも、目に焼き付けておきたい美しさだ。間奏ではいぶくろと黒流がチークダンスをしたり、べにが山葵のドラムにちょっかいを出したりと、他のメンバーの絡みも楽しかった。

ひとしきり盛り上がった会場の空気をガラリと変えたのは、「細雪 (Re-Recording)」。活休前最後のベストアルバムを作る際に、原曲のオーケストラアレンジからバンドアレンジにリレコーディングされた本楽曲。伸びやかな尺八の音が目の前に雪原を描き、箏の音色はしんしんと振る雪のよう。津軽三味線がその雪を舞立てると、自然の摂理の厳しさを教えてくれるような鮮烈なギターソロ。どしんと体の深くを貫く和太鼓の音は聴く者を楽曲の世界に包み込んでいく。「華火 (Re-Recording)」も最高に美しかった。スクリーンいっぱいに映し出される煌びやかな花火の映像に負けない華麗なサウンドは、どこまでも突き抜けていく。鈴華の圧倒的な歌唱力も、天まで届くようだ。圧倒的世界観の2曲が披露されたと思いきや次の「情景エフェクター」では会場全体で手拍子をして、メンバーも飛び跳ねつつ皆を楽しませるのだから、和楽器バンドの振り幅にも改めて脱帽。


もちろん、黒流と山葵によるお馴染みのコーナー「ドラム和太鼓バトル」も行われた。今回は「幾千ノ言魂」と銘打ち、10年間ライブでファンと2人が交わしてきた掛け声の応酬の集大成を見せる。豪快かつ繊細、とにかくこの2人のプレイは凄まじい。山葵がとんでもないタム回しをかます間に黒流が鳴り物を駆使していたりと、掛け合いも見どころだ。光る撥とスティックで2人がリンクしたプレイを魅せ、最後は黒流の掛け声から山葵がドラを響かせた。そして次の曲は三本締めから始まる黒流曲「起死回生 (Re-Recording)」。ドラム和太鼓バトルで会場に生まれた一体感がそのまま活かされるわけだ。と、ここで神永に機材トラブルが起きるというまさかの事態。だが即座に対応するステージスタッフ、神永をフォローするメンバーたち、危機一髪で尺八ソロに間に合わせる柔軟性と、10年ステージで戦ってきたバンド力を知れたいい場面でもあった。続く「雪影ぼうし」ではトラブルもなんのその、尺八大活躍。10年で初めてのレアシーンも《失敗上等 起死回生》、なかなか乙なものだった。

ここまで息つく間もない怒涛の展開だったため、気付いたときにはもうライブは終盤。「みんなの思いをひとつに込めたこの曲を」と言って始まったのは、「八奏絵巻」だ。今回ベストアルバムを作るにあたって、町屋がファンのことを思って制作した楽曲だ。これまでにリリースされた楽曲が何十曲も盛り込まれており、ファンにはたまらない一曲。冒頭でも言ったように和楽器バンドの一曲一曲に思い出があるから、私は初めて聴いたときに泣いてしまった。音源でそれだったのだから、生で聴いた「八奏絵巻」は言うまでもなく圧巻で、絵巻物を広げるように耳を駆け抜けていくワンフレーズワンフレーズに情景が浮かんできては消え、胸が苦しくなるほど感情が揺れた。レポートを書くための手元のメモは空白、ライター失格と思いながらもこの曲が作り上げた大切な気持ちをじっくり噛み締めさせてもらった。


そして、ライブ本編を締めくくるのはやはり「千本桜 (Re-Recording)」だ。これまでに何度聴いたかわからない、和楽器バンドの「千本桜」。ただ今日は、本当にこれまでで一番良かった。スクリーンに映る満開の桜、メンバーのとびきりの笑顔、そしてファンのみんなの気持ちがひとつになった「千本桜 (Re-Recording)」は、これからも語り継がれるシーンになると思った。

ファンの歌う「暁ノ糸」に呼ばれ、アンコールで再び登場したメンバーは、涙を浮かべながらひとりずつ今日の思いを話し始める。

蜷川べに「今日は本番を完璧に仕上げることに必死すぎて、まだ実感が湧いてきてないんです。だからまたしっかり文章に書きたいなと思っているんですけど、私たち8人出会って11年。戦友であり親友であり、いかなるときも一緒に戦ってきた。協調性がなくて性格もバラバラ、でもいざステージに上がってここで演奏すると、ひとつになれる。どんな状況のときでも8人がこのステージに上がったらその瞬間に“和楽器バンド”、“音楽”と言う目的のためにひとつになれて分かり合えた。そういう関係値って人生で一回あるかないか。そういう出会い、そういうステージに上げてくれたこと、そしてずっと応援してくれたみんな、関わってくれた人たち、スタッフに本当に感謝をしたいなと、今日は本当にそれだけです。素敵な出会いを与えてくださったみなさんに感謝をしたいです。ありがとうございました」


町屋「簡潔にまとめますね。今日集まってくれて、そして私たちの音楽に出会ってくれてありがとうございます」


神永大輔「僕は和楽器バンドの前にいろんなバンドに入っていたりもしたんですけど、尺八という楽器をバンドに迎え入れてくれるだけでも大変ありがたいこと。いますごく、バンドをやっていて良かったなと思っていて。このバンドが僕のバンドだし、この8人が和楽器バンドだし、これから先一生“あなたのバンド何ですか?”と聞かれたら自信を持って和楽器バンドです、と言うことができる。自分のバンドがあるってすごい幸せだなということを噛み締めています。仲間に迎え入れてくれて、それを当たり前にしてくれたメンバーとスタッフとファンのみなさんに本当に感謝したいと思います。ありがとうございます」


亜沙「和楽器バンドは結成から数えると11年やってたことになるんですけど、やっぱり今日演奏していて思うのは、このバンドすごいいいバンドだな、ということ。なかなかバンドで売れてこなかったから、こんな風にあれよあれよと分不相応なものをこのバンドには色々与えてもらったような気がします。俺たちはこの8人で一人前みたいな感じなんだと思います。足りないところがあるからこうやって8人で寄り添ってバンドやって、音楽業界で戦ってこれたんじゃないかなって思いますし、みなさんが応援してくれてなんとか11年やってこれて、本当に感謝しています。今日は本当にどうもありがとうございました」


山葵「今日は自分の中で思い出に残る大切なライブとなりました。10年間和楽器バンドを駆け抜けてきて、デビューする前まではそこら辺にいる売れないミュージシャンだったんですが、それがこうやって応援してくださるみなさん、そして支えてくださるスタッフさんによって、ここまで大きくなって。言い換えれば、ここまでみなさんのおかげで生かされてきたんだなと本当に心から思っております。和楽器バンドじゃなかったときの自分ってどうだったのかなと考えることもあるんですけど、この10年間支えてくださるみなさまのおかげで僕の人生は成り立ったって言うのは間違いなく言えること。皆さんここまで一緒に駆け抜けてくださってありがとうございました」


いぶくろ聖志「僕にとって、和楽器バンドっていうバンドは大きな成長や飛躍のきっかけとなったバンドです。自分の人生にとってなくてはならない時間だったなと思っています。そしてね、バンドメンバーにとってもそうなんだけど、今日ここに集まってくれた皆さんもきっとそう言う風に思ってくれるから、こんな平日の夜に集まってくれて、同じ時間を共有してくれているんじゃないかなと思っています。和楽器バンドはみなさんのことも仲間だと思っているので、こんなたくさんの仲間とライブの時間を共有できて楽しい時間を過ごせるということが、非常に嬉しい10年の締めくくりになったと思います。10年間ありがとうございました」


黒流「とにかく今日こうやって集まってくださって、また、全世界から応援してくれている方もたくさんいますので、感謝を伝えたいと思います。ありがとうございました!」


そして、いつもファンとバンドを繋いできた大切な「暁ノ糸」へ。厳かな箏と尺八の音色が響き、その後では黒流と山葵がシンクロした動きで手を挙げ、ドラと大太鼓を打つ。鈴華の節調も、町屋のギター速弾きも、今日が聴きおさめだなんて信じられない。《いつか醒める夢の居場所》という言葉に、想いが堰を切って溢れていく。いつか醒める夢だったとしても、その夢を見ることができて良かった。そんな気持ちに応えるように《大切な物を沢山くれた日々が 今でも私を支えてくれているのでしょう》と、「星月夜」のメロディーが溢れだす。そう、今日から和楽器バンドも、応援していた私たちも、新たな道のりを《ひとつ、ふたつ 歩いて》いくのだ。


こんなに胸を打つ流れの2曲を聴いたところで、今度は鈴華が語る。「ずっとずっと寂しくて、悲しくて、どんな気持ちになるのかなって不思議だった。頭ではもう今日なんだなとわかっているのに、当たり前に10年一緒にいすぎて、まるで実感がないんです。明日も明後日も会える気がしていて。日常の中にメンバーがいて、それを好きでいてくれるみなさんがいるというのがあまりにも当たり前で……。多分この寂しい気持ちというのは後から追いかけてきて実感するんだと思います」と素直な気持ちを吐露する。

そして「亜沙も言っていましたけど、私たち、8人揃ってやっと一人前なんです。一人ではなしえなかったことがこの8人が揃うことによってたくさんの奇跡を生み出してきたと思います。世の中にはたくさんの音楽が溢れているのに、その中から私たち和楽器バンドを見つけてくれて、好きになってくれて、本当にありがとうございます」と感謝を伝える。

さらに、「この先も一生和楽器バンドの音楽が残り続ける」「今日この光景が私たちひとりひとりの背中をこれからも押し続ける」と、溢れてくる言葉をそのまま伝えてくれる鈴華。リーダーとして気丈に語っているが、そもそも和楽器バンドは彼女が中心となって出来上がったバンドだ。言葉にしている以上に、私たちにはわかりえないほどの感慨があるだろう。これからのことについては「私たちはそれぞれにヒーロー物語があります。それを投げ打って和楽器バンドに捧げてくれたメンバーにすごく感謝していて。ただ、そのヒーロー物語の続きっていうのもそれぞれ向き合わなければいけない。みんなも、それぞれのヒーロー物語を確かめてくれたらそれ以上嬉しいことはありません。私たちはこれからも必死にもがいてこの音楽の世界で生きていくと思いますので、変わらず応援よろしくお願いいたします」と語った。そして、それぞれのメンバーへの感謝の言葉も。


「唯一の女子メンバーがべにで本当に良かったと思います。タイプは全然違うんだけど、実は似ているところもあって、好きも嫌いも分かち合えて楽しく過ごせたことは、べにだったから。ありがとう」

「亜沙さんが現場に来るだけで、和楽器バンドのバランスがガラッと変わってそこに芯が生まれるんですね。亜沙さんがいることで和楽器バンド8人のバランスが整い、本当に重要な存在でした。ベースが亜沙で良かったです」

「山葵、初めてあったときにめちゃくちゃ初々しくて、すごく可愛い印象だったのを昨日のことのように覚えているんだけど。すっかり逞しくなって、和楽器バンドがいざというときにその場の空気を変えるムードメーカーとなってくれて、何度も何度も助けられました」

「大さん。右を見ればあなたが必ずそこにいる。それが私の救いでした。大さんがいることが私にとっての精神的な支えなんですね。癒しであり、そこにいつもいてくれる大さんがいてこそ、私は私らしく歌うことができました。素敵な尺八をいつも横で吹いてくれてありがとう」

「私が心が壊れそうになったり、もうダメだと思ったときに、こっそり助言をしていてくれたのは聖志でした。私がリーダーとしてやってこれたのは、聖志の助言あってこそだと思います。いつも私を前向きにしてくれてありがとう」

「黒流さんと出会って、一緒にバンドを組めると思っていませんでした。ですがゆう子ちゃんと一緒にやりたいんだと言ってくれた言葉がずっとずっと忘れられなくて。私のことをいつも可愛がってくれて、いつもその懐で包み込んでくれたおかげで私はいつも鈴華ゆう子でいることができました」

「あの日まっちーが私に話しかけてくれなかったら、今日の日の和楽器バンドはなかったと思います。最初あったときは怖いお兄さんかと思ったんだけど、実は話すとニコッとしてとっても穏やかな人で。そこが本当に良くて。いまは心底リスペクトする存在になっています。あなたの才能を和楽器バンドに捧げてくれてありがとうございました」

そして町屋から「ゆう子もね、我々7人をまとめ上げてここまで連れてきてくれたのでどうもありがとうございます」とお返しの言葉も。


最後に「ここまで続いてこれたのは、個性豊かなこの8人だからできたこと。そんな和楽器バンドをみんな支えてくれて、10年間本当にありがとうございました」と述べ、オーラスは、活動休止前最後のベストアルバムのために鈴華が感謝を込めて書き下ろした新曲「GIFT」。和楽器バンドのこれまでのストーリーを追いながら、10年間の感謝をメロディーに乗せてまっすぐに伝えてくれる大切な一曲だ。涙を浮かべながら歌う鈴華の想いをダイレクトに受け取った。《変わらない絆で また会おう》この言葉がどれだけ嬉しいことか……。泣いて、笑って、こうやって未来への約束を交わせることの幸せさを噛み締めて、本公演は終了した。涙を流しながら笑顔で手を振るファンひとりひとりに、ステージを去る最後の瞬間まで笑顔と感謝を届けようとするメンバー。山葵の背中には久々に「またね」という文字が浮かび出ていた──。


   ◆   ◆   ◆

10年前、それぞれの世界にいた8人が鈴華を中心に集った。詩吟の師範でピアニスト、剣詩舞までこなす才色兼備なボーカル・鈴華ゆう子。ニコニコ動画「ナイト・オブ・ナイツ」で一躍ギターヒーローとして注目を集めたが、実はギタリストというだけに止まらない音楽の才能の持ち主・町屋。歴とした和太鼓一家に生まれながらも、そこにとどまることなく常に挑戦を続けV系バンドとしても活動していた異色の和太鼓奏者・黒流。大学から始めたとは思えないほどの天賦の才で尺八に愛され、世界で唯一のパフォーマンスで演奏する神永大輔。常人技ではない“調弦スキル”を持ち繊細なメロディを奏でる箏奏者でありながら和楽器界にはなかなかいないバンド感覚の持ち主、いぶくろ聖志。誰しもが目を向けてしまう魅惑的なルックスに、鮮やかな撥捌きの津軽三味線でバンドを彩っている蜷川べに。ベーシストというだけでなく、ボカロPとして「吉原ラメント」などをヒットさせ、和楽器バンドでもメインコンポーザーのひとりとしてなくてはならない楽曲を作り続けてきた亜沙。そして自慢の筋肉と愛されるキャラクターで、こんなに多才なメンバーの多彩な音の土台としてバンドサウンドを支え続けた山葵。本当にこんなバンドが生まれたのは、日本音楽史上に残る奇跡だと思う。

そして私たちは、10年間こんな奇跡的なバンドの目撃者でいることができた。素敵な音楽をありがとう、和楽器バンド。これはあくまで和楽器バンド第一章の幕引き。いつかまた出会えることを楽しみに、私も一度和楽器バンドとの思い出のページを閉じるとする──。

取材・文◎服部容子
写真◎KEIKO TANABE、上溝恭香

セットリスト

【和楽器バンド Japan Tour 2024 THANKS ~八奏ノ音~】
※2024年12月10日(火)東京ガーデンシアター公演
1. Overture〜八奏ノ音〜
2. 六兆年と一夜物語 (Re-Recording)
3. Valkyrie-戦乙女-
4. 生命のアリア
5. 雨のち感情論 (Re-Recording)
6. Starlight (I vs I ver.)
7. 地球最後の告白を
8. 月下美人
9. 遠野物語九四
10. 遠野物語五五
11. 知恵の果実
12. 焔
13. The Beast
14. Perfect Blue
15. シンクロニシティ
16. チルドレンレコード
17. 吉原ラメント
18. 細雪 (Re-Recording)
19. 華火 (Re-Recording)
20. 情景エフェクター
21. ドラム和太鼓バトル〜幾千ノ音魂〜
22. 起死回生 (Re-Recording)
23. 雪影ぼうし
24. 八奏絵巻
25. 千本桜 (Re-Recording)
アンコール
1. 暁ノ糸
2. 星月夜
3. GIFT

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