【和楽器バンド インタビューvol.4】いぶくろ聖志「僕たちの音楽が刺さってくれる人はまだまだいる」

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和楽器バンドが10月9日にリリースした『ALL TIME BEST ALBUM THANKS 〜八奏ノ音〜』、LIVE Blu-ray『和楽器バンド 大新年会2024 日本武道館 〜八重ノ翼〜』​がどちらも好調だ。

2024年末での無期限活動休止を発表している和楽器バンドにとって、この2作はファンへ向けた大きな感謝が込められた大切な作品。ぜひ和楽器バンドが10年の歴史の中で培ってきた実力を味わってほしい。

BARKSでは本作の魅力と、メンバーの想いを知るためにソロインタビューを実施。第4回目の今回は、冷静沈着で頭脳派、変幻自在なプレイで魅了する箏奏者・いぶくろ聖志の言葉をお届けする。

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◼︎鮮明に見えてくるものを楽しんでもらうのがリレコーディング

──ベストアルバム『ALL TIME BEST ALBUM THANKS 〜八奏ノ音〜』は、活休前最後の記念すべき作品になりましたね。まず、初期曲「六兆年と一夜物語(Re-Recording)」「千本桜(Re-Recording)」「華火(Re-Recording)」について振り返っていきたいのですが。

いぶくろ聖志:リレコーディングした曲の中でも特にこの初期の3曲は、和楽器バンド10年間の成長が1番わかりやすい曲なんじゃないかと思うんですよね。「どういうものが和楽器バンドらしいか」っていうのを模索した答えっていうのがここで提示できてるんです。

──いぶくろさんが思う和楽器バンドらしさってなんですか?

いぶくろ聖志:“衝撃”ですね。僕は、和楽器バンドが荒削りだった頃も好きなんですよ。みんなががむしゃらに「僕たちこんなことができるぞ!」ってことを見せあってた頃。「黒流さんそんなことできんの!?」「大さん、これ吹けちゃうんだ!」とか新鮮な衝撃がたくさんあって、それをずっと覚えてるんですよね。アメリカツアーに行ったときもタイトルに<衝撃 -DEEP IMPACT->って掲げていましたけど、「初めて経験するものをリスナーの皆さんに届ける」ということが、僕たちにしかできない、僕たちらしさだったと思います。

──確かに。和楽器バンドは10年ずっと、いろんな驚きを与えてくれました。

いぶくろ聖志:みんながそれぞれ自分の持ってるカードを全部切って、ある程度成熟した今は、“綺麗に構築されたまとまった音を出せるようになった”ことが新しさだったり驚き、衝撃ってところになるんだと思います。

──いぶくろさんは、初めてみんなで音を合わせたとき、どのような衝撃を受けましたか?

いぶくろ聖志:あのときは初台にある普通のスタジオに入ったので、人が入るだけでいっぱいいっぱいだったし、みんなが自分のやるべきことをやるのに一生懸命みたいな感じで、多分俯瞰できてる状態の人はいなかったんじゃないかな(笑)。なので音を合わせたときじゃなくて、レコーディングっていう作業を通して初めて自分たちの音を認識できたというか。

──箏奏者としては、どうあろうと思っていましたか?

いぶくろ聖志:箏らしさをちゃんと出すようにしつつ、出し惜しみするってところが大事だと思ってて。箏の技法って色々あるんですけど、初期のレコーディングの時とかは、「グリスを入れて欲しい」って要望されることも結構多かったんですよ。(一音一音区切らずに滑らせるように弾くこと)

──あぁ、とてもわかりやすい“お箏っぽさ”が出ますもんね。

いぶくろ聖志:わかりやすいし、箏っぽいし、場面転換とかサビ前とかに入れると盛り上がるし。でもそれを全曲でやっちゃうと、箏=あの音ってなってしまうのが嫌で。奏者としての引き出しも増えないですし。なので、初期の頃は箏という楽器の良さを魅せつつ、イメージが偏らないようにしようといろんなことを試していました。


──初期のアルバム『八奏絵巻』を出したころの、いぶくろさんのお気持ちはどんな感じだったんでしょうか。

いぶくろ聖志:『ボカロ三昧』っていうカバーアルバムから、全曲オリジナルの『八奏絵巻』を出すことになったから、怖かったですね。カバー曲っていう人気の裏付けが取れている曲が入らないわけですし、僕たち自身も「千本桜」の編成の面白さが受けたのか、僕たちの音楽性が受けたのか、まだ判別ついてない段階なので。大所帯になればなるほど、1回こけるとそれで終わりになってしまうじゃないですか。だから「オリジナル曲を世に出したい」という思いはありつつも、どこか冷静に「今回オリジナル曲が受け入れられなかったら、会社から見放される可能性もあるかもしれない」と感じながらやってた気がします。

──なるほど、結構シビアに自分たちのことを見ていたんですね。

いぶくろ聖志:みんな売れない時代が長かったので、楽観的じゃないというか。いろんなことを経験してきたメンバーが集まったバンドなので、「何もかもが順調に行く」とは誰も思っていなかったと思います。

──始動時点でそういった大人の視点をお持ちだったということも、和楽器バンドのひとつ面白い部分だったと思います。今回は、そんなバンド初期のアレンジを変えずにリレコーディングしたんですか?

いぶくろ聖志:ほぼ変えてないです。ライブをやってきた経験値の中で、ナチュラルに変わってるとこだけで、自覚してアレンジを変えたところはあまりないですね。

──実は、失礼ながらリレコーディングを聴いて「ここにもこんな箏のフレーズが入っていたんだ!」って思ったところが多くて。

いぶくろ聖志:音の聴こえ方が変わったからですね。かなり整理されましたよね。解像度が上がったというか。弾いてる自分には聴こえてきちゃうから客観的な目線で見れなかったんですけど、いろんな方にそう言われて逆に新鮮だったりするんですよね(笑)。じっくりヘッドホンでひとつひとつの楽器をパートごとに追ってもらうと、その度に見える景色が変わってくるはずです。多分前よりも鮮明に見えてくるものが多いと思うので、 それを楽しんでもらうのがこのリレコーディングじゃないかと思います。

──箏の聴きどころを教えてください。

いぶくろ聖志:「華火(Re-Recording)」の1Aは、実は超絶技巧なんですよ。原曲のレコーディング当時は、そのときの僕が精一杯調子がよくて弾ける、ちょっと背伸びしたフレーズだったんですけど、今回は背伸びせず弾けたので、自分でもうまくなったなって思いました。

──「起死回生(Re-Recording)」「雨のち感情論(Re-Recording)」「細雪(Re-Recording)」などは、和楽器バンドの歴史で中期ぐらいに当たるのかなって思うんですけど、この辺って和楽器バンドってどんなモードでしたか?

いぶくろ聖志:この辺は、みんなレコーディングで自己主張をするというよりは、自分が作った曲で自己主張をする時期に入ったかなっていう印象ですね。5thアルバム『オトノエ』ぐらいのときが、多分全員が一番積極的に作曲してたころかな。だから音楽的なジャンルとしても幅広く、実験的になりましたね。そのことでそれぞれの技法の引き出しも増えて、和楽器バンドができることが拡大していきました。

──そのころの箏の音色については、引き算が多くなってきたのかなっていう印象だったんですが。

いぶくろ聖志:そうですね、『四季彩-shikisai-』か『オトノエ』くらいでコード進行にすごいこだわる傾向が出てきたんですよ。さらにそのコードの中でのボーカルの立ち位置が、結構攻めたとこにいたりとか。そうなってくると、 余計なことをしない方が曲が映えるなって思うことが増えてきて。 箏としては技法云々というよりは、音色として存在はしつつも全体的なまとまりの方を優先してる時期かもしれないです。ボーカルや旋律をちゃんと聴かせることを重要視するというか。



──そんな中期曲のリレコーディングはいかがでしたか?

いぶくろ聖志:10年間やってきたライブで成長してきた曲を残す、という観点もあるので、このあたりの曲も基本的にはアレンジを変えてなくて。新曲のレコーディングだったら手探りの中やってくことが多いんですけど、リレコーディングに関しては自分の立ち位置がわかってるので、俯瞰して他のパートの音も聴きながら音を入れることができました。

──いぶくろさんは昔、歌詞から音のイメージを考えるとおっしゃっていましたが、まさに「雨のち感情論(Re-Recording)」はその表現力が活かされているなと感じました。《夜空》《一番星》といった歌詞の裏で箏のトレモロが入るから、星がキラキラ輝いてる様子が目に浮かぶんです。

いぶくろ聖志:僕が思う箏が得意とすることって風景描写だと思っているので、まさにそういうことです。あと、“その曲でこのフレーズを箏が弾く必然性”っていうのが欲しいんですよね。コードを弾くだけだったら他の楽器で十分だから、箏で入るからには自分が納得できないと嫌で。

──インストゥルメンタルを聴きながら、「これってどういう意図でこの音なんだろう」と考えていくのも面白そうですね。

いぶくろ聖志:そうですね。そういう風に聴いてもらえるのも、結構嬉しいかもしれないです。

──「細雪(Re-Recording)」は大幅にアレンジが変わっていますね。

いぶくろ聖志:「細雪」が入ってる『オトノエ』の頃って、まっちー(町屋)がトランペットを吹いてたり、オーケストラに入ってもらったりと他の楽器の音も取り入れようとしていた時期で。「細雪」もオーケストラを入れていたんですが、今回こうして曲だけが持つエッセンスを再提示できたことが非常に面白いです。どこがその曲の芯なのかっていうことが、ここで明確に浮き彫りになりましたね。

──「細雪(Re-Recording)」みたいな和風バラードは、箏が似合いますよね。

いぶくろ聖志:合いますね。でも、これはまっちーが指定したフレーズが多くて。イントロの一番印象的なフレーズもそうですね。サビはそれを僕が発展させた形で、2Aは僕の自由に弾いています。2Aでは箏っぽいフレーズを入れることで、雪がひらひらと空気中をいろんな方向に舞う感じを出せたらいいなと思って。サビは元々イントロと同じ音域で入ってたんですけど、それをオクターブ上げて、さらに和声感をちょっと足すことで曲の立体感を出したいなと思ってフレーズを作りました。

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